流行りの食堂
リタのおすすめのお店はまだ昼食には少し早い時間だというのに、空いている席の方が少ない位で繁盛しているようだった。僕たちが席に案内されるまでの間にもどんどん客がやってきていて、もう少し来るのが遅くなっていたら席に案内されるまでかなり待たされていたかもしれない。
「うちのおすすめの料理頼むんでええよね?」
一番よく知っているリタに任せておくのが一番だ。僕がうなずくのを確認するとリタはメニューも見ずにどんどん料理を頼んでいく。パスタやらピザやらと頼んでいるようだが、聞いたことのない名前のものばかりで、どんな料理が出てくるのか想像もつかない。ウエイトレスが注文をメモして立ち去ると、リタは僕にむかって真面目な顔で言った。
「それでや、イマイチよくわからんのやけど、結局その二人はレオのなんなん?」
カウフマンの部屋でも簡単に説明したはずだけど、リタは説明に納得できていないらしい。
「さっき説明した通りだよ。ライカは幼馴染で、エクレアは王都に来る途中に再開した昔の知り合い」
「ただの幼馴染じゃないでしょ。わたしはライカ・ノヴォトニー、レオ君の婚約者なの」
「わたくしも昔の知り合いではございません。レオニード様のメイドで性奴隷として千年以上お仕えさせていただいております」
ライカとエクレアの言葉をきいたリタは三人の顔を見比べる様にする。ライカとエクレアもリタに興味があるようで値踏みするように見ていた。
「ほらな、やっぱり意味わからんやん?」
「それよりレオ君、この黒い子なに?」
「わたくしもレオニード様とどのようなご関係がおありなのか興味がございます」
僕は三人を納得させるために全てを話す事にした。魔王のエピソード、人狼との戦い、リタとの出会い、巨人を倒した時のこと、エクレアと再会した話……。全て話し終わった頃、ちょうどリタが注文していた料理が運ばれてきた。リタは慣れた手つきで料理を小皿に取り分けていく。
「はい、どうぞ。なるほど魔王はんかあ、納得やわ」
「我ながら突拍子もない話だと思うんだけど、リタは納得なの?」
「まあねえ、うちが魔法習うてなかったら信じられへんかったやろうけど。あ、チーズはもっとかけた方がええよ」
僕はリタに言われたとおりにチーズをたっぷりと掛けてパスタをいただく。イノシシの煮込みに幅広のパスタを入れたもので。深いうま味が口の中に広がる。聞けばリタは学園始まって以来の魔法の才能をもった天才少女という扱いを受けているらしい。
「今のうちの魔法でも子供の頃のレオの足もとにも及ばへん。普通の人ですって言われるより魔王って言われた方が納得できるわ」
「レオニード様は魔王様の生まれ変わりで間違いございません。昔の逞しい魔王様もそれはもう素敵でございました」
エクレアの言葉にライカとリタは興味を持ったようで、食いつくようにエクレアに質問を投げる。
「魔王のレオ君ってそんなに恰好よかったの?」
「魔王レオってどんなんやったんや? 歴史の教科書に最後の魔王の肖像画って載ってたかな?」
「探さなくてもここに銅板に写し取ったお姿がございます」
エクレアは荷物の中から小さな袋を取り出すと、中から古びた一枚の銅板を取り出す。そにはなにかの式典の時に魔法で記録した魔王レオニードの姿が刻まれていた。
「髭だよ髭!確かにかなりイケメンかも!!」
「うわ、ごっつい強そうやな。今のなよっとしたレオも嫌いやないけど、これも恰好ええな」
「もちろんでございます。わたくしの自慢のご主人様でございます」
僕が手を出すとエクレアは銅板を手渡してくれる。少し懐かしい感じもするが、これは自分ではないという意識の方が強いという不思議な感じがした。
「これ、保存魔法かかってないんだね」
「はい、ですから大切に取り扱ってくださいませ」
この手の銅板を千年も破損せずに持っていたなんて、エクレアはよほど丁寧に取り扱ってくれていたのだろう。何となく恥ずかしいから処分してしまいたい気もするけどそういう訳にもいかない。
「レオニード様……。保存魔法を?」
「うん、こんな壊れやすいもの、ずっと大事に持っていてくれたんだね。これからは多少ラフに扱っても大丈夫だよ」
「いえ……。今まで以上に大切にさせていただきます」
銅板を返すとエクレアは、それをぎゅっと抱きしめるようにして大切そうに袋に戻す。それを見届けるとリタが言った。
「そういえば、自称婚約者と自称奴隷もうちの所に一緒に住むん?」
「誰が自称婚約者――んむっ」
ライカの口にチーズたっぷりのピザを押し込む。ライカは「おいひぃ……」と言ってピザに夢中になる。話の腰を折られるのは困る。
「レオニード様、わたくしにも食べさせてくださいませ」
仕方が無いのでエクレアにもピザをひと切れ食べさせる。
「平等に扱わんとレオが困るやろ。しゃーないから、うちも食べさせてもらうわ」
ピザが欲しいならそういえば良いのに。リタにもピザを食べさせてあげる。なんだかひな鳥に餌をあげる母鳥の気分だ。静かになったところで僕は返事をする。
「うん、できれば全員まとめてお世話になりたいんだけど。いいかな?」
「それはええけど、レオの趣味やと思われるし、エクレアさんの服装はなんとかしたほうがええよ」
リタの言葉にエクレアの方を見る。最近は見慣れたせいで何とも思わなかったが、確かに露出の多い服装で目立っているし、周りの客も好奇の視線を向けている。中には下心丸出しで見つめている者までいるようだ。こんな状態で放っておくわけにもいかないし、第一僕が好きで着せていると思われるのは心外だ。
「確かに、もう少し肌が隠れるような服のほうがいいだろうね」
「わたくしは気になりませんが、レオニード様がそういわれるのでしたら……」
エクレアは剣舞を披露しては路銀を稼いでいたし、普段はあまりお金を持ち合わせていないはずだ。
「エクレア余りお金持ってないよね? 僕が買ってあげるよ。リタどこか服を買うのにいいお店あるかな?」
「それは、うちとライカさんにも買ってくれるって事でええんよね?」
ライカとリタは今着ている服でも大丈夫だと思うけど、こういうものは公平にしたほうがいいし二人にも買ってあげたほうがいいだろう。
「もちろん。でもみんな高いのはダメだよ」
「リタちゃんに任せておきなさい、ほな明日はみんなで仕立て屋いかんとね。ついでに街の案内や」
タイミングを見計らったかのように運ばれてきたデザートを食べると、僕たちは会計を済ませて店をあとにする。そのころにはもう外にまで順番待ちの客が並んで居て、店の人気ぶりを物語っていた。
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