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蒼い月の都  作者: 彩夏
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静かな夜

家人が運んできた夕餉を葛城にすすめ、その向かいで弓月は家人が入れてくれた熱めの茶を啜った。


(やっぱり、綺麗だよな…………)


無言で夕餉の菜を口に運ぶ葛城を見つめながら、弓月は思う。


所作や礼儀作法というのは、一朝一夕で身につくものではない。

弓月も幼い頃から吉野に叩き込まれたが、中でも箸の使い方には苦労した。

豆や芋の煮物はつるつる滑って摘まむ事すら難しいのに、「箸先を(*)三分(さんぶ)以上汚してはならない」というのは、子供には厳し過ぎる。

他にも椀の持ち方、箸の置き方、菜を食す順序、米粒ひとつ残すなと、それは厳しく教えられたのだ。

お陰で、宴の末席で恥をかくことも、揚げ足を取られることもないのだから、叔父には感謝すべきなのだろうが。


すっと伸びた背筋、菜を箸で摘み、口に運び、咀嚼する。葛城は、その一連の動作がどこを切り取っても美しい。今のようにぼんやりしていても崩れることがなく、目を瞑っても出来るくらいには身についていた。

自身のことをあまり語らない葛城だが、吉野は薄々気づいているのではないかと、弓月は思う。


食事を終える頃、家人が新しい茶を運んできた。

空になった二人の湯呑みに注ぎ、葛城の膳を下げると、そのまま退室する。


「今まで、どこに居たんだ?」


「…………実家」


弓月は、僅かに目を丸くした。


「実家って…………何処にあるんだ?」


「……」


「もしかして、都にあるのか?」


「…………」


図星らしい。

彼は「泊まる場所がない」と言って、弓月の邸に転がり込んできた。都に実家があるのなら、他人の邸に居候をする必要はない筈だ。


「もしかして、家出か?」


「…………はっ?」


葛城は大人びてはいるが、童顔の弓月と並んでもそう変わらない歳に見える。おそらく十七、八歳といったところだろう。

都に家があるなら、何処かの「姓」の子弟である可能性が高い。だとすれば、霊力の高さや所作が身についているのも頷けた。

葛城の気性なら、「窮屈を嫌って家を出た」と聴いても驚かない。

大人ぶっても存外可愛ところがあるなと、弓月は微笑ましく思う。


「ちゃんと家族に会ってきたのか、心配してただろう?」


「家出じゃないし、弟には会ってきた」


「弟がいるのか、他に家族は?」


「いない」


葛城の弟ならば、十四、五歳くらいだろうか。

「葛城は母親の実家で育ち、都に来て間もなく父親は亡くなった」と言っていた。母親が亡くなって、父親のいる都に来たのだろうか?


「お前、弟を一人きりで家に残してるのか?」


「一人じゃない、世話してくれる人間はいるから、心配いらない」


「それでも、家族はお前だけだろう?」


弓月の言葉に、葛城は虚を突かれたような表情(かお)をした。


「何だよ、違うのか?」


「いや、そう……だな…………」


初めて気づいたという風に呟いて、手にした湯呑みに視線を落とす。


「『大丈夫』なんて言葉を信じるなよ? そう言う時は大抵、大丈夫じゃないんだから」






(*)三分…………約9㎜


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