フェイス(顔役)
―一カ月後
もうそろそろ春、暖かくなった頃だ。
あれから雪もだいぶ溶け、見る風景にぬかるむ赤土と所々に積もる雪の塊が目立つ。
俺とネザラスは5匹のゴブリンと、それを従える二匹のオークを追いかけていた。
この時期になると足元の雪がザクザクと硬い、これまでのサラサラとしていた雪とは違う。
日中に溶けかけた雪が夜に凍った証拠である。
さて雪溶けのこの頃、いよいよ冬の狩猟シーズンは終わりを迎える。
鹿などの動物が、食料を求めて山の中に帰ってしまうからだ。
今は人里近くの低地に、草木の新芽が芽吹くのでまだ近くに動物は潜んでいるが、暖かくなるにつれ、高地の草木に新芽が芽吹く。
それに伴い、動物の姿も人里から離れ、そして子育ての季節に入る。
そして禁猟期間になるわけだ。
そしてそれは狩猟を生業にするゴブリン達もまた、人里から離れる事を意味している。
……それは俺とネザラスの稼ぎ時が、間もなく終わると言う事を意味していた。
俺達は今の内に何とかして稼ごうと、半日かけてゴブリンの追跡を続ける。
実は今追っかけている群れは、相当儲かる予定の群れで、俺達は一回の狩りで最後の大金をせしめようと企んでいた。
群れの統率者である、体の大きなオークは一匹で金貨2枚は貰える相手だ。
それが何と2匹もいる、
だから俺達もこの群れを執拗に追った。
前準備も含めると3日かけた相手でもある。
さて、そんなゴブリン共の手掛かりを求め、雪に刻まれた鹿の足跡を追うネザラスが俺に声を掛ける。
「見ろラリー、雪の下のヤゴリアスの草が齧られてる。
しかもまだ凍ってない、これは鹿が近いぞ」
「オークは?」
「たぶん近いと思う、風がそろそろ山の上から降りてくるから……
風上に回らないように、回り道をしながら高台から見下ろしてみよう」
腰に下げた剣、肩にかけた弓と矢筒。そして手には板を削り、先端が膨れるように作った木槍。
俺達はこれらを携えて、鹿の足跡から離れて、道をかき分けて進む。
硬くなったとはいえ、積もる新雪が俺達の体や足を飲み込んだ。
ソレが歩きづらい、そして俺達を苦しめる。
非常な苦労を伴いながら斜面を這うように登っていると、それに煽られてなのか、時折木の上の雪がドサリと大きな音を立てて、地面に落ちる。
その音が緊迫感を高める俺達を度々(たびたび)驚かせた。
登り始めてしばらく経ち、遂に高台から鹿の群れを発見した。
そして目を凝らしてその群れの周りを見回すと、風下から二匹のオークに率いられ、5匹のゴブリンが鹿の群れに近付いているのが見える。
「(ゴブリンの)大群だな……」
俺がそう言うと、ネザラスがうなずき、そして持ってきた筒の中の、毒液に矢の鏃を浸し始める。
この様に逃げるという選択肢が無い事を、彼は行動で示す。
その傍らで、俺も木槍に毒液を塗り始める。
さてこれからゴブリンを狩るついでにゴブリンの生態を少しだけ話すと。
先程話した様に連中も狩猟をする、特に投石の腕は中々のモノで、連中は巧みに小動物を狙う。
武器は石の他は、こん棒か荒く切っ先を尖らせただけの木の槍を使う事が多い。
ゴブリンの特徴として、大体4から6匹ぐらいで固まって移動して狩猟をしている。
なので人間の猟師が行く先に動物もいて、そしてゴブ共も居ると事が珍しくない。
特にこの時期は新芽が芽吹く限られた低地に、動物が居るので鉢合わせるのだ。
そこで俺達は、ここ一週間ほど日帰りでハンターの一行に混ぜてもらい、護衛の様な仕事をしていた。
報酬として彼等にゴブ共の情報を提供してもらうのだ。
これは中々効率よく狩りが出来るアイデアで、動物を狩る猟師にとっては競争相手であるゴブリンの排除に繋がるし、俺達としても何時間もかけてゴブ共を探さなくてよい。
広い山の裾でアイツらを探すなんて、藁の中の針を探すよりも大変な話である。
索敵に時間を割かなくてもよいと言うのは、泊まり込みで仕事のできない俺達には相当ありがたい話になった。
今回こうして手早くゴブリン狩りが出来ているのは、それが理由である。
ただし、同行を許してもらった猟師達は口うるさく俺達に『風上に立つな!石鹸で洗った服を着るな!』と、言った。
特に石鹸の使用についてはタブーらしく、動物達は自然界に存在しない匂いにことさら敏感なので、遠くからでも逃げだしてしまうそうだ。
確かにゴブリン狩りの最中、めったに動物に出くわさなかった。
その理由に納得した俺達……
こうして水洗いしただけの臭い服に身を包み、猟師たちに示された狩場で、たぶん今年最後の大物狩りに挑む。
ネザラス……愛称はジリと言うが、彼が俺に言った。
「ラリー手順はいつも通りだ。
俺がまず弓で連中を射る、たぶん一人で弓を撃つ俺を奴らは攻撃しに来るだろう。
そうしたら木槍でお前が大物を貫いて動きを止めろ」
「分かった、お前の槍もソコに置いて」
もう手慣れたもので、短い指示で相手が何をするのかが分かる俺達は、さっそく準備に取り掛かる。
俺はゴブリンからちょうど見えない場所に下がりそこに槍を置いた。
そして口に雪を詰め込んだ。
これをしないと吐く息がもうもうと白く煙って、俺の存在がばれる事がある。
そうなると奴ら近くに来ないで、投石を続けてくるのだ。
ゴブリン達もまた野生の知恵が回る……
「…………」
準備が終わり、目で“始めてくれ”と合図を送ると、ジリが弓に矢をつがえ、そして狙いをつけて次に矢を放った。
雪で隠された視界の向こうで、ゴブリンとは違う、明らかに野太い声で悲鳴が上がった。
ギャー、ギャーッ!ギャギャァーッ!
立ちどころに巻き起こる、甲高いゴブリンの威嚇する声、そして憎悪に満ちた野太いオークの咆哮。
危険を察知した鹿が、甲高い声で鳴き叫び、そして足音を盛んに立てて逃げ出していく。
邪魔をされた狩り、そして身の程も知らずに矢で自分を傷つけた人間の子供の姿。
連中にとって忌まわしくも、弱弱しく見えるその存在が、怒りをさらに掻き立てた!
その中でジリはさらに矢をつがえ、そして放つ。
その矢から逃げる為だろう連中の叫びが、右に左に散っていく。
ジリは続けざまに二の矢三の矢と放ち、都度にゴブリンの悲鳴が上がる。
「残り2の3!」
視線を切ることなくジリが、オークが2匹とゴブリンが3匹いる事を俺に伝える。
「右から来るぞ!」
ジリが緊迫感の籠った声で叫んだ。
俺は雪を口から吐き出し、手にした木槍を携え連中の前に初めて姿を現す。
目の前には驚いた顔のオークがあった、その胸元に木槍を投げつける!
先を膨らませ、穂先をきちんと作った槍は安定して飛びやすい。
そしてただ木を削っただけの木槍とはいえ、驚くほど貫通力がある。
木槍は鎧も無いオークの逞しい体を貫いた!
後ろにのけぞり、そして雪の斜面を貫く木槍ごと転がり落ちるオーク。
へしおれて行く木槍の破片と、黒い血しぶきが白い大地に線を描いた。
その様子に呆気にとられる、他のゴブリンと、肩に矢が刺さったままのオーク。
その隙にジリの矢が残ったもう一匹のオークのこめかみに命中。もう一匹も雪の中に沈み込んだ。
「せっ!」
俺はもう一本の木槍を手に取ると、動揺したゴブリンに投げつけ、そしてその体を貫く。
次に抜剣した俺は高い所から2匹のゴブリンの傍に飛び降り、そして横に剣を薙いだ。
その瞬間ゴブリンの首が二つ宙を舞う。
首の筋肉が一瞬にしてゴブリンの体の中に飲み込まれ、そして倒れる間際に血を吹き上げた。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
始まってから終わりまで、時間にしてたぶん5分もかかってはいないだろう。
……これがゴブリン狩りである。
そしてこの狩りをもって、俺達のシーズンは終わることになるのだ。
◇◇◇◇
「今日は俺の勝ちだな!」
「おい、ちょっと待て!
俺は今日ゴブ3にオークが1だぞ!
俺の方が一匹多いじゃないかっ」
「お前のオークは不意打ちで獲ったものだ。
俺は正々堂々とオークを倒した、だから俺の方が難しい事をしたんだっ」
難しい事をしたら偉いルールを、いきなりこさえてマウンティングするこのアホに色々言いながら猟師たちの一団と一緒に、ソリを引きずりながらガーブウルズに帰ってきた俺達。
ゴブの耳と、オークの死体をギルドに収めようと、ハンターギルドの建物の中に入った。
『…………』
中に入ると、いつもなにがしかの喧騒に包まれるギルドの中は、不気味な静けさが満ちていた。
そして、一斉に中にいる大人達が俺達の顔を見る。
一瞬にして感じられた、これまでと異なる、まるで来てはいけない場所に来てしまったかのような雰囲気……
(な、なんだ?)
(さぁ?)
俺とジリは目でこの違和感溢れる様子に、心当たりがあるかどうか互いに確認したが、お互いに心当たりがない。
とりあえず逃げる理由もないので、恐る恐る中に入ると、この前俺に絡んできた奴が、俯きながら意地の悪そうな笑みを一つニヤリと浮かべ、俺を嘲笑う。
(なんだこいつ……)
俺はそれを見据えながらいつもの係員の人に話しかけた。
「すみません、オークが2匹と、ゴブリンが5匹確認してもらえませんか」
俺がそう言うと、周りの連中が、俺達を囃子立てた。
「やるねぇラリーちゃん、今日はオークが2匹か」
「お前がキングってわけかぁ?
イッヒッヒッヒッヒッ!」
……野郎共、今日は随分と挑戦的じゃねぇか。
「なんだよ、文句があるのかよ!」
俺がそう言うと、普段は尊大で卑屈なアイツらが「口を慎めよ、俺達は先輩だぞ!稼ぎがデカいからって態度までデカくして良いって事にはならないからな!」と吐き出した。
その一言にカチンとくる俺。
売り言葉に買い言葉で「なんだよ、今日は随分と威勢がいいな、相手してやろうか?あんっ!」と返す。
慌てたジリが俺を抑えて連中と俺との間に、体を割り込ませる。
「落ち着けラリー!落ち着けよっ」
「なんでだよ、あいつらが喧嘩を売ってきたんだぞッ?」
「せっかく稼げたんだ、サッサと金に換えてずらかろうぜ!
ここでトラブルを起こすとラーナが心配するぞ」
ここでふいにジリが口にした兄貴に全く似ていない、可愛い妹ちゃんの名前。
その名前に、俺は思わず幾ばくか平静を取り戻す。
つまらない揉め事を起こし、収入を不意にすることは無いと思えたのだ。
そこで俺は目を背け、連中の顔を見ないようにした。
アイツらの目を見ていると、掴みかかってしまいそうになる……
「なんだラリーちゃん、今日は大人しいなぁ?」
「うるせぇ、黙れ……」
俺は実は気が短い。
イライラして脳みそが沸騰しそうになるのを必死でこらえ、挑発に対して呟き返す。
それが連中をさらに煽ったらしく、奴らは嬉しそうな笑みで俺に挑発を繰り返す。
「聖騎士流の正規の剣士に教わったか何だか知らねぇけど、王都のダンスみたいな剣じゃ役には立たねぇぞ」
「ああ、これまで随分とデカいツラしてくれたじゃねぇか、ラリーちゃんよぉ。
すました顔して気に入らねぇんだよ、コッチはヨォ!」
もう我慢できねぇ……
「うるせぇなぁ、いちいち語尾を伸ばさねぇと話が出来ねぇのか?
稼ぎの悪いクソハンターがよぉ」
「なんだとテメェ!」
「うん?アンタも稼ぎが悪かったのか。
そいつは悪い、いつも偉そうだったんで稼げているかと思ったよ。
見込みが違っていたようだ、すまないね。
ヘタクソハンターのお・じ・さ・ん」
俺がそう言うとギルドの中のハンターの多くが一斉に立ち上がった!
『なんだとコラァっ!』
『テメェ、子供だからって容赦しねぇぞ!」
その沸騰したギルドの中、奥まったテーブルには、これまで見た事が無い、強そうなハンターがこの様子を、嘲笑いながら面白そうに見ている。
やけに存在感があるそいつの顔を見ていると、そいつは俺の視線に対し鼻で笑って応えた。
ニヤニヤと俺を値踏みするような笑み……気に入らない。
「おい、ラリー。もうお金を貰った、早くずらかろうぜ」
ジリがこの騒動の最中で、顔を青くしながら急ぎこちらに戻った、そしてこの険悪なギルドの空気を恐れ、早くここから立ち去ろうとする。
しかしここで俺を挑発する連中が「待てやラリー、詫びの一つも入れねぇでここから出られると思うなよ!」と言って色めき立った。
それを聞き、黙ったままでいられなくなった。
……悪い癖が俺の胸の中で鎌首をもたげる。
「……テメェに入れる詫びなんか持ち合わせちゃいねぇよ」
これ見よがしに、俺はそいつを鼻で笑う。
その様子を見て、ジリがこの場を修めようと、俺の肩を抱いて出入り口に向かう。
すると連中の何人かがついにナイフを抜きながら叫んだ。
「ネザラス!テメェもだっ。
ここから出て行けると……」
次の瞬間俺は腰の剣を抜いて、そして相手の足元に切っ先を向ける。
その瞬間再びシンと静まり返るギルドの中。
ナイフを抜いた連中も、抜かれた長剣を見て顔色を失う。
ナイフで長剣に勝てるはずもない。リーチも重さも違う、威力は段違いだ。
しかしギルド内で剣を抜き払うのはご法度である。
誰かがその事を言いだす前に俺はジリに言った。
「ジリ、俺が殿(撤退中、最後に残って相手を食い止める役目の事)を務める。
出入り口を確保しろ」
「クックックッ、あは……あーーっはっはっ」
俺のその言葉にこの言葉を聞いた誰かが声を上げて笑い出した。
見ると遠くに座り、俺を気に入らない目つきで眺めまわしていた男である。
「お前面白いなっ!小僧……」
「何?」
「殿をやるって言うには、お前は若すぎる。
まぁいい、俺が収めてやるから剣をしまえ。
……あ、そうか。
オイそこの汚ねぇの、テメェが先にナイフを抜いたんだろうが!
テメェから先にナイフをしまえ……」
「あ、ああ……」
彼が言うだけで、周りの男は大人しくナイフをしまった。
……随分と威厳があり、皆に敬われている男である。
彼は「小僧、次はお前だ……」と言って俺に剣を仕舞う様に促した。
なので、俺も言われるままに剣を鞘に納める。
その様子を見ていた男は、斜に構えた笑みを浮かべてこう言った。
「フッ、礼儀を知らねぇのは問題だが、お前はこの年齢では見どころがありそうだな。
面白いなお前……ああそう、騒がせて悪ぃな。
あいつらも悪い奴らじゃないんだが、チッとお前さんは目立ちすぎてしまったみたいだ。
お前も悪い所がまるでないと言う訳じゃないって事だ」
『…………』
「睨むなよ、お詫びに飯を奢ってやるから」
「いや、別に……」
「俺の誘いだぞ?断るんじゃねぇよ……
おいお姉さん、夕飯だ!適当に見繕って持ってきてくれ。
肉だ、肉とパンだ!」
そう言うと彼は俺とネザラスを手招きで、自分のテーブルに呼び寄せる。
不思議と彼の全身から醸し出される、恐ろしげな気迫と空気に逆らえず、俺達は彼の元に向かった。
彼は気さくに俺達を一緒のテーブルに座らせるとこう言った。
「へぇ、本当に若いな。
9歳だと聞いたが本当か?」
ジリは俺とそいつを交互に見ながら「そうだ」と答えた。
「なるほどね、9歳にしては派手に稼いでいるそうだが、魔法が使えるのか?」
「いや、剣と弓と投げ槍だけだ……」
「剣が仕えるのか。師匠は誰だ?」
ジリが俺の顔を見る、そこで今度は俺が彼に答えた。
「俺がジリに剣を教えたんだ。俺の師匠はマスターボグマス……」
「ボグマス?知らない名前だ……
まぁいい。箔をつけるためにソードマスターでもないのに、マスターを名乗る剣士はごまんと居る。
まぁ筋の良い剣士に学んだのだろう。
所でお前さん達、一体どうして学校にもいかずにハンターなんぞに……」
そう言っている最中に、シチューとパン。
そしてエールが運ばれてきた。
「まぁ、食いながら話そう。
ギルドの飯は結構うまいんだ。
新鮮な肉が入荷するから、塩漬け肉のあの嫌な臭いのする肉は出ないからな。
さぁ食ってくれ……そういやお前達名前はなんだ?」
「俺はラリー・チリ」
「俺はネザラス……ネザラス・ジスプラスト」
「なるほど、ラリーにジリか……
俺はバームスってんだ、俺は結構強いぜ。
ついこの前まで戦争に行っていたんだ」
『はぁ……』
「気が抜けた返事をしやがる……いいから食え、サッサと食え」
「なるほど、そう言う身の上か……」
食事中、俺とジリは自分たちがどうしてゴブリン狩りに精を出すことになったのかを、バームスに説明した。
バームスはそれを聞くと、目にうっすらと涙を浮かべ、テーブルの上に置いた俺達の手を握った。
「頑張ったじゃねぇか!
俺は感動したぞっ、ガーブの冬は他の地方の冬よりも厳しい!
良く生き残って見せたっ。
ぐすっ、チクショウ……一人は妹のため、もう一人は母親の為になぁ。
……頑張って、体張ってなぁ。
ああ、分かった。何かあったら俺に相談しろ!
こう見えてもだ……ガーブウルズのバームスと言えば、俺も結構な顔役だ!
俺が面倒を見てやる!」
俺とジリはなんだか良く分からないまま、互いに顔を見合わせ、そして良く分からないまま『よろしくお願いします!』と言って、彼の好意に甘える事にした。
少なくともギルドの男から敬意を払われているみたいだし、それが悪い方には向かわないだろうと思ったからだ。
話はそのまま今後の事になり、彼にこう言われた。
「お前達、そろそろ禁猟期に入るがゴブリン狩りはどうする?
もうゴブリンは人里には出ないぞ……」
「それは……他の仕事の口を探そうかと」
俺がそう言うと、バームスは俺達の目をじっくりと眺めまわしながらこう言った。
「だったら、一つ仕事をしてみないか?
1日単金で100サルト出せる仕事がある」
「一人頭ですか?」
「もちろんだ、他にいい仕事があればそれをするのもいい」
願っても無い話である、とにかく無収入は怖い。
それに王都で働く場合の御者の給料とほぼ同額狙えそうな仕事である。
おそらくこれはこの地方では高い給金の仕事に違いなかった。
「どんな仕事ですか?」
逸る気持ちを抑えて尋ねるとバームスが重たい口調で言った。
「悪魔の谷に居る“母無し子”の討伐準備さ……」
彼の口からこぼれる“母無し子”と言う言葉に、思わず黙る俺達。
「その様子だと“母無し子”の事は知っているみたいだな。
まぁでもお前たちが討伐に加わるわけじゃない“母無し子”は子供を襲わないのでその偵察だ。
まぁ……無理にとは言わんがな」
……やはり高い給料には理由がある。
俺とジリは互いに顔を見合わせた。
ジリはやりたくなさそうである、だが俺は違った。
どうしても一目見てみたかったのだ。
あの“母無し子”と呼ばれる異能の存在を。
俺は早速彼に『やります!是非っ』と言って、この仕事に飛びついた。
その傍らではジリが嫌そうな目で俺を見ていた。
俺は“母無し子”と呼ばれるゴブリンに、初めてその名を耳にした時から、惹かれていたのかもしれない。
俺は直感していた(きっとコイツと、殺し合うに違いない!)っと。
更新が遅れ申し訳ございません。
慣れない仕事にてこずり、正直鬱っぽくなっておりました。出来る限り更新をします。
すみません……




