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蒼い月の都  作者: 彩夏
19/36

姓(かばね)の本分

男が運ばせた朝餉をとり王宮内を歩いていると、早めに出仕してきた者達とすれ違った。

その中には東雲もいて、何故か隣には上司の姿もあった。


「おや、弓月」


声を上げたのは上司の(あおい)だった。

弓月の前を歩く霞台の男は、葵の帯と髪紐の色を見ると、両手を重ねて頭を下げる。

弓月の勤める「図書寮」は、組織の中枢を担う部署ではないが、その長である「(かみ)」は、官位の上では霞台の長より上位になる。


「図書寮はこっちだぞ、出仕したばかりでもう帰るつもりか?」


「ええっと…………」


「図書寮の正、後程、上より連絡がゆく筈ですが、霞台の権により、少々こちらの身柄を預からせて頂きます」


弓月の視線を受けて、霞台の男は慌ててそう言った。


「それは、穏やかでないねぇ…………」


葵は眉を下げ、憂いを帯びた表情で呟く。

とは言え「霞台」は独立組織であり、職務の性格上「何者の干渉も受けない」という特権を持っている。

ゆえに、葵でさえ霞台の一官吏を止めることは許されない。


「叔父上は御存知なのかい?」


「叔父はここ数日、邸を離れておりますので」


「そうか…………引き止めて申し訳ない事をした」


葵がそう言えば、男はほっとしたように表情を緩めた。

一礼して背を向ける弓月に、葵は「そうそう」と思い出したように言う。


「弓月の件は、私の方から霞台に確認しておこう。そちらは御忙しいだろうから」










霞台の車に乗せられ、弓月は邸へと向かった。

歩いてもそう遠くない場所なので、乗り降りする方が手間なくらいだ。

邸の前には家人である老爺の姿があった。

男について車を降りると、「お帰りなさいませ」と丁寧に迎えられる。


「やけに静かだな?」


「ええ。皆様、中でお待ちです」


「皆様?」


「はい。霞台の方々に、吉野様も」


「帰ってるのか?」


弓月は驚く。

何せ、昨日の時点ではまだ播磨にいると聴いていたのだ。


「明け方に戻られて、先ほど湯浴みを終えられたところです」


「霞台の人間を待たせてるのか?」


「御自分が不在の間に弓月様を連れ出し、あまつさえ、主不在の邸に立ち入ろうとしたことに激怒されまして」


弓月が邸を出て間もなく、霞台の人間が押し掛けてきたという。

対応に出た家人が止めるのも聴かず門を開き、茶畑に行こうとしたらしい。

邸には結界が張られており、「招かれざる者」が触れると、その場に縛られられ、動けなくなる。

彼等は茶畑を見渡せる庭の真ん中で、立ったまま一晩過ごす羽目になった。









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