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蒼い月の都  作者: 彩夏
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烏羽と櫨



「……てことがあったらしい」


「へえ…………」


「お前、全く興味ないな?」


その通りだったので、弓月は黙って書簡を棚に戻す。

符庫には貴重な書簡が多くあり、定期的に虫干しされる。

先日の下らない言い争いを目撃した上司から、二人はそれらの書簡を元の場所に片付ける役目を言いつかった。

気を遣う上、中々の重労働だが、書物を愛する弓月にとっては悪くない仕事である。



朝議での一件は、瞬く間に宮中に広がった。少々尾ひれもついてはいたが、それだけ「王の激怒」は官吏達を驚かせ、畏れさせた。


「何でそんなに驚くんだ? 職務怠慢を叱責するのは、当たり前だろう?」


「ほんとに、お前は(まつりごと)に全く興味がないんだな」


呆れたように言って、東雲は「あのな」と説明をはじめた。


「今の王は幼くして王位についた。優秀な側近達はいたが、姓の多くは新しい王を舐めてた。当然だろうけど」


力はある、だが所詮は十二歳の子供だと。


「その筆頭にいたのが『烏羽(からすば)』と『(はじ)』だ」


「烏羽……?」


首を傾げる弓月に、東雲は声を潜める。


「知らないだろう? 今はもうないからな」


「…………ない?」


「消されたんだ、家ごとな」


烏羽は和国で五指に入る有力な姓だった。霊力も高く、娘は前の王の側室となっている。名は公にされておらず、彼女は「烏羽の姫」と呼ばれていた。

櫨は兵部省の要職にあった。


「大雨が続いて、各地で河が氾濫する年があったんだ」


王は時の土工司に堤の整備と、民の救済を命じた。土工司の(かみ)はその数の多さから兵部省に助力を求めたが、当時 (じょう)の地位にあった櫨は『都の警備が手薄になる』ことを理由にそれを突っぱねた。

烏羽は手広く商売をしており、民に配る食料の手配に自ら手を上げた。にも関わらず、食料は予定の七割しか届かず、都の外では半分も届かない場所もあった。

何れも王命で動いた者達が対処し事なきを得たのだが、王は櫨の怠慢と、私欲のために民を蔑ろにし、国財を掠め取ろうとした烏羽に激怒し、二家の領地を没収し、「姓」の系譜から抹消した。


「苛烈だな」


弓月もさすがに驚く。

「姓」は和国を守る結界の役割を担っている。

それを二つ同時に系譜から消すことは、剣をひとつ捨てるようなものだ。だからこそ、歴代の王も「姓」の扱いには苦労してきた。如何に王の霊力が高くとも、ひとりで和国を護ることは出来ない。「姓」にそっぽを向かれては国が立ち行かなくなる。

いやな言い方をすれば「足元を見る」烏羽と櫨を、少年王は躊躇うことなく切り捨てた。

王の側室だった「烏羽の姫」は北の僧院に送られ、「姓」の名と領地を失った二家は都を追われた。



「その手際があまりによかったから、『二家を排除するために王が図ったんじゃないか』って噂があったくらいだ。まあ、烏羽も櫨も、名門であるが故に傲慢で評判は悪かったみたいだからな……」


「自業自得だ」と言う東雲の

言葉に弓月も頷く。


この一件で、官吏達は王への認識と態度を改めた。

王はずば抜けた霊力と政治力で、扱いづらい(かばね)達を懐柔し、僅か二十年で辺境の地を「大陸に匹敵する都」にまで発展させたのだ。


「東雲は何でもよく知ってるな」


「いや、お前が知らな過ぎるんだよ」


東雲は態とらしくため息をついて、弓月を見た。


「少しは王宮の事に関心を持て。ぼやっとしてると足元を掬われるぞ」


「俺みたいな下っ端官吏を陥れて、何の特があるんだ?」


「思いもよらないことが起こるのが王宮だ、油断するな」


東雲の忠告に、弓月は小さく肩を竦めた。




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