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王都

 目が覚めてテントから外を覗くと、朝日が顔を見せはじめたばかりだというのに、王都の城門の前には既に開門待ちの人々が並び始めていた。さすがに王都の規模はたいしたもので、外周を覆う四リール(約十六キロメートル)もある城壁は、巨人の攻撃にも耐えるよう高さが十メテル(約十メートル)程あってなかなか迫力がある。


 今日からは僕もあそこの住民の一人になるのだと思うと心が高揚してくる。期待を胸に軽くストレッチをして凝り固まった体を伸ばしていると、ライカとエクレアも起きてきた。


「おはよう。レオ君いつも早起きだね」


「レオニード様、おはようございます」


 あの宿屋での朝以来なぜか三人で一緒に寝るのが当たり前になっていた。最初の数日は追い出していたのだが、


「え?入ってくるなって言わなかったよね?」


「ズボンを脱がそうとするなとは言われましたが、入ってくるなとは言われておりません」


 と、言われてなし崩し的にこうなってしまったのだ。でも、慣れっていうのは凄くてテントなどはもう最初から一つしか設置しなくなっていたし、二人が居ることを全く気にせず熟睡できるようになった。


 ライカの抱き癖は子供のころからまだ治っていないようで、一晩にうちに二回は引き離す必要がある。エクレアにもよく抱き着いているみたいで、朝食のときに文句を言われるのが定番になっている。


 エクレアのほうは意外にも神経質なようで、事あるごとに目が覚めてしまうらしくよく眠れない日も多いようだ。それなら別れて一人で眠ればいいのにと思うのだけど、それは絶対にいやなのだそうだ。一人で何百年も旅してた反動なのかもしれない。


 テントを片付けて、軽く朝食をとり開門待ちの列に並ぶ。特に税金がかかるようなものも持っていないしすんなりと王都に入ることができるはずだ。特に混乱もなくすんなりと列は短くなっていき王都に入ることができた。


「すごい!道が全部石畳だよ」


「わたくしは何度来てもこの街は、あまり好きにはなれません」


 ライカの言う通り王都の道は全て石畳で整備されていて非常に清潔感のある街並みを見せている。上下水道も完備しているらしく粘土を焼いた管が蜘蛛の巣のように張り巡らされていた。


「うーん、取りあえずカウフマンさんの所を尋ねて相談してみようか」


 カウフマン商会の場所はすぐに分かった。大勢の馬車や荷車が集まっていて逞しい男たちが忙しそうに荷捌きをしている。脇にある小さな入り口から中に入り受付の女性に要件を伝えるとすぐに上階にあるカウフマンの部屋へと通された。


「よくぞおいでになられました。レオニード様!」


 仕事をしていたのか忙しそうに羽ペンを動かしていたカウフマンは、手を止めて立ち上がるとにこにこと満面の笑みを浮かべて僕を出迎えてくれた。


「それでレオニード様、そちらの二人は?」


「レオ君の婚約者よ」


「レオニード様の性奴隷でございます」


 カウフマンは流石に商売人だけあって、にこにことした表情を崩さないまま小声で僕に「どういう事でしょう?」と説明を求めてくる。


「レオ!やっと王都へ来たんやね。会いたかったで」


 部屋に入ってくるなりリタが言う。リタは僕が返事するのも待たずにハグをする。久しぶりに会うリタはいつもの黒系でリボンやフリルが大量についている服では無く、茶色を基調としたシンプルで上品さを感じさせる服を着ていた。髪は昔から変わらない癖の無いストレートヘアを見事なツインテールにまとめている。


「で、この二人はなんやの?」


 僕はため息交じりに、カウフマンにした話をもう一度することになるのだった。僕が説明を終えると、まっていたかのようにカウフマンが言った。


「そういえばレオニード様は、わたくしに何か御用があるのですよね?」


「ああ、そうだった。王都で生活するのに必要だから両替をお願いしようと思ってね。これを銀貨にしてほしいのだけど」


 そういって僕は収納魔法が付与された鞄から、金貨と白金貨をテーブルの上に出していく。エクレアの件で二枚つかっただけで、今までカウフマンから受け取ったもの全てある。おおよそ金貨千枚に白金貨が百枚程だろうか。こうやって並べると結構な量になるけど、これだけあれば銀貨二、三枚にはなるはずだ。


「えーっと? 王都中の銀貨をかき集めてこいという事でしょうか?」


 カウフマンは鳩が豆鉄砲を食ったような表情で言う。したたかな商人が顔に出るほど変な事を言ってしまったのだろうか不安になる。


「どういうことかな?これじゃ足りない?」


 カウフマンは窓をあけて僕に手招きすると、ある方向を指さして見せる。


「あそこの山の手に王の別邸でもある迎賓館があるのが見えますかな?」


 カウフマンが指さす先には王城に比べれば小さいが立派な四階建ての白壁の建物が見える。


「あの迎賓館を建てるのに掛かった費用が金貨二千枚でございます」


「えーっと?」


 僕が要領を得ない返事をするのを聞いて、かぶりを振ったカウフマンが今度は大通りの方を指さす。そこには大理石造りの見るからに高級な貴族向けの宿がある。


「では、そこの角にあるホテルが分かりますかな?」


「ああ、羊飼いの憩い亭っていう建物かな?」


「それですな。去年売りに出てたのを私の商会が買い取りました。宿泊ギルドの株もついていて金貨二百枚でごすわな」


「な……。なるほど」


 どうやら僕はとんでもない勘違いをしていたようだ。お金の計算もできないとか、これはかなり恥ずかしいのではないだろうか。今鏡で自分の顔をみたらどんな表情になっているのだろう。


「カウフマンさんと初めて会ったあの日、金貨だしてもりんご飴買えなかったからさ」


「それは、年端もいかない子供が一家で何年も暮らせるようなお金出して来たら、普通は偽金にせがねだと思うでしょうな」


「確かに……。でもカウフマンは僕が渡した金貨ちゃんと本物だとわかったんだよね?」


「私はそれなりの規模の商人で金貨を扱う事も多かったですからな」


 振り返るとライカは目を丸くして固まっていたし、リタはおなかを抑えて声を殺して笑っていた。エクレアは相変わらず澄ました顔で黙って立っている。


 これはものすごく恥ずかしい勘違いをしていた事になる。路銀の話をした時にエクレアが不思議そうな顔をしてたのも今なら納得がいく。金貨これだけ持っているのにまだお金の心配だなんてとんだ守銭奴だと思われていてもおかしくない。


「とにかく金貨一枚分両替しておきますので、これで当分は不自由なく暮らせるでしょうな」


 カウフマンは使いやすいようにと全て銀貨にしてくれた。金貨一枚が銀貨六十枚になる。本来ならここから両替の手数料が引かれる事になるのだが今回は引かれていない。


「じゃあ、つぎは住むところと働くところを探さないとな」


「まだ住む場所が決まってないのですかな?」


「うん、出来るだけ学園に近い場所が良いんだけどね」


 カウフマンは我が意を得たりといった表情を見せて言う。


「なるほど、それなら我が家の別邸に住まれてはいかがでしょう?学園にも近いですし今はリタが一人で住んでいるだけですからな。レオニード様が一緒に住んでくださればリタも喜びますわな」


「ちょ!おとん何勝手に言ってるんや!」


 リタが顔を真っ赤にしてカウフマンに食って掛かる。対するカウフマンは、にこにことしたままリタをからかうように言う。


「恥ずかしがらんでもええやないか。なにかあるたびに、レオがーレオがーって言うとるがな」


「い、い、言うてへんわ! けどまあ、部屋も無駄にいっぱいあるし来たかったら来てもええよ」


「リタが良いなら住まわせてもらおうかな」


 リタが良いというなら断る理由もない。学園にも近いなら理想的な場所なのだろう。王都にきてたった一日だというのに色々とあった懸念材料が一気に解決してしまった。それはきっといい事なのだろうけど、頑張ろうと意気込んでいただけに少し残念な感じもする。


「ほんなら、まずはお昼でも食べて行こか。ごっつ美味しいお店があるんや」


 商会の人間が旅の荷物は届けておいてくれるというので、僕たちはありがたくお願いする。僕たちが荷物を渡し終えると、待ちきれなかったかのようにリタはヒマワリのような笑顔を見せて僕の手を取って歩き始めるのだった。

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