表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蒼い月の都  作者: 彩夏
31/36

宴の後



「で? 叔父上と何があったんだ?」


「いきなりだな…………」


葛城は苦笑しながら杯を揺らす。

葛城と吉野の間には、弓月の知らない「秘密」がある。

そもそも、素性の分からぬ葛城を吉野があっさり邸に受け入れた事も不思議なのだ。

葛城が邸に居着いてからそろそろ一月になるが、その事について吉野が何かを言うことはない。

自身が不在となる邸に弓月と二人で(家人はいるが)残して行くくらいには、吉野は葛城を信用しているのだと思う。


「俺はさ、お前に詫びなきゃならないことがある」


「詫びる?」  


弓月は首を傾げた。


「今は、まだ言えない…………遠くないうちに、ちゃんと話す」


痛みを堪えるような表情で、そう言った葛城に、弓月は「わかった」と頷く。

正直、すっきりはしないが、今は聴かないことにする。

弓月が吉野に母親の事を聴けないように、葛城にも言えない理由があるのだろう。





酔い潰れた葛城と共に伯母の店に泊めてもらい、邸に戻ったのは翌朝の事だった。

雷が落ちるのを覚悟していたのだが、顔を合わせた吉野は「湯殿に行け」と不機嫌そうに言っただけで、それ以上何かを言うことはなかった。

どうやら東雲が知らせてくれていたようで、気の利く友人に、この時ばかりは深く感謝した。


酒は遠に抜けていたが、寝不足は否めない。

重い頭を振りながら出仕すると、王宮の入口にその姿があった。


「東雲」


名を呼べば、東雲は此方を見て軽く手を上げる。


「ちゃんと来たな」


「昨夜は助かったよ、邸に知らせてくれて。お陰で、叔父さんに叱られずにすんだ」


「気が利く親友に、感謝しろよ?」


東雲はにっと笑って、弓月の肩に腕を回してくる。


「昨夜は、巴さんの店に泊まったのか?」


「うん。葛城が酔い潰れてさ」


「お前……少しは手加減してやれよ」


「したさ。けど、あいつ結構強いぞ? 多分、お前より強いんじゃないか?」


真面(まじ)か…………巴さんは?」


「元気だったよ。今度は、東雲も連れて来いって」


弓月が巴と出会う前から、東雲は巴の店に通っていた。二人がと出会う切っ掛けとなった東雲に、巴は恩義を感じているらしく、注文すれば五割増しで料理が運ばれてくる。

まぁ、「強くてよく食べる男が好み。ついでに、顔がよければ言うことなし」と公言している巴なので、単に好みなだけかも知れないが。

因みに、巴の夫は「よく食べる」という条件しか合致していない。彼の作る料理は絶品で、寡黙だが優しい人だ。


「で、原因は分かったのか?」


「いや、全然」


東雲は「なんだそりゃ」という顔をしたが、弓月はかまわないと思う。

「ちゃんと話す」と、葛城は言った。

それを信じて待とうと思う。


比較的、王宮から近い場所に邸がある二人は、到着時間する時間も早い。

「新人」という歳でもないが、比較的入れ替りの少ない「図書寮」の中では若手に入るだろう。

掃除や備品の補充など朝の雑用は新人の役目だが、二人より後輩の者達は三人揃って都の端に邸があり、三人揃って到着が遅れる事がしばしばある。

今朝もそうであるらしく、弓月と東雲は手早く朝の準備を終えた。


「すみませんっ」


「遅くなりまし……ああっ…………」


ばたばたと駆け込んできたのは、昨年と今年入ったばかりの少年達だ。

加冠を終えて間もない彼らは、童顔の弓月と並んでもずっと幼い。

肩で息をしながら膝をつく三人に、弓月は笑いながら「大丈夫だ」と返した。

 

「また、あのジジイに捕まったのか?」


「はい…………」


「いい加減、上手く躱せるようになれよ」


東雲はそう言って、しゅんとして答える三人の頭を乱暴に撫でる。


「まぁ、あのジジイには弓月も苦労してたもんな?」


からかうように言う東雲を、弓月は無言で睨む。


「あのジジイ」は、「散位寮(さんいりょう)」に所属しており、歳は弓月よりふた回りほど上だが、目下の人間に絡むのを趣味にしている面倒な御仁だ。

「散位寮」は官職を持たない有位階者が所属する機関、いわゆる「暇人」の集まりである。

急いでいる時に限って声をかけ、どうでもいい話をぐだぐだと喋り続ける。此方から話を切るわけにもいかず、伏し目がちに突っ立って延々としょうもない話を聞いているしかない。

王宮に入ったばかりの頃は弓月もよく絡まれた。幸い、東雲と一緒にいることが多かったので、頻度は少なかったが。

因みに宴席で若手の杯に酒を注ぎまくる悪癖もあり、弓月はそれを淡々と呑み続け、逆に相手を潰し、それ以来絡まれることはなくなった。

ついでに、周囲から無言の喝采を浴びた。

因みに葵とは犬猿の仲だ。


「毎日、何をして暇を潰してんだろうな?」


「さあ…………」


謎である。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ