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蒼い月の都  作者: 彩夏
13/36

邸の主

夕刻、書簡が届いた。

弓月は渡された文を広げ、目を通す。


「誰からだ?」


「叔父上。今日は戻れないらしい」


弓月は適当に括った髪を結い直し、身なりを整える。

先に夕餉をとるよう葛城に言い置いて、入ってきたばかりの戸を出ていった。


弓月が戻ってきたのは葛城が夕餉を食べ終えた頃で、脱いだ上衣を椅子の背に掛け、卓子に突っ伏した。


「大丈夫か?」


「ああ」


弓月は(こうがい)を抜いて髪を解き、項で括り直す。

うつ向いた横顔が吉野に似ていて、やはり血が繋がっているのだなと思った。


邸で働く者達の采配から収穫物の管理、各所から上がってくる報告の対応、吉野宛に来た書簡の仕訳など、吉野が不在の邸では、弓月が代わりを務めている。

特に戸惑う様子もないので、よくある事なのだろう。

邸で働く者達も皆、弓月を「若様」と呼び慕っているようだ。




「吉野殿は、王宮で働いていたことはあるのか?」


「うん……」


吉野は一時、王宮で働いていた。

冠礼の儀を終えてすぐの頃だ。

けれど、一月経たないうちに弓月の両親が亡くなった。

吉野は悲しみに浸る間もなく二人の葬儀を采配し、幼い自分を抱えながら邸と使用人達を守らねばならなかった。

その頃の苦労を吉野は決して口にしないが、長じるにつれ自然と理解した。

彼がどれほど弓月を慈しみ、育ててくれたかも。

この邸で最も古参の家人は、吉野の祖父ほどの歳の老爺だ。

弓月には蜜を煮詰めたほどに甘いが、吉野には容赦がない。

当主としての心得や振る舞い、家人の扱いから土地や金銭の管理など、吉野にその全てを教え込んだのは、この老爺だ。

彼がいなければとっくに邸も土地も失って、二人は路頭に迷っていただろう。


「ここは父の邸だったんだ。叔父は王宮を辞した時に土地も邸も返上したから。だから叔父は、この邸の主は俺だと言う。勿論、俺も邸の者達も、主は叔父だと思っているけど」


何でもないことのように、弓月は言った。



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