今再びの剣の道へ……
―二人の剣士の死から3日後
あの“母無し子”が二人の剣士を殺戮した後、俺の剣に対する苦悩は深まっていくばかりだった。
脳裏によぎり続く奴の棍棒に宿る、勢いと野生、暴力と経験で導き出された未熟にして考え抜かれた合理に満ちた体捌き……
相対してみなければ分からない、恐怖を身に纏った姿。
実際に相対したあの剣士は、途中から“母無し子”が放つ恐怖に、心囚われてしまっていた。
目の前で見たその一部始終。
俺はそのヴィジョンに取り付かれる……
繰り返す。未だに瞼の裏から離れない。
ゴブリンと言う概念を超えるような、あの丈高の怪物が、俺よりも年上の剣士を瞬く間に蹂躙し、そしてその命をもぎ取ったのを。
そして瞬く間に恐慌状態に陥った別の剣士が、一瞬で心を動揺させ、そして身も心もあの“母無し子”に貪り食らわれていったのを。
腕に覚えもあっただろう、一人ではないと心強くも思っていただろう。
だけれどもあの二人の剣士は、あの野蛮な知性と恐怖の前に、成す術もなく殺されてしまった。
ならば戦う相手が俺ならばどうだ?
俺なら上手く行けるのか?
……とてもそうは思えなかった。
だから、このままでいいのか?と疑問が胸に渦を巻き続けた。
あの日から間もない頃、俺はついに意を決して“彼”にこう言って頭を下げた。
「お願いします!俺は“母無し子”と戦いたいんです。
奥義を一手、教えて下さい!」
時刻は明け方、いつもの様に幽霊に剣を教わっていた俺は、遂にこう切り出す。
ボグマスに言ったら「ふざけるなっ!」と怒鳴られるようなお願いである。
だが今こんな事を繰り返しても“母無し子”と呼ばれる、あの野獣に勝てるイメージが湧かない。
アレはゴブリンであってゴブリンではない。
なんと言っていいか分からないが、戦い、殺戮する事に喜びを見出した何かである。
戦闘狂かシリアルキラーか、それを合わせた何かなのか……
アレを斬りたい、どうしてもだっ!
何故斬りたいのかは分からなかった。
ただ、ただいつかアイツと斬り合う、それが俺の運命なんだと、あの日から俺の腹の奥底にいる、俺の暗い影が囁き続けている。
こんなに戦いを切望したことは無い、俺がどれだけできるのか知りたくてたまらない。
だけど“奴を斬るっ!”その領域に自分が到達するイメージが全く湧かないのだ。
もっと早く上達したい、もっと早く体を大きくしたい、もっと速く動けるようになりたい。
その為奥義を教えてほしい!
俺は頭を下げて彼に請うた、彼は俺が知る中でボグマスと並ぶほど剣が上手い男である。
彼ならきっと……
『…………』
だが彼はいつもの様に沈黙し、首を振って、俺の願いを断る。
「なんで?なんでなんですか?
俺は必ずアイツとやり合いますよ、その時の俺の為に、何で奥義を教えてくれないんですか?
教えて下さいよ!」
ふたたび首を振る彼。
俺は食い下がった、誇りも何もあったものじゃない。
俺は地べたに両ひざをついて彼に頭を下げた。
「お願いします!お願いします!」
『……………』
「お願いします!このままじゃ……
お願いしますっ!」
すると彼は諦めたような悲しい表情を一つ浮かべ、そして遠くにあるガーブウルズの街の門を指さした。
「……?」
俺は彼の言わんとするところが分からず、ただ茫然とその指し示された先の門を見る。
(ゴッシュマは勇者である……彼に学ぶと良いだろう)
俺は“ハッ”となって彼の方に目を戻した。
彼は日差しの中で消え失せながら俺に微笑み、そしていつもの様に消え失せた。
◇◇◇◇
「で、なんでお前達までついてくるんだ?」
俺はいつもの脱走口から逃げ出そうとしたら、ネコとキツツキがスタンバって待っていた。
とりあえず連れ出した後、こいつらが俺についてきた理由を聞いてみた。
ポンテスが答えた。
「最近次々とメスを食い散らかす不届きなオス犬がいるらしいニャ。
そいつを血祭に上げないとペッカー先生の気が済まないそうニャ」
……なんて暇な連中なんだ。
俺がヤクザみたいな男の下っ端を務めてまで、お前達の餌代(その一部)を稼いでいると言うのに……
「ニャーはその手伝いニャ」
「ふーん……頑張ってね」
他になんと言えば良いのだろう?
世話になっているペッカーに“お前それは間違っている”と、言えない俺がここにいる……
「じゃあ、終わったらジリの家に居てくれ、迎えに行くから」
なんだろ……モヤモヤする。
とにかくそう思いながら別れる。
こいつらと別れて間もなく、遠くから「おい、ラリー!」と、俺の名を呼ぶ声が聞こえた。
ふと見るとバームスが何やら思いつめた表情をして、俺に向け胸の辺りで手を振っていた。
「バームス、どうも。
丁度よかった、ソレよりも明日の仕事で相談したいことがあって……」
「明日?いやそれよりもちょっとこっちに来てくれ」
「?」
「お前がこの前見た、二人の剣士の身元が判明した。
俺の弟弟子だ……」
「えっ!」
「ラリー、俺達はこれからアイツを何が何でも討伐しねぇといけねぇ。
そうじゃないと他の剣士に舐められちまう……
で、だ。俺の親父が、事情に詳しいお前さんと話をしてぇそうだ。いいな?」
いいな?もクソも無い、こいつがこんなおっかない顔で言ったから。
ハイか、イエスか、喜んで!以外に選択肢がある筈ない。
とは言え“喜んで!”を選択したらぶん殴られる予感がしたので「ハイ」と無難に答えて彼の元について行った。
こうしてどこに行くのかを知らされないまま、荒んだ目をしたバームスに連れられて、俺は人でごった返す路上を歩く。
途中、足早に歩き去るバームスの険しい顔と、それを見た人たちが次々と彼の為に道を開けるの見る。
割れた人波が、バームスと言う男に払われる敬意と恐怖を俺にそれとなく伝えた。
……街中の人間から恐れられるって、どういう事なんだよ?
まぁ、こんな感じでしばらく彼についていくと、こんなヤクザな男に似合わない所に辿り着いた。
「…………」
「びっくりするだろうが、俺はここの門下生だ」
目の前にはこの街で一番立派な建物がそびえていた。
武骨な街でも特に武骨で要塞みたいな建物、そうです、バルザック邸です。
……出て来て即効こんな形で連れ戻されるとは思いませんでした。
「あ、あの……バームスさん」
「あん?」
「その、申し訳ないのですが、ちょっとお腹が……」
「腹?そこを殴れば良いのか……」
「あ、いえ。大丈夫です……」
とっても解決方法がガーブウルズです、バームスさんありがとうございました……
ああ、バレるのは時間の問題かぁ。
さよなら俺の脱出口……
「まぁビクビクするんじゃねぇよ。
中にいる連中はこの街でも……いやアルバルヴェでも特別タフな連中ばかりだが、そいつらは俺の顔馴染みばかりだ。
今度お前にも紹介してやるから、お前さんそう言えば今剣の師が居ないんだったな?
ならばいい師を紹介してやる。
俺はこう見えてもな、マスターガルボルム直系に所属している。
だからお前も本当に気合が入っているなら、聖騎士流正統の剣士なれる。
他の奴等とは格が違ぇぞ?
アイツらはマスターって言っても、マスターの偽モンだったり、宗家とは縁の遠い流派だったりするからな。
ここで剣士免状を手にしてみろよ、宗家直伝の剣士様だ!
騎士になるっているなら、これほど箔が付く事はねぇ。
どんな伯爵様でも『ならば一度戦場でお前の活躍を見てみたいものだな』って言うのは間違いなしだぜ。
掴めるかどうかは分からないが、チャンスはふんだんに用意される。
どうだ、いい話だろ?
お前は良い奴だから俺の弟弟子にしてやってもいいぜ?」
バンと俺の肩を叩きながら素敵な笑顔でそう俺に告げたバームス。
……しかしだ、聞いた俺は考えた。
この話を飲んだ時、私は本当にあなたの弟弟子になるのでしょうか?
バームス組長の子分ではないですよね?
コイツの普段を見ていると、いつか俺は鉄砲玉にされそうなんですが……
嫌な予感がするので、このヤクザな男の提案に即答を避ける俺。
しかも冷静に考えると、コイツ宗家直系に属する剣士なんでしょ?
すなわち宗家当主のマスターガルボルムの弟子ですよね。
お、叔父さんの弟子かぁ。
そこもなんでか、モヤッと思う所があるなぁ。
……だって弟子は、こんなヤクザだよ?
……本人もヤクザじゃないよね?
「よし決めた!
これから師範代に会わせてやろう」
あ、もう決まっちゃいましたか、俺の運命。
さよなら、俺の自由……
こうして俺は顔見知りが、声を掛けるでもなくジロジロと俺とバームスを見守る中、一つの大きなパンテオンみたいな丸くて巨大な建物に辿り着いた。
そこには“狼の家”と、作った奴のセンスに対し、俺がダメだしする覚悟を固めるような看板が掲げられていた。
……ああ、もう帰りたい。
ルーシーとイフリアネが居て、お花と汗の香りが絶対漂わないタイプの、訓練場だココ。
「どうだ、ラリー。凄い建物だろう……
ここが聖騎士流の総本山にして、最高の聖地“狼の家”だ」
「凄い建物ですね……」
相槌と言うのは、こうも心の籠らないものなのかと、自分でも思うような声音で答えた。
ああ、魔導大学付属校に帰りたい……
本音は心の奥底に、深く深く、沈み込む。
「お前は見所がある、剣の腕もこの歳にしちゃあまぁまぁだし“母無し子”の偵察レポート。
あれなんか報告物も絵やら地図やら、俺が何も言わなくても工夫して持ってくるしな。
俺はてっきり見たものだけを口で言ってくるもんだと思っていたけど、日報まで用意するとは思わなかったぜ」
「え?それで良かったの!」
「あ、いや。あのまま続けてくれ。
お前さんとジリには悪いようにはしねぇ。
アレは仲間内で評判が高いんだ」
「…………」
「ま、あれ位出来るなら仕事を山ほど回してやる!
まぁ、俺に任せてみろ……」
……ジリ、ゴメン。
お仕事……増やしちゃった。
こうして衝撃の真実を聞かされた俺は、この男に肩を抱かれ、この恐ろし気な名前の聖地に入った。
中に入った俺をまず出迎えたのは、一人のひげで顔を覆った大変いかつい男の像だった。
かつて見たドイド・バルザック叔父さんと同じように赤い剣のマークが胸に翻っている。
この男もまた聖騎士なのだろう。
思わずしげしげとこの力溢れる男の像を見ていると、バームスが言った。
「これは剣祖クリオン・バルザック様の像だ。
後でさんざん見れるから、早くコッチに来い」
足を止めた俺にバームスがそう声を掛ける。
俺は彼に促され、再び足を前に出して“狼の家”の中へと向かった。
シャン、ガッシャン!キンッキンッ!
行くぞー、うぉぉぉぉぉっ、てぇぇぇぇっ!
入った瞬間から響く、激しくぶつかる金属の音と、雄々(おお)しい男女の絶叫。
どこか懐かしい、剣術学校の音へと、自分がどんどん近付いていく。
久しぶりのこの感じに、胸が躍った。
懐かしさがこみ上げる。
そして視界が開けた……
「これは……」
見た瞬間、口から感嘆の声がこぼれた。
そこは天井が高い、広大な円形の闘技場だった。
その中を幾つか区切り、たくさんの剣士が完全武装した状態で剣を振るう。
筋骨逞しい男や、見るからに強靭な肉体の女性が幾人も戦っていた。
……熱気にあふれた修行と戦いの舞台。
その場にいる、誰からも発せられる気迫に包まれ、その訓練風景を見ているとバームスが「こっちだ!」と言って俺を一人の筋肉モリモリのじいさんの所に……
うに?
「親父!こいつがあの日報を作ったガキだ」
親父?
「うん?おおよく来たな坊主!
バームスの子分なんだってな……
あれ、お前何処かで見なかったか?」
うん、ええ。会ってますね。
3か月前ぐらいに一回……
「知らないです、ごめんなさい……」
「まぁいいじゃねぇか、門番の仕事をまだやってるんだろ。
その時に見かけたんじゃね?」
「ああ、そうだな。
坊主、俺の事をコイツから聞いているか?
俺はゴッシュマ、塩街道の勇者と呼ばれている。
剣士免状を持っているが、今はここで師範代も務めている」
「ちなみに俺の親父だ」
おうふ、なんと言う超展開……
そう言われて改めてしげしげとこの親子を見ると、ママが言う塩街道の勇者様とバームスが重なっても違和感がないように思えた。
理由?面倒見が良いと言われる二人のDNAを感じるからさ。なんか豪快だしな。
さて、ここで分かったことが一つある。
都合が良い事に、どうやら俺の正体が見破られていないらしい。
ママ(エウレリア)の息子と目の前のバームスの子分がイコールだと思ってないのだ。
……まぁ無理もない話だ。
俺とゴッシュマはあの時の一回しか会ってないうえに、俺はわずか3か月で、服を新調しなければならない程背を伸ばした。
……だから裁縫を覚えたんだけどな。
それに数々の苦難を乗り越えて、少し顔つきも変わった。
年中俺の顔を見ている人は何も言わないが、俺はこの前、久しぶりに自分の顔を鏡で見たら、こんな顔だっけ?と違和感を覚えたのだ。
なんか、表情がキラキラしていないのだ。
……うまく言えないが、苦労している顔である。
さて、それを踏まえて俺は自己紹介をした。
「始めまして!ラリー・チリと申します。
王都ではバルツ剣術学校にちょっと通っていました」
見よ、この堂々たるウソ……
諸先輩方をロックスターにした事で、出入り禁止になったあの剣術学校の名前を俺は出した。
するとバームスが「あれお前……」と、ボグマスの名前を出しそうになったので。
「いろいろな所で剣を教わったんです!」
と力強く言って乗り切る。
正直いつまで続けられるのか分からないほどの、力技の数々を繰り出しながら、俺は自分の身の上を隠し続ける。
やがてゴッシュマは別にそんな事はどうでもよくなったらしく「ほう。バルツの事はよく知ってる」と言って打ち切った。
彼は次に険しい目で俺を睨みつけると、落ち着きつつも迫力のある声音で言った。
「若いの、偵察の仕事は見せてもらったが中々だ。
だが俺が求めているのはそれだけじゃねぇ。
剣士ってのは剣を振るってナンボ、戦えてナンボな人間だ。
口が上手いのか、剣が上手いのか確かめさせてくれ……」
ゴッシュマはそう言って、俺に実力を見せるよう促した。
やがて彼は近くにいる、俺よりも年上の強そうな少年を呼ぶ。
少年は来るなりゴッシュマに「お呼びですか?」と尋ねた。
「ああ、すまないがこの子と、試合してくれ」
少年の背丈は同じくらいだった……
俺は久々の試合に胸を躍らせながら「よろしくお願いします」と言って手を差し出した。
「ああ……王都の訛りだな」
彼はそう言うと俺の差し出した手を無視して、防具をつけ始め……
態度悪っ!
何なのあれ?ボグマスに見つかったら鉄拳制裁ですよ。
まぁいいや、あれぐらい鼻っ柱が強い奴は嫌いじゃないしな。
俺はバームスに防具や木剣を借り、武装をした上で幾つかある、土の上に引かれた白線の囲いの中に入った。
彼も同様だ。やがて長い裁杖と呼ばれる杖を持ったゴッシュマが審判として、俺等の間に入る。
「俺が良いと言うまで何本でもお前達で戦い続けろ。
それじゃ、下がれ……構え、始め!」
掛け声と同時に剣を上げる、互いに切っ先を天に向け、顔の横で構える。屋根の構えだ。
(あれ?)
不思議な感覚が俺を襲った。
相手がやけに小さく見えるのだ。
やがて相手が打ち込もうと腕の筋肉が動いた瞬間、俺は剣の握り方を変えて頭上で剣を回し、足を捌いて斜めにずれた。
相手の攻撃線から外れる為だ。
そしてそのまま相手の一撃を鍔の部分でブロックしつつ左に打ち払い、相手のこめかみを斬り薙いだ。
はたき斬りと言う技である。
相手の兜からガシィィィィっ!と言う音が上がり、俺の一撃の重さを周囲に悟らせる!
「やめ!さがれ」
ゴッシュマの声と同時に、俺達は離れる。
相手の顔に驚愕の表情が浮かんでいた。
そしてたった一振りで勝負を決めた俺と言う存在に、周りの様子も一変する。
周囲の人間が無遠慮に浮かべた悪意ある笑顔は消え、囃子立てる無駄口が消えうせる。
そして2本目が始まった。
相手は、今度は剣を下げ、腰だめに構えた。
犂の構えである。
対する俺は再び屋根に構える。
「おお……」
「……生意気な剣」
俺の構えに周囲から声が上がる。
剣を上段に構える時、相手の剣に身を晒すような気持ちになる。
やはり剣の後ろに身を置く、突きの構えの方が安全な場合が多いのだ。
だから屋根の構えは気性が弱いとできないと言われる。
周りの人はそれを知っているので、俺の二度目の屋根の構えを自信の表れと捉えた。
自分が優勢であると、俺が誇示していると見ているのである。
そして俺もまた……ボグマスが言う所の“生意気なラリー”として、高く構えた剣で相手を飲み込もうとしていた。
俺は見下ろすようにして、相手の眼を覗く。
面頬の奥、ギラギラと光る眼が見える。
やがて相手は気合と共に前に出る、俺はそこから繰り出される攻撃線を足で捌き、胸元を目指した相手の突きを、自分の剣の根元で抑える。
そこから拘束しようと動く俺の剣。
しかし相手は柔らかく受けて、逃げようとする。
……おそらく心が逃げかけていたのだろう。
突きを放った彼の腰が引け、右に逃げようとするのが見えた。
鍔迫り合いを嫌うその気持ちが透けて見える。
対して俺の剣は、バインドに持ち込もうと切っ先が下がっていた。
俺は、そのまま構えを相手のつま先に切っ先を向ける、愚者の構えに移し、そこから下から上へと剣を切り上げる。
……車輪斬り。
剣は相手の肘の下をしたたかに叩き、相手は剣を取り落とした。
「やめ!もういい。ラリー、合格だ」
俺はあっけなく勝ててしまった事に驚いて、拍子抜けした。
「驚いたな、お前本当に9歳か?」
それを見てバームスが感嘆の声を上げた。
周りの人間が「9歳っ?」と、どよめく。
そのどよめきの中でバームスが、ゴッシュマに言った。
「足捌きも剣の速さも想像以上だ。
親父、こいつも討伐部隊に加えてもいいか?」
「ああ、このガキは鍛えがいがありそうだ。
後でコイツを俺の家に連れてきてくれ」
そう言うとゴッシュマはこの場を離れた。
バームスはそれを見ると俺の肩をドッスンと叩いてニヤリと笑って言った。
「おめでとう、今度から昇給だ。
あのチンピラ爺がお前さんの腕を買いたいそうだ」
えっ、俺討伐隊に加わるなんて言ってねぇよ?
「あの、偵察は……」
「ラリー、日当は二倍だ!
一日200サルトは出るぞ」
え、マジですか?
「やるだろ?」
「やります!」
「よーし、しっかり鍛えて……」
「あの……ジリは?」
「ジリ?
ああ、モチロンあいつも弓の腕は相当いいから雇うぞ。
て、いうか離れるのは嫌だろ?
安心しろ、ただしアイツもココで剣の訓練は積んでもらう。
今度から剣の訓練も、討伐準備と言う事で給料が出る。
……まぁ、兵士待遇と言う事だな。
ただし偵察も忘れるなよ。
後、ジリも呼んで今晩親父の家に行くぞ。
あの二人、どんな風に戦いそして“母無し子”に敗れたのか聞きたいんだ」
俺とジリはこうしてゴッシュマの元で剣の修業が出来るようになった。
ちなみにジリは俺に“死ねっ”と叫んだ。
そんな話は聞いてないとも。
まぁ、そりゃそうだ、言ってないもん。
まぁ俺も断れなかったのがイケなかった。
……お金が、魅力的だったんだ。
なので正規の剣士の訓練と、門下生になれると言う待遇に何とか土下座して納得してもらう事になった。
騎士を目指す彼にもメリットがある話なので、何とかうまくいったが、次同じ事があったら絶交だそうです。
……ごめんよ、ジリ。
とは言え偵察だけではなく訓練でも、お金が出るのは嬉しい。
ただしこのお金は“母無し子”と戦う事が前提のお金である。
俺達はいくばくかのお金と引き換えに、命を張ることを選ぶ。
その重すぎる犠牲の意味を知るのはこれからだった。
こうして険しい剣の道を、俺達は歩き始める。
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