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第39話 整形

「報告は以上となります」

「…………」


沈黙が続く。


まあ無理もない。

勇者が探索に向かった場所が大地震で崩落し、任務の続行が不可能になる。しかも初日に。そんな状態で此方に全くの関わりや落ち度が無く、たまたま偶然だと言って誰が信じる物か。

しかし証拠が無い為強く出れず、どう対処した物かと思案に暮れているのだろう。


目の前の男を見ると、まるで苦虫を噛み潰したかの様な苦悶の表情で此方をじっと見つめていた。

罵詈雑言を並べたくて仕方ないのを堪えているのが、ありありと見て取れる。


目の前の男の名はサンダース・ハルゲニア。軍を統括する最高司令官。

渾名は雷サンダース。

些細なミスや粗を烈火のごとく怒鳴りつける事から、その渾名が付けられ恐れられており。本人もその渾名を痛く気に入っているようで、自他共に認めるドSな人物だ。


その男が今、苦悩の表情を抱え慎重に言葉を選んでいる。


勇者は一応軍属という事になってはいるが、正式なものでは無く、善意の協力者という立ち位置に当たる。

そのため勇者と将軍との間に明確な上下関係は存在しておらず。

しかも勇者には貴族同等の権限が与えられている為、証拠も無しに怒鳴りつけるなどサンダースと言えども決して許される行為ではなかった。


「了解した」

「…………は?」

「了解したと申したのです。私も忙しい身故、それ以上の要件が無い様でしたらどうかお下がりください」

「了解しました」


サンダースに一礼し、執務室を後にする。


おかしい。


証拠が無ければ勇者は何をしても許される?


勿論そんなわけがない。

例え勇者と言えども不審な行動を行えば、尋問程度は行われる。

場合によっては本格的な調査が入り、状況証拠次第で罰せられる可能性も当然ある。

証拠さえ消せばやりたい放題できる訳では決してないのだ。


パルテの森の一件は人的被害が一切無かった為、不問に処されたのは分からなくもない。だが今回は死者こそ出なかった物の、近隣の街に相当な被害が出ていると聞く。

にもかかわらず尋問すらされないとは。


内偵?

こちらの首根っこを押さえ、言い訳出来ないように徹底的に叩くつもりだろうか。

だとしたら厄介だな。


「はぁ……」


足を止め溜息を吐く。奴の顔が頭に浮かんだからだ。


特殊な召喚の都合上、夢だと思わせていた方が都合が良かったが。

そろそろ奴にもちゃんとした情報を与えるべきか。

このままやりたい放題やられては、取り返しのつかない事になってしまう。


どうした物かと考えていると、思案は唐突にかけられた声によって遮られる。


「勇者様!」


なじみの声に振り返ると、そこにはテール姫の姿が。

そして、その隣には青いドレスを身に纏った美しい女性が佇んでいた。


何時もなら馬鹿みたいに此方へと突っ込んでくる姫だが、今日は隣人を気にしてか、優雅な足取りで此方へと歩み寄ってくる。


「ご機嫌麗しゅうございます、テール姫様」

「勇者様、奈落では大変な目に遭われたとか。私報告を聞いて、いてもたってもいられませんでした」

「御心配をおかけしました。ですがこの通りす。どうかご安心を」


両手を軽く開き。自分には怪我一つ無い事を示して見せた。


テール姫は良かったと呟きながら、一瞬此方に飛びつくそぶりを見せたが動きを止める。横に立つ女性の眼を気にしたのだろう。


「失礼ですが、そちらの女性は?」

「うふふ、勇者様のよーく知ってる方ですわ」


姫様の返事に首をかしげる。

正直彼女の顔に見覚えは無かった。

いくら色恋に興味がないとはいえ、これほど美しい婦人を忘れるとは考えづらい。

それ故首を傾げざるえなかった。


「うふふ、わかりませんか?」


楽し気に笑いながら、テール姫が隣の女性の背中を押す。

すると女性がおずおず前へ出て、此方へ話しかけてくる。


「勇者様……お久しぶりです」

「お久しぶりです」


一応返事は返すがやはり誰か分からない。

確かに声は聞いた事があるような気もするが……


「もう、勇者様ったら。鈍すぎますわ」


ちょっと怒ったような表情のテール姫が言葉を続ける。


「レアーニャ様ですわ!」

「は?」


言っている意味が理解できない?


「彼女。勇者様の為に整形されたんですわ!」

「私!勇者様に好いて頂けるよう頑張ります!!」


……

………

…………

……………


「はあぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁ!!?」


俺は生まれて初めて絶叫した。

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