雪原のガーブウルズ
―14日後
大河のほとりにある港を降りて、俺は雪原の国にやってきた。
見渡す限り、雪で覆われたこの場所こそが、バルザック男爵領であるガーブ地方である。
「マジかよ……」
この雪を見ながら、俺は本当に王都に帰れないのだろうか?と思った。
……いまだにそれが信じられない。
俺はこれまで、石造りの見事な家が軒を連ねる煌びやかな貴族街と、堅牢な家が立ち並ぶ騎士街しか知らないのだ。
それがどうだろう……この落差に満ちた風景。まだ貧民街の方が想像もつく。
一言でいえば大自然ですよ、大自然!
明らかにこれまでとは全く違う、タフな男に生まれ変わるしかないような、この景色。
どんなネイチャーだよ……俺、生まれ変わるのかよ?
できれば悪い夢であって欲しいと思った。
だがしかし、頬をつねっても、頭をぶつけても夢から覚める気配もない。
当たり前だが、これが現実だと理解するしかなかった。
雪原は来るものを拒むかのような雄大さで目の前にそびえる……俺もこいつが好きになれそうも無い。
そんな風景を見ながら、俺のママが言う、今日から俺とママ、そして何故か家に帰れなかった御者の3人で3日の旅に出るのだと。
人生でまさかこんな怒涛の展開が待っているとは想像もしていなかったので、足がすくむ俺、どうしてこうなったのか……
あまりの寒さにウチのネコと、キツツキはずっと俺の服の中で俺に抱えられ、そのまま顔だけを襟の辺りから出して周りをキョロキョロと見まわす。
彼等もまた、こんな目に合うとは信じられないでいるのだ。
こうして俺達3人と一匹、そして一羽でママの故郷、バルザック家の本拠地、最果てのガーブウルズ目指すことになった。
しかもだ、馬車で快適な旅をするのではない。
信じられない事に犬ゾリで旅をする……
ママはもう手際よく手配を済ませていた。
だから港から降りた瞬間、俺達は待ち構えていた4台の犬ゾリに案内され、そっそくガーブウルズへの道を行くと、ママに告げられた。休憩はない!
さてそんな犬ゾリの操縦者は皆女性だった。
彼女達は手慣れた様子で、俺達をソリの荷台に案内した。
こうして人一人がやっと乗れるような荷台の上に客である俺達、そして荷物が収まり、そして俺達が座る荷台の後ろ、背もたれの向こうに操縦者の女性が立つ。
良く見ると鉄製の板、すなわち雪との接地面であるランナーと呼ばれるパーツが後ろまでしっかりと伸びていて、その上に彼女達が足を置いている。
これが基本的な犬ゾリの姿勢なのだろう。
俺達がしっかりと荷台の上に腰を落ち着けると、さっそくソリが動き出した。
「行け―!行け―!」
良く晴れた冬空の下。
4名の女性の声で、元気よく駆けて行く数十頭の大型犬。
雪の中、奴らは俺達を乗せては恐ろしい速さで疾走し始めた。
『…………』
冷たい風が容赦なく、吹きさらしの荷台の上を叩きつける。
これは想像以上の苦行じゃねぇか……
俺と喋る猫のポンテス。そして俺が飼ってる小さな悪魔、キツツキのペッカーは、俺の大きな外套に包まれて、この恐怖の乗り物と寒さに耐える。
手の感覚があっという間に無くなった。
急ぎ袖の中に指先を隠す俺。
猫と鳥は、外套の襟首からそれぞれ顔を寄せ合って、真剣な目で外を見た。
視点が低い犬ゾリ、おそらく体感速度と実際の速度には大きな乖離がある。
体感する速さと怖さは、馬車とは比較にならないほど恐ろしい。
その光景が、荷台の下は死の世界だと直感させる。
「ハーッハーッ、ハーッ!」
操縦者のお姉さんの声が響き渡る。
不意にその姿が険しくも美しい光景に見えた。
……雪で自分の目がおかしくなったんだな。
そうこうして、ある程度雪原を走ると、お姉さんが何を目印にしたのかは知らないが、甲高い声で犬に向かって命令を下した。
「イーブイーブ、イーブッ!」
操縦者の声で犬が左に曲がる、ああ来た来た恐怖の時間だ……
犬に引かれて左にソリが曲がると、遠心力が働いて右側にソリが向かっていく、その為乗っている人間の重心も曲がる方向の、左に傾けないと転覆しそうになるのだ。
曲がり始めるソリ、雪面と接する刃の様なランナーの左側がググっと浮かび上がる。
それを自分の重さで抑え込む。
こうして犬ゾリがキレイに曲がると後ろのお姉さんが「うまいうまい!坊ちゃん筋が良いねぇ!」と褒めた。
思わずニッコリ微笑んで頷く、慎み深い俺。
でもね……こんな乗る人にちっとも優しくない乗り物、俺は嫌いかな。
馬車が良い、やっぱり俺には馬車が……
俺とママ、そして馬車の御者だった男と荷物を載せて、4台の犬ゾリが雪原を疾走する。
目的地への到着は、明日の昼を予定していた。
◇◇◇◇
俺の名はゲラルド・ヴィープゲスケ。
つい半月ほど前まで貴族世界の中でぬくぬくと暮らして居た筈の9歳児だ。
自分でもどうしてこうなったのか分からないが、ある日実の母親に拉致されて、母親の実家に向かっている最中である。
帰りたい、都に俺は帰りたいです。
都には俺の可愛い彼女もいるんだ。
でも、今回は無理かもしれない。
犬ゾリでないとここからは進めないと言う所で、ウチのママさんは躊躇なく、馬車と馬を売却したんだ。
あれを見た瞬間、俺はもう自宅には帰れないと直感した。
なにせ帰るために必要な輸送手段が消えたのだ……もう無理だ。
ママの決意は、巌のように固い。
売却された馬車の代わりにやってきた金貨は、そんな彼女の意気込みの結晶だろう。
……そんな馬と馬車が王都よりも高く売れたと喜ぶママの横で、俺と御者さんは青ざめた顔で立ちすくんだ。
俺のママ、若くて綺麗な人だけど……たまになんかパワフルなんだよね。
……なんでかね?
ママは俺と御者に「あなた達、後ろばかりを向いてはなりません、道は目の前にあるのです!」と、実にありがたくも聞きたくない話をおっしゃる。
あの、僕は帰りたい……あ、無理っすかぁ、そうですよねぇ。分かってマース、分かってまぁす。
ちなみに御者さんは帰れ……ないっすよねぇ。なんでかなぁ?分かってマース分かってまぁーす。
彼はここから帰ろうとしても物理的に無理なのだ。
ママは御者さんに金貨を10枚ぐらい見せて「さぁ、ガーブウルズに行きます」と威厳タップリにおっしゃった。
着いたら払う式なんだ……給料。
御者さんだって、いきなり連れてこられて旅費なんか持っている訳ない、だから彼もまた俺と同じで、ママに従って付いていくしかない一人になったのである。
こうしてなぜ連れて来られたのか分からない、俺と御者さんを乗せて、犬ゾリは雪原を駆け抜ける。
……走る事2日、ソリが一回御者さんごと転倒して、彼の顔を血まみれにしたのを見た俺は、改めて犬ゾリに恐怖した!
そして必死にソリにしがみつく。
大体こういう感じで旅は進んだ。
◇◇◇◇
間もなく今日宿泊する集落の近くと言う所。
その途中の雪原で、緑色の肌をした人が倒れているのが見えた、それを見た瞬間、犬ゾリのスピードがグンと上がる。
「何かあったんですか?」
俺が背後で犬ゾリを操縦するお姉さんに尋ねる。
するとお姉さんは俺の頭上で注意ぶかく周りを見回しながら言った。
「ここら辺でゴブリンが出るようです!
先を急ぎましょう」
へ、ゴブリン?
あのファンタジーでおなじみの、あのゴブリンっすか?
俺は超見たい!と思って周りを見回す。
剣と魔法の世界に来て9年、そんなパワーワードに初めて出会って、俺のテンションは上がりまくる!
「あぁ、ゴブリン嫌いニャぁ……」
俺の胸元で服から顔だけを出したポンテスがぼやいた。
「なんで?まるで絵本の中みたいじゃん」
「ニャ?お前ゴブリン知らニャイのか……
アイツらは人間をさらって食ったり、女はさらって子供産ましたり散々ニャ。
だからみんなゴブリンを見ると、討伐の対象にするニャ」
「え?人を食うの」
「そうニャ、特に子供は柔らかいから狙われるニャ。
お前、気を付けたほうが良いニャ……」
マジかよ。こわっ、ゴブ共怖っ!
「さっきのはゴブリンの死体です。
殺されたか、さもなくば凍死したと思われますが確認はできません。
ゴブリンは仲間の死体を使って、人間や狼などをおびき寄せ、待ち伏せして攻撃することがあります。
お坊ちゃまも覚えておいてください」
そう言いながら俺の背後でランナーに足を乗せ、雪を蹴りだしながら、お姉さんはソリをどんどんと加速させる。
翼が生えたかのように雪原を疾走するソリ。
こうして、まだ日も落ちきらないうちに、5戸の家を囲んだ柵が印象的な集落に辿り着いた。
「着きました、早いですが今日はここまでです」
そう言うとお姉さん達は俺達を放っておいて、犬の世話に入る。
皆マッサージをしたり、犬の首とソリを結んだハーネスを外したり忙しい。
この地では、誰も俺が貴族の子であるからと言って特別扱いはしないのだった。
ママもその事には慣れているらしく、サッサと犬ゾリを降りて、俺と御者さんを促して、荷物を近くのログハウスに運ばせた。
こうして俺達は3人でログハウスに入った。
ママはそのまま慣れた手つきで火打石を、家の中にある、籠の中に積まれた鉋屑の傍で打ち鳴らし、次に火のついた鉋屑をストーブに入れて火を起こす。
実家では見る事がないその逞しい姿に、思わず呆然としていると、ママが俺を見て微笑みこう言った。
「ラリーも、今度から火をつけ、自分の事は自分でなさい。
ガーブウルズに居る限り、誰もあなたを特別扱いしません。
此処で特別扱いされたければ、騎士やソードマスターと言った、強い男にならなければならないのです。
此処では弱い男に与えられる名誉は、この鉋屑ほどもないのですからね……」
え、どこの修羅の国?
「お、お母様。僕はお父様の元に帰れないのですか?」
こんな不便で野蛮な所は嫌だ、できれば王都に帰りたい。
そう思って思い切って正直に尋ねた俺、所がママは俺に微笑むとこう言った。
「パパは私やあなたを裏切ったの。
もうあの人はあなたのパパじゃなくなったのよ……」
くら、くらくら……くら。
聞いた瞬間、思わず眩暈がしてフラフラとする俺。
「お、お坊ちゃま大丈夫ですか?」
御者さんがそう言って俺を抱きとめる。
ママさんはそんな俺を見ると不憫そうな目で見てこう言った。
「可哀想だけど分かってラリー。
あなたは恵まれた暮らししかしていなかったから分からないでしょうけど、もうあの暮らしはもうできないのよ。
だけど御安心なさい、ガーブウルズには私の兄で、お前の叔父さんのガルボルムが居ます。
彼はバルザック男爵家の当主であり、聖騎士流剣術の宗家当主であり、ラリーの師であるマスターボグマスの師でもあるお方なのです。
きっとあなたを一人前の男にしてくれます、励みなさいラリー……
此処で一人の男としてどう生きるのかを探るいい機会ですよ」
俺は黙ってママの顔を見上げる。
この時、なぜか吹き荒ぶ風が、ログハウスの板戸を盛んに揺らし、その様子がやけにはっきりと耳に届いた。
そしてストーブの明かりが、粗末なログハウスの中を照らす。
薄明りに浮かぶ、4組の簡単なベッド、そして机、剥き出しの土くれで覆われた床と言うか地面。
水が入っている幾つかの水がめに、屋外の軒先に吊るされた氷の牛乳。
牛乳は牛乳瓶に入っていると思っていた俺の固定概念を覆す、ガーブウルズの風景。
まぁこれだけじゃなく、ゴブ共が人を襲撃するとか、まぁいろいろですよ。とにかく信じられない物や現実がここにある。
そしてとどめの様に、あの不気味な風の音が、俺に絶望を加えた。
この日、明日夜が明けたら早速犬ぞりで走るとママが言うので、俺達は陽が落ちたら早速寝る事になる……
閉じた瞼の奥。嫌なものは嫌だと言って抵抗するべきだったかもと思って、後悔がその闇の中をよぎった。
だからかもしれないが、この日の夜、俺はなかなか眠れなかった。
ログハウスの中、闇の中にこれまでの人生を浮かび上がる。
ぬくぬくとしたベッド、口うるさいけど俺に良くしてくれたメイド長、結婚式がもうすぐ行われるはずだった姉のようなマリー。
そしてなんだかんだと俺を可愛がってくれた兄貴に、天使のような優しい姉貴。
そしていつも穏やかに俺の事を見守ってくれた父親、そして鬼のようなコブラツイストの……あれは記憶から消そう。
うん……いらんモノを思い出した。
そしてこの国の頂点に居る王様も我が家に良くしてくれたっけ。
パパさんがつらそうな顔をたまにしてたが、それでも華やかな暮らしに欠かせない話題を提供してくれた。
厳しくも優しい……いや、アイツに俺は殴られて鼻血まみれにされたっけ。
まぁ、でも嫌いではないボグマス。
そしていつも一緒に馬鹿やった俺の愛すべき親友達、殿下、イリアン、そしてシド。
イフリアネにクラリアーナ……そして可愛いルーシー。
皆に会いたい、もう皆に会う事は出来ないのだろうか?
振り返ると皆の顔がちらつき、俺は一人勝手に涙が溢れる。
だから俺はこっそりと布団を深く頭からかぶって、声を殺して泣いた。
自分が何か悪い事をしたのか?
どうしてこうなったのか?
それを思って泣いた。夜は更け、そして俺をいつの間にか眠りへと誘う。
俺はいつの間にか朝に連れていかれた。
次の日、誰よりも一番早く目覚めた俺は、そう思った。
そして今日も犬ぞりに乗ると覚悟する。
率先して犬ぞりに荷物を載せた俺は、遂に昼頃、目的のガーブウルズに辿り着いた。
……ガーブウルズ。
その街はこの田舎に突如現れた石造りの城塞である。
ガーブウルズは塩街道、小麦街道、炭街道の合流する場所に出来た街であり、過酷なこの地方で唯一都市らしい都市である、人口は約1万。
王国北部の要衝で、恐ろしいほどの辺境に位置しているが、町の規模としては王国でも10本の指に数えられるほど大きい。
……人はこの街を剣士達の聖地と呼ぶ。
「それでは奥様、私達はここまでです」
街を囲む壁の門に辿り着いた犬ゾリは、どうやらここまでらしく、俺とママさん、そして御者さんは門の前で降ろした。
賃金をもらい、この場から走り去る犬ゾリ。
ママはこの場所から目の前の城塞を見て呟いた。
「懐かしい、何も変わってない……」
ママは嬉しそうだった。嬉しそうにガーブウルズの城門を見上げた。
やがてそんなママに、近くにいた筋肉モリモリの門番のおじさんが、小走りに近付いてママに声を掛ける。
「もしかして……エウレリア様?」
「そういうあなた……ゴーシュ!
塩街道の勇者ゴッシュマじゃない!」
塩街道の勇者……どんな人?
そんな俺の疑問をよそに、筋肉モリモリのおっさんが、嬉しそうにママの手を取り、涙を流してママにこう言った。
「まさかお会いできるとは……あのもやし野郎と結婚して、もうここには帰ってこないと思ってました」
オ、オラのパパをもやし呼ばわりしたぁぁぁっ!
ウチのパパだよね?うちのパパさんの事でしょ!
俺は唖然としてこの門番のおじさんの顔をしげしげとみる。
王都で貴族を直接もやし呼ばわりする人間はいない。衝撃の出会いだ。
ママはその言葉を聞いて「あははははっ」と機嫌よく笑ってこう言った。
「私あの“もやし”と別れたの!
で、これが私の息子のゲラルドよ!」
紹介されてビクッとなった俺、塩街道の勇者様は、そんな俺に親しみの籠った笑みを差し向けた。
「よろしくな、俺は塩街道の勇者でゴーシュだ。
一応剣士免状は持ってる。
坊主剣は好きか?剣は良いぞ……」
「あ、はい聖騎士流を習っています」
「ほう、師匠は誰だ?」
「マスターボグマスです」
「なに?あの理屈屋で頭でっかちのアイツか!
じゃあお前もあれか?理を極めろって言うタイプかっ!」
「え、そう言うモンじゃないの?」
「違うなぁ小僧、そりゃあアイツは強い。
だからこそ、マスターなんだがな。
だけどさぁ、腕の置き場はこうで、何故なら相手はこうで……って、戦っている最中に考えられるか?
無理だろう?普通に考えて……
剣て言うのはもっと心と体に、何度も何度も繰り返してよぉ、徹底的に覚えさせてやりゃあ、馬鹿な俺でも十分戦えるっていうモノだなぁ」
ママが剣の話が始まった瞬間、言葉が止まらなくなり始めた塩街道の勇者様にパンパンと手を叩いて言った。
「はいはい、爺さんの話はもういいから。
ソレよりも兄に私が来たことを伝えて!」
「おお、そうだった。
……話は聞いてないんですか?」
「なんの話?」
「いや、まぁ……聞いてないなら良いんです。
お嬢、もういいんでここを通ってください」
そう言うと塩街道の勇者様は俺達一行を通してくれた。
取次はしてくれないの?
ママはそんな塩街道の勇者の様子に、特に何かを言うでもなく、慣れた様子で街の中へと足を踏み入れた。
あの、ママ。アイツ取次はしなくて……いいんですね、そうですかぁ、良く分からないけど分かりましたぁ。
異存は無いでーす、無いでぇーす……
やがて彼女はドンドンと街の中に入り、そして手に荷物を下げたまま、周りを嬉しそうに見まわすとこう俺に語り掛けた。
「セルティナよりも美しいわ……ラリーこの街音がしないでしょ。
なんでか分かる?」
「わからないです」
「雪がこんなに積もると音が雪に吸収されて、町がとっても静かになるの。
セルティナでは雪がここまで降らないからね……後で雪合戦しましょうか?
それともスケートが良い?
ガーブウルズは楽しい所なのよ、ママはここが大好きなの」
ママがそう言うので、俺は呪わしき雪国と言うイメージを少し改めた。
日差しを受けて、目が痛いほど白く輝く明るい街がそこに見える。
とにかく今日からここに住むしかないのだ。
そう覚悟した。
「ゴーシュとは仲良くすると良いわよ。
若い子は結構彼の世話になっているの。
ゴーシュはめんどくさい奴だけど剣が好きで、世話好きで……
彼は昔、困っている人を助けるために、一人で塩街道を借金帳消しの証文をもって踏破したの。
期限はわずか3日、それを過ぎるとその人の家族は売られてしまう、だから一人犬ゾリでね……昔の恩返しだったかな?たしかね。
その旅の途中、単独で道を行く彼を襲いに、ゴブリンとか盗賊とかが現れるんだけど彼はその全てと戦い、そして勝利した。
全身血まみれになっても戦い続け、そして犬をかばい続けた。
彼はついに塩街道を踏破し、目的地に着いたときに気絶したの。
それでついたあだ名が“塩街道の勇者”。
ああ見えて騎士だから所領を持っているけど、お前の叔父さんが心配だから、家を息子に譲って、ガーブウルズにいるのよ」
何というか、なかなかカッコいい伝説をお持ちだったんですね、あのおっさん……
「ラリー、この街にはそう言う人がゴロゴロいるから励みなさい。
あなたは私の父、アルローザン・バルザックの孫なのだから……
あなたならきっとそれが出来る、私はそう信じているから……」
ママはそう言って俺の頭に手を置いた。
俺はこの言葉の意味を名にも分からないままに、ただ静かに頭を下げる。
それがどれだけ重いものなのかを知るのは、これからだった。
こうしてゲラルドのガーブウルズでの生活が始まる。
だが彼らはこの時大事な事を何も知らなかった。
実は今。バルザック男爵、ガルボルム・バルザックが昏睡状態に陥っていた……
すみません、また仕事が忙しくなるので更新が延び延びになるかと思われます。
どうかブックマークをして通知を受けてくれればと思います。
誠に申し訳ございませんが、よろしくお願いいたします。




