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俺の騎士道!  作者: 多摩川
幼年期編
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バカップルに祝福と呪いあれ!

翌日早速俺はマリーに尋ねてみた。


「ねぇマリー、昨日ホークランと一緒に居るのを見たけど、好きなの?」


俺の放つ渾身のストレートに思わずマリーはたじろぎ、そして真っ赤な顔で言った。


「だ、誰からそれを?」

「だから見たんだって」


俺がそう言うと、彼女は誰も居無い部屋に俺を連れ込み、真剣な目で言った。


「誰にも言わないでくださいよ、あの方が困りますから」

「内緒なの?」

「ええ、そうです。

ホークラン様は騎士団所領の荘園の管理者にいずれなる方です。

そんな方が私と、その……」

「聖騎士は皆お坊さんじゃないの?」

「それを何処で……まぁ、お坊ちゃんならご存知でもおかしくはないか。

ホークラン様は普通の平民です。ですが立派な家にお生まれの方です」


ほう、ほう、そのような方ですか。

……マリーさん、そう言う人は他に婚約者とか、親が決めた相手とかがこっそり居たりしません?

もしそんな地雷が在って、ウチのマリーが傷ついたらと一瞬心配になる。


(マリーは騙されてない?)


そう思った俺は慎重に彼女の顔を覗きこむ、マリーもまた俺の心を読み解こうと、俺の目を覗いていた。

この様子を見て、マリーはホークランを真剣に庇おうとしていると確信する。

……これはアレだ、ホークランに対して注意を呼び掛けても、逆にキレられるパターンだ。


「坊ちゃんこの事はどうか……」

「分かった、この事は誰にも言わない」


とりあえずそう言った。

100円ショップで働いていた、アルバイトの女子高生が確かそんな感じで、心配したら昔キレられた事がある。

と、そんな昔の事を思い出しながら俺は答える。


「二人の内緒だね」


可愛いだろ、俺の言葉。5歳児っぽいだろ。

……まぁ、中身おっさんなんだけどね。

俺の言葉に彼女は「そうですか、約束ですよ」と、安堵の表情を浮かべながら言った。

俺はマリーを抱きしめながら「もちろん、誓約は守る」と答えた。


◇◇◇◇


さてその日の夕方、いつもの様に勤務を終えたマリーがいそいそと帰宅を始めた。

まぁ、いつものデートだろう。

ホークランは訓練と称して、屋敷の外に走りに行ったし……

俺はこの二人が気になって仕方がない、もしあの男がろくでなしなら、傷が少ないうちに処分してやる……


と、言う訳でこっそりついて行く気満々な気分となった訳だ。

アレだよ、約束は守るんだよ。まぁ、約束“だけ”をね。


俺はいつもの服を脱ぎ捨て、屋敷の外に居る子供と同じ服装に着替えた。

そして、誰も見ていない場所から壁をよじ登って、屋敷の外へと脱走する。


まぁその……初めてじゃないのよ、こう言う事って。1年前もロリコンのクソ弁護士にお熱だったアイツの為に、俺はどれだけ頑張った事か。

弁護士が慈善と称して行っている。複数人の幼女とのデート現場に、それとなく何回も誘導してあげ、彼女の恋を終わらせてやったのだ。

……あまり感謝はされなかったけどね。

後で知ったけど、マリーは弁護士と付き合ってもいなかったし。


さて、それはいい。

敷地の外に出るなり、屋敷の壁をグルーリと回る俺。

と、言うのも。ウチで働いている人間が、屋敷から外に出ようとすると、結構厳重な持ち物検査を常にやる。

コレは屋敷にある貴重品を盗もうとする者が昔居たので、その為に作られた我が家のルールなのだが。これでマリーが外に出るのが遅れる筈なのである。

なので懸命に走っていると……間にあった、今丁度出て来た所だ。

うきうきした足取りで屋敷から出て行く、ウチのマリーさん。

ばれない様にこっそり後をつける不審者な俺。


……楽しいな、コレ。

あ、屋敷から見えない所で早速合流した!


「待った?」

「いや、全然。行こうか」


ホークランはすっとさりげなくマリーの手を取り、自然と手を繋ぎながら歩き始め……

……アイツ本当に仕事ができるな。

マリーさんもう浮かれまくりですよ。あんな顔見た事が無いんだけど……


その後二人は夕飯の材料を選んで買ったり、町にやってきた行商人が売る、少し怪しげなブローチを見回って居たりと、時がたつのも忘れて楽しんでいるようだった。


「…………」


コレを見る為、木に登ったり。壁をよじ登ったりして居た俺は、さすがに(自分は何をしているんだろう?)と、自分の存在意義に疑問を持ち始め。もう帰ろうかと考えた。

なんだろ、凄く真剣に自分を見つめ直した方がいい気がする。


……その時である。


「あらあらマリーじゃないの、久しぶりね」


誰かがあのバカップルに声をかけたので、見てみると……なんだあのエロババァ?

胸元がぱっくり開いたあざといドレスに身をくるみ、それでいて小金持ちそうな若い女がマリーに声をかけた。

可愛いと言うより、気が強そうで色っぽい感じの女だ。ただあのドレスはないよな……


「ミ、ミランダさん」


尋ねられたマリーは、そう言って固まってしまった。

聞いた俺もびっくりだ。

あの胸元パッカーン開いたこぎれいなドレスを着たエロそうな女がミランダだと!

よくよく見ると確かに面影が……

アレ、でもあんな感じだったっけ?


「あらあら随分と仲がよろしくて」


……お前、何処の山の手マダムだよ。

知らぬ間にミランダはクソメイドから、意地の悪そうな山の手マダムにクラスチェンジを果たしていた。衝撃の事実である。

……パパさん、あの女に相当貢いだんだね。

知りたくもなかった事実を、俺は知ってしまった様ですよ。


「マリーさん、隣りの方をご紹介してくれないかしら」

「え、ええっと」


口ごもるマリー、するとホークランが言った。


「初めまして、私はマリーさんとお付き合いをさせて頂いているホークランと申します」


聞いた俺は口をあんぐりである、こいつ遊びじゃ無くてガチでお付き合いするつもりか!

て、言うか堂々と衆人環視の中で宣言しちゃうの?

修羅場なウチのお客さんがそれって、どうなの?叔父さん聞いたらガチでキレると思うけど……

エロババァのミランダはソレを見て面白くなさそうにフンと鼻で笑うと「この女の何処が良かったのかしら」と言った。


……マジであの女嫌いだわ。俺の姉代わりのマリーになんて事を言う!


「マリーさんは素敵な方です、今度うちの父にも会わせようかと思っております」


ホークランはそう言うとマリーの事を庇い、強い目線でミランダを睨みつけた。

やだ、ホークランかっこいい……

いや待て待て、今コイツなんて言った?

すなわちこれは……プロポーズ。

展開早くね?


「あら、それはおめでとう。

私から坊ちゃんの子守りの仕事奪い、なかなか知恵の回る子ですよ。

きっとあなたの仕事、裏の裏まで助ける事でしょうね」


ミランダはそう言ってマリーの事を睨みつけた。

根に持っていたのか、アイツ?

そんなに俺の子守りの給料は良かったのだろうか?

剣呑な雰囲気が漂うこの場所で、ミランダは勝ち誇ったように言った。


「でもね、貴方も聞いているでしょうけど、私はあの方の愛人なの。

しょぼくれた奴の妻になるより、ずっと恵まれた暮らしをしているわ。

あなたにこんな服は着れて?

それに何より、メイドは雇う者であって雇われる者では無いわよ、それをあなたはご存じ?

アラごめんなさい、貴方メイドだったもの。

ごめんなさいね、おーっほっほっ」


オメェも昔はそうだったじゃねぇか……

俺は(今時こんな奴いたんだ)と、別の意味でミランダの事に感動し、テレビ番組の数十年前の悪役を見る思いで見つめる。


改めて思うけど……パパさん、若い愛人にどれだけ貢いだんだろ?

……自信をつけさせるほどには貢いだのは間違いなさそうである。

そう思っているとホークランもまたフンと笑った。


「なんだ、大したことが無いじゃないか」


いつものお澄ましした仮面がはげたのか、凄い形相でミランダを嘲笑うホークラン。

マリーとの事を真剣に考えていたらしい彼は、彼女をバカにされた事でキレ始めたのだ。

ソレを見てミランダもまたたじろぐ。

ホークランは上から見下すように言った。


「私は平民だが、代々聖騎士領の荘園管理を任されている家を継ぐ。

ソレだけで毎年六万フローリンの収入が在る、お前の服が着れるのかって?

そんな安物を着せる訳が無いだろうが!

そこは一体何処産の布地だ?

下品な色合いに下品なデザイン……

そんな物を着て喜ぶような愚かな女に、マリーの悪口はやめてほしい物だなぁ」

「なんですって!私が一体だれの女なのかあなたに判って!」

「知る訳が無かろうがぁ……

そもそも仕える王国も無く、ただ神のみに仕え、聖バルザール騎士団、アルバルヴェ騎士館館長のドイド・バルザックの従者であるこの私が。何処の馬の骨とも知らぬ、下らぬ下品な女の事を、なぜ知らねばならぬ。

身の程をわきまえよ!」


……やだ、ホークランかっこいい。

彼はソレを吐き捨てるかのように言うと、マリーの手を取り、さっさとミランダの傍を離れた。

後に残されたのは、凄い形相でその背中を見つめるミランダ。

そしてたまたまこの喧嘩に居会わせてしまった、通行人の皆様である。

ピューイ、ピュイと、男前のホークランを讃える口笛が幾つも鳴り。

「よっ色男」とか「さすが聖騎士様」とか彼を讃える叫び声が響き渡る。


かく言う俺も彼のかっこよさに胸が痺れる。

聖騎士かぁ、従者であってもあんなにカッコいい物なのかぁ……

踵を返してミランダは逃げる様にこの場を後にする。

一部始終を確認し、俺はいいモノを見たと思って、この場を離れ、急ぎ家に帰った。


◇◇◇◇


その夜、ホークランは叔父さんに呼ばれて、叱責を受けていた。

今日の事が叔父さんにばれ、マリーとの間柄が流石に発覚したからだ。


「お前は一体何をしていたのだ!

私が何故この家に来たのか判って居るのか!」


デスよね……

流石にホークランも落ち込み、そしてひたすらに泣きながら謝罪を繰り返す。


「お前の処分はこれから決める、さっさと立ち去れ!」


叔父さんはママさんから与えられた客間からホークランを遠ざけた。

俺はソレを廊下の天井に張りつきながら、扉の外で聞き続ける。

やがてホークランは、この世の終わりの様な顔をし、人目をはばからず泣きながら部屋を後にした。

ソレを真上から見る俺。


「ヨシ……弁護しよう」


彼の事はよくは知らないが、アレはなかなかいい男である。

俺は誰も居ない事を確認してから、叔父さんが居る扉の前に降り立った。

さすがに緊張し、扉を叩くのをためらうが、意を決してこの扉を叩いた。

社長室に入るのと一緒、社長室に入るのと一緒と……何度も自分に言い聞かせる。


「だれだ?」


扉の向こうから威厳のあるおじさんの声が響き渡る、此処で逃げるなんて選択肢はない。


「夜遅くに失礼します、ゲラルドです、入ってもよろしいでしょうか?」


叔父さんは静かに扉を開け、小さな俺を見下ろして少し驚いた表情を浮かべた。


「ゲラルド君か、子供がこんな遅くに一体どうしたのかね?」

「あ、あの……お願いがあります」

「うん?」

「ホークランさんを許してくれませんか。

マリーは僕にとってもう一人の姉なんです。

彼は僕にも、マリーにも良くしてくれました。良くない事をしたのかもしれませんが。

僕は彼に感謝しているんです、お願いします」


意を決して言った俺に、おじさんは「ふぅ、そんな事か……」と呟き、次に恐ろしげな眼で俺を見下ろすとこう言った。


「子供が気に掛ける事では無い。

そもそもこれは我々の問題だ」


そう言うと彼は、バタンと拒絶する様に扉を閉めた。


「…………」


俺は自分が失敗したのだと、悟った。

もっと良い言い方が在ったのだろう。

だが知恵のない俺は失敗し、拒絶された。

俺はトボトボと部屋に帰るしかなかった。

出過ぎた真似をしたと言う、贖罪の思いが胸に響く。

どうして俺はあんな事をしてしまったんだろう、昼間見た景色に熱を上げてしまったからではなかろうか?

とにかく胸には後悔だけがよぎっていった。


◇◇◇◇


翌日、ちょっと考えられない事が起きた。

屋敷の使用人たちが、従者ホークランに良くしだしたのだ。

まず、真っ先にママさんの機嫌がすこぶる良くなった。

衆人環視のもと、泥棒猫の面を汚した彼は、ただの従者から、大事なウチのお客様にクラスアップを果たし、また二度としないという誓約を叔父さんと交わした上で、彼は許されたのだ。

暗かった我が家がこのホークランのおかげで明るさを取り戻す。


俺はソレを見ながら、俺は無駄な事をしたのだと思ってがっかりした。

……未来は判らない物である。

早まった事をしたと再度がっかりして、兄貴からもらった宿題をせっせと解いていると、俺の部屋の扉を誰かがノックした。


「どうぞ」


俺がそう言うと例の色男ホークランが入って来て、俺に微笑みなが言った。


「おぼっちゃま、昨日はありがとうございました」


ウン?何かしたっけ。


「私の事を庇って頂いたと、騎士バルザック様より伺いました」

「え、おじさんが?」


て、言うかバルザックってもしかして叔父さんの名前?

アルバルヴェ騎士館館長ドイド・バルザック叔父さんかぁ、だよなぁ。だからホークランも従者としてここに来たんだよな。


「おぼっちゃま、何かありましたら、ホークランの名前を出して下さい。

大した名前ではないかもしれませんが、何時の日にか、僅かながらでもお力になります」

「え、いいですよ。

気になされず、それよりもマリーと仲良くして下さい」


俺は謙虚にソレを断る。

日本人だよなぁ、俺も……


ホークランはそんな俺の言葉を聞くと「なるほど、騎士バルザックが褒める訳だ」と言った。

次に何か訳を知ってそうな顔で微笑むと「がんばって下さい……」と言ってこの部屋を後にした。

叔父さんは、その日の夕方この屋敷を離れた。

なんでも再び聖地に赴き、異教徒と戦うのだそうだ。

ホークランは二年後再び此処に戻って来るとマリーに約束して、叔父さんについて戦地に赴く。

俺はニマニマしながらその光景を見送った。


若いっていいよね、二人はラブラブだった。




そして屋敷に平和が戻った、見た目はね……でも何も解決はしていない。

パパさんは相変わらずだし、ママさんも昔の様にパパさんと接する事が出来ない様だった。

天使ちゃんなウチの姉貴は、パパさんと目を合わせようともしない。

ただ「まだパパは嘘をついている」とだけ俺に言った。



そんなおじさんが残した物が在る、何故か彼は俺が兄貴に与えられた宿題の添削をしていて、次はこれを勉強する様にと紙の端にメッセージを残したのだ。

その他にも《君にその気があるなら良い剣の師を紹介する》

と、宿題の隅の方に書いて残した。


なんか気に入られたのかな?

そう思って俺は、彼の残した添削を片手に、兄貴に色々と教わる日々を再開した。


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