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俺の騎士道!  作者: 多摩川
少年剣士誕生編
47/147

幕間ーそれぞれの岐路

「はぁ、はぁ……やった」


フィラン王子は幼いころから英雄物語を愛し、自分がそんな物語の主人公になることに憧れる、そんな内向的な少年だった。

そして今自分の目前には、蝙蝠のような翼を生やした化け物の、屍が転がっている。

今でも心臓がバクバクと鳴り、そして今になって指先がブルブルと震えだした。

何も考えられず、ただ興奮だけが全身を駆け巡り、そして自分でも気が付かなかった自分の実力を実感させる。

そして、化け物の首を刎ねた時の感触がまざまざと甦る。

そして彼は思った(僕はここまで強くなったのか)と……




フィラン王子は外と関わることが嫌いな子だった。

新しい人や出来事に触れると、そこから逃げて本の世界に没頭したくなる。

怒りっぽい子に会うと足がすくみ、恐怖から関わりたくなくなる。

そんな子供だったのだ。

それが変わったのはゲラルドと名乗った男の子との出会いだった。


ゲラルドは会ったその日から、フィラン王子からラリーと呼ばれるようになる。

血の繋がりこそないが、王家にとって間違いなく身内と呼べる数少ない人間、グラニール・ヴィープゲスケ男爵。

その息子であるラリーは、世にも珍しい喋る猫を飼っていると言う。だから興味が湧いた。

本が好きで、趣味が合えば友達になれるかもしれない。

そこで会ってみた、ところが彼はこれまでの友人であるイリアンやイリアシドとは全く違う子だったのだ。

彼は直ぐにカッとなって喧嘩はする。

それでいて自分達に対しては優しく、そして頼もしくて面白い、本も好きだった。

喋る猫はそんな彼の弟分なのか兄貴分なのか良く分からない奴だ。


この一人と一匹は、会った瞬間からめちゃくちゃだった。

出会ったその日にロープで脱走、初めて外に子供だけで遊びに行くきっかけを作った猫と少年。

何故かラリーと一緒なら大丈夫な気がしたのでこの誘いに乗った。

だが兄と会った後、皆で羊に襲われ、命からがら逃げる羽目に。

こんなにドキドキしたことは無い、生まれて初めて興奮した。

あんな小さな羊に右往左往する大人達。滑稽だった。


そして忘れてはならないのが、その日初めて恋をした事である。

初めて会った時から、イフリアネと名乗る女の子に夢中になる。

一目ぼれだ、初めて会ったダレムの山荘、目の奥に火花が飛ぶような衝撃を受けた。

あれから3年、彼女と剣友になれ同じボグマス門下生として親交を深める。

だけれども今一歩踏み出せない。


そんな時、ゲラルドがルシェルと言う、これまたイフリアネの親友である女の子に告白をしたと言うのでびっくりする。

そんな気配は何処にもなかったからだ。

ルシェルは確かに可愛いが、背が高く女性らしさを感じさせない子なので、これまで意識して見た事はフィラン王子にはない。

だから(まさか?)とも思ったが、本人はいたって真面目に、ルシェルに夢中になった。

王子はこの時、大いに安堵すると同時に、ラリーとイフリアネとの関係を疑い続けていた自分を恥じたのである。

実はイフリアネと一番仲が良かった男の子はほかならぬこのラリーだった。

二人は常にボグマスの朝練に参加し、めきめきと剣術学校内で頭角を現す。

半ば女の子目当てで学校に通っていたフィラン王子は、二人の様子にやきもきもしたが、さりとて狙ったかのように朝の練習に参加すると言うのが恥ずかしく。“朝が起きられない”と言う言い訳を用意して朝練を避けてしまった。

それがイフリアネとの接点が減る要因になっていると、知りながらだ。

朝練に混ぜてもらう事が、何故嫌だったのか?と言う理由は自分でも分からない……


そんな日々を送っていた彼の心境が変わったのは、自分が剣術の大会でベスト8に進んだ時である。

自分でも驚いた、まさかこんなに自分が出来るとは思わなかったからだ。

しかも幼い頃本ばかり読んでいた自分を、理不尽な理由で叩く怖い父親が、見た事が無いほど喜んで自分を褒める。

……嬉しかった。ようやく父から認められたのだと知った。


多分だからだろう、改めてラリーに誘われた時初めて朝の練習に参加した。

朝からの練習はハードだったが、冷たくも爽やかな朝の気配に包まれ爽快な気分になれた。

食わず嫌いなだけで、朝練は嫌いじゃないと知った。

そしてあのイフリアネとも接点が生まれ、急速に仲良くなる。

そして例のイフリアネを誘って今日のパーティのエスコートをする事になった。

嬉しかった。了承してもらった時、夢じゃないかと思えた。

そして訪れたエスコートの日、イフリアネの家を訪れたフィラン王子は驚いた。

イフリアネの正体は、なんと大公家の一人娘だったのだ。

だけど逆に考えてみた、彼女は自分と釣り合う家の娘だ、と。

身分制度がある国の話である。

身分が違いすぎて恋が成就しないなんて決して珍しくない。

だが彼女は身分的には何ら不都合がない家の子である。

王家の次に権威のある家はこのシルト大公家に他ならないからだ。

だからこの子を好きになってもいいんだと、フィラン王子は思った。

これはある種の自信を彼に授ける。


エスコート中、探るようにプライベートな話をする王子。

普段は話したこともない内容で盛り上がる。

そしてイフリアネと学校の敷地を二人で散歩しながら、王子はついに一番聞きたかったことを尋ねた。


「イフリアネ、好きな人はいる?」

「え?居ないよ。

でも気になる人はいるかな……」

「僕の知っている人?」


ゲラルドの顔を想像しながら尋ねる王子。

イフリアネはそんな王子の嫉妬した様子を見ると、自信に満ち溢れた顔で「違うよ、大公領に居る人……」と答える。

その言葉に、心が痛む王子。

彼は慌てた様子で。「どんな人?」と尋ねた。


「とっても強い人、でももっと強くなると思う。

私、強くてお話が面白い人が好きなんだ。

顔とか、身分とかはどうでも良い……」


その言葉にフィラン王子の心臓は止まる。

顔や身分は、自分が褒められる要素である。

実際母親からは特にそこを褒められた。

すなわち彼女は自分を否定したのだと思ったのだ。

みるみると顔から血の気が引いていく王子、そんな王子の様子を見てイフリアネは慌てたように言った。


「でもフィランは話が面白いよね、変な見方するから私は好きだよ。

他の人じゃ、こうはならないって感じる」

「あ、うん……」


これでは褒められたのか何なのか分からない。

そんな時だった、目の前の小道を、ラリーとルシェルが手を繋いで歩いていた。

二人とも楽し気に微笑み、二人だけの世界を作ってゆっくり、そして互いに労わるように歩いている。

ラリーも背の高い方だが、ルシェルはそれに輪をかけて背の高い女の子だ。

背の高い女の子を、小さな男の子が守るように歩いている。

それを見て王子は(ああ、ラリーは本気でルシェルが好きなんだ……)と、思った。

彼との友情は壊れなくてすんだ、そう思っていた王子に、イフリアネが表情を変えて言った。


「不潔よ、あの二人は信じられないっ!」

「えっ!」


その言葉に驚くフィラン。

イフリアネは目を吊り上げ、これまで見せた事が無い表情で言った。


「はしたない!あの二人は私を裏切ったっ。

おかしいでしょ……おかしいよね?

貴族の家に生まれながら、こんなの許されるはずがないっ!」


イフリアネの豹変に驚くフィラン王子。

思わず「そうだよね……」と呟いた。

イフリアネはそれを聞き「そうでしょ?」と同意を求める。


「フィランもラリーに言って、こんなのおかしいから!

絶対に間違ってるっ」


フィラン王子は「ああ……」と言いながら、何よりイフリアネの心が分からないと感じていた。

フィラン王子はとにかく激昂したイフリアネを、すぐにラリーたちに会わせるのはまずいと思った。

そこでイフリアネに「落ち着けるまで少し散歩しよう」と言った。


「なんで?」

「きっと今行ったら怒っちゃう、友達を失う……」


フィラン王子がそう言うとイフリアネは少し考え「散歩しよう」と、言った。

だからラリー達に再会したのは少し頭が冷えてからになった。

彼はラリーの気持ちを聞き、自分と友達でいられるかどうかを確かめた。

……ラリーの好きな人は。やはりルシェルであってイフリアネではなかった。

彼は信頼を損なってはいなかった。

だけども心のモヤモヤは晴れない。

自分でもうまく説明できない、霧に包まれた答え、そしてその感情。

何らかの……別の答えを探す彼は、そこでふと思った。


(ラリーより強くなったらどうだろう?)


いつも自分よりラリーが強いのは当たり前だと思っていたが、それが自分を焦らせる原因になっているのではないか?

何故ならイフリアネが好きなのは、強くて話が面白い人だ。

自分がその対象ではないのは分かっている、だけど強くなったらどうだろうか?

せめてそれをアピールしてみたら?




……そして、その機会はすぐに訪れた。

仲間を従えて初めて行った化け物討伐、大人達を手玉に取った化け猫を倒したのは、ほかならぬ自分の剣である。

彼はこの時、初めて自分に眠る才能の存在を確信できた。

自分は……剣が下手なのではない。やればできるのだと。


「はぁ、はぁ……」


荒げる自分の息遣(づか)いだけが響いた、周りの雑音が耳に入らない。

目線の先に捉え続ける、血も流れない木製の様な怪物の(しかばね)


「フィラン!」


突然、自分の肩を抱くものが現れ、我を失っていた彼に正気を取り戻させた。

肩を抱いたのは、父のホリアン2世だった。


「フィラン、よくやった。

もうこんな事はするでないぞ」


その言葉に対し、フィラン王子は首を横に振った。


「お父様、お言葉ですがそれはできません」

「なに?」

「お父様、僕にはもしかしたら剣の天分があるかもしれません。

どうか……どうか剣を取り上げないでください」


それを聞いたホリアン2世は目を大きく見開き、そして次に涙を目からこぼしながらフィラン王子を強く抱きしめた。


「自信をつけおって……

おまえは紛れもなく、私の息子だ!

グス……ハァ」


そして傍で控えるラリー、イリアン、イリアシドと言った王子の友人たちに、王は言った。


「お前達、よくやった。

これからもフィランを支えてやってくれ」

『ははっ』


3人はそう言って王に礼を払ったのだった。

この日からフィラン王子はますます剣にのめり込み、そして自分を変えていくことになる。

彼はラリーより強い男になろうと、決めていた。


◇◇◇◇


話は変わり、それからしばらくして……

パパさんことグラニール・ヴィープゲスケは、王に呼ばれて、大学内の応接室へと足を踏み入れた。


「まぁ座れ、グラニール」

「はい……」


一旦お開きになった会場、まだ幾人かの客は残っているが、皆それぞれ臨んだタイミングで帰宅し始める。

帰れないのは……揉め事の当事者となったパパさんである。

彼は葬式のような沈鬱(ちんうつ)な表情で、王の前に進み出る。

王は特に機嫌が悪いという様子はない。

彼はいつものような強面(こわおもて)で、パパさんに尋ねた。


「私は怒っているわけではないのだ、グラニール。説明をせよ」

「はい、今回のあの化け物は。

お聞きだとは思いますが私の娘が作った、研究材料と聞いてます。

……まことに申し訳ございません。

お叱りはごもっともです、どんな罰でもお与えください……」

「グラニール、私は怒っているわけではない。聞いてなかったのか?お前……」

「申し訳ございません!」

「申し訳ないのではない。

どうしてこうなったのか聞いているんだ!」


いよいよ機嫌が悪くなり始めるホリアン2世の剣幕に、心が折れそうなパパさんは、汗をたらたらと流しながら説明をする。


「娘達の管理が甘かったのが原因です。

何らかのはずみで魔法陣に聖甲銀が落ち、その箇所だけ魔法陣が機能しなくなり、休眠状態からあのネコが目覚めてしまいました。

申し訳ございません!」


ホリアン2世はそれを聞くと、剣呑(けんのん)な雰囲気を一瞬和(やわ)らげ、次に「あっはっはっはっ!」と笑い出した。


「グラニール、お前はアホだなぁ。

まぁいい、少し話をしようか……

猫の事はどうでもよいのだ、本当はな。

さてと、何から話そうか……

そうだな……お前の子供たちは皆個性的だ。

シリウスは仕事熱心だし、末っ子はフィランの性格を変えた。

……ふ、ふふ。まぁヤンチャではあるがな。

3つ子は魔導士としては天才だな、人格的にはまぁ……個性的ではある」

「申し訳ございません」

「いやいい、お互いに年を取った。

まさか子供たちの話をするようになるとは思わなかった。

昔は私も悪かったが、今日は嬉しかったのだ。

フィランがあんなにやる気に満ちた顔で“剣を取り上げないでくれ”と言い出すとは。

……正直安心した、奴は弱い所がある。

このまま大きくなったらどうなるのかと思っていたが、そんなことは無かったようだ。

お前の学校に入れてよかった、感謝する」

「い、いえそんな、恐れ多い事です!」

「しかしそれにしてもトラブルが多い。

まぁ初めての試みが続いているのだ、そういうモノなのだろうな……

実は話がある、グラニール」

「はい」

「今お前には学芸院の仕事をしてもらっている。

当初の思惑とは違い、予算の(ほとん)どはこの魔導大学と、海洋大学につぎ込まれているが、まぁいいだろう。

特に海洋大学は新しい商港と軍港の二つともが出来る。

大公領に出来るのは少し残念な気もするが、あれだけの投資を大公にしてもらえるなら(いな)は言えぬ。

まぁ、お前はよくやっている」


パパさんは()められると思っていなかったので、喜んで「はい!お褒めにあずかって嬉しいですっ」と答える。

王も“ウン、ウン!”と頷き、グラニールの喜びを共有した。


「で、だ。そこで昇進させようと思ってな」

「昇進ですか!」


まさか男爵位を息子に譲った後、昇進するとは思わなかったパパさんは驚く。

ついついニマニマとした笑みを浮かべたパパさんに、王は慈愛に満ちた笑みを浮かべこう言った。


「そこでお前を侍従にし、来年あたり侍従長にしよう!

どうも王宮内にお前の姿がないと、これはイカンのではないかと思ってな!」


……侍従長?とパパは思った。

侍従とは、王の個人的な召使に極めて近い。

儀式やら、私生活のお世話やら、王家に為に色々な事をする係である。

侍従長はそんな侍従のボスである。


近衛の魔導団の団長時代のパパさんは、すぐに呼び出され様々な厄介ごとを王様に押し付けられた。

溜まった仕事がさらに溜まるように、何時間も王の愚痴に付き合う羽目にもなった。

それが今度は侍従長……

日常生活を常に共にする……侍従長。

すなわち王に振り回される時間が、エブリデイ・エブリタイム・エブリ(いや)ぁ……


このときパパさんはわずか2秒ほどの時間に色々な事を考えた。

ふざけんななんのためにシリウスに男爵を譲ったと思っているんだ!やっと念願叶って国家の仕事につけたのに何で王家の仕事をやらないといけない?今の侍従長は?クワーリアンはどうなった?おいおい侍従は若い貴族の仕事だろうが!いまさら爺が出張ってもどうしようもないだろう?何がいったいこいつは不満……愚痴る相手が居ないのか?俺も居ないわっ、我慢しろっ!ああ、いかん。このまま口と悪知恵が働くコイツに俺の人生を振り回されてたまるか!考えろ、考えるんだグラニール。断る口実を考えるんだ、どうすればいい、どうすれば……


「陛下、申し訳ございません。

今回の件はまだ時期尚早かと思われます」


パパさんの残念そうで、悲しげな表情と声を上げる。

その声に王は「何故だ?」尋ねた。


「現在学芸院に勤める者は、正直他の役所で厄介者だった人間ばかりです。

……ご存じだとは思いますが。今回海洋大学を大公領に作ることになったのは、私の部下の手違いから、王太子殿下が大公に持ち掛けてくれたのが原因です。

それは凄く結果良かったのですが……

まぁ、一事が万事この有様で学芸院はうまく機能しているとは言い難いです。

働く者がスキルアップし、王の耳にもその仕事ぶりが届くようでないと……

この状況で私が抜けてしまうと、せっかく根付いた国と学校の関係はおそらく崩れてしまうと思います。

特に海洋大学は大公様の肝いりで、これから開校、そして継続的な援助が必要です。

それができる人間は学芸院で、おそらく私しかいないと思われます」

「抜けられないと申すのか?」

「申し訳ございません、今の仕事を放り出せば、私は無責任だと、関係者に笑われてしまいましょう。

学校を支援する国の為にもならないと思います」

パパさんのその話を聞いた王様は「残念だ、年金も倍額に増やしてやろうと思ったのに……」と答えた。

「お話を頂きながら申し訳ございません」


パパさんはそう言って王に頭を下げた。


◇◇◇◇


「はぁ、何とか切り抜けた……」


王はその後王宮に帰り、やっと全てから解放されたパパさんは、理事長室で一息付けた。


「ああ、色々な事が起きた。

馬鹿な娘に馬鹿な息子、そして猫……私はなんて不幸なのか」


トラブルメーカーの3つ子姉妹に、王子と組んで揉め事を起こす末っ子、そして翼が生えた猫……まぁあれは偽物だが、それでも今の彼を追い込む理由としては十分だった。

そして今になって背中がズキズキと痛み出す。

偽ポンテス4号に体当たりした時、したたかに打ち付けた箇所だ。


「ああ、今になって熱が出てきた……」


ついでに風邪もひいたのだろう、頭が熱を帯びてボーっとしてくる。

コンコン


「失礼します理事長……どうしましたかっ!」


扉を叩き、入ってきたエリコがパパさんの顔を見てびっくりした。


「どうしましょう。男爵様、お顔が真っ赤です!」

「ああ、大事ない。たぶん一息ついたら風邪を引いたんだ」

「大事無い事は無いです、すぐにソファーに横になってください。

風邪薬と水をお持ちしますから」


そう言ってこの部屋を飛び出たエリコ。

パパさんはいよいよ眩暈(めまい)がしてきたので、これは休んだほうが良いと判断。

エリコにすすめられた通りソファーに横になることにした。


「男爵様、薬と水をお持ちしました」


しばらくして戻ってきたエリコが、そう言ってパパさんの頭の傍に跪く。

そして体を起こそうとするパパさんの頭を支えようと手を後頭部に差し出した。


「大丈夫だよ、エリコ……」

「いいえ、無理をなさらず。

私に甘えて下さい……」


パパさんはそう言われた瞬間、心が甘く高鳴った。

そして潤んだ目で、自分の枕もとで顔を寄せたエリコの眼差(まなざ)しに視線をかぶせた。

……不意に彼女の唇がおいしそうに見えた。

だから思わず唇を彼女に寄せる、少しでも抵抗されたら止めようとは思っていたのだ。

……抵抗されなかった。

そしてそのまま口づけを交わした……


ぼす……っとこの瞬間、入り口から音がした。

人の気配に驚いたパパさんは、急ぎ身を起こしてそちらを見ると、妻のエウレリアが目を見開き、こちらを見ていた。


『…………』


やがてエウレリアはこの場を走って飛び出した、パパさんはそれを黙って見過ごした。


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