唇
魔導大学の開校に伴う行事は、ヴィープゲスケ男爵家にとっては家族行事に近い。
父親であるグラニールが大学の責任者である、理事長の職についているからだ。
その為家族全員がこのパーティに参加している。
当然参加者の一人に、ゲラルドのすぐ上の姉であるエリアーナも含まれる。
彼女は、王や大公の演説が終わり、大人達がパーティ会場に戻ってきたころ、不意に誰かに呼び止められた。
「エリィ、エリィ……」
声がした方を見ると、柱の陰に幼馴染のファレン・アイルツが居た。
「フィン、久しぶり!」
「よう、抜け出さないか?」
「いきなり?」
「パーティが終わったら、馬車で帰るだろ?その時他の家族を撒いて一人で来いよ。
騎士街に行く途中の、マロル大橋のたもとで待ってる」
そう言うなりファレンは返事も聞かずに、この場から立ち去った。
エリアーナが断ることがないと言わんばかりの、その振る舞いに思わずエリーアも不満の声をか微かにこぼす。
「そんな、強引だよ……」
そしてその脇を、凄い勢いで猫を抱えた弟が走り去った。
彼の頭上には、キツツキが飛んでいる。
あれから時間が経ち。
化け物が第二王子によって倒され、王直々にこれが余興であると宣言されて収まったあの大騒動の後。
パーティを騒がした、あの化け物は作った張本人である、ベガ・アイネ・ウィーリアのヴィープゲスケ家が誇る天災……あ、いや天才姉妹によって片づけられた。
彼女達は「ほんとこの羽根邪魔ぁっ!」と、持ち運ぶ際に邪魔になった蝙蝠の翼に文句を言う。
「ベガ、あんたも胴体持ちなさいよ!」
「残念でした、私は頭を持っているので手を離せないんですぅ」
「むかつく、ほんとこの女むかつく!」
ベガの後ろで、揺れる翼と、重い胴体に苦しむ二人が悪態を放つ。
とにかく3人は互いにギャースギャースと罵り合いながら、研究棟にこの翼が生えた猫を運び込む。
彼女達は元在った壁に猫の胴体を接続し、次にストーブで煮込み続けていたマンドラコラの糊を、切り落とされた猫の首にベットリと塗ると、再び頭を胴体にくっつけた。
「どう、修理できそう?」
「うん、大丈夫でしょ。このまま明日の昼まで放置で……糊が乾いたらまた動くと思う」
「あ、ウィーリア見て。聖甲銀が魔法陣に掛かって此処で術式を止めてる!」
「え、マジで?
嫌だ……これだと夕飯にナンパする命令じゃん」
「奇跡的な命令になったんだね」
「元は何だっけ?」
「夕飯を食べたら、アイネの後にくっついて、新しい命令を待つ」
「それが夕飯と、女についていくだけになったのか……」
「狙ってもなかなか、こうはならないよね」
3人は互いにこう話し合い、此処で知り得た情報を父親であるグラニールに持って帰るべく、急ぎこの場を後にした。
早く調べて戻って来い!と、近年見た事がないほどすごい剣幕で厳命されたからだ。
「アイツホントうるさいよねぇ……」
「私結婚するなら逞しくて、寡黙で私の事だけ見てくれる人が良い!」
「はいはい、ぶりっ子ぶりっ子……」
「アンッ、ちっ!」
「ウィーリア舌打ちしない、早く行こう……」
3姉妹はそうブツブツと言いながらこの研究棟を後にして立ち去った。
そしてその様子を見ている一匹の鳥がここにいる、
彼は開きっぱなしの換気窓にとまり、この様子を見下ろしていた。
「げーげーげー、ぐぅわ(ああ眠いぜ、本来なら寝る時間だって言うのにこんチクショウ)」
そして溜息を吐きながら“あの女共、世界が滅びても逞しく生きてそうだぜ”と呟いた。
そして次に壁に貼り付けられた猫を見ながらニヤリと笑うペッカー。
彼は邪悪な笑みを一つ浮かべると、声を「ギャースギャース」と不気味にあげて笑い出すのだった。
◇◇◇◇
―同じ時刻、こっちはゲラルド達
「わぁ、すっごい!」
「ねぇ、あのネコ怖くなかったんですか?」
子供たちがワラワラと集まって、英雄を囲み質問攻めにします……殿下だけを。
「僕たちはこの日の為に訓練を積んでるから、全然大丈夫さ」
「僕もこの学校に入ったら、殿下のようになれますか?」
「もちろん!君も来ると良いよ」
「あの……僕は剣に触れた事が無いんです」
「僕もそうだよ、ラリーやイリアン、そしてシドも同じさ。
だけどみんなで修業したんだ、まだ2年しか僕らも剣は触ってないよ」
「すっごい!たった2年でそんなに剣が上手くなるんですね?」
「努力次第だよ、僕より強い人もたくさんいるよ!」
皆は殿下をキラキラした目で囲み、そしてちやほやしている。
そしてそんな子供たちをしっかりと見守る男がここいる。
誰だって?俺だよ……
「ラリー、羨ましいの?」
シドがそう声を掛けたので俺は黙って、しかめっ面を横に振った。
するとイリアンが「羨ましいんだろ?」と言って俺を小突く。
「別に、そこまで羨ましくはない……」
……ムッチャ羨ましいです。
そこで俺はふいに俺に目線を合わせてくれたボーイに、持っている盾を見せながら誇らしげに言ってみた。
「あ、俺も盾であの化け物を抑えた……」
彼は次の瞬間俺の目線を切りやがり、そして殿下を見ながら「凄いです殿下、尊敬します!」と、言った。
「…………」
思わせぶりに目線を合わせるな!
クッソぉ、やっぱり派手な功績を上げなければ駄目だ、地味なサポートに徹していた俺を誰も見ないやん!
ガキどもめ……皆俺を、まるで在って無いモノの様に扱いやがる。
俺の方が強いのに、俺の方が強いのに……
この空気の中で、このままだと俺は嫉妬マンに変身しそう……
俺は耐えきれなくなり、殿下の剣や自分の盾を持つと「俺ちょっとこれを用具室に戻してくる」と言ってここを離れた。
イリアンに“ついでにこれも”と言われ、イリアンとシドの剣も渡される。
あいつらずいぶんとちゃっかりしてるな……
俺は妙なところで彼らに感心する。
こうして、廊下を歩くことになった、嫉妬マンに変身寸前の俺。
今夜ひときわ華やかな場所となった、殿下の傍を離れた俺は、そこから逃げるように歩いている今の自分の姿に疑問を持ち、そして何より恥を感じていた。
(俺は何をやっているんだ?
別に殿下が悪いわけではない、なのにこんなにもむしゃくしゃして……)
下剋上に会ったような気分と言えば傲慢だろうか?
おそらく剣の腕だけは自分が一番と思っていたのだ、それなのに今日は……
ここまで考えて俺はようやく自分の気持ちに気付いた、俺は今、彼に負けた気がしているのだ。
(生まれ変わる前から数えて数十年以上生きてもこれか……全然成長してない)
俺は自分がカッコ悪い奴だと知った。
痛みに負けて、体を張らなかった俺が一番悪い……手が痛いとかそんなことを言っても、肝心の本番で何もしなければ、せっかくの訓練に何の価値もない。
たった一日の実践の為に364日の訓練はある。
……俺がやったのは逆だ、だから俺は名誉のない奴になったのだ。
結論から言おう、俺はやはり自分で強いと思っても、実際には役に立ってないに等しいのだから、弱い奴と何ら変わりはないのだ。
むしろ自己愛を肥大させてこじらせているのだから、何もしないやつよりも問題だと言える。
「修行の意味を考え直そう……」
俺がぼそりとそうつぶやくと、後ろで声が響いた。
「なんの意味?」
びっくりして振り向くと、今日エスコートするはずの……あ、いかん、ほったらかしてるやんけ!
「ルシェル!」
「ルシェルじゃないよ、私を放っておいて何やってるの?」
あっちゃぁ。お怒りですよこれ……
思わず俺は目をあちらこちらに向けながら、言い訳を模索し始める。
するとルーシーが「ラリー、こっちを見て、目をそらさないで……」と威厳たっぷりに言った。
怖いです、正直言って……
「ご、ゴメン。ちょっと戦ってきまして……」
「知ってる、でもこれはひどいよラリー」
「ごめん、本当にごめん!」
「ラリーだけじゃなく、4馬鹿はみんな揃ってバカだよね……なんで?理由は?」
俺はしどろもどろになり、理由にならない理由を述べる、なんでか分からないとか、反省しているとか、まぁそんな感じの奴だ。
ルーシーも呆れ果て「もういい」と言って打ち切った。
頭が残念な俺は剣を抱えてどうしたら良いか分からない。
するとルーシーは、そんな残念な俺に派手な溜息を一つ聞かせると、俺が運んでいる鉄の剣を無言で二つ持って言った。
「手伝ってあげるから、用具室に行こうか」
彼女はそのまま、俺を従え先にどんどんと歩く。
俺はそれについて行った。
◇◇◇◇
「……恥ずかしいけど、俺はこんな事を考えていたんだ」
用具室に辿り着き、鉄の剣を元の場所に収めた後。
俺はカッコ悪いけど正直にルーシーに、これまでの葛藤を語った。
すると彼女は「ラリーはアホだよ、初めて知った……」と言って、目をそらす。
正直堪える、言わなければよかった……
「ラリー……ラリーは十分強いよ。羨ましいもの私」
「そうなの?」
「うん、初めて会った時、こんなにヘタクソなんだから、コイツには絶対に負けるはずがないと思ってた。
だけど次の年にはいい勝負するようになって、今年はラリーの方が強くなって……
朝練ずっと続けていたでしょ?
根性あるな頑張ってるな、だから追い越されたんだ……って思った。
正直凄いよ、だってそんなに頑張ったのはリアお嬢様とラリーだけだもん。
だからマスターも言っていたよ『俺はアイツをソードマスターにする!』って」
「え、そうなの?」
「うん、ラリーには素質もあるし、頑張っているんだよ。
……私、そこまで剣を好きになれないもの」
俺は黙って暗い用具室の中の、埃っぽい匂いの中で、彼女の輪郭に目を向けていた。
彼女は暗闇の中で、俺の顔に目を向けると「だから自信をもって、ラリー……きっと次は活躍できるから」と、明るい声で言う。
その励ましの言葉に、思わず胸が熱くなった。
俺は「ありがとう、ルーシー」と言ってその手を取る。
彼女は闇の中で、戸惑っているようだった。
顔が良く見えない中、俺はその手を自分の唇に持って行くと、その手の甲に口づけした。
何故そうしたのかは分からない、手を取った時、昔見た映画か何かの光景が頭をよぎり、そうした気もする……
これが正しい作法なのかも知らない。ただその手に触れた時、その感触を唇で感じてみたかった。
そんな欲望を満たしたとき、初めて自分が何をしたのか考えられるようになる。
口づけをした瞬間、手首から漂う彼女の匂いに、なぜか恐れを感じた。
……何をしてしまったんだ、俺は?と。
だから手を放そうとした。すると今度は彼女に手を掴まれて「外に行こう!」と言われ手を引かれた。
暗い用具室から、青白くも暗く美しい光に満ちた外の世界に飛び出す俺とルーシー。
俺達はそのまま美しい星明りの下で手を繋ぎ、彼女に引かれるままにどこまでも歩いていく。
「ラリー、私あなたを好きになるなんて思ってもみなかった!」
不意に彼女が告白する。
それはここ数日俺が願ってやまなかった告白の答えでもある。
「俺も、でも今君が好きです!」
俺は嬉しさでいっぱいになり、急いでその言葉に応えた!
「あは、あははは」
「あは、あはははははっ!」
自分の人生に絶頂期があるとするならここではないだろうか?
そう思うほどの幸せが胸を満たす。
冬の空は高く星がちりばめられ、そしてその美しさがルーシーの美しさをより一層際立たせる。
いつまでもこうして居たかった。
こんなに好きなれる人は、もう自分の人生においてもういないのではないかと思った。
ずっとそばにいたい、この子とずっと……
俺よりも背の高い女の子、つり合いは取れないけど、俺はこの子が好きなんだ!
この手をずっとそのまま握っていたい……
どれくらい時間が経ったのか分からない、俺は面白おかしく、日常起きたいろんなことを彼女に話しながら、ずっと手を繋いでいた。
やがて大学の明かりも消え、暗がりが敷地に忍ぶ頃、誰かがルシェルの名前を呼んでいるのが聞こえた。
外は冷え、彼女をこれ以上此処に留めると、風邪をひくのではと、ようやく考える。
「時間だ……もう帰らないと」
「もっと居たいね、ラリー……」
名残惜しいけど、手を離した。
するとルーシーは俺に近付き、少し前屈みで俺に覆い被さるように顔を寄せた。
「上向いて……」
言われるままに上を向く、すると彼女にキスをされた。
ルシェルはそのまま足早にこの場を立ち去ると「またね」と言って、自分の名を呼ぶ誰かの元へと駆けて行った。
俺はその背中をずっと見つめている。
ポーっとなった俺は、どこをどう歩いたのかも分からない。
ルーシー可愛い、ムッチャかわいい。
頭の中はこれだけで埋め尽くされた。
もうね、死んでもいい。後悔はない……
彼女の唇の跡が、いつまでも熱を持つ。
まるで俺が乙女になった様です。
こうして俺は腑抜けになったまま、ママの馬車に辿り着いた。
馬車が見えたら、なぜかポンテスに会いたくなった。
そこでママの馬車の中に入っていった俺。
馬車の中では、椅子の下にポンテスが隠れていて、俺の顔を見ると安心したように喋りかけてきた。
「お帰りニャン!」
「ああ……」
「なんかトラブルがあった?皆の歓声がここまで聞こえたニャ」
「ああ……」
「何があったニャ?」
「ああ……」
『…………』
「お前、実は馬鹿ニャ」
「……ああ」
次の瞬間猫は溜息を吐くと、丸まって座席の上で寝始めた。
俺はそんな彼に聞いて欲しくて尋ねてみた。
「なぁ、ポンテス……」
「ニャ?」
「恋って……すごいな」
「お前どうした?
もうすぐ死ぬのか?」
「死んでもいい、でもルーシーの傍で死にたい……」
「ニャッ!」
猫はそのまま絶句し、俺から目背けると俺に背中を向け、そして小刻みに肩をプルプル震わせながら「面白いニャ、面白いニャ……」とブツブツ呟く。
怒る気にもなれなかったので放っておく俺。
やがて御者が凄い勢いでこの馬車に取り付き、扉を開ける。
誰か来たのかな?と思っていると緊迫感のある表情で足早にママが、こっちに向かって歩いてきた。
ママは何も言わずに俺とポンテスの方をチラッと見ると、そのまま馬車に乗り込む。
その後を、ペッカーも乗り込んだ。
ママが乗り込んだ後、御者は凄い勢いて御者台に乗り込み、急いで馬車を走らせた
その間、ママは黙って青白い顔で外を見つめるだけだ。
馬車の中に満たされる異様な緊迫感と沈黙。
俺はこの馬車に乗って家に帰るつもりではなかったので、降りると言わなければいけないのだが、なぜかそれを言えない雰囲気を感じ取る。
そこで俺は何かを知ってそうなペッカーに、小声で尋ねた。
「何があった?」
すると奴は充血した目で俺を見るとこう言った。
「げぇ、ぐぅぐぅぅわっし!(まずい事になった、パパさんがまたやった!)」
「なにを?」
俺がそう尋ねても、ペッカーは何も答えず、そして誰も何も言わなかった。
不気味な沈黙が閉じ込められたこの馬車。
俺はここで初めて浮かれている場合じゃないと、思う事が出来た。
とりあえずママの顔を見る。
……彼女は涙を一滴頬に流し、そして悔しそうに外を見つめ、何も言わなかった。
やがて御者が御者台からおずおずと声を掛けた。
「あの……奥様、どちらへ?」
するとママさんは威厳のある声で言った。
「北へ行きなさい」
「北と言われても」
「ガーブウルズへ行きなさい……」
「そんな、ガーブウルズはここから半月……」
「行けっ!」
ママの絶叫が響き渡り、御者が慌てて鞭を鳴らして馬を駆けさせる。
生まれて初めて聞く……あ、いや昔この国の言葉とは思えない凄い言葉でクソメイドのミランダを罵倒したのは聞いたことはあるが。
とにかく人生で二度目に聞いた、ママの叫びに、俺とポンテス、そしてペッカーは目を下に向けて畏まる。
とにかく迫力を全身に漲らせるママさん。
俺はネコやキツツキと目を合わせ、どうしたら良いのかを考える。
……どうにもならないと知った。
ママは一言「私にも誇りがある……」と呟き、そしてそのままずっと黙って外を見る。
こうして俺は、何を間違えたのか、そしてどうしてこういう成り行きなのかも分からないまま、ガーブウルズへと向かう事になった。
あの時、気まぐれで猫に会いたくならなければ、恋の話を聞いてもらおうとしなければ。
……すべては後の祭りなのである。
こうして俺の8歳は終わり、9歳になる。
《2章―終わり》
――おまけ
化け物を王子が退治した後、パーティはお開きになった。
それを待ち詫びたかのように、エリアーナは急ぎ自分の兄が自宅から乗ってきた馬車に乗り込む。
と言うのも兄のシリウスが「お祖父様から借りた馬車に弟と、ルシェルを乗せて帰るから、お前はこれに乗って良い」と言っていたからだ。
ちなみにルシェルは、まったく別の大公家の伯爵の馬車で帰ることになっていた。
アホの末っ子が彼女を放っておいて、王子と騎士道ごっこにうつつを抜かしているので、これはダメだと思われていたからだ。
まぁそれは余談なので良い。
とにかくエリアーナは急いだ、愛するファレンの元へ……
マロル大橋は、石造りの大きな橋だ。
この時間だと歩く人もまばらだが、その欄干にもたれるように精悍な印象の一人の若者が立っているのが遠くからでも見えた。
エリアーナはそれを見ると、居てもたってもいられなくなり、馬車が完全に止まるのを待てずに飛び出す。
「待った?」
「うん?別に……」
「フィン、久しぶりだね……」
「ああ、実はあまり時間はないんだ。
ただ先月お前の誕生日だったろ?
渡しそびれたから……」
そう言って、彼は螺鈿細工の見事なカメオを取り出し、それをエリアーナに渡した。
「たぶん似合うから、次逢う時にソレを着けて来い。
じゃあな……」
「ま、待ってよ」
「あん?」
「もう少し、お話しして……」
「……しょうがねぇな」
時間がないと言い、めんどくさそうな顔を浮かべ、それなのにファレンはここ最近自分が何をしてきたのかを喋った。
「別にどうってことは無いけどよ。
この前どうしようもないチンピラみたいな盗賊が居たんで、討伐してきた。
5人位は斬ったかな?」
「凄い、お手柄だね!」
「別に、たいしたことない奴だったからさ。
偉くもなんともねぇよ……」
あえてそんな事を言う奴は、実は褒めて欲しい人である。
少なくともファレンはそう言う人であると知っている、エリアーナは「でも、頼もしいよね……ファレンは」と言って彼の自尊心をくすぐった。
彼はフッと、斜に構えた笑みを浮かべると「ありがとよ……」と言った。
そのあともいくつかとりとめのない話をしたが、やがて彼の雰囲気が変わり、エリアーナの目をまっすぐ見てこう言いだした。
「エリィ……俺は来年騎士になる。
今回だけじゃなくて色々手柄を立てているからな」
「そうなんだ」
「来年、お前を迎えに行く……
男爵が何を言ってもだ!
お前……覚悟しろよ」
エリアーナはファレンのそんな強い言葉に思わず黙り、次の瞬間微笑みながら頷き「待ってる……」と答えた。
その言葉を聞き、ファレンは目に力を籠めるとエリアーナの肩を掴んで言った。
「今日、お前このまま帰るつもりじゃないよな?」
「え?」
「何時も上手く行かねぇけど……今日は邪魔はねぇ」
「でも、忙しいんじゃ……」
「エリィ……俺は、お喋りな女は嫌いだ」
『…………』
フィランはそう言って静かに慣れた様子で、エリアーナの唇に自分の唇を寄せる。
観念したように目を閉じるエリアーナ。
「バフン、バフ、フニャン……」
自分の足元で変な声が響いたので、声の方を見るフィランとエリアーナ。
そこに居たのは……自分たちを見上げる、虹色に光る眼を持った、翼の生えた猫だった。
「…………」
思わず黙って猫を見る二人。
フィランはとっさにエリアーナをかばい、次に腰の剣を抜刀し叫んだ!
「化け物!エリィに触れるんじゃねぇぞ!」
すると猫はフィランの顔を見るとニンマリ気味の悪い笑みを浮かべる。
次の瞬間、ピタ、ピタ……とねっとりした液体を流しながら、フィランを睨んで「エヘ、エヘヘヘへ……」と呪いの籠った声で笑いだした。
次の瞬間。
化け物はポトリ……とその首を落とした。
『…………』
何もせずに一人勝手に首が落ちた化け物。首はコロコロと、粘性の液体にくるまりながらゆっくりと回り、そしてフィランの足元に辿り着くと、気味の悪い笑みと声でこう言った。
「男は嫌いニャン……」
エリアーナは怖さのあまりフィランの腰に強く抱き着いた。
その次の瞬間、フィランがばたりと倒れ、それに合わせてエリアーナも倒れた。
まるでラグビーのタックルが決まったかのように、逞しいはずのファレンを倒してしまったエリアーナ。
なんでかな?どうしてかなぁ……と思ってエリアーナがフィランの顔を見ると。
そこには白目であぶくを吹きながら気絶しているファレンの顔が……。
「うそでしょ……ウソでしょ!
なんでそこで気絶するのっ!
あともう少しだったじゃない!
なんで、幽霊がだめだなんて、私知らないよっ!
起きてよ……ねぇ起きてよっ!
馬鹿ぁぁぁぁぁぁっ!」
フィラン・アイルツ、気絶によりリタイア。
是にて第二章終了です、読んでいただきありがとうございます。そんな皆様に感謝です!
さて皆様の感想、評価、ブックマークは自分の励みです。
たくさんの方に見ていただいていることが、モチベーションになっております。
この時点での感想評価等がありましたらよろしくお願いいたします。
特に感想は皆さま好きに書いてもよろしいのですよ?
遠慮はいらないんですよ?
第三章も引き続きよろしくお願い致します。




