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方針

「レオニード様、昼間は申し訳ございませんでした。わたくしとしたことが」


「わたしも……。ごめん。レオ君を守るって決めたのに……」


 エクレアもライカも自信を無くしたようで、しょんぼりしてしまっているが、コンスタンティンの実力を考えれば手を出さなくて正解だった。戦闘になったとしても僕一人ならどうとでもなっただろうけど、二人を連れて逃げるとなるとかなり難しかった。それくらいには強い相手だった。


「いや、へたに手を出さなくて正解だよ。出してたらどうなっていたか……」


「結局どういう事なん? 説明してよ」


 事情が理解できていないリタに、コンスタンティンが巨人族であることや、伝えられた条件などを説明する。同時にリタとエクレアに以前に巨人族の部隊を殲滅した事も説明する。


「なんやあいつ!人間や無かったんか!」


「そのような事があったのでございますか」


「巻き込んじゃってごめん」


 僕の個人的な問題だったのに、みんなを巻き込んでしまって申し訳ない気持ちになる。こうなった以上は僕一人で決着をつけるつもりでいる。

 

「僕が一人でなんとかするから、みんなは隠れててくれれば」


 それをきいたリタが怒ったように言う。


「なに恰好つけとんのや。ウチかて戦えるよ」


「わたしも前とは違うよ。前は正直足手まといだったと思うけど、あの時からでも弓は上手くなってるしもう足手まといじゃないよ」


「わたくしはいつでもレオニード様のお傍に付き従わせていただきますので」


 リタに続いて、ライカとエクレアも戦うという。でも、前の巨人部隊とちがってコンスタンティンは強い。今の僕ではみんなを守りながら戦える相手ではない。


「みんなダメだよ。僕がまいた種だから僕がなんとかしないと」


「なに水くさい事言ってるんや。今のウチがあるんはレオのおかげや。その位の覚悟はとっくに出来てるわ」


 いつもの調子で言うリタに続いて、ライカもあたりまえのように言う。


「わたしも巨人倒したからね。それに、わたしにとってはレオ君と一緒に居ることが何より大切だもん」


「わたくしはなんといわれようとレオニード様の為にだけ行動いたします」


 エクレアはいつもと変わらぬ様子で言った。その様子は、ちょっと買い物にでも行くような気軽さで敵将の首を取りに出かけていた彼女の父親を彷彿とさせるものがあった。


「で、どないするんや? こっちから先に攻めるんか?」


「いや、入学式まで待つって言ってるんだから、それまでの期間を有効に使った方がいいんじゃないかな」


「しかし、コンスタンティンが約束をきちんと守るのでしょうか?」


 エクレアが疑問の声を上げる。確かに巨人族との約束なんて信用しても良いのかという疑問は当然だと思う。


「コンスタンティンは信用できないけど、その約束だけは信用しても大丈夫だと思う」


「どうしてそう思うの?」


 今度はライカが不思議そうに言う。僕は自分の推測を説明する。


「あいつはライカの匂いを覚えていたでしょ? 巨人族の嗅覚なら学園内でリタとすれ違っただけで、ライカや僕の存在に気づいて居たはずなんだよね」


「ウチも巨人族の鼻は犬より鋭いって聞いたことがあるわ」


「うん、気づいて居たはずなのに、今日まで何も手を出さなかったって事は、言葉通り楽しみたいんだと考えて間違いないと思うんだよ」


 僕の説明に納得してくれたのか三人ともうんうんと頷いている。時間の許す限り全員の戦力を上げておく必要がある。


「エクレアは僕と模擬戦闘でもやって腕を磨こうか」


「はい、レオニード様直々に訓練していただけるなど幸せでございます」


 エクレアはもともと短剣の腕がかなりある、これをどこまで伸ばせるかが課題になるだろう。


「リタは一度今の魔力量をキッチリ見極めてから、攻撃魔法を色々と覚えようか」


「ついに強力な魔法教えてくれるんか! 巨人様様やな」


 リタはいつものように軽い口調で返事する。今まで教えてきたおかげでリタの魔力制御はなかなかのものになっている。なんとか間に合うはずだ。


「ライカは弓の練習だね」


「うん! 任せといて」


 三人の中ではライカに一番不安がある。命中精度はもう文句のつけようがない位に高いのだけど、やはり女の子が扱う弓は威力が弱いのだ。たとえ正確に急所を射たとしても、倒れるまで暫く暴れられてしまう、これではかなり危険な状況になってしまう。前みたいに魔法で強化する時間があればいいのだけど、突然襲い掛かられるとまずい。何か良い方法を考えないといけない。


「ライカには、もう一つやってもらいたい事があるんだ」


「なになに? わたし頑張るよ。巨人になんて負けなられないもん」


「掛け算をちゃんとできるようになってもらわないと……」


 それを聞いたリタとエクレアは声を上げて笑う。ライカは鮮やかな赤い髪を震わせて、苦虫を噛み潰したような表情をしていたが、やがて一緒になって笑い出す。


「あとは今まで通りみんなで楽しく生活しよう。巨人なんかの事で心をかき乱されて、コンスタンティンを楽しませるのはごめんだからね」


「なんか美味いもんでも食べて帰ろか。ウチお腹空いてきたわ」


 リタはそう言ってつややかな黒いツインテールを揺らして向きを変えると、街の方へと歩き出す。


「わたしもお腹空いてきたかも」


「じゃあ、どこかによってなにか食べてから帰ろうか」


 立ち止まったまま黙っているエクレアにふと視線を向けると、それを待っていたかのように話し始めた。


「勤め先でで聞いたのですが、最近、港の方にできた店がとても美味しいと評判で、お客をとられているそうでございます」


「あ! それわたしも聞いたよ。なんでも交易路の果てにある国の宮廷料理の調理人がやってきて作ったお店なんでしょ?」


 ライカも知っているあたり、かなり有名な店なんだろう。それにしても交易路の果てにある国の宮廷料理か、にわかに興味がわいてくる。


「なんや美味しそうやな。そこにいってみる?」


「そうだね。どんな料理か興味があるし行ってみようか」



 その店は港にほど近い裏路地の一角にあったのだけど、どう見ても宮廷料理というイメージとはかけ離れた、古くて今にも崩れそうな建物だった。


「本当にここなのかな?」


「見た目は確かにボロいけど、お客さんはよーけおるで?」


 店内から今まで嗅いだことがないけど、食欲をそそる何とも言えない美味しそうな匂いが風にのってくる。


「レオ君、とても美味しそうな匂いがするよ!」


 ここで間違いなさそうだけど、念のために僕は順番待ちをしている人に話を聞いてみた。


「あの、ここが最近噂になってる交易路の果てにある国の宮廷料理のお店で合ってますか?」


「ん、ああそうだよ。宮廷料理は予約が無いと出さないけどな」


「そうなんですか。ちょっと残念です」


 宮廷料理とやらは味わえないのかと、少し残念な気持ちになる。それはみんなも同じだったみたいで表情を曇らせている。


「残念がる事は無いさ。なんでもかの国で認められた特急厨師だったとかで、どの料理を食って美味いから安心しな。それに予約しようにも王侯貴族でもなきゃ払えないような金額だしな」


 そんなに値段が高いなら、どちらにしろ宮廷料理は味わえなかったことになる。そのまま列に並んで順番を待つことにする。


 暫く待って僕たちが案内されたのは厨房にほど近い席で、ここからだと調理人の作業する姿がよく見えた。


「なににするか決まったら呼ぶアル」


 給仕らしき女性は、ドカンと乱暴に四人分の水とメニューを置くと、さっさと別の客の元へと行ってしまった。メニューは見たことも無い複雑な文字で書かれていて、その隣に共通語で料理の読み方と説明が書いてある。


「どれにしようか?」


「うーん、よくわからんね。ウチはレオにまかせるわ」


「わたしは、このカラアゲ?っていうのを食べてみたい」


「レオニード様、このショウロンポウという食べ物は、先日の肉まんじゅうと何が違うのでしょうか?説明書きを読む限り同じもののように思えますが」


 エクレアがメニューを覗き込みながら言う。その瞬間厨房から調理人が飛び出してきて怒鳴るような大声で喚く。


「お前ら、肉まんじゅうを食べたアルか?!」


 僕たちはあまりの剣幕に驚きながらも「食べた事ありますよ」と答える。


「なら、小籠包ショウロンポウを頼むヨロシ。肉まんじゅうなんてウチからレシピ盗んだニセモノの包子パオツよ。食べれば分かるアル」


「な……なるほど……。わかりました」


 そこまで言うなら是非とも頼んでみるしかないだろう。給仕の女性を呼んで、チャーハンとカラアゲ、それに店主おすすめのショウロンポウを頼む。


 注文内容が伝えられると、ものすごい速さで見る見るうちに料理が作られていく。肉まんじゅうの露店にいた調理人の早さも大したものだったけど、それとは比較にならない位に早い。十分とかからずに僕たちの前に料理が全て並べられた。


「めっちゃ早かったな」


「このような料理を見るのは初めてでございます」


 各地を放浪していたエクレアも見たことがないと言うのだから、本当に交易路の果ての料理なのかもしれない。早速、大皿から取り分けていく。


「とっても美味しそうだよぉ……」


 チャーハンというのは、黄金色に炒められたライスの料理だ。香ばしくパラパラと食べやすく、でもパサパサしている訳では無くなんとも癖になる味だった。


 ライカの希望だったカラアゲというのは、鶏の肉に衣をつけてきつね色になるまで揚げたものだった。これも王国で一般的なフライとは衣が違っていて、ソースをつけずにそのまま食べる。フライとカラアゲとどちらが美味しいかと聞かれると好みのわかれるところだと思うけれど、僕にはカラアゲの方が鶏のうま味を上手に引き出しているように感じられた。


「あれ? ショウロンポウってのはまだ来てないのかな?」


「そういえばございませんね。自信のあるメニューのようですし、念入りに作っているのかもしれません」


「違うよ、小籠包は点心だから最後アルよ」


 そう言いながら厨房から調理人がさらに乗せた竹でできた蒸し器を持って現れた。


「え? 調理人さん。これがショウロンポウ? 肉まんじゅうと見た目は似ているけど、大きさが全然」


「チャンという名前があるヨ。肉まんじゅうは包子のニセモノアル。これは小籠包ネ」


 蒸し器の中から現れたショウロンポウは肉まんじゅうとは大きさが全く違っていたのだ。肉まんじゅうの大きさは両手のこぶしを合わせたのより大きいのに対して、これは一口サイズだった。それにパオツ?ショウロンポウ?言っている事がよくわからない。


「チャンさん。言ってることがよくわかりません」


「食べれば分かるアル」


 僕たちはショウロンポウを匙ですくって食べてみる。中身の具が透けて見えるほどに蒸しあげられたそれを噛むと、口の中にアツアツの濃厚なスープがじゅわっと広がる。スープが去った後に、これまた濃厚な肉のうま味が押し寄せてくる。


「これは、素晴らしい美味でございますね」


「おいひぃ」


「めっちゃうまいやん」


 こうして、僕たちの行きつけの店がまた一つ増えたのだった。


 後日この店の話をカウフマンにしたところ、興味を持ったらしく。しばらくしてチャンさんは前にみた高級ホテルの中に店を移転することになった。

イマイチ読んでもらえないようなので、書き溜め分の後2話で取り合えず暫く更新停止します。

楽しんでくれていた方には申し訳ありません。

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