朝議の後
朝議が終わり王が席を立つと、一気に空気が緩む。
真朱は小さく息を吐き、隣にいた常磐を見る。
「王はえらくご機嫌が悪かったな?」
「ああ……」
短い返事は何時もの事なので特に気にはならない。
男は武官の人事を司る兵部省に所属している。
本人曰く「机に向かうより身体を動かす方が性に合う」らしいが、朝議に出る筈の上官が不在のため代理で出席していた。
上官には「座っているだけでいい」と言われたらしいが、その言葉に偽りはなかった。
王の叱責を浴びた男は左右を挟まれ、半ば引き摺られるように連れ出された。
工事の遅れは、甚大な被害に繋がる。だからこそ、工事は通常より時間も人手も費用も投入されている。今回の件は明らかに土工司の正の職務怠慢が原因で、王の叱責は正当だ。
それでもあれ程感情を顕にするのは珍しい。声を荒げたりはしなかったが、言葉の端々に王の怒りが感じられた。
今の土工司の正は凡庸でやや怠惰で計算高いところはあるが、数多いる「化け狸」に比べれば概ね「善良」と言っていい。
少なくとも、王に叱責されて青くなる可愛げはあるのだから。
「王は我等と変わらない歳だったよな?」
「年が明けて、三十二におなりだ」
「歳下じゃないか…………」
「げっ」と言いそうになるのを呑み込み、真朱は心中で舌を出す。王なんて面倒な立場、自分なら真っ平御免だ。
王位は「世襲」ではない。
妖魔を祓い、和国を守護する力を持つ者が王となる。
その資格を持つ者が、代々「王族」であるというだけだ。
今の王は齢十二歳で王位についた。前王亡き後、和国で最も力を持っていたからだ。
「嫌だ」と言って、逃れられるわけではないのだが、まだまだ「子供」と言える歳で一国を背負うことになった王には、同情を覚える。
かく言う自分だって、「姓」の跡継ぎとしての義務から逃れられずに、文官の人事を司る「式部省の佑」という立場におさまっているのだが。
因みに副官である真朱が朝議の場にいるのは、別の理由がある。
土工司の正は降格されるだろう。
新しい「正」の候補の選抜と、各所への根回し、工事のための人員も算段せねばならない。
やるべきことを積み上げながら、息を吐く。
「此方からも人手を出そう」
「…………助かる」
二人は方を並べてを外へ出た。




