東雲と葛城
夕刻、東雲と共に王宮を出た弓月は、門の先に立つ後ろ姿を見つけて足を止めた。
「おつかれ様です、弓月殿」
「葛城……」
「誰だ、そいつ?」
振り返った葛城に、東雲は眉をひそめて弓月に問う。
「彼はうちで居候をしてる葛城。葛城、同僚の東雲だ。本当に迎えに来たんだな…………」
「ご当主から頼まれましたから」
浅葱色の簡素な衣を身につけた葛城は、にっこり笑って東雲を見た。
「居候って…………何時から?」
「…………昨夜から」
「は?」
東雲は、弓月が怪異に好かれやすいことを知っている。誤魔化せないと悟り、弓月は「昨夜、怪異に襲われたこと」、「偶然、通りかかった葛城に助けられたこと」、「暫く弓月の邸に住むことになったこと」を話した。
「偶然ねぇ…………それで送り迎えを?」
東雲は眉間に皺を寄せたまま、胡散臭そうに葛城を見ている。
「仕方ないだろう、叔父上の命令だからな」
「吉野殿の?」
吉野の名を聴いて、東雲は少しだけ表情を和らげた。
弓月と東雲は、互いの家族とも面識がある。
甥の親しい友人である東雲に、吉野は遠慮がない。
二人して叱られることも度々で、恐れと、それを上回る信頼を吉野に感じているのは弓月と同じだ。
「お前、何で怪異に襲われたことを黙ってた?」
「…………言ったら、大騒ぎするだろう?」
「当たり前だっ」
腕を掴んで噛みつくように言われ、弓月は肩を竦める。あまりに真面目な顔をするから、弓月は反論を忘れて素直に「ごめん」と詫びた。
「でも、暫くは大丈夫だ。見た目はこんなだけど、葛城は霊力が高いし、剣の腕も凄いんだ」
東雲は弓月の隣に視線を向ける。
背は弓月より頭半分ほど高い。細身だが華奢ではなく、長い指は剣を持つ者のそれだった。
「大丈夫です、東雲殿。弓月殿はちゃんと邸まで送り届けます」
柔らかな笑みを向けられ、東雲は小さく息を吐き、渋々と言った風に掴んだ腕を離した。
「東雲殿は武官なのか?」
朱雀大路を並んで歩きながら、葛城は問う。
日暮れまではまだ時間があり、帰路を急ぐ人の姿がある。
「いや、俺と同じ図書寮の文官だ。何で?」
「だってあの人、剣を使うだろう?」
「剣を? 見たことないな…………確かに、喧嘩は強いけど」
「俺が剣を使ってることも、見て分かったみたいだし」
「そうなのか?」
「…………」
「あんたって」と言いかけて、葛城は首を振る。
「ゆっくりしてたら日が暮れる。早く帰ろう」
そう言って、葛城は弓月の手を引いた。




