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蒼い月の都  作者: 彩夏
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顛末

「…………同期?」


「私が宮仕えをしていた頃のね」


吉野の言葉に、弓月は表情を曇らせた。

東雲が気づかうように弓月を見る。

母が継いでいた「出雲」の姓は、本当なら吉野が継ぐ筈だった。だがそれは叶わず、吉野は「出雲」の名を捨て、王宮を辞した。

幼い弓月を育てるためであり、吉野自身がそれを拒んだせいでもある。

それほどに、吉野や、あの時代を生きた姓達が受けた傷は深い。赤子であった弓月が大人になる程の年月が過ぎても、癒えることがないほどに。


「それは全く知りませんでした」


東雲が呟くと、吉野は薄い笑みを浮かべる。


「それはそうだろう。葵は私を嫌っているからな」


「え?」


「お前が図書寮に配属された時は、何の因果かと思ったよ。まぁ、嫌いな男の甥だからと不当な扱いをするような奴ではないし、書物を心底愛しているから、お前とは気が合うだろうと思っていたよ」


「叔父上…………」


弓月はげんなりした顔で、恨みがましく吉野を見た。

確かに、不当な扱いをされたことはないが、何かと面倒事を持ち込まれるのを不思議に感じてはいた。それを弓月は東雲のせいだと思っていたのだが。


「お前のせいか…………」


「いや、叔父上のせいだから」


「何だ、葵に苛められたのか?」


「いや、苛められてはいないけど…………」


薄々感じていた身内にするような遠慮のなさは、気のせいではなかったらしい。

二人の間にどのような会話があったかは分からないが、葵は吉野の頼みを聞き入れ、奔走してくれたのだ。


「今回は、あいつに感謝しないとな」







翌朝、出仕した弓月は、葵の元を訪ねた。

各寮の(かみ)は、下っ端官吏が気安く話しかけられる相手ではないが、葵はそういった事に無頓着な男だった。

無頓着すぎて副官である(じょう)には渋い顔をされているが、弓月は好ましく感じている。


「来たか」


「葵様、昨日は色々とお骨折り頂き、ありがとうございました」


人払いをした執務室に通され(ゆう)をすれば、葵は「よせよせ」と嫌そうに手を振った。

弓月に椅子をすすめ、自らも向かいに座る。


「災難だったな」


弓月は無言のまま、懐にあった書簡を差し出す。


「叔父から葵様にと」


葵はそれを受け取ると緘を破って紙を広げた。

薄く滑らかで、淡い紫に染められたそれは、吉野が試作品として作らている物だ。

葵はさっと目を通すと、丁寧に折り畳んで卓のうえに置く。


「吉野に聞いたのか?」


「はい…………」


「それで? 聴きたいことがあるんだろう?」


知りたいことは山ほどある。

弓月の両親が死んだ時の事、その後の事を、吉野が語ることはない。

弓月が知るのは二十年前に飛鳥を襲った悲劇と、それにより両親が死んだという事実だけ。まるで物語のように語られたそれは、幼い弓月の心傷つけまいとする吉野の精一杯の優しさだったのだろう。

「姓」の義務である宮仕えをギリギリまで遅らせたのも。

だから弓月は、吉野に問うことをせず、図書寮に入り、自ら悲劇の歴史を紐解くことを選んだ。

「歴史」として記されたそれは、事実だけを淡々と伝えている。

お陰でそこまで感情に引き摺られることはなかった。

落胆と安堵、どちらもあったけれど、分かったのは死んだ両親より、大事にしたい人達が弓月にはいるという事実だった。


そしてそのために、弓月は知るべきなのだろう。

視線を上げ、葵を見つめた。


「二十年前のことを教えてください」


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