魔法の授業
「これでどうやろ?」
「ちゃんとできてるね」
数か月ほどでリタは十分に魔力制御も出来る様になり、同じ魔法でも強さを調節できるまでになっていた。実のところ魔力に任せて高出力の魔法を撃つよりも、力を抑えてギリギリの火力で魔法を撃つ方が難しい。これだけ制御できれば次のステップに進んでも良いころだろう。
「じゃあ、今日は雷と氷の魔法を教えてあげるよ」
「魔法って地水火風の四属性とちゃうん?」
「一応それに光と闇の六つだね。氷と雷の魔法は基本の四属性の組み合わせなんだよ」
雷魔法は炎と風の魔法の複合で、氷魔法は土と水の複合だ。だから基本の四属性をきちんと練習しておかないと学ぶことはできない。光と闇の魔法は魔力の操作が非常に難しい系統で、氷や雷の魔法を十分に使いこなせる位でないと発動させることすらままならない。
「魔力の動き方をしっかりみててね。こうやってこう」
僕の指先から小さな雷が生まれて、すぐに消える。同じように今度は氷の魔法を使って見せる。リタのお母さんが用意してくれた飲み物に氷が浮かぶ。
「なるほどな、こんなん余裕やと思うで」
リタは自信満々の表情で雷と氷の魔法を試そうとする。氷魔法は割とすんなり発動したけど、雷魔法の方は上手くいかないようで何度も失敗している。
魔法の属性に得手不得手はどうしても出てきてしまうものだ。どうやらリタは氷のほうに適性があるようだから同じ方向性の闇魔法は得意だろうけど、光魔法はきっと苦手になるだろう。
「雷は苦手みたいだね。全然できるようにならないし」
先ほどから雷魔法が全然できずに何度も失敗している。魔法の失敗のせいで熱風が吹いたり火柱が立ち昇ったりしているせいで、リタの髪はボサボサになってしまっていた。ボサボサの髪で一生懸命呪文を詠唱するリタの姿をみて僕は笑ってしまう。
「なんで笑うんよ」
「だって、失敗のしすぎでリタの髪ボサボサになってるし……」
「ちょ!なんなん。はよ言ってや。いけずー」
そう言い残してリタは母親の居る母屋の方へと頭を抱える様にして走っていく。髪を直してもらいに行ったのだろう。なにも母親に頼まなくても僕が魔法で治してあげても良かったのだけど行ってしまったものは仕方ない。
「しかし、これは……」
リタの居なくなった中庭を見渡すと、巨大な氷がゴロゴロと転がっているし所々地面が焼け焦げている。どうも、リタは魔法の威力を絞って撃つのが得意ではないらしい。そのうち事故が起こりそうで怖いな。
「おまたせ。さ、続きやろ」
髪を綺麗にツインテールに編みなおしたリタは、雷の魔法に再挑戦しようと腕まくりをする。練習を再開する前にやはりきちんと言っておいた方がいい。
「ちょっと待って」
「なんやの?レオ」
「魔力制御の練習も兼ねて、新しい魔法を練習するときは出来るだけ威力を抑える様にしないと」
僕の言葉にリタは口をとがらせて不満げに言う。
「えー、でっかい火柱どかーんのほうが、かっこええやん……」
「見た目は確かに派手だけどさ。派手で大きい魔法って事は事故で簡単に人が死ぬって事だよ」
僕は少しばかり強い口調でいう。魔法を舐めてかかると事故が起こる、痛い目に会ってからでは遅いのだ。
「今のリタの魔法でも楽に人の命を奪えるからね。威力を絞っておけばケガで済むかもしれないけど、全力だと間違いなく人が死ぬ」
「そんなこと考えた事なかったわ……。ごめんなさい」
リタは自分の考えの甘さに気づいたようで少し暗い表情を見せる。分かってくれたならこれ以上責める必要はない。僕は手を伸ばしてリタの頭を強めにガシガシと撫でる。
「分かればいいんだよ。きつい言い方してごめんね」
「ちょ、せっかく髪なおしたのにやめてーや」
そう言って僕の方を向いたリタはもう暗い表情を浮かべてはいなかった。
「あ、そうやこれ」
リタはいつもと同じ革袋と一緒に紙袋を差し出した。革袋はぼくの取り分というお金が入っているのはわかるけど、紙袋には何がはいっているのだろうかと覗いてみると、中にはクッキーが入っていた。
「クッキー?」
「お母さんが一緒に作ろうってうるさいから作ったんや」
「そっか、ありがとう」
「勘違いせんといてや。おすそわけってだけなんやから」
クッキーなんて集落では食べる機会がほとんどないから、これを持って帰ればライカも喜ぶだろう。これを渡した時のライカの喜ぶ姿が目に浮かぶ。
「本当にありがとう。ライカも喜ぶとおもうよ」
「ちょーまてや、レオにあげたんだからレオが食べてよ!」
「うん、もちろんぼくも食べるよ」
「そうやなくて!」
なぜか怒り始めたリタをなだめるために、目の前でクッキーを全部食べる事になってしまった。お土産がほしかったというとリタは店に並んで居たリンゴを二つくれたんだけど、それならクッキー持って帰っても良かったんじゃないかと思う。
帰り道で確認したら、今月も革袋の中身は金貨や白金貨ばかりで銅貨や銀貨は入っていなかった。カウフマンは真面目な良い商人なのは間違いないが、もしかしたら商売は下手なのかもしれない。
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