勇者の甥
『ブヒィィィ!〜人・魔・豚が覇を争う物語〜』
第一話です。
やあ! 初めまして!
わたしは、パンツ。この物語の語り部さ!
語り部パンツ。良い名前だろう?
……本当にそう思うかい?
そんな名前を付けるだなんて恥知らずだと思わないかい?
まったく、酷い話だよ。パンツなんて名前の人生、君は想像できるかい?
わたしのことは、まあいいや。
この物語はね、人・魔・豚が覇を争っていた時代のお話なんだ。
勇者と呼ばれた男がね、楽園を作るために悪い王様を倒そうと頑張るんだよ。
仲間とのアツい絆、ライバルとの戦い。
笑いあり涙ありの楽しいお話さ。
~~さあ、物語のはじまり、はじまり~~
ここは、人の国の南端。ウェイクス地方の小さな町。
住んでいる人は二百人くらいだ。
でも、平和に暮らしていたこの町は、いま、血と悲鳴に溢れているよ。
ほら、ここにも。
男の人と女の人が隠れてるんだ。
けど。
見つかっちゃった! 豚野郎はね、とっても鼻が効くのさ。
ちょっと、隠れたくらいならすぐに見つけちゃうんだよ! すごいね!
男の人は豚野郎に蹴り飛ばされて、壁まで飛んでいっちゃった。
そして、女の人の方は、服を破り捨てられて繁殖活動だよ!
豚野郎にはメスが殆どいないんだ。
だから、豚野郎の雄たちは、人間や魔人のメスと交わって子供を作るんだ。
「やめて! 助けて!」
なんて叫んだって、豚野郎は人間の言葉なんて分からないからね。
だいたい、豚野郎の辞書には「止める」も「助ける」も無いんだ。そんな言葉も概念すら知らないんだよ。豚だけに、知性が低いからね。
数だって二までしか数えられない。一、二、いっぱい。それだけさ。豚野郎の言葉だとブフゥ、ブボ、ブヒブゥだね。
みんな、覚えたかい?
豚野郎の交尾は本当にあっという間さ。わずか十秒でおしまい。
人間のカップルだったら、酷い言葉で罵られてしまうほどさ。
生殖活動が終わったら、豚野郎は蹴られて呻いている男の人に齧り付くよ。
「ぎゃあああああ!」
豚野郎は止めを刺すことを知らないんだ。
相手が動かなければ食べ始める。そう、クマさんと一緒だね!
食べられる方は苦しいんだろうなあ。
性欲と食欲が満たされたら、することは一つだね。
ブヒュゥゥゥ、ブヒュゥゥゥ、寝息を立て始めたよ。でも、ダメだよ。他のみんなはまだ働いているんだから。
「ブゥゥフッフッフォーーー!」
ほら、ボスに見つかっちゃった。
ボスはとっても怒っているよ。そりゃあもうカンカンで、言葉もしゃべれないくらいさ。
「プギャ、プギャ!」
ボスに殴られて、悲鳴をあげる。
サボっていたら痛い目にあうんだ。真面目に働かないといけないよ!
みんな、頑張って敵を殴ってるんだから、ちゃんと参加しないとね。
制圧が終わったらゆっくり休んで、残っているお肉を食べるんだよ。
鶏や羊も飼っているからね。残さず全部食べよう!
ここは人間の勇者が生まれた町。
でもね、勇者は魔王を討伐に出て行ったきり一度も帰ってきやしないんだ。
ひどいよね、
勇者って言ったって、町を守るつもりなんて無いんだ。
おかげで無残なものさ。
建物は焼かれ、男たちは豚野郎の餌。女たちは豚野郎の次世代を産むための道具さ。
勇者の妹たちも、揃って豚野郎の子供を身籠ることになっちゃった。
ここはもう、人間の国じゃ無い。豚野郎の勢力下だよ。
人間の勇者の甥っ子たちは、みんな豚野郎さ。
そして、十年が過ぎた頃。
勇者の甥っ子たちは、立派な豚野郎に育ったよ!
そりゃあもう、元気いっぱいさ。
その中でも、一際大きくて強い奴がいるんだ。
こいつらは凄いよ。なんたって、大鬼でさえ歯が立たないんだ。そこらの人間なんて棍棒の一振りで、イチコロだよ。
豚野郎討伐に来たハンターなんて、返り討ちさ。奪った斧を振り回したら、簡単に、腕や頭が飛んでいくよ。
それに、頭も良いんだ。一人で歩いてハンターを誘き寄せて、ちょっと戦ったら仲間たちがいるところに逃げていくんだ。
追いかけてきた奴らは、飛んで火に入る夏の虫ってやつだね。
みんなで取り囲んでタコ殴り。
今日も槍や斧をを持ったハンターたちが今日もやってきたけど、みんな豚野郎たちの餌さ。
そうそう、魔導士の女の人がいたんだけど、胸が小さくて、男と間違えて殺しちゃったよ。
「ブゴゴ、ブゴゴ!」
これは「雌だ、雌だ!」って言ってるんだよ。でも、騒いでも後の祭り。
もう、ピクリとも動かないんだ。これじゃあ、子供を産むなんて無理だよね。仕方がないから、みんなで美味しく頂いたよ!
豚野郎の群れは、どんどん殖えながら、北東に向かって勢力を伸ばしていってるんだ。
もうちょっとで、人口五千くらいの町。
ここは丈夫な壁で囲まれていて、貴族が治めているんだ。
五年くらい前までは、もっと人がいたんだけど、豚野郎に周りの町を潰されて逃げていった人も多くて、すっかり寂れてしまってるんだけどね。
貴族の領主様は、窶れてしまってもう大変さ。
「ケルス様、豚野郎どもが、もう目の前まで来ています。何とかしなければこの町は滅ぼされてしまいます!」
部下の人が泣きそうな顔で領主様に訴えているよ。
「何度も援軍要請を出している。だが、梨の礫だ。この町の兵も僅か二百ほど。千を超える豚野郎に立ち向かうことはできん。」
「このまま座して死を待つのですか!」
「民を連れて避難する。山を越えてメストラ領へと向かう。」
「山には緋熊が出るではありませんか!」
「それでも、豚野郎よりは少ないだろう。何十と群を作る生き物でもないだろう? これ以上モタモタしていては、助かるものも助からなくなる。」
領主様は、豚野郎を相手に撤退の道を選んだんだ。
格好悪いよね。
豚野郎の勢いは止まらない。世界はどうなってしまうのか!?