表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蒼い月の都  作者: 彩夏
21/36

姓の本分3

「やれやれ、慌ただしいことだ」


吉野は億劫そうに言って、唖然と突っ立ったままの弓月を振り返る。


「とりあえず、朝餉にしよう」





食堂に行くと、吉野はいつもの席に座り、弓月にも座るよう促した。

卓上には粥と茶が用意されている。

ほっとしたせいか空腹を感じて、弓月は二度目の朝餉に口をつけた。


「……本当に、播磨から帰ってきたのですか?」


「ああ、大急ぎでな。お陰でくたくただよ」


いくら急いでも、播磨から一晩で戻れるものだろうか?

疑問しかないが、他にも聴きたいことがあるため、それは一旦棚上げしておく。


「璃寛殿はどういう方なのですか?」


「ああ、弾正台の(じょう)だ。因みに、(かみ)は白群だ」


「え…………」


「霞台」は弾正台の統括下にある。

単独で「姓」を告発し裁く権限を持つが、その「霞台」を裁けるのは、王を除けば官吏の不正を摘発する弾正台だけだ。


「何故、弾正台が……」


「動いたか、か? 勿論、『霞台』に不正があったからさ」


吉野は空になった器の横に匙を置き、腕を組む。


「そもそも、今回の事は霞台に都合がよすぎる。『とある筋』から告発があり、『偶々(たまたま)』私が不在で、お前を連れ出したところで、主不在の邸に押し入って証拠を捏造するつもりだったんだろうが……」


だが、邸の庭には結界が張られていた。

主がいなくても、家人の老爺がいれば問題ないが、不在の筈の吉野まで現れた。

更に「霞台」の不正の証拠が見つかり、弾正台が動いて霞台の佑であった樺が更迭された。

因みに、正はぎっくり腰で療養中だ。

寿白と樺に動機は見当たらないから、首謀者は別にいると思われる。


「でも、叔父上はどうやって、霞台の事を知ったの? それに、璃寛殿が持っていた証拠って……」


「霞台で不穏な動きがある事は聴いていたんだ。予め、布石は打っておいた。この家が持つ利権を狙う輩も多い。私は出来る男だからね、敵も少なくない」


「自分で言うかな…………けど、それにしたって、間が良すぎない?」


「それに関しては東雲と葵殿に感謝だ。色々と動いてくれたようだから。因みに、今日は出仕しなくていいと、葵殿からの伝言だ」







東雲が邸を訪れたのは、夕刻だった。

吉野は知っていたらしく、卓には三人分の夕餉が用意されている。

葛城の姿が見えないことを問えば「戻って来たら、本人から聴け」と、実に素っ気なかった。

吉野にこき使われているのだろうと、弓月は予想している。



「今回は世話になった」


「いえ、間に合ったようでよかったです」


いつもは厳しい吉野に誉められ、東雲はむず痒いような顔をしている。


「東雲は、『霞台』が動いていることを知ってたのか?」


「いや。この邸の利権を狙っている輩が多いのは知っていたが、『霞台』が動いているとは思わなかった」


「でも、葵様に知らせてくれたのは東雲だろう?」


「ああ。霞台が動いたと聴いて、昨夜のうちに知らせを送った」


「聴いたって……誰から?」


「それ…は…………まぁ、とある筋から」


「はぁ?」


「とにかく、証拠集めやら何やらで徹夜で走り回ったんだからな、感謝しろよ?」


「ありがとうございます」


そこは素直に頭を下げた。


「まあ、弾正台と直接交渉したのは葵様だけど」


「何で、葵様が?」


図書寮の正ある葵は、弓月と東雲の上司である。

穏やかで飄々とした雰囲気で、歳は吉野と変わらないくらいだろうか?

何かと目立つ東雲とつるんでいるせいで、小言を言われる回数も多いが、それなりに可愛がられている自覚もある。

彼は何より本を愛し、同じく本を愛する弓月を同士と感じているようだ。それでも、ここまで動くには、別の理由がある気がするのだ。


「私が頼んだ」


「え?」


弓月は吉野を見る。


「葵は、官吏時代の同期だ」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ