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宿題よりも大事なこと

作者: 七瀬優愛

「なんでこうなっちゃったんだろ」

 まるで漫画のように机の上山積みになったドリルを見て真夏はため息をつく。1ページでもいいから終わらせれば良かった、と今更ながら真那は思った。


 悪いのは全部自分だったと思う。

 小学生最後の夏休みがはじまって真那は毎日のように学校のプールに通った。学校のプールならどこかの施設でしてるプールと違ってお金がかからないし人も少ない。時間制限はあるけどそれなりに楽しめた。

 だが、夏休みのプール7月いっぱいで終わった。その後は、お祭りだの花火だのといかにもアニメや漫画に出てくるような小学生らしい夏休みの過ごし方をした。そして、気づいたら最終日の8月31日になっていたと言う訳だ。ただ、朝早く起きたため時間はたっぷりある。


「多分、他にもいるよ」

 真那は自分に言い聞かせるように呟くと、山のように積み上がった宿題の間に挟まれた『宿題一覧表』と書かれた紙を引っ張り出すとそれを机に広げた。


『宿題一覧表

 ・日記

 ・ドリル(国語、算数、理科、社会)

 ・自主勉ノート(10ページ以上)

 ・家庭科のプリント(料理を一品作り、その写真を撮りプリントにまとめる)

 ・絵画

 ・自由研究』


 こうして並べて見ると、この中ならドリルが1番はやく終わりそうな気がした。

 日記は天気なんていちいち覚えていないし絵画は絵の具セットを出さないといけないから時間がかかる。自由研究は内容が思いつかないし自主勉ノートは時間がかかる。家庭科のプリントはきっとお母さんに「なんで急に料理なんかするの?」と言われるだろう。

 そう考えると、とてもじゃないけど終わる気がしなかった。

 最近では、宿題代行業者というものが存在すると前にテレビで言っていた。だけど、まだ小学生の真那にはそんなにお金はない。もしお金があったとしても今からじゃ間に合わない。

 そう考えると、何としてでも今日中に宿題を終わらせるしかないと真那は思った。そのためにも宿題の計画表を今からでも立てないといければならない。

「全部最終手段でいこう」

 真那はそう決意すると、『宿題一覧表』にそれぞれ“最終手段”を書き加えた。


『宿題一覧表

 ・日記←誰かに電話して天気だけ教えてもらう

 ・ドリル(国語、算数、理科、社会)←答えを写す

 ・自主勉ノート(10ページ以上)←計算ドリルの答えと漢字の練習でうめる

 ・家庭科のプリント(料理を一品作り、その写真を撮りプリントにまとめる)←お母さんのお手伝い(今夜はカレーだからそれを手伝って写真を撮る)

 ・絵画←テーマは『給食』。ピカピカになった給食の食器を描いて『給食は残さず食べよう』といれる

 ・自由研究←ホームセンターですぐできそうで安い自由研究のキットを買う』


「これできっと大丈夫」

 真那は満足気に頷くと時計を見た。まだ朝の8時半。真那は、とりあえず10時までに“宿題をした風ドリル”を作り10時になったらホームセンターに行き自由研究のキットを買ってお昼までに作ってしまおうと決めた。今行ってもまだホームセンターは開いてないだろうし、お母さんにも怪しまれるだろう。真那はそう考えて10時にした。

 ドリルが全て終わった頃には時計の針はもう10時を過ぎていた。それを確認した真那は、貯金箱からおばあちゃんに貰った千円を取り出すとリュックに入れた。そして、リビングにいるお母さんに「ちょっと公園行ってくる」と嘘をつくと、自転車にまたがり公園の近くにあるホームセンターに向かった。

 家から自転車で10分程の場所にあるホームセンターにはもうすでにたくさんのお客さんがいた。

 真那はすぐに『自由研究コーナー』に行くと1番簡単そうに見えた『紙粘土でキーホルダー作り』と書かれた箱を取りレジに持って行った。

 紙粘土でキーホルダーなんて低学年みたいだけど、安いし簡単そうだしこれでいいやと真那は思った。作ってる過程の写真を撮って作り方の紙を自分の言葉でまとめて画用紙にまとめればいいや、と真那は帰り道思った。


 家に帰って自転車を停めて家に入ろうとふると、後ろから「真那ちゃん」と声をかけられた。振り向くと、そこには同じクラスの美月ちゃんがいた。

「美月ちゃん、どうしたの?」

 真那が聞くと美月ちゃんは「ちょっと耳貸して」と小声で言うと真那の耳元で言った。

「真那ちゃんまだ宿題終わってないでしょ」

 びっくりした。いつも美月ちゃんや他の友達と会った時、「宿題終わった?」と聞かれると必ず「半分」と真那は返していた。だから、なぜ美月ちゃんがそのことを知っているのか分からなかった。

「なんで知ってるの?」

 真那が驚いて返すと美月ちゃんはニコッと笑って言った。

「真那ちゃん、去年も宿題終わってなかったからもしかしたら今年もそうなのかなって思って」

「確かにそうだけど…」

「私が手伝ってあげるからとりあえず部屋行って作戦たてよ」

 美月ちゃんはいたずらっぽく笑った。


 お母さんには、美月ちゃんと公園で会ったという嘘をつき真那は美月ちゃんが持ってきてくれたバタークッキーを片手に自分の部屋に入った。


 部屋に入ると、すぐに役割分担を小声でした。

 自由研究のキーホルダーの色ぬりと絵画の色塗りは美月ちゃんがしてくれることになった。日記にある天気も美月ちゃんの描いた絵日記を元に書くことになった。

 自主勉ノートは予定通り計算ドリルと漢字で絵画の下書きと自由研究のまとめる作業は真那がすることになった。料理は予定通りカレーでお母さんのお手伝いをすることにした。

 6時までには終わらせることを目標に2人で黙々と宿題に取り組んだ。途中、お母さんに呼ばれてリビングでお昼ご飯のサンドウィッチを美月ちゃんと食べた時以外2人とも部屋を出なかった。

 料理を除いた宿題が終わったのは、夕方の5時半だった。

 そして、美月ちゃんが家に帰った後お母さんのお手伝いとしてカレーを作り盛り付けをした後カレーの写真を撮った。


 晩御飯を食べている最中、お母さんに「今日美月ちゃんと何してたの?」と聞かれて真那は「トランプ」と答えた。すると、お母さんは眉間に皺を寄せた。そして、テレビの前にある机を指差して言った。

「トランプ、あそこにあるんだけど」

「祐奈ちゃんが持ってきてたやつ」

「ふーん」

 ヤバい、このままだとバレる。真那は別れ際に美月ちゃんに言われた「もしバレそうになったら真那ちゃんの部屋にあるおもちゃの名前を言えばいいよ」という言葉を思い出した。真那は慌てて「あと、人生ゲームした」と付け加えた。

 お母さんは不満そうな顔をして「真那」と呼んだ。

「何?」

「本当のこと言って」

「本当のことだよ」

「お母さんが分からないとでも思ってるの?」

 それを聞いてお母さんは多分気づいてるんだ、と思う。公園に行くふりしてホームセンターに行ったことも美月ちゃんに宿題を手伝ってもらったことも全部バレてるんだ。

 真那は、今日あったことを全て正直にお母さんに話した。公園に行くふりしてホームセンターに行ったこと、帰ってきたらたまたま美月ちゃんがいたこと(後から聞いた話によるともともと真那の家に遊びに来ようと思って来たらしい)、美月ちゃんに宿題を手伝って貰ったこと。泣きながら、全部話した。

 お母さんは気づいていたらしい。お昼ご飯を食べている間に真那の部屋に行ったのだと言う。

 全てを話終わった真那にお母さんは「もうやったらだめよ」と優しく言ってくれた。怒られる、と思ったけど怒られなかった。

 真那が正直に話したから、らしい。


 次の日、真那はいつも通り学校に行くと美月ちゃんに昨日のことを謝った。お母さんに言われたことも全て話した。

 そんな真那に美月は「大丈夫だよ」と笑って答えた。


 やっぱり宿題はちゃんと自分の力で計画的にやろう。そんな大事なことに気付かされた小学生の夏の終わりだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 今時の小学生のディテールが見事に表現されていると思いました。 ストーリー展開も意外性に富み、楽しませていただきました。 最後まで読み、題名の意味が分かりました。 さらっと書いた感じで、これ…
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