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-水底のオフィリア- 1

「凄いな…」

佳大の目前に見えてきた島に思わずそんな言葉が出る。

迎えに来た船の手すりから身を乗り出すようにして見上げた断崖には、島を囲むようにぐるりと城壁が連なる。

「ねっ? 凄いでしょ。ちょっとヨーロッパっぽいでしょ」

そう言って、淡い水色の模様が細かく入った白いワンピースを着たエールが佳大の横に立つ。珍しくスカートを履いた姿。

「こっちは裏側だけど、表側に回ればもっと凄いんだよ」と、風になびく亜麻色の髪から覗く、緩やかに笑みを刻む横顔。確かに劇的な変化などはないが、10年前とはやはり少し違う。

佳大は眩しげに目を細めそれを眺める。愛しい人の姿を。



「ほら、あれ!」と、

急にこちらを向いたエールに一瞬ドキッとしながら、彼女が指差す方向を見れば、

島を回り込んだ船は城壁の、その一部途切れた場所へと近づいて行く。そこは船が停泊出来る港となっているようで、更にそこから上へと広がる街並み。

段々と細かな建物が扇状に広がり、間を縫うようにいり組んだ細い路地が走っているのが見えた。

一番高い所にある大きな建物は尖塔を有する城だろうか?それとも教会か?

エールが言うようにまさに中世のヨーロッパのような街並み。


それにしても、周りには何もなく海の上に突然現れたそれは、まるで、

「テーマパークみたいだな」

少し呆れを含んだ佳大の感想に、エールが笑う。

「ある意味あってるよ。ここは人が日々生活している場所ではないから。

元はどこぞの金持ちが道楽で作った島で、今は某宗教団体に買い取られた…うん、テーマパークと同じようなもんかな」

手すりに肘を付き、心持ち皮肉っぽさを滲ませたエールの説明。

話をしているうちに、二人が乗り込んだ船は速度を落とし港へと入って行く。


「まぁ、見てまわる分には楽しいだろうから、着いたらデートでもしよう。どうせ今日はやることないし」

街へと向けていた視線を佳大へと戻したエールが言う。

「ほら、見て。だから今日は可愛い格好でしょ?」

どう?と、服の裾を掴み、覗き込むように首を傾げて笑顔をみせるエールに、ごく自然に、

「うん。君はどんな格好でも可愛いよ」と、

当たり前のようにさらっと口にした佳大。


瞬間、瞳を大きく開き言葉を無くしたエール。

「…………、何か…あったの?」

「え? 何が?」

「………、………、…いや、何でもない」

エールは首を振り、

「…吹っ切れたのか? 元々、これが地か…」と、何やら小声で呟く。

その小声に佳大は気づくことなく、エールへと手を差し伸べる。

「もう着くみたいだよ、ほらこっち!」

ブロンズの瞳を少し細め口元を緩める。こちらを見る眼差しは明らかに前とは違うもの。

佳大はもう、想いを隠すことはなく。

「…なるほどね。正攻法でいくわけだ。だけど本人は無自覚とか……」

「エール?」

止まったまま微動だにしないエールに佳大がまた声を掛ける。

エールは頭を振って、笑顔で「何でもない」と答えるとその手を取った。


( さぁ、サーシャ。 君はどうするんだい? )

エールの中、答える声は未だない。







小さな船に乗り換えて島に上陸すれば、出迎えたのは仏頂面の李真とにこやかに手を振っている金髪の男。

エールに治療してもらった首の、その痛みを思い出し険しい表情に変わる佳大の横で、エールも同じくしかめっ面になる。


「何でお前までここにいるんだ?」

刺を隠さず言うエールに、男は気にするようすもなく。

「何でって…、お前を護れってのが、上からの命令だからねぇー」

「はっ、命令なんていつも聞かないだろ」

「だね。 うん、いや、面白そうだなぁって」と、カインは今度は佳大に視線を移す。

その視線に―、

「見るな、話しかけるな、近づくな」

エールがすかさず牽制を入れる。


微かに目を見開くカイン。大袈裟すぎるエールの言葉に、佳大もちょっと恥ずかしくなって、

「エール、それはちょっと…」と、口を出そうとすれば、

「佳大は弱いんだから黙ってて!」

すごく、ド直球で言われた。


一気に肩を落とした佳大に、エールが気づき慌てて言う。

「あ、ごめん、そういう意味じゃなくて…。 ほら、李真達に比べたら、やっぱり…ね?」

( …いや、慰められると余計にに傷つくんだけど… )

大体その二人が半端なく強すぎるんだ。と、並ぶ男達をジト目で見る。

李真はわれ関せずの通常営業で、金髪の男は見開いていた青い瞳を徐々に細めていき口元を手で押さえる。

「ふっ…、いや…、ふふっ、あははは。

…愛されてるなぁ、お前」

結局は堪えきれずに漏れた笑いに、涙目になりながら佳大に向かってそう言えば、直ぐにエールから返しが入る。

「だから、話し掛けるなって!」

「エール、心の狭い奴は嫌われるぞ?」

「お前が言うな!」

「………」

( もう、好きにしてくれ… )


本人をそっちのけに交わされる会話は、いい加減面倒くさくなった李真に止められるまで暫く続いた。



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