今夜もトゥナイト!
「げぇっ!げぇ、ぐわぁぁぁぁ(急げ、あの女共が帰って来るぞ!)」
明かりが乏しくなった大学の中、緑色に光るペッカーが俺を先導して、本館とは別の研究棟へと俺を誘う。
「姉貴達は、今居ないのか?」
「げぇげー、ぐわぁぐうわ(王様の話を聞きに行ってる、王様の話が終わったら帰って来るぞ!)」
つまり今がチャンスと言う事か……
それを聞いた俺はペッカーを追いかけて駆け出し、瞬く間に研究棟へとたどり着いた。
勢いよくドアノブに手を掛ける、しかしドアノブは動かない……ロックされてる。
「開かない……ペッカー中に入れるか?」
「げぇ、げぇぷしぃ(無理だから、お前を呼んで来たんだ……)」
なるほど……そういう事か。
俺は何か中に入る手がかりはないかと考え、少し研究棟を見て回る事にした。
研究棟は2階建ての建物で、無機質な佇まいをしている独立した建物で、新築だった。
俺はそんな研究棟の壁を、入り口から順繰りに見て回る。
しかし、他の建物からこぼれる光が届かない箇所があり、そこの部分は夜の闇に紛れてよく見えない。
そこで俺はペッカーに声を掛けた。
「ペッカーもっと明るく輝けるか?」
「げぇげ(なんでだ?)」
「入れそうな場所を探したいけど、こうも暗くちゃ見えないんだ」
ペッカーはそれを聞くと、纏う緑色の光をさらに強め、これまでと比較して相当明るく研究棟の壁を照らす。
俺はそんな輝くペッカーを連れ、この建物を一周する。
特にそれらしいものは見えず、そこで屋根を見上げると煙突が見える。
一瞬アレを使おうかと思ったが、いまだに煙が出ている。
きっと何かがまだ燃えているのだろう。
アレは使えない、入ったら俺は熱でこんがり焼けてしまう。
……そこで閃いた、アレは暖炉の煙突ではないか?
今姉貴は居ないんだろ?
だとしたらあれは調理の為の煙突ではなく、部屋を暖めるもののはずだ。
そうじゃないと誰もいないのに燃えている意味がない。
「ペッカー、外から見てどこかに暖炉が燃えている部屋があるはずだ。
ガラス越しに見てそれらしい部屋を見つけてくれ」
ペッカーはそれを聞くとこの研究棟を、空を飛んで、ぐるり回った。
彼はそのうち一つのガラス窓の中を覗き込み、そしてしばらくその中をしげしげと見た後こちらに飛んでくる。
彼は戻ってくると「げぇ、げげぐうわぐぁ(暖炉かどうかは知らないけど、薪ストーブみたいなものが燃えていた)」と俺に告げる。
「よし、それは何処の窓だ?」
ペッカーは“コッチに来い”と身振りで伝えて、2階の少し大きめの窓ガラスに辿り着いた。
俺はこの窓ガラスとその周りを見ていく、すると上部に横長の、少し武骨な印象のガラスが見えた。
「ペッカーあそこの横長のガラス。
アレはたぶん換気用の窓ガラスだと思う」
「げぇ(それで?)」
「あれはたぶんお父様の知り合いの業者が納品した物で、ウチにあるのとたぶん一緒なんだ。
ほら、あのパパの書斎の上についている換気用の窓、あれと一緒だと思う。
だけどあれ、外から引くと簡単に手前に開くんだ。
あそこからなら入れると思う!」
パパは技術で選ばず、昔の縁がある人に優先して、発注するから困った業者も、引き続き使う悪い癖がある。
なのできっと、あの窓もそのはずだ!
俺はペッカーの光で照らされた壁の様子から、足や手を掛けられる場所を探して、ボルダリングの腕を披露……
あれ、ペッカーが俺の襟をつかんで空高く持ち上げて……あ、苦労せずに換気用の窓まで行けたやん。
……コイツ結構便利だわ。
俺はそのまま力づくで換気用の窓を、ゆっくり手前に引き倒し、その結果出来上がった隙間に頭を突っ込んで中に侵入する。
頭から落ちそうになったが、そばのカーテンを掴み、それにぶら下がりながら侵入に成功した。
床に降りた俺は、部屋の中を見回す。
「……なんだこれは?」
そこは怪しげな場所だった。
禍々(まがまが)しく紫色に文字を輝かせる、見た事のない文字で埋め尽くされた魔法陣。
剥製の蝙蝠、竜の頭……
まるで昔見た映画の魔女の部屋の様な佇まい。
そしてペッカーが見たと言う薪ストーブの上には、緑色の邪悪な色合いのスープがコトコトと煮込まれている……
わりとおいしそうな匂いがそのスープが入った鍋から漂った。
その匂いに思わず(そう言えば夕飯はまだ食べていないなぁ)と思う俺。
ついつい鍋の中に興味が湧く、此処から見ると緑色のスープが並々と入るこのお鍋。
煮込んでいるのはほうれん草かな?
そう思ってみてみると……
あ……人面大根が煮られてる。
うん、なんか嫌なものを見た。すぐに忘れよう。
「げぇぐわ(マンドラコラだ)」
ああ、あの人面大根そんな名前なんだ。
でもいいよ、アレは記憶を抹消したい代物だったから、なんか世界を恨みながら煮られているような面構えだし……
とにかく興味深いものが多いが俺達はそうした物への興味を抑え、ペッカーの光を頼りに中を見ていく。
そしてこの部屋の奥にある扉を開けた時、俺は戦慄した!
「ポ、ポンテス……まさか、そんな」
暗がりの部屋の中に、俺の喧嘩仲間と言うか、兄弟と言うか……
とにかく我が家で可愛がられている筈のポンテスがそこに居た。
瞳を閉じ、明鏡止水と言った表情で、彼は静かに壁に磔になっている。
「そんな、ポンテス……ウソだろ」
良く見ると背中に蝙蝠の羽が生え、そして体中に細い透明な管が刺さっている。
そしてその管は壁に繋がり、そしてそこから何か光の粒子を、供給されていた。
生きているか、死んでいるかも分からないポンテス。
俺の家族が……俺の家族が非道な実験の犠牲者になったと知った。
愛する俺の兄弟は、今俺の前に異形の姿となってそこに居る……
「嘘だ……ウソだと言ってくれ。
おい、ポンテス、ポンテ……うぐっ」
もうこれ以上言葉を発する事が出来なかった。
喧嘩ばかりをしたが、俺にとっては仲のいい親友だったポンテス。
その変わり果てた姿に、俺は目から涙が溢れる。
ペッカーも「げぇ、げぇ、げぇぇぇ……(アルターム、嘘だろ、どうしてお前……)」と言って、その小さな瞳から涙をこぼした。
そしてポンテスの足元には失敗したのだろう……
まるでぼろきれの様になった、もう一体のポンテスがゲージの中で横たわっている。
俺はここでようやく確信した。
……姉貴は魔導の実験の為に、きっとここで幾つものポンテスを作り、そしてその体を玩んだのだ。
「ち、畜生!実の姉貴とはいえ許せねぇ……ポンテス必ずお前の仇は取ってやるからな!」
俺は叫んだ、怒りと憎しみで、心がどす黒い感情に塗りつぶされる。
ペッカーもまた怒りに燃えた目で、苦しみも悲しみも乗り越えたかのような、安らかな寝顔のポンテスを見上げていた……
「ニャ、誰かいるのかニャ?」
俺の声に反応したのか足元のぼろきれポンテスが声を上げ……ニャ?
ゲージの中のネコがふと俺を見上げた。
「あれ、ポンテス……どうしたんだ。
おまえ、普通のネコになってるぞ?」
「言っている意味が分からにゃいが、元々ニャーは見た目が普通のネコのはずニャ」
「え?でも翼が……」
「お前の中に居るニャーはどんな奴ニャ?」
あ、ああ……そうか。まぁそうだよな。
俺の中ではクソ猫イコール“明鏡止水”だったから、壁の奴の方を本物に思ったんだな。
まぁ、しょうがないよな、しょうがない。
「げぇーげぐわぁ、ぐうわぁ(そんな事より早くここを抜け出そうぜ、あの女共が帰ってきたら大変だぞ!)」
ペッカーがそう言うとポンテスは“ㇵッ”と目を見開きそして俺に言った。
「そうニャ!あの連中に捕まったら大変ニャ。小僧、ニャーを助けてほしいニャ」
「分かったゲージから出せばいいんだな?」
「それもそうニャが、ニャーは聖甲銀で出来た鎖で拘束されているニャ!」
「聖甲銀の鎖?
聞いたことがあるけど魔法を無効にする奴だよな?」
「そうニャ、あれに魔法を当てると、全部光へと変換されて無効化されしまうニャ。
だからニャーの魔法が全部使えないから逃げ出せなかったニャ!」
「なるほど、それじゃぁペッカーも?」
「げぇげ、ぐわぐぐぐ(ああ、俺の持ち上げる力も魔法だからどうにも出来ないな)」
なるほど、聖甲銀とは召喚獣達にとっては天敵みたいな物質なんだ。
俺はとにかくゲージからポンテスを引っ張り出した。
こうして抱き上げた事で分かったが、ポンテスは前足、後ろ足共に細い銀の鎖でぐるぐる巻きにされており、身動き取れない状況だった。
俺は鎖を解いた。
そしてその解いたばかりの鎖を、適当な所に投げ捨てる。
自由になったポンテスは、ペロペロと気になるところを舐めて毛繕いしはじめる。
「ポンテス後にしようぜ、ソレよりも早くここから出ないと」
「分かったニャ、ついでになんだけどニャ、ニャーを匿ってほしいニャ」
「分かった、とりあえず馬車の中で良いか?」
「分かったニャ、ママにゃんの馬車で待たせてもらうニャ」
俺はポンテスの希望を叶えるために、急いでこの研究棟の扉を、中からカギを開けて外へと飛び出した。
俺も気が付けば、結構な時間を、ルーシー達からから離れて使ってしまっている。
俺は今夜彼女をエスコートする役目。
なのでこれ以上待たせるわけにはいかない。早く会場に戻りたくて焦る。
「げっげーげっ、ぐうう、ぐうわぁ?(なぁ、さっき捨てた鎖が魔法陣の一部に引っかかって紫色に光っているけどいいのか?)」
ペッカーが心配そうに俺に声を掛けた。
「え?いいよ良いよ!
そんな事よりも早く王子様達と合流しないと……
これ以上待たせるわけにはいかないだろ?」
そんな些末な話はどうでも良いと思い、ペッカーにそう言った俺。
繰り返すが、俺は焦っていた。
これ以上皆に迷惑をかける訳にはいかない。
こっちの方がはるかに重要なのだ!
割とスムーズに猫を救出できた、次はネコを馬車の中に匿ったら、後はパーティが終わってネコと家に帰るだけ。
後はママとパパに告げ口して、あの鬼婆共をギャフンと言わせてミッション完了だ。
魔法陣が光っていようが、悪魔を召喚していようが、そんな事さして重要ではない。
「とにかく馬車まで走るぞ!」
俺はネコを抱きかかえ、今度は逆に俺がペッカーを、馬車の場所まで案内しながら走って行った。
馬車に辿り着くと、俺はペッカーとポンテスをここに隠し「ママには俺から言っておくから、姉貴達にだけは見つからないように隠れてろよ」と言って、馬車から離れた。
ウチの雇われ御者は近くで焚火を焚いて、他の家の御者と一緒に暖を取っていた。
俺の顔を見て、特に馬車に近付いても問題は無かろうと思ったのだろう、一回頭を下げて挨拶をした後、寒そうに背中を丸めて、引き続き御者仲間と雑談にいそしむ。
その様子を見て、夜も寒い中大変な仕事だと思った。
俺は一応彼にも中に猫とキツツキが居る事を告げて、会場に戻る。
面倒は見てね、と言う事。
彼はそれを快く了承した。
こうしてふたたび夜を駆ける俺。
会場に戻ると、いつのまにか大人達がやって来ており、談笑に弾みをつけていた。
(やっばっ、遅れた……)
遅く戻ってしまったことに後悔したが、もうこうなっては仕方がない。
俺は目立たないことを願いつつ、こっそりと席に近付く。
しかし俺の願いとは裏腹に、先ほどまで俺達が座っていたテーブルには、人だかりができて……何が起きた?
「わーっはっはっはっ!
こう見えて王子も結構悪い奴でな!
息子二人が元気なのは良いが、私の育て方が悪いのか何なのか、困ったものだ」
大変威厳があって大きな声が響いて……
ゲッ!パパと陛下やんっ。
陛下はフィラン王子の肩を抱き寄せると、口ではああ言っているが、凄い上機嫌で皆に殿下の事を紹介しているようだった。
「お前は今、貴族街のボスなんだろ?」
「あ、うん……陛下そうですね」
「何が陛下だ!私の事は父上と呼べっ」
え?それって、宰相閣下の息子だと言う設定が無くなる……
それを聞いて近くに立っていたパパさんも、見事に狼狽えてあちらこちらを意味もなく見回し始めた。
周りの人はびっくりである。
ちなみに、席に戻るタイミングを失っている俺もビックリである。
「なんだお前はまだそれをみんなに言ってなかったのか?」
「だ、だってそれは言うなってお父様が……」
「まぁ良かろうこの機会だ、グラニールもそう思うよな?」
「へっ?あ、はい。
殿下は王子と言う身分を隠して、ごく普通の生活を送られても、立派に剣士修行に励んでおりますし……」
「そうだろうそうだろう……
そしてここはグラニールの大学であり、私もココの所有者の一人でもある。
出来たばかりとは言え、この大学とその付属校は王家の子も通う学校なのだ。
何の心配もない、そうだな?グラニール」
「はい。もちろんです陛下!」
陛下……パパさんに聞いたら何時も適当なゴマスリを常に返すから、反対されたくない話を全部振っているんだ。
……何となく二人の関係が見えたわ。
陛下はいきなりの爆弾発言を決めた後、驚く周囲の皆を睥睨しながら言った。
「諸君も来年あたりこの学校に魔導か剣術を学ばせたらどうだ?
最上級生はまだ8歳だが、今年セルティナの剣術学校の中で、8歳の部のベスト8になんと3人も入れたところだ、しかも優勝者も出ている。
今間違いなく最高の教師を有している剣術学校だろうな。ここは……」
「だからこの学校に出資した?」
「うん?まぁそのなんだ……息子が通う学校だからそのお礼としてやったのだ。
グラニールがぜひともと懇願するのでな。
そうだな?グラニール」
「ええっ!
あ、はい……陛下のお力添えをぜひとも賜りたく」
ああ、パパ……
俺知っているよ、ママの部屋でママに慰められて居た事……
他の出資者に詰められて、夜遅くまで残業していた事……
そうか……大人になるって悲しい事なんだね。
そう思って取り巻く人の片隅で見守っていると、不意に苦虫を噛み潰したようなフィラン王子と目が合い……
あれ、一瞬彼が嬉しそうな表情を見せた?
「ラリー!何か大変な事が起きたんだね?」
「はい?」
「分かった、今すぐ僕も行くから。
お父様ラリーが戻ってきたので、僕もすぐに行かないと……」
殿下は何を言っているのか……そう思っているとそれを聞いた陛下が、抱いたフィラン王子の肩を手放しながら。
「うん?おおそうか。
そして、お前はグラニールの息子だな?
大きくなったな、じゃあ悪ガキ共はどこかで楽しんでくると良い……」
と言って殿下を解放した。
俺は一瞬パパの目を見ると、彼は俺に頷き返し、そして陛下にゴマをする。
そうか、殿下を解放してあげてもいいと言うサインだ。
「ラリー、どこかに連れてって……」
殿下はホトホト参ったと言わんばかりの表情を浮かべ、俺の肩を抱いてこの会場を後にした。
彼は外に向かって歩きながら「まいったよ、女の子をエスコートするどころの騒ぎじゃないもの」と、言って溜息を吐いた。
俺達は喧騒から離れるように、エントランスにでた。
そこには同じく喧騒から逃げ出したらしい幾人かが、あちらこちらに腰かけて静かに体を休めている。
俺と王子は彼らと同じように適当な場所に腰を掛けた。
「お父様に誰かお酒を飲ませたんだ。
そうなるともう歯止めがきかないんだよ……
この前の剣術大会で僕はベスト8になったでしょ?
お父様はそれが凄く嬉しいらしくて、事あるごとにマスターや、ラリーやイリアン、そしてシドやシルト大公の事を褒めていたんだ。
良い講師、いい仲間、良きライバル。
それらを揃えたこの学校には、それだけの価値があるって」
「そうですか、それは良かった。
パパも……お父様も喜びます」
「パパ……なんだラリーも陰ではパパなんだ。
ハハッ、実は僕もそう呼んでいるよ」
俺と殿下は、そんな感じで、ほかにも様々なテーマで。とりとめのない話をして、パーティの喧騒から身をおいた。
しばらくすると、イリアンやシドもパーティから抜け出して、俺達の元に合流をする。
「あれ?女の子達は?」
俺がそう言うと、イリアンが「お前と殿下が何処かに行っちゃうんだもん。みんな大公領の知り合いの所に行っちゃったよ」と答える。
あちゃぁ……エスコート失敗かこれ。
「しょうがないよ、陛下がこっちにテーブルに来たら、もう周りは人だかりがすごくて何のパーティだか分からないモノ。
……それよりどうする。
女の子追いかけて俺達もシルト大公が居るテーブルに行く?」
シドがすこし気後れしてそうな表情で、そう言った。
フームそれもいいかも、でもなぁ……
正直この4人でもっと遊びたいなぁ。
俺がそう思うと、王子様も同じだったらしく「もう少し後で良いんじゃない?」と言った。
その言葉に全員で安堵した表情を見せる。
その時だった……
「なんだ、化け物が出たぞ!」
『きゃぁぁぁぁぁぁぁっ!』
パーティ会場から悲鳴が聞こえ、皆は互いの顔を見合わせて、パーティ会場に戻った。
そしてそこに居たのは、かつて見た事がある化け物だった。
背中に蝙蝠の羽を生やし、キビキビとした動作で動く、目が七色に輝くはち割れのネコ。
そう、アレは偽ポンテス!
……研究棟に居た最新バージョンやんけ。
偽ポンテスはキビキビ動きながら「ニャウ、バウ、バフンニャフン……」と、以前よりもだいぶ猫に近付いた鳴き声で、周囲の人間を恫喝し、そしてテーブルの上に飛び乗るや否や、テーブルの上に置かれた食べ物をガブガブと食べ始めた。
……ああ、あのクソ婆ぁ共。
あんなエロ猫から100万光年遠く離れた生物を作るなら、わざわざうちのネコを拉致するのは辞めて欲しい……
「ラリーあれはポンテスかな?」
「やめてよ、アイツ今うちの馬車の中で寝ているから違うよ」
冷静にイリアンに回答した俺。
この時何故かチクチクと、ボグマスから痛いほどの視線が俺に送られて……
見ないでください、見ないで下さいマスタぁぁぁ。
「ば、化け物めぇっ!」
この時、兵士が剣を抜いて、偽ポンテス4号に切りかかる!
次の瞬間、偽ポンテスは天高く舞い上がり、そして翼をはためかせながら、目から強い虹色の光をその兵士に当てた!
「く、くそ!アレ、なんともない……」
ただのレーザー光線だった……
とにかく偽ポンテスは空を飛んで別のテーブルに着地し、そしてそのテーブル周りの人間を「バウッ、はふぃー、ニャンっ!」と言いながら恫喝して下がらせ、そしてそのテーブルの食べ物を貪り食う。
……なんて食い意地が張った生き物なんだ。
妙な所に感心した俺。
どうやら攻撃力はなさそうだし、放っておいても良いんじゃないだろうか?
俺がそう思って辟易していると近くで王子様が声を掛けた。
「ラリー俺達も戦おう!」
……はい?
俺がびっくりして彼の顔を見ると、そこにはキラキラした目を見開き、やる気満々の王子様がそこに居た。
「ラリー、僕たちの初陣はあの化け物だ!
アレを倒して手柄を立てよう!」
……何を言っているんだこの人?
「それは良い!ラリー僕達も剣を学んだんだ、どこまで奴に通用するか確かめてみよう!」
乗るなっイリアン!
「それならまずは装備を整えよう!
剣術学校で武装するんだ!」
シド、シドっ、シドォォォォォッ!
それを言うなり皆は、ダッシュで剣術学校に向かって走り出す。
ウソだろ、嘘だろ、うそでしょぉぉ?
独りぼっちが嫌いな俺は、彼らの後をついていく。
残念だが、今夜トゥナイトだ……