表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蒼い月の都  作者: 彩夏
1/34


「後宮の女官が死んだらしい」


「またかっ、此れで三人目だぞ……」


「二ヶ月で三人とは…………やはり、怪異の仕業か?」



回廊を早足で歩きながら、弓月(ゆみづき)は小さく息を吐く。

最近あちら此方から聞こえてくる噂は、怪異のことばかりだ。

それは王宮の中に限らず、商家でも茶店でも、都を歩けば幾つも転がっている。


弓月が生まれた頃、この地は遷都されたばかりだった。王宮が建てられ、南北を貫く通りこそ賑わっていたが、城郭の周辺は人家も少なく、原っぱの真ん中にぽつんと都を置いたような状態だった。

それから僅か数年で、ここ「飛鳥」は驚くほどの発展を遂げた。

街道が整備され、各都市との往来は活発になり、今では物と人が溢れている。南には港が造られ、隣国の大型船が運んでくる珍しい品が当たり前に市に並ぶ。

その基礎を造ったのは遷都を断行した前王であり、花開かせたのは齢十二歳で後を継いだ現在の王である。


とは言え、下っ端官吏の弓月が天上人を目にする機会などある筈はなく、これらは全て人から聴いた話だ。


「なんで宮仕えなんてする羽目になったんだか……」


それは弓月の生家がそれなりの家柄であるからなのだが、弓月自身は官吏など向いていないと思っているし、興味もない。

何なら、一日中鍬を持って畑を耕していた方が気が楽だ

何せ王宮は油断のならない場所で、ちょっと気を抜けば思わぬところで足を掬われる。

弓月のような下っ端を気にかける人間はいないだろうが、用心は必要だ。


暮れかけた空は黄昏色に染まり、東からの風が衣の袖を揺らす。

大極殿の甍が日没前の最後の光を弾いて輝く。

何処からか飛んできた薄紅の花弁に眉をひそめ、弓月は足早にその場を後にした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ