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魔王死す

 吾輩の名はレオニード。魔王である。


「貴様が魔王か!その首もらい受ける!!」


「小賢しい。身の程というものを教えてやろう」


 吾輩が魔王に即位してもう千年以上になる。今までに無数の勇者を返り討ちにしてきた。今、目の前にいるこの勇者もほどなく返り討ちにすることになるだろう。


 勇者パーティーの魔法使いが炎系統の魔法を撃ってくる。だが、込められた魔力マナの弱さからただの目くらましのつもりなのは丸わかりだ。


「死ね魔王!!」


 魔法で隙を突いたつもりだろう勇者の一撃は、吾輩の体に毛ほどの傷をつけることもできない。


 もう何度繰り返してきたか分からない勇者との戦い。これまでの戦いの中で何度も死を覚悟する場面はあった。しかし吾輩は紙一重で勇者を倒し続けてきた。それもすべて魔族に連なる者たちを守るためだ。


「そのような見え透いた目くらましなど効かぬわ」


 計画を少しくりあげてここで討たれてやるのも良いと思う。だが、吾輩にも魔王としての矜持きょうじがある。控えている腹心どもでも楽に勝てるだろう、実力不足の勇者に首を差し出す事などできない。


「つまらぬ。弱すぎるぞ勇者よ」


 吾輩は魔剣レーヴァテインを抜き放ち、勇者に向かって斬りかかる。勇者は防御しようと剣を引き寄せる。が、遅い。レーヴァテインは正確に勇者の心臓を貫いている。力を失った勇者の体はどさりという音を立てて大理石を敷き詰めた床に倒れる。


「勇者は死んだが、まだつづけるかね?」


 吾輩の言葉を聞いた侵入者たちは、顔を見合わせると勇者の亡骸も放り出したままで、脱出用の魔法を構築しはじめる。魔法の完成までに皆殺しにすることは簡単だが、あえて逃がしてやる。必要のない命まで奪うことは無い。


 侵入者たちが立ち去った頃には、勇者の亡骸は崩れ去っていた。勇者がそこにいたという証はキラキラと輝く魔石だけになっている。吾輩はおもむろに魔石を拾い上げる。


 魔石は生きとし生ける物全てが持っている生命の証、生きている間に取り込んだ魔力マナが結晶化したものとも言われているが、正確なところは誰にも分らない。わかっていることは魔石を砕かないでおくと、肉体は跡形もなく消えさるということ。魔石に蓄えられている魔力マナを取り出して使う事ができるということくらいだ。


 それに、もう一つある。魔石には記憶が刻まれている。吾輩は勇者の魔石に残っている記憶を読み取る。


『俺様、最強勇者なんだからこのくらいの優遇は当然だろ!』


 商人に金も払わず武器を提供させる勇者の記憶。


『あとは魔王さえ倒せば褒美はおもいのままだ。あの王女良い体してたからなあれもモノにしてやろう』


 魔王討伐が決定した激励会での勇者の記憶。


『あれが魔王か見た目普通の人間と変わらんな。大したこと無さそうだ』


 つまらん男だ、ぜい肉がたっぷりついた汚らしい魔石たましい。力を少し加えて魔石を砕く。魔石の破片は魔力マナとなって消えていく。



 夕食も終わり、気に入っている銘柄のワインを飲んでいると。宰相さいしょうが部屋に入ってきた。


 要件はいつものように人間に戦争をしかける相談だ。それともう一つ、吾輩がワインを飲んでいるかの確認だろう。もちろん飲んでいるのに決まっている。これは宰相の計画であるのと同時に吾輩の計画でもあるのだ。


「魔王様、勇者が倒れた今こそ領土拡大の好機ですぞ」


「何度もいっておるであろう。無理に領土を拡大したところで無駄に兵を死なせるだけにしかならん」


 もう数百年に渡って人の国とは争わず均衡を保っている。無理に戦う必要などないだろう。


「そうですか、では仕方ありませんね。魔王様には予定通り死んで頂きましょう」


「どういうことだ?吾輩に勝てるとでも?」


「それは無理でしょう。ですが毒を盛ることは可能です」


 予想の範囲を超えない陳腐ちんぷ台詞せりふを自慢気に口に出す宰相。このような男に魔族の未来を託すのはいささか不安がある。


 だが、吾輩はもう魔王で居ることに疲れていた。千年もの間、金と権力を求める俗物共の相手。それに次々とやってくる勇者達との戦い。そればかりだった。


 既に手はしびれ初めていて、ついにグラスを落としてしまう。間延びしたようなガラスの割れる音と、メイドが叫ぶ声が聞こえる。吾輩の為に声を上げるのがメイド一人だけとは、宰相のやつ上手く取り込んだものだ……


 気が付くと吾輩は不思議な場所にいた。雲も太陽もない不思議な空、大地は水平線に至るまで見た事の無い不思議な花で埋め尽くされている。


 いつのまにか右側には白い翼をもつ女神アルビナ、左側には黒い翼をもつ女神アルトゥメが立っていた。これが最後の審判というものか、女神の言葉を待つ。


「千年を超える長きに渡り、魔王としてよく頑張ってくださいました」


「と、言うわけで私たち二人から元魔王にプレゼントがあります」


「は?」


 千年以上生きていた吾輩だが、最後の審判でプレゼントを貰うなどという展開は聞いたことがない。馬鹿みたいな返答になってしまうのは仕方ないことだ。


「魔王や勇者として世界に貢献した人は転生することができるのですよ」


「なのです。魔王はどんな人生を送りたいですか?」


「ならば、人でも魔族でもよい。ごくごく平凡な一般市民として生きてみたい」


 吾輩の言葉を聞いた二人の女神は目を丸くする。


「なんと謙虚な……」


「先ほどやってきた勇者は酒池肉林の日々を要求してきたというのに」


 ふむ、先ほどの勇者というのは吾輩が屠ったあのものであろう。酒池肉林とは全くつまらない願いだな。


「その前きたのは千人の処女が欲しいとか言ってたよね」


「そうそう。あれはキモかった」


「だいたい皆お金か女なのよねえ」


「もしくはその両方ね!マジでクズだわー」


 なにやら吾輩を置いてけぼりで話が盛り上がっていて非常に居心地が悪い。真面目に魔王を務めていたのが馬鹿馬鹿しくなってくるではないか。


「私、この魔王気に入りました。祝福をさしあげましょう」


「なに言ってるんですか!魔王は黒翼であるわたしの担当なんですよ!わたしが祝福します!」


 黒い翼の女神が白い翼の女神を押しのけて近づいてくる。


「祝福とはなんだ。吾輩は平凡な一般市民として……」


 せめてもの抗議をするが全く吾輩の言葉は届いていない。


「妹は黙って姉のいうこと聞いてればいいのよ」


「同時に創られたのに姉面あねづらしないでほしいわ」


 二人の女神は言い争いを始めていて、もはや吾輩の言葉など聞いてはいない。争うように近づいてきた女神たちは、ほぼ同時に吾輩の頬に接吻キスする。


「「祝福を」」


 左右から同時に女神の言葉が聞こえると、体が淡く輝き始める。そして、すうっと意識が遠のいていく……

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