ブートキャンプをぶっ潰せ!(後)
正確には猫ではなくて召喚獣ではあるが、一応猫のポンテスはいつも、夜ごとヴィープゲスケ男爵邸の、ママさんの寝室でお休みだ。
彼は床に置かれた可愛くてふんわりとした、綿入れの上に丸くなって寝ている。
一応この綿入れは、取っ手を上に設けたバスケットの中に敷き詰められており、彼はこのバスケットの中で幸せそうに眠りについていた。
冬ならそのままママさんの懐に入って寝るのだが、さすがに夏は暑くてそれはできない。
なのでママさんから少しだけ離れて、一人で寝ている。
このママさんの寝室は風通しもよく、開け放たれた窓から、夜の涼しい風が入った。
そんなママさんの寝室の窓から、小柄な男性の侵入者が現れる。
子供の様な、大人と呼ぶには小さな男。
彼は部屋をゆっくりと見まわすと、美しい男爵夫人にも、部屋を埋め尽くす品の良い家具にも興味は示さず、ひょいと音もなくバスケットごとポンテスを持ち去る。
そして出る時も窓から音もなく出て行った。
小柄な男性は次にスルスルと壁を苦もなくよじ登り、そしてこの家の次男坊の部屋の窓を開けると、中に侵入した。
次男坊は今剣術学校の合宿に参加しており誰もいない。
明らかにそれを知っているかのような大胆な犯行。
小柄な男はこの部屋でこの家の息子が飼っている、キツツキを巣箱ごと持ちだした。
小さな巣箱を猫のバスケットの中に入れた男は慎重にこの部屋から逃げ出す。
特にキツツキは、ゆっくりと丁寧に扱った。
うっかり徹夜させると後が怖いからだ。
こうして小柄な男性は男爵家の壁をよじ登り、そのまま家の外に手慣れた様子で逃亡を果たす。
こうして巣箱とバスケットを両手に持った、この男は路上でにんまりと邪悪な笑みを浮かべ、こうつぶやいた。
「見てろよ……今夜革命を起こしてやる」
◇◇◇◇
この日ポンテスとキツツキは奇しくも同じ夢を見ていた、温かい日差しの中、柔らかい馬車に揺られて、見た事もない場所に旅行に行く夢である。
「どこに行くニャ?」「げ、げぇー」
するとパパさんと思われる人がこうつぶやいた。
「とっても、とっても楽しい所だよ」
「やったニャ」「げぇーっ」
馬車はゆっくりと優美に揺れ、美しい風景の田舎道を静かに走る。
熱くもなく冷たくもない心地よい気候と日差しの中、はしゃぐ彼らをパパさんと思われる男は、穏やかな笑みを浮かべて見ているのだった。
やがて馬車はとある場所にたどり着いた。
ピンクと白銀、若草色に輝く平原にそびえる白亜のお城。
だがそのお城の門の上には“男の中の男!”と妙に熱い文句が大書してある。
その禍々(まがまが)しくも極厚のフォントの向こう側に、スクワットをし続ける男たちの汗と涙の道が続いている。
「50ッ回を20ッセットぉぉぉぉ!」
「うおぉぉぉぉぉっ!」
「ニャ、ニャニこれ?」「ぐわ……」
その異様な光景に猫とキツツキは茫然として見つめる。
パパさんがこの様子を見下ろしながらことさら優しい声でこう言った。
「よく覚えておきなさい、これが騎士道だ」
ポンテスは「パパニャン、さすがにそれは嘘……」と言いかけて絶句した。
パパさんの顔を見ようと、見上げたその先には男らしいホリアン2世の顔があった。
「ヒッ!」「げぇっ!」
驚き、そして後ずさる一匹と一羽。
逃げ出そうとしたその瞬間、彼らを赤黒い不気味な色の光がとりつき、そのままグルグル巻きに束縛する。
逃げ出そうと必死にニャーニャー、げぇげぇ鳴きながら、もがく彼ら。
しかし彼らは捕まり、そして恐ろしい顔をしたホリアン2世の元に手繰り寄せられる……
この王の形相におびえ、恐怖にわななく彼らに向かって、王は腹から響く声で言った。
「ポンテスにペッカーよ、お前たちに試練を申し渡す……」
「嘘ニャぁ、嫌ニャァァァ」
「ぐぅわぁ、ぐわぁぁぁ……」
「貴様らもスクワットをやるのだぁっ!」
男の迫力をまといながら目を見開き、咆哮した彼の雄叫びに二人の目が見開かれる。
二人は悲鳴を上げた。
「イヤにゃぁーいやニャァァァァ!」
「げーっ、げーっ、ぐわぁぁぁぁぁぁっ!」
◇◇◇◇
「スクワットはイヤにゃぁ!」
そう言いながら飛び起きたポンテス、彼は「はぁ、はぁ、はぁ……」と息を荒げながら周囲を見回した。
見知らぬ路上に居るのでびっくりして、目を見開く。
事情が読み込めず「これはいったい……」と言って首を回す。
すると見慣れた鳥の巣箱があり、そこから、耳のように毛がピンと立った知り合いのキツツキが顔をのぞかせていた。
彼もまた事情が読み込めて無いようである。
「よう、お前たち久しぶりだな」
自分の背後でそんな声が響き渡ったので、彼はびっくりして振り返る。
そこに居たのは……
「く、クソ小僧……ニャンで?」
1週間前に合宿に旅立った、男爵家の問題児がそこに居る。
ところがこの問題児は、見ていると顔が真っ赤に腫れあがり、どこかやつれた様子である。
そこでポンテスは目を凝らして聞いてみた。
「ニャ、ニャンか久しく見て無い内に随分と男らしい顔つきになったニャ……」
「分かるか?ポンテス……
お前たちが幸せそうな顔でぐっすり寝ている間。
俺と王子様たちは毎日毎日、やれスクワットだ、ランニングだ、アヒル歩きだと。
毎日毎日一日も欠かさず、うんざりするほど搾り上げられていたんだ。
だけどももう我慢がならねぇ……」
この時ちょうど月の光が雲間から出てきて、ヴィープゲスケ家の次男坊の顔を明るく照らし出した。
青たんと、赤く腫れあがった唇、右目は腫れ上がり、鼻に血塗られた紙をつっこんだ凄い形相の彼が居る。
ここまでいたぶられると熱が出て、ろくに動くのは難しいのに何が彼をそうさせるのか、彼は邪な笑みを浮かべてこう言った。
「恩を返してもらおうかお前たち、最上級生とかいう奴らを、これからギャフンと言わせてやらなきゃならんのだ!」
◇◇◇◇
「……と、言う事があったんだ」
とりあえず話を聞かせろとキツツキが言うので、俺は今回の件をかいつまんでお話した。
彼らは互いに顔を見合わせると「どこにでもそう言う理不尽はあるもんニャ……」と猫が言い。
キツツキが「げ―げぇっ、ぐぅわぁぁ(それに耐えるのも修行じゃない?)」と言う。
俺はことさらに頭を振りながら言った。
「分かってない、分かってないなぁお前達」
「ニャン!」
「俺は騎士になりたくてこんなことをしている、言うなればこれはエサだ。
それなら聞くがエサをもらえる代わりに、ひたすら働かされたらどうする?
例えばポンテス、お前一か月間も大学の前でパンフレットを抑えていられるか?」
「う、嫌にゃ……」
「じゃあペッカー、エサをもらえる代わりにモテ男のナンパの手伝いをできるか?」
「げぇ!(やなこったっ)」
「だろ?エサをもらえて訓練があるというのは分かるけど、教師が居なくなった瞬間リンチしだす奴のご機嫌取りや忍耐なんてしたくもなければするべきではないだろう?
是は大学の前でパンフレット抑えるのと、ナンパの手伝いと違いはないと思うぞ。
第一リンチされても強くならないじゃないか!」
俺がそう力説すると、一匹と一羽は心にモヤモヤを抱えながらいろいろ考えたらしく、そのうちこう言った。
「分かったニャ、なんかまだなんかすっきりしニャイけど。
お前には色々助けてもらったニャ、手助けするニャ。
で、どうしたらいいニャ?」
猫なだけに素敵な“ドラちゃん”だと思った俺は「おお、心の友よ!感謝する。ありがとう!」と言いながら猫を抱きしめ、キツツキの頭をなでる。
猫は「お前本当に調子が良いニャ」と呟いた。
学校の塀をよじ登り再び学校の中に舞い戻った俺は、背中に背負ったネコ、上空の鳥を伴って最上級生のいる宿舎を目指す。
「ポンテス、この前は不発に終わったけど、人を深く眠らせる事が出来るんだろ?」
「うにゃ?できるニャ」
「だったらそれを連中に掛けてくれ、アイツらを深々と眠らせておきたい。
そしてペッカー、人一人ぐらい簡単に持ち上げて飛べるよな?」
「げー(もちろん)」
「ようし、よし。見てろよアイツらめ、一生忘れられないようにしてやる……」
こうして俺は、彼らができる事を確認し、これからあいつらをどう料理してやろうかと考えながら奴らの宿舎に入った。
宿舎の中に入って気が付いたのだが、中は相当ガタが来ていて、俺等が寝泊まりするゲスト用の宿舎よりも、相当ひどい有様だった。
こうしてみると、実は俺たちはお客様と言う事で優遇されていたらしい。
そんなボロ壁の廊下を、俺は慎重に歩き回った。
「ひっぐ、ヒック、ヒック……」
奥に向かって歩いていると、一階の奥まった水場の傍から、すすり泣く誰かの声が聞こえた
シンと静まり返る夜更けの宿舎に、微かに聞こえる子供の声。
一瞬幽霊か?とアホな事を考えたが、これを聞きつけたポンテスが、何も言わずにスルスルっと音のした方角に向かっていき、正体を確かめる。
俺はいつの間にやら肩に止まっていたキツツキと共に「どうだった?」とポンテスに尋ねた。
ポンテスは憐みの浮いた声で答える。
「子供が泣いてるニャ、かわいそうに洗濯モノ押し付けられて、まだ終わってニャイみたいニャ……」
ああ、そうか……なんか悲しいな。
この学校では、下級生は奴隷のように働くのが伝統だ。
だから宿舎のように子供達だけで完結している世界だと、このような目にも合わされる子が続出するのだろう。
俺はそう思うと、その子供の様子を覗きたいと思った。
そこでポンテスの案内でその場所に向かうと、そこに俺と同じ年ぐらいの男の子が居た。
……誰も彼を助けてくれなかったらしい。
「ヒック、ヒック……あ?」
彼はふいに目線を上げ、壁からこっそり見ていた俺と目が合った。
見つかったか、これはしょうがない……そう思った俺は彼の元に微笑みながら近付いた。
「やぁ、なんで泣いてるの?」
本来ならここにはいる事がないゲストの俺の存在に、いぶかしげな表情を見せた彼。
やがて彼は汚れた服の袖で、流れた涙を荒々しく拭うと、かすれた声でこう呟いた。
「……お前には関係ない。
ソレよりも早く帰れよ!」
そう、そっけない様子で俺に答えた彼。
ふとこの子に見覚えがあった。
最初の日、教室から立ち去る俺を、仲間と一緒に睨み付け、そして俺をあざ笑った子だった。
おれはこの子に面識がなかった、当然あんな感じで睨まれる理由もない。
だからあの日何で俺を見ていたのか、そのことを尋ねたくて、俺は口を開いた。
「そう言えば君、俺の事をじっと見ていたよね?」
「え?」
「最初の日」
「ああ、兄貴からお前が来るってことは聞いていたからな」
うん?兄貴ってなんだ……
「え、君の兄貴って誰?」
「ああ、お前の姉貴の婚約者だよ……」
ニャンだと!あのクソチンピラのフィランかっ?
あの野郎、周囲に姉貴と婚約しているとデマを流していやがったな!
ふざけ……いやコイツに言ってもしょうがないか。
「いや、あのね。お姉様の婚約者はまだいなくて……」
「え?兄貴の話だと『あれだけ噂になっているから俺以外と結婚できない』って言っていたけど……」
おのれあのチンピラっ!
だからあんなに大っぴらに迫ってやがったのかっ!
ファレン、ファレンめっ!
「兄貴は良い奴だよ、弟の俺が保証する」
「いや、別に身内に保証されても……」
「はぁ、それよりもこの洗濯物どうにかしなきゃ」
「あ、ああ……そうだね。
突然話を変えるんだね、別にいいけど……
それよりこの洗濯物って何?」
「これは最上級生の洗濯物だよ。
返り血を浴びたから洗濯しろってさ。
血はなかなか落ちないから苦労したよ。
真っ白にしないとリンチされるんだ。
何とか血は流せたけど今度干さなきゃいけない。
そうしたらもうこんな時間で……もうすぐ朝だから乾かないんだ。
明日この事が知られたら結局リンチされてしまう……」
彼が最後に“だから”と呟いた。
その声は涙につぶれ、そして口惜しさに満ちる。
その後の言葉はない、感極まって泣いてしまった。
だから俺は立ち上がり彼に向かって言った。
「その返り血は、リンチされた俺の血だ。
俺がお前の敵を取ってやる!」
すると彼が俺の目を見ながらこう言った。
「どうするんだ?」
「俺にいい考えがある」
こうしてファレン弟の案内で宿舎の二階の一番奥まったところにたどり着いた俺。
ここに最上級生の部屋がある。
部屋にたどり着くなり俺はネコに命じた。
「それではポンテス先生、出番です!」
「……後で見返りを要求するニャ」
猫はそう言うなり「ニャーお、ニャーお」と鳴きだし、そして体から黒い波動を放出し始めた。
どこか安らぎを覚えるこの波動に、思わず俺の眼も……
「げぇ!」
次の瞬間俺のこめかみにキツツキの嘴が突き刺さる。
ぐお、軽く痛い。さすがに目が覚めたわ。
「お前がかかってどうするニャ!
とにかく成功したニャ、この安息のアルターム様にとっては朝飯前ニャ」
……朝飯前。時間的にはそうだよね。
間もなく夜明けだしね。それはそうとして。
「でかしたポンテス、もうこれで起きないんだな?」
「ニャ、4時間は絶対に目が覚めニャイニャ!」
こうして俺は、こいつらを引き連れて部屋の中に入ろうとする。
ちなみにここまで案内してくれた、ファレン弟は廊下で寝落ちした。
ポンテスの魔法にかかったのだろう。
巻き添えを食らったのが、俺だけじゃ無かったことに何故か俺は安堵した。
こう言う恥ずかしい事は“俺だけ”じゃないと思える事が大事だと思う。そういう事だ!
……まぁここまでやってくれれば、後はこちらでやろう。
さてと、扉をチョチョイと開けまして……うわっぷ!くっさぁぁぁぁ。
中はずばり男の部屋と言ったところで、なんか酸っぱい匂いが満ちている。
「ニャ……ニャーは廊下で待ってもいい?」
気持ちは分かる、なので「ああ……」と答えて俺だけが中に入った。
中に入った瞬間、おれは呻き声をあげそうになる。
(目がぁ、酸っぱい刺激で目から涙がぁ!)
中はずっとここに居るのがためらわれるほど臭い!
誰だ?誰かワキガだなっ!
部屋に入った瞬間鳥はそのまま、何も言わずに俺の肩から猫の元に逃げ出した。
……うわっ、本当に臭い。
俺は男臭い、このガスと言うかスメルというかに苦しめられながら、一人ひとりを廊下に引きずり出す。
この部屋の中で、作業はしたくなかったからだ。
6歳児には中々しんどい苦行である。
だけどもこれは世のため、人のため、俺の為と言い聞かせて重い10歳児達を運び続けた。
途中ベッドから引き出す時に、相手を頭から床に叩きつけたりしながら、なんとかこの仕事を完遂した。
しかし奴の頭がゴン!となった時はさすがに終わった……と思ったけど全然起きないんだな。魔法の効果は偉大だ。
その様子を手伝う事もなく、見つめるポンテスとペッカー。
……この部屋に入るのが相当嫌なのだ。
さて、それは良いとして。
ポンテスの言うとおり、何をされても全く起きない最上級生達を、俺は苦労を重ねながら全員を廊下の床に並べた。
おれはこの6体のマグロを見つめてニヤリと笑ってこう言った。
「いい事を思いついた!
さてペッカー、コイツを運ぼうか」
「げぇ?(どこに?)」
「表の門の壁までさ。まぁ見てろよこいつらを一夜にしてスターにしてやる、くーっクックッ……」
◇◇◇◇
翌日朝……人混みがこの学校の前にできていた。
彼らの目の前には壁がありそこに6人の子供が、白い顔料で顔を塗りたくられたのちに、それぞれ星やら、悪魔的な隈取やら、ネコやら、パンダ(この世界にはいません)犬に、ウサギと言った隈取を施されて、ロープでつるされていたのだ。
しかも素っ裸で……
壁には“人生は派手に行こうぜ!”と言う世間を挑発する文言が踊り、それ見た大人たちが茫然とそれを見守る。
「どけぇ、どけぇぇぇっ!」
ぐっすりと眠る彼らを壁から降ろすべく、彼らの父兄が壁にとりつく。
「見るな、見るんじゃない!見る奴は我が家の敵であるっ」
取り乱し、絶叫する最上級生の父兄たち。
とはいえこんな目立つもの隠せるはずもなく
「あら奥さん、あそこのウサギ、角の家の……」
「まぁ、あんなに立派なご亭主からお生まれになったのに」
「それよりも聞きました?あの悪魔的な装飾の子、実は悪魔崇拝者らしいわよ……」
との噂が立った、俺はそれを王子様達と笑って見ていただけである。
彼らが起きたのはきっかり4時間後。朝7時ごろである。
騒ぎを聞きつけ、遠巻きに生徒と通行人が見守る中での目覚め。
そこからの彼らは素敵なドキドキモーニングの始まりだ。
先輩たちは一度学校の中に隠された後、そのまま裏口から親御さんの元へドナドナされて行った。
途中「誰がやった!」とガン泣きしながら絶叫する彼ら、そんな奴らに物を申す者も無く、笑いながらそんな彼らの様子を見守る俺達。
ざまぁみろ、たかだか数年早く生まれただけで思い上がったあのカスどもめ!
いい気味だ、ロックスターみたいに売り出してやったぜ。
そして……できればあと一週間はこのまま学校に来ないでほしい。そうしたら俺達は元の学校に帰っているから。
……そうしたら完全犯罪達成だ。俺がやったなんてばれないに違いない。
結局その日の練習は取りやめになった。
教師が居なくなった瞬間起きたこの事件の対処に、執事の人はてんてこ舞いで、おれはゆっくり体を休める事に専念できた。
ちなみに洗濯物は、俺がファレン弟の代わりに干してやった。
リンチされなくてよかったなあいつ……
◇◇◇◇
こうして起きた混乱と混迷の最中、6日かかるはずが、わずか4日で帰ってきたボグマスにさらわれるように、俺たちはこの剣術学校の合宿を終えた。
予定を3日繰り上げての合宿終了である。
彼は我が母校に帰るなり全員を集めて叫んだ。
「お前たちがやったんだろう!」
もちろん最上級生をロックスターみたいに変えて、外にぶら下げた件である
俺たちは全員首を横に振った。
「先生俺たちは何もしていません。
あんなことは普通にできないですよ」
ルシェルが胸を張ってそう答えた。
……うん、本当にやってないやつは堂々としていていいね。
次に彼は何のためらいも見せずに俺の目を見て言った。
「ラリー、話は聞いた。
あの日お前は最上級生からリンチを受けたそうだな。
だから我慢が出来なくてアイツらに復讐をした、そうだなっ!」
さっすがマスター大当たりである。
まぁしかし馬鹿みたいに正直に言うはずもなく、こう答えた。
「先生確かに僕はアイツらにいじめられました。
だけども考えてみてください、あんな手の込んだこと僕にはできません!
皆が寝静まった後に上級生をあそこまで持って行く事が出来ますか?
そんな力は僕には無いですよ?」
まぁこれは本当である。次にこう切り出した。
「それよりも僕は今回の事が許せません!
この事はお父様に言って、あいつらは僕に謝罪をさせたいと思います。
よろしいですね!」
同じく約2週間地獄を見た王子様、イリアン、シドは強くうなずいて、彼らが自分達に謝罪をするべきだと言った。
見たか騎士ども、これが貴族パワーだ!
話はたぶんボグマスの想像を超えた動きを見せたらしく、彼は「分かった、もういい。分かった!」と言った後、重々しい溜息を吐きながらこう言った。
「そのことについては私の口から男爵に申し上げる、いいな?」
「……わかりました」
「よろしい、ではこの話は預かる。
皆解散だ……」
彼はそう言うなり疲れ果てた顔でこの場を去った。
そんなボグマスを見送った後、皆が俺に尋ねた。
「ラリーがやったの?」
おれは口を尖らせ、どうしようかと考えたが、仲間には正直にこう言った。
「やった……」
王子様、イリアン、そしてシドは目を見開くとニンマリと笑って「さすがだよ、お前……」と言った。
彼等もまたあのクソ共に苦しめられた、被害者である。
彼らを嫌いこそすれ、別に同情なんかはしないのであった。
こうして果たされた復讐に喝采を上げる俺達。
自分たちがあんな連中に、いいようにしてやられる存在では無い事に、心からの満足を覚えた。
俺たちはこの後処罰も受けず、いつも通りの剣術修行を続ける。
……話はこれで一応終わったのだった。
しかし俺は騎士階級の子弟から若干敵視されるようになる。
代償に何も払わずに済むわけではなかったのだ、その事を痛感するのはこれからの事である。




