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蒼い月の都  作者: 彩夏
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兄弟

「いつお戻りに?」


「今朝だ。おい、折角の衣が汚れるぞ」


「いいです、そんなの。暫くはゆっくり出来るのでしょう?」


抱きついたまま首を傾げて見上げれば、兄は苦笑しながら頷く。

この顔に兄が弱いことを甘樫は知っていた。


外に控える従者に湯殿の用意をするよう言いつけ、側に仕える女官には昼餉を寝室に運ぶよう命じる。

兄の背を見送り、甘樫はそわそわとした気持ちを落ちつかせるように温くなった茶を飲み干した。





「よくお似合いです、兄上」


甘樫は藍の瞳を輝かせながら言った。

旅の汚れを落とし藍の衣を纏った青年は、切れ長の瞳が涼しい美貌の持ち主だった。

肩にかかる黒髪は艶やかで、微笑めば硬質な印象が柔らかくなる。

二人の容姿はあまり似ていないが、瞳の色は同じ濃い藍の色をしている。


「これ、えらく肌触りがいいな」


「ふふっ、樫舎(かしや)の工房で半年がかりで作らせたのですよ?」


「樫舎」は甘樫の衣を専属で仕立てている工房だ。

着心地がよく、美しいが、それなりに値も張る。

纏う衣の値を想像し、青年は複雑な表情をした。

濡れたままの髪を雑に括り、昼餉の並んだ卓の前に座る。こうして二人で過ごすのは半年振りのことだ。


「今度は何処に行ってらしたのですか?」


支惟(きい)だ」


「支惟?」


「海に突き出た半島にある。気候は温暖で、魚が美味い」


外に出ることの少ない甘樫にとって、兄の語る外の話は興味深く、心踊る物だ。

二人は離れていた時間を埋めるようにの互いのことを語り合い、豪華な料理に舌鼓を打った。


「甘樫」


甘樫は菜を運んだ箸を置き、兄を見る。


「先程の手紙は、烏奴(うな)からか?」


甘樫は口を引き結び、コクと頷いた。


「御存知でしたか……」


青年はふっと微笑んで、行儀悪く頬杖をつく。


「俺に隠すつもりだったのか?」


「だって……」


久し振りに戻った兄に心配はかけたくなかった。

何より二人で過ごせる時間を、余計な心配ごとで邪魔されたくはなかったのだ。


「支惟にな、海獣が出た」


「えっ……」


「心配しなくても、暫くは(ここ)にいる」


「奴らの目指す場所はここだろうからな」と言って、青年は乱暴に甘樫の頭を撫でた。





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