未来に立ち向かえ!
ガーブウルズのバルザック邸は、セルティナにあるバルザック邸の印象を、そのまま雪の国に移したようだった。
威厳があって、重厚で、武骨。そんな灰色の建物の連なり。
さてそんなバルザック邸に到着するなり、俺は応接室に通された。
ママは一足先におじさんであるバルザック家の当主の元に案内される。
つまり俺は、大人の話が済むまでここでお留守番と言う訳だね。
とにかくここでやっと一息つけると思った俺は、服の中に潜んでいる家族達に声を掛けた。
「おいポンテスにペッカー、そろそろ出てこい」
重いんだよまったく……とは言え温かいから助かったけどね。
特にソリの上は寒風が容赦なく吹き抜けるので、ポンテスやペッカーを抱っこしてなければ寒さで凍え死んでいたかもしれない。
そう思っていると外套の内側からネコやキツツキが這い出てきた。
「むお、寒いニャ!」
ポンテスは出てくるなり、体毛をピンと立てながら呟く。
「また外に出たら抱っこしてやるから……
それにしても遠かったな、ガーブウルズ」
都落ちとはこういう事だと何回も思う辛さだった、たぶん俺は生涯この旅行を忘れないだろう……
とにかくやっと辿り着いた、最果ての辺境、ガーブ地方。
この応接室で無謀な旅はようやく終わったと実感する。
気が付くと視界の隅っこで、御者が遠慮がちに座っていた。
それを見ていると、申し訳ない気持ちが心から沁み出る。
……なんか本当にごめんなさい。
可哀そうに俺とママさんに巻き込まれ、来なくてもいいのに連れて来られてしまった彼に、俺はこっそり心で謝った。
……沈黙が広がっていく応接室。
やがて沈黙に耐えかねたかのようにポンテスが言った。
「まさか、パパニャンが性懲りも無く浮気するニャンて……」
「まったくだ、まったくだよ……」
思わず俺も相槌を打つ。
パパの浮気の件を聞いたのは王都から北に向かう、小麦街道を行く馬車の中だった、話してくれたのはママだ。
彼女から聞かされた衝撃の事実に、思わず俺は絶句する。
そんなそぶりは全く無かったのだ、一瞬ママの勘違いでは?と思った。
正直勘違いであって欲しいと思った……
だがまぁ、ママ自身の目で確認したことなので間違いはない。当たり前だよね。
そうかぁ、パパさんやっちゃいましたかぁ……
なんであの日に限って、浮気の現場を抑えられちゃうんかなぁ……
もしも別の日だったら、俺はこんなところに来なかったかもしれないのに。
まぁいくら考えても仕方がない事だ、頭を切り替えていくしかない。
それにしてもママは何故こんな地の果てに向かうの?と思う俺。
当たり前だが王都にもバルザック邸はある。そちらに向かってもいいはずだ。
……そう思っていたけど、どうやらそれには理由があるらしい。
実は前々から、ママさんの実家から、ママと俺にガーブウルズへ来て欲しいと打診がされていたそうだ。
話によると、俺は叔父さんから、ママの化粧領代わりの土地が貰えるらしい。
だもんでここガーブウルズには、生活基盤も用意されている。
正直化粧領って何?と思ったが、まぁそう言ったこれからの生活に役立つものが、此処ガーブウルズにはあると言う事だ。
もしこう言った化粧領みたいな収入が無ければ実家に帰ったからと言って生活が出来る訳ではない。
……生活費を稼ぐ手段は無いからね。
居候と言ったって限界はある、この国はそんな甘いものではないのだ。
だからママはこの化粧領を宛にしてパパと別れた後の生活を成り立たせようと考えたのだ。
俺はそういった相続だ、所領だ、といったことに全く詳しくないので、そう言うものかと思った。
なのでまぁくれると言うなら貰えるんでしょ?ぐらいの気持ちです。
実はこの時、俺が一番心配していたのは、これからの勉強や剣術修行の方だった。
勉強の方は正直これまでの蓄積やら、これまでの人生やらで何とかなる。
ところが剣の方はそうはいかない。
しかもマスターストリアムを見て感じたのだが、どうやらガーブウルズの連中は、ボグマスの様に色々教えてはくれない可能性が高い。
実は前の人生で、100円ショップで働き始めた時に「売り場見て無かったら自分で出して良いから、簡単だよね?後はよろしく……」と言って立ち去ったテキトーな上司と、此処の連中は同じ匂いを感じるのだ。
……特に塩街道の勇者様からはプンプンそんな匂いが漂う、嫌な予感しかしない。
誰から剣を学べるのか?
ママが帰ってきたら早速それを聞こうと思っていると、ちょうどこの時、ママがずんずんとした足捌きで帰ってきた。
明らかに不機嫌そうな顔色。
……見た瞬間悪い予感がする俺。
ママは思わず固唾を飲んだ俺の前に立つと「ラリー、こっちへ来なさい……」と言って、俺を抱き寄せ、そのまま後頭部を撫で回すと俺と御者を引き連れてこの部屋から出た。
俺と御者、そしてポンテス達を従えたママは、雪除けの壁と屋根に囲われただけの廊下を進み、一つの建屋に俺達を案内した。
かつては誰かが生活をしていたと思われるこの建屋。ところが今は誰も使っている形跡はない。
中は掃除を全くしていないのか埃が溜まっていた。
窓から入って来る光に照らされ、俺達の動きに煽られ、フワァッと立ち上る煙のような無数のチリ。
その光景に驚く俺にママが言った。
「さぁラリー、此処が私たちの新しいお家です!」
『…………』
言葉もなく、ママの顔を見る俺と御者、そして二匹のペット……
「あの、お母様……」
「言いたいことは掃除を終えてからにしなさい。
とにかく掃除です、此処を使える状態にしないといけません」
「使用人は……」
「ラリー、先ほど私が何と言ったか覚えてますか?
此処はガーブウルズです、特別扱いは有りません!
男なら口ではなく手を動かしなさい!」
ニャ、ニャンですとっ!
「ラリー掃除はまず高い所から始めて、床に埃を落とし……それから床を掃き清めます。
はたきやバケツ、とにかく掃除用具を持ってきなさい」
そう言って、胸を張り威厳をもって俺に掃除を命ずるミーのママさん。
逆切れしてますな、見事な逆ぎれっぷりですな。
う、うわぁ……人生が一変しましたよ。
これまでそんなこと無縁の暮らしだったのに、これからはそう言う暮らしが始まっちゃうんかぁ?
……まぁ、100円ショップ時代にさんざんやっていたから別にいいけど。
とにかくこうして俺達は、新しいボスに逆らう事も出来ず掃除を開始した。
離れは全部で4部屋もある中々な規模の家で、俺達は順繰りに全ての部屋を掃除していく。
御者と俺でソファーやベッドのマットや毛布を外に運び出し、叩いて埃を出す。ママはひたすら中で拭き掃除に掃き掃除。
そして再度運び込まれた家具を、俺達に命じてあちらこちらに置いていく。
3人で黙々と作業を続けた結果、なんとか“今日は寝れる”ところまで片付いた。
夕飯は昔ママのお世話をした人がやってきて、離れの台所で作ってくれた。
激動と困惑に満ちた一日が終わり、そしてガーブウルズで食べる最初の食事を、ここで食べる。
食事は、機嫌の悪そうなママの顔色を全員で伺いながらの、静かなもので終始した。
……実家との落差に泣きそうです、俺。
ああそうだ、話は少し変わるが。
掃除の最中に、例の可哀そうな御者さんの名前を教えてもらった。ワナウ・ラスクと言うらしい。
この御者のワナウも同じ部屋の別のテーブルに食事が用意された。
さて話を戻そう。
この静かな食事の席で、ママは俺に同情するような眼差しを向けつつ、静けさに溶けるような声でこう告げた。
「ラリー、あなたも9歳です。
よく聞きなさい、黙っていようかとも思いましたがどうせわかる話です。
あなたの叔父は今、病の床に倒れています。
意識はなく、私と会話することもできません。
なのであなたに贈られるはずだった化粧領は、今ではなく贈られるのは当分先になります。
つまり今……仕事しないと収入がないの」
「え?」
「でも安心して……ママは新しい仕事を見つけたから。
実は叔父さんの奥さん……つまりあなたの叔母さんも体が良くなくて、その介護が必要なの。
だから明日からワナウと一緒に、叔母さんの介護に行きます。
だから、しばらく剣の修業も、学業も……先生無しでこれまでの復習をしなさい。
いいわね……」
ウソだろ……と思った。
先生は居て、当たり前の様にそこから色々教えて貰えるモノだと思っていたからだ。
言うなれば常識的にそうだろうと信じていたと言うべきか……
それも叶わないと言う事は、導き出される答えは一つしかない。
我が家は予想外な事が立て続けに起き、そして……こういう言い方が正しいかどうかは知らないが。
ママの計画は狂ってしまい、俺達は経済的に立ち行かなくなりつつあると言う事だ。
その事実を、彼女の言葉の端々(はしばし)から直感する俺。
その事を理解して青褪めつつある、俺の顔色。それを見て不安に駆られたのだろう、御者のワナウが恐る恐る声を上げた。
「あ、あの……奥様失礼いたします」
ママはそれを聞くと「どうしましたか?」と、どこか拒絶するような声で答えた。
何を言い出すのか分かっていて、それを断りたい印象だ。
ワナウはそんなママの雰囲気に気圧される事無く、勇気を振り絞って言った。
「申し訳ございませんが、私はそろそろ王都に帰りたいと思いまして、はい。
そこで給料の方を戴けたらと……」
ママは“分かっていた”と言わんばかりに溜息を吐き、そしてワナウに言った。
「見ての通り、私達には男手が必要なのです。
この雪国に小さな子と、女性で上手く生活できると思いますか?
かなり難しいお話しです。
それに、現状私に仕えてくれる信頼のできる人はあなただけなのです、残ってもらえませんか?」
「残る事も出来ますが、やはり同じ給料なら王都で働きたく……」
「分かりました。あなたはこれまで幾らグラニールから貰っていたのですか?」
「2500サルトです……」
「だったらどうでしょう……私はあなたに5000サルト給料を払います。
金貨5枚の仕事なんて王都でもありませんよ、どうですか?」
貨幣の価値がどれぐらいなのかは分からないが、月給の2倍を出すと言うならきっと良い価値になるのだろう。
ママの提示した金額を聞いて、彼は大いに悩み始める。
ママはそこを畳みかけるように「同じ離れの一室も提供できます。家賃もかからなければ、これまでよりもはるかに実入りもいいですよ」など言って、ワナウの心を惹きつけた。
やがてワナウも「分かりました、王都には身寄りもありませんし、その条件で働きます……」と言ってここに残ると明言してくれた。
ママはその話を聞いて、一安心したようである……
夕食はそうした話を終えた後、静かに終了したのだった。
さてその後、くたびれた俺はママと一緒の寝室に入り、ベッドの中でこれからの事を悶々と考える。
勉強するとか、修行するとかの話ではない。
どうやら俺は、どうやって生活するのかと言う問題に直面しなければならないのだ。
ママにだけに、この問題の解決を押し付けるのは間違っていると思う。
考えてみてほしい、大人二人を雇える程の給料をこれからワナウに払うのである。
しかも宛てにしていた化粧領は無い。
叔母さんの介護ったってそこまでは貰えんだろ……おそらく俺の予想だと、此処までに来る途中で売り払った馬車の代金、あれが無くなったら、ワナウはここから出て行く事になる。
その後残されるのは貯金の尽きた母子家庭だけだ。
もはや未来に恐怖しかない。
そう言った事もあり、ママだけの問題ではないと改めて考える、無力な俺。
勉強も剣の修業も出来ない現状。
俺はこれまで、約束されていた未来に向かって、ただ誰かが用意したレールの上を、悠然と歩いてきただけの人生だった。
怖いとも思わず、恵まれているとも分からず歩いた素晴らしき人生の歩み。
ところが今や、突如として現れた行き先が見えない、暗闇のような未来が目の前に広がっている。
レールは途切れ、道も見えず、戻る事も出来ない、この暗闇の中の未来……
その存在が、唯々不安を俺の心に授けて行く。
押しつぶされそうだ、本当に押しつぶされそうだ……
ぶっちゃけて言おう。
俺もお金を稼げないモノかと思った。
だが9歳の俺に何が出来よう……これまでぬくぬくと貴族のドラ息子を続けた俺に何が出来ると言うのだ。
俺は甘ちゃんだったと、この暗闇の中で自分に叱りつけるしか出来ない!
俺はただひたすらに、無闇な事を考え、そして苦慮を重ねていった。
鎧戸の隙間から光が部屋に差し込んだ。
結局俺は眠れなかった。
俺は朝が来ると持ってきた荷物を漁って、木剣を取り出し、外の雪の中で剣を振るった。
屋根の構え、犂の構え、愚者の構え、雄牛の構え……学んだ事を忘れまいと、ひたすら繰り返す。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
上がる息、しらじむ口元。
寒さが体を動かすたびに薄れ、そして体温が上がる。
肉体にかかる負荷が、俺の頭の中から雑念を払いのけて行く。
もっと上手くなる方法はないのか?
誰か教えてくれないのか?
そう思ってボグマスから教わった、理通りの剣を振るう。
やがてどれくらいの時間が経っただろう?
近くで誰かが見ている気がした。
誰だろう?と思ってそちらを見ると、やけにほっそりした男が俺を見ていた。
見た瞬間ゾクッとする、何かこの世のものではない雰囲気がしたからだ。
俺は思わず立ちすくみ、次に何故か頭を下げた。
次に頭を上げると、彼は目の前にいて、青白い顔をこちらに向けて立っている。
俺はついに幽霊に会った、そう思ってガチガチと奥歯を恐怖で打ち鳴らす。
幽霊は足がない、そんな風に言われているのを思い出した俺は、彼の足を見た。
するとちゃんと足があった。
なんだ、半透明の足があるじゃん……そう思って安心していると。
(半透明の足って何?)
と思いだしマジマジと足を見る。
……はい、アウトぉー
もしかして俺呪い殺されるんじゃないだろうか、遂に妖に出会った俺。
さよなら人生……
恐る恐る顔を上げると青褪めてはいるけど、なぜか雰囲気が和らいだほっそりとしたオジサンが居て、彼はそのまま俺から目線を逸らすと腰の剣(これも半透明)を抜いて、俺に愚者の構えを見せた。
「……やれってこと?」
俺がそう尋ねると、彼はコクリと頷いた。
……幽霊に剣を教わるって、きっと皆に自慢できるな。
俺はなぜかイリアンの顔を思い浮かべながら、そう思い。さっそく剣を構えた。
すると彼は“違う”と意思表示をし、もっと歩幅を狭めるように指示した。
言われた通りにすると、なるほど足場の悪い雪の上ではこちらの方が安定する。
次に俺の肘の高さをもう少し下げて自然な形にするように指導した。
そして右から左に振り上げる際、左の肩を持ち上げ、その楽な姿勢のまま切り上げろと伝える。
そしてモノが当たる瞬間だけ、握り込む手の握力を強くしろと伝えた。
彼が伝えるところ、ずっと強く握っているのは良く無い事らしい……
そこで彼の言うとおりに従ってやると。
剣の音と軌道が変わった!
ブゥーンと言う音がヒュン!に変わったのだのだ。
(お、おお、これは良い感じじゃないか!)
そう思って彼に感謝を伝えようと思って顔を上げると、もうそこにその幽霊は居なかった。
ああ、やっぱりあれは幽霊だったんだな。
そう思ったが、先ほどと打って変わって怖さは消え、むしろ温かい気持ちになれた。
この街で初めてあった剣の師が幽霊だなんて、かなりイケてる気がする。
これは絶対にみんなに自慢しようと心に決めた。
とにかく俺はこれで分かった!
……ガーブウルズ、マジで半端ない所だ。
幽霊までも剣に取り組むんだな……昔以前の人生で聞いた、皿数えたり、琵琶法師を呪い殺すような芸風とはだいぶ違う。
正直この街の幽霊の芸風は、ネオクラシカルとしか言いようがない。
この街はマジですごい街だと思った……
あれから時間がすこし立ち、皆が起床した後の事。
全員で朝ご飯を食べ、それが終わるとママはワナウを連れて例の叔母さんの所に向かった。初出勤だ。
俺はそのまま留守番である。
ただしさすがに大人しく留守番するつもりはない。
俺は銀貨を一枚握りしめ、そして猫とキツツキをこの離れに残して、外に出た。
この屋敷から出て街に行く道を探すためだ。
実家同様、ここでもこう言った抜け道を探して、俺は自由を確保したかった。
それに此処では見つからなさそうな、お金を稼ぐ方法も、外なら見つかるかもしれない。
そこで寒い中、屋敷の壁の内側をグルッと巡る。
途中ボルダリングできそうな壁を見つけて丹念に調べ、それがどこに向かっているのかを見て回る。
夜になって風が吹いていなかったらさっそく登ってみようと、いくつかのポイントを見つけては心に決めた。
そう思って不意に金属に触ったら、ちょっとした事件が発生した……手が、金属にくっついたのだ!
急いで手を金属から剥がす。
ああ、そう言う危険があるんだ。
この金属に引っ付いた手を見て、雪国のボルダリングって無理があるんじゃないか?と思い始めた俺。
ていうか氷を掴んだら、滑って下に落ちるよな?
そうで無ければ、氷が手に引っ付くって事だろ?
寒いと手の感覚もなくなるだろうし、どうするんだろ……
少なくとも素手で挑むのは禁止にするしかない。
こうして改めて分かった、高い難易度に頭を悩ませながら、とにかく歩いて周りを見て回る俺。
雪をキュッキュッと踏み鳴らしながら、歩いていると屋敷を囲む壁の下から、狐が一匹ニュキっと顔を覗かせたのが見えた。
狐は俺の顔を見ると一目散に逃げだす。
俺は(狐の巣ってあんなところにあるんだ)と思ってそこに行くと、そこに動物が潜り抜けられそうな穴が……
やったぞ!俺はついに自由を手に入れたっ。
サンキューフォックス!
俺は急ぎ離れに戻り、次に屋敷の中に入って道行く使用人なのか騎士なのか分からない人に。
「すみません、雪かきをしたんですが、道具は何処ですかぁ?」
と、濡れそぼる子犬のような目で訴え、道具のありかを教えて貰う事に成功した。
そのまま外にある道具置き場に入って行ってピッケルやら、スコップやらを持った俺は、誰もいない事を確認しながら、離れに道具を運び込んだ。
あの穴を見て、凍てつく壁をボルダリングするのは撤回する俺。
あの狐の穴を利用するのが一番現実的じゃないかと思ったからだ。
家の中には家具を組み立てるためのハンマーもあったし、これを使って何とか掘り進めてやると心に決める。
俺はこの日から何日もかけて凍った土と戦いながら、ピッケルとスコップ、そしてハンマーで土を掘り返しては、雪の下に土を隠す作業を行う。
凍った土の硬さは尋常でなく、ピッケルをノミのように使って、ハンマーでその尻をブッ叩き、彫るようにして進んでいく。
作業がいつ終わるかは分からない、凍った土は鉄板のように固く、一日かけても、わずか数センチしか掘れない事も珍しくはない。
だけども俺は決して諦めないと心に誓った。
昨日よりは少しだけ大きくなった穴、だとしたら導かれる答えは一つだ。
いずれこの苦行は終わり、俺は必ず自由を手に入れるのだろう。
それまで辛抱するだけの事だ!
出来た穴を白い布で雪に偽装しながら俺は、自由を目指して挑戦を続ける。
無駄に器用と言われた俺の真骨頂が、今まさに試されている!
ペースが遅くなり申し訳ございません。
今の仕事は出張が多く、なかなか時間が取れないのです。
頑張って書きますのでどうかお待ちください。
できれば感想、評価をよろしくお願いいたします。