ブートキャンプをぶっ潰せ!(前)
夏の暑さもいよいよ厳しくなったころ、俺達が通う学校の長期休暇が始まった。
2か月間は丸々休みである。
そこで俺達マスターボグマスの門下生はこの長期休暇中の2週間を使い、同じく王都にある、彼の先輩が開いたという別の剣術学校に合宿することになった。
場所はいつも俺たちが暮らしている貴族街から、だいぶ遠い場所にある西の騎士街である。
西の騎士街はだいぶ落ち着いた場所で、どこか懐かしくもさびれた匂いが漂う。
家の使用人に聞いた所、古い王都の市街地がここだそうで、その為か古い建物が多い。
昔ながらに血気盛んな古い家の騎士が多く、外国から見ると野蛮だと言われるアルバルヴェ王国でも、特に野蛮な街の一つなんだそうだ。
まぁ、見たところそんな感じはしないけどね。古都って感じがするぐらいかな?
3台の馬車に分乗してやってきた俺らをみすぼらしい身なりの、年老いた細い男が出迎えた。
たどり着いた場所はバルツ剣術学校と言う、全寮制の剣術学校である。
「マスターボグマス、ようこそお越しくださいました」
「騎士バルツ、お久しぶりです」
「なんのなんの、騎士爵を息子に譲ってからもう10年、わたしを騎士だと覚えているのはマスターボグマスぐらいでしょう」
「いえいえ、若輩者だった私にいろいろ教えて下さったのはバルツ殿です。
そこら辺の男と一緒になんぞ出来ません」
「ふ、ふふ。嬉しい事を言って下さる。
ソードマスターにそう言ってもらえるのは光栄です。
あー、ささっ。お子様たちも、皆様も中にお入りください」
こうして俺たちはこの老人に手を引かれるままに、学校の中に入った。
学校は壁が所々ひび割れており、明らかに修繕が必要なオンボロだった。
初めて見る壮絶な光景に、皆ビックリである。特に女子は開いた口が塞がらない。
この中では王子様だけが目をキラキラさせながら「凄いよラリー、これが外の世界なんだね……」と俺に感想を述べた。
俺も負けじと「見てください、あそこ……あそこのシミが人の手形になってます。あそこのシミは死者がつけたという伝説が」と、嘘をつく。
……すると軽く王子に肩を殴られた。彼は苦笑いである。
まぁさすがに騙せないわな。
こうして浮かれ気分のまま、廊下でじゃれ合っていると、此処の校長だと思われる騎士バルツが微笑みながら言った。
「あれはうちの悪ガキどもがつけたモノですよ」
あちゃぁ、聞かれてしまいましたか、これはすみません。
……しかし、それにしても。
(悪ガキどもか、どんな子達なんだろ、話が合うと良いなぁ)
と、俺はまだ会っていない剣友達の事を想像してワクワクしていた。
どんな剣筋なのか、どんな思いで剣を振るっているのか、それを尋ねるのが楽しみだ。
何せ自分たち以外で初めて会う、同世代の剣士たちなのだ、今から興味が無限に湧き続ける。
……早く会って試合をしてみたい。
はやる気持ちを抱え、俺たちは教室に案内された。
入ってみると、中は昼間なのに暗がりのような陰気さがこもっていた。
『…………』
入った瞬間、数十人の目つきの悪い生徒が遠慮もなく俺らを見つめてきた。
うわぁ……よそ者を歓迎してませんよ。
前言撤回、話はどうやら合わないかもしれない。
ウチの王子様やイリアン、そしてシドはびっくりして目を白黒しているし、ウチの女の子たちもイフリアネに寄り添うように固まった。
「女だ、女が来てるぞ!」
生徒の誰かが、はしゃいだ声でそう言うと、次の瞬間皆がワッと盛り上がる。
「可愛い!」
「今度デートしようぜ!」
「ガキじゃなくて大きな子はいないの?」
一瞬にして不躾な男の子のエネルギーで、教室が満ちる。
その声にますます表情を硬くする女の子達。
「静かにしやがれガキどもっ!」
いきなり騎士バルツが好々爺キャラから豹変して、凄まじい声で生徒たちを恫喝した。
次の瞬間これまで浮かれていた生徒たちが一瞬で恐怖のあまり真顔になる。
先程とは打って変わって水を打ったかのような静けさに包まれる教室。
その中で騎士バルツが「まったく、どうしようもねぇ……」とぶつくさ言いながら、教室の皆に声を掛けた。
「えー。今日から2週間、魔導大学の別館である、剣術学校からこちらの7名が一緒に合同合宿することになります。
皆様は騎士の子弟ですが、彼らは王国でも特別な貴族のお子様たちです。
ですがこの2週間は皆様と一緒にご飯を食べ、剣の理を学び、鍛錬に励みます。
伯爵様や男爵様からの希望で、皆様と全く同じように鍛えてほしいという事なのでそのつもりで」
『おお、女に剣が振れるの?』
「えーっと。マスターボグマスそこは……」
「大丈夫です」
「だそうです、皆様優しくしてくださいね」
『はい!』
「後、そうそう言い忘れたことが一つあります。
皆さん、女の子を傷付けたら……ぶっ殺すからなテメェらっ!」
あ、騎士のおじさん。貴族の子弟である僕らメンズの方は……あ、いえ。男の子はたくましく育てる方針ですよね。
分かってマース、分かってまぁーす……
俺はキャラブレブレのこのおじさんの異様な気性に圧倒され、何も言わずに黙っていた。
やがて騎士バルツは教室の皆に声を掛けた後、俺らの方にクルリと振り向いた。
「皆様は新しい学校ゆえに、先輩と言うモノが居ないのだと聞きました。
ですから短い間ではありますが、この学校で上下関係と言う物を学んでください。
よろしいですね?」
『分かりました!』
そう言われて初めて気が付いたが、確かに剣術学校は、そんな先輩後輩の関係から来る息苦しさから無縁だった。
そう思った俺はこの世界での先輩後輩の関係に興味を持ち、今いる場所から、教室内の様子を伺ってみる事にした。
目を凝らして見てみると、教室内でも俺と同じ年位の小さな子は廊下の暗い所に追いやられ、しかも一番後ろの方に固まっている、そして居心地のよさそうな、明るい窓に近くなるにつれ、体の大きな子がいる。
……ああこれが階級社会かぁ。
ただどうやら12歳とかそんな子はいなくて、一番年長の子でもどうやら10歳までのようだ。
この国の義務教育が10歳までだから、この教室はそれまでの小さな子用の部屋なのだろう。
「では皆さん、昼からさっそく始めましょう。
では魔導大学の皆様、宿舎はこちらです、ご案内いたします」
俺はこうして騎士バルツの引率で、教室を後にしようとした。
「…………」
この時、なぜか痛いほどの視線を感じた。
ふと視線の送り先を見てみると、そこには俺をことさら睨み付ける、俺と同い年っぽい男の子が居る。
「…………」
俺も黙ってガンをつけてやると、そいつは傍にいた仲間と共に「ふっ」と鼻で俺を笑ってくる。
……上等じゃねぇか、クソ野郎。
「ラリー、早く来い!」
一歩そいつに足を踏み出そうとした瞬間、マスターボグマスが俺に声を掛けたので、俺は奴の近くに行くのを諦め、急ぎ皆の後を追った。
(気に入らない奴だ……)
とにかくそう思う、これからの2週間が波乱含みになりそうだと予感する。
こうして俺の地獄の2週間が始まった。
練習が始まると、さっそく俺たちはおかしい位に体を動かすことになった。
「ぜぇ、ぜぇぜぇっ!」
スクワット50回3セット、腕立て伏せ50回3セット、アヒル歩きを50メートルの道を4往復……
馬鹿じゃねぇの、どんな部活動だよ……
これは練習ではない、苦行だ……
少なくとも6歳児がやるものではないはずだ。
「だ、だめだぁ……」
「イリアン、しっかりしろ!」
後ろではシドがアヒル歩きの途中で、カエルのようにつぶれたイリアンを励ます。
『1年!もたもたするなっ』
遠くでは体の大きな上級生が、俺達を叱り飛ばす。
アイツらはどうしてあんなに元気なのか、ケロッとしてやがる。
アヒル歩きの途中で引き返し、イリアンを助けようとしたらまた罵声が飛ぶ。
「戻るなチビ!奴は奴で仕事完遂させろっ!」
く、くっそぉぉぉお!
こうしてイリアンは死にぞこないながらも、必死になって俺たちに食らいつき、そしてアヒル歩きを終えた。
ゴールの後、水を飲みたいと言った彼に、容赦ない罵声が飛ぶ。
水は飲めないのだ、誰も……
ヨロヨロの俺達に同じ年の子供が得意げになって言う。
「へっへっ、今日は楽だぜ。なんせひ弱な坊ちゃんに合わせた練習メニューだからな。
2週間は楽でいい」
すると他の上級生と思われる男が、彼の頭を叩いて怒鳴った。
「馬鹿野郎!その分弱くなるんだぞっ。
テメェはスクワット100回追加だっ!」
唖然とした俺ら、俺達をからかった子は俺を睨むと、そのままその場でスクワットを始める。
何という上下関係、なんという理不尽……
「サッサとどこかに行けっ!」
俺までも怒鳴られ、急ぎこの場を後にした。
そして次は空気椅子……どこの日本の柔道部だよ。
とにかく徹底的に下半身を苛め抜かれ、しごかれ続ける。
シド、イリアン、クラリアーナが倒れ、ルシェル、王子も限界。
朝練に参加し続けた俺とイフリアネがやっとこさ、まだ微かに動ける位……
そして次は剣術の試合、剣の理だけを学んでいた俺たちと違って、実戦さながらに殴ったり掴んで投げたりもする試合だった。
相手は鎧や剣で俺たちの一撃を受けた後、止まることなく肉薄して俺たちを投げ飛ばす。
こうしてできた、きれいな相手の鎧、そして土埃にまみれた俺たちの無様な武装姿。
「聞いてないよ、こんなの聞いてないよ……」
王子がそうぼやく、俺達も茫然とした顔でそれを受け止めた。
このような悲惨な一日が終わり、俺達は自分たちの宿舎に戻る。
飯を食えと言われたので、飯を食うために食堂に向かう。
「……うっ」
おいしそうなおかずを見た瞬間、吐きそうになった。疲れすぎて食欲が湧かないのだ。
騎士ボグマスが「頑張って食え、それも修行だ」とありがたい講釈を述べる。
だからゆっくり、そしてスープを中心に食べた。
……固形物や、肉は少しだけである。
食堂は俺たち以外にも練習仲間がいるのでその子に尋ねてみた。
「俺食欲がわかないんだけど、もしよかったら……」
「テメェッ、何残してんだよっ!」
思わずビクッとなって食堂の一隅に目を向けると、ガン泣きする男の子に向かって上級生が、キャベツの千切りを握りしめながら怒鳴りつけていた。
……キャベツの千切りを皿に乗せたまま怒ればいいのに、と思った。
「すみません、すみません……」
「今日は客(ゲラルド達)が居るんだぞ!
お前ひとりのせいでなぁ、俺等が全員恥ずかしい目にあってるんだよぉ。
分かってんのかコラッ!」
「すみません、すみません!」
次の瞬間、その子は上級生に腿のあたりを蹴られ、痛みに顔をゆがめながらひたすらに謝罪を続ける。
俺たちは愕然とした、俺に至っては他の子に、食べきれない分を食べてもらおうとしたところである。
……当然差し出そうとした皿はひっこめた。こうして上級生の手の中で、小さなボールのように握りつぶされたキャベツの千切りが彼の口に突っ込まれる。
えずき、そして泣きながら口をモグモグさせる彼。
次は俺があんな感じで晒し者にされるかもと思った。
……とにかく食べるしかなかった。
食後。水浴びをしてさっぱりした俺らは、全身の筋肉が悲鳴を上げる中、ヨタヨタとベッドにもぐりこんだ。
王子が天井を見上げながら言う。
「ラリー、聞いた?明日朝練があるんだって……」
「悲しいです、フィラン様……」
……絶望しかない、この地獄の底でそう思った。
◇◇◇◇
こうして過ごした楽しい夏の1週間は、ただの地獄であった。
ヨタヨタとそれでいてかろうじて踏ん張るように日々を過ごす俺等。
そんな俺らはそれでもゲストだからなのか、この学校の生徒ほどには追い詰められてはいない。
先輩と言う壮絶なるクソが存在しないためだ。
他の子は食事で見た風景そのままに、ありとあらゆる言いがかりをつけられ、相当にいたぶられている。
練習はきついが、練習の苦しみは耐えられる。だけどもあんな先輩の理不尽なしごきには耐えられそうもない。
イリアン、シド、王子、そして俺と……メンズは同じ感想を持った。
此処の学校では、上級生とは単なる悪魔に他ならない。
ちなみに女の子たちは……甘いお菓子を差し入れてもらっていた。
だからこの1週間に限っては、俺も女の子になりたいとさえ幾度も考えた。
蜂蜜を舐めたい、もうね、蜂蜜を牛乳の中に入れて、ものすんごく甘くした牛乳を飲みたい。
その為には男性自身を失ってもいい……
頭の中にはそんなおバカな欲望が巡っていく。
それぐらい女達がうらやましいのだ、砂糖を見た瞬間俺たちは、気が狂ってしまいそうである。
そして今日も今日とて、教室の隅っこで女の子に、真っ赤な顔の男から飴玉がプレゼントされる。
イフリアネ、とりあえずそのお菓子を僕にも……ウソっくれるの!
やったぁーメンズに分けてくるね!
あの子は良い子や、ホンマにええ子やなぁ。
オジサンしみじみ感じちゃうわぁ。
するとイフリアネに飴玉をプレゼントした男の子が俺を睨む。
……ごめん、俺達にもコイツが必要なんだ。
気持ちは分かるから、こそこそと俺は王子様達の元へと帰る。
こうして皆が口に含んだ飴玉の甘味に酔いしれた。
ささやかだがこの甘さがどれだけ俺たちの心を慰めたか……
ありがとうイフリアネ、君は天使や……
ところが事件が起こった。
その日、合宿の終了まであと一週間と言うときになって、青ざめた顔のボグマスと騎士バルツが飛び込んできた。
「全員集合!」
騎士バルツの声にみんなが集まり、そしてその中で騎士バルツがこう言った。
「我々は聖騎士流を学ぶ同士である。
その宗家であるバルザック家の当主、ガルボルム・バルザック様がお倒れになり、剣士免状以上の資格所有者に召集がかかった。
よって我々は急ぎガーブウルズ(バルザック家の本拠地)に向かわなければならなくなった。
合宿は解散も考えたが、このような事は諸君の修業には関係ない事ゆえ続行とする。
我々は6日で戻る、それまでの間は息子の家から執事を派遣してもらい皆の面倒を見てもらう事にした。
そして練習だが最上級生を中心に、練習メニュー考え、続行するように」
『ハイッ!』
「うむ、ではマスターボグマス、急ぎましょう……」
そう言うと、二人は連れ立ってこの場を離れ、そして俺たちだけが残された。
「ふ、ふフフフ……」
ボグマス達が居なくなると、最上級生たちが、邪悪な笑みを浮かべて俺たちを睥睨した。
……いやな予感がする。
最上級生たちは全部で6人いるのだが、彼らは揃いも揃って悪そうな笑みを浮かべながら叫んだ。
「お前ら最近たるんでるんだよぉっ!」
「そうだそうだ!」
え、何が?なんのこと?
「特におぼっちゃま!」
彼らはそう叫ぶと俺たちに鋭い視線を投げつけた。
「お前たちが来てから、下の奴らも気がたるんでたるんでしょうがねぇんだよ!
分かってんのかぁっ!」
……知らねぇよ。
俺たちは黙って最上級生(実は10歳)を見ながら黙って見つめ返す。
すると奴らは「なんだその目は?」といちゃもんをつけてきた。
特に目をつけられたのは俺である、奴らは「お前、なんか生意気だなぁ?」とガンを飛ばしながら俺を恫喝した。
「いえ、別に……」
俺はそう言うしかない、するとその言い草が気に入らなかったらしく彼は絶叫する。
「年上の言う事はハイかイイエだけだ!
そんなこと常識だろうがぁっ!」
怒鳴らないと喋れないのかこのカス野郎……ていうかテメェのマイルールを外部の俺等に押し付けるんじゃねぇよ。
「分かりました、イイエです」
「あん?」
「イイエ」
すると目の前の奴は目をひん剥きながら「てんめぇ、おちょくってんのか!」と叫びだす。
……どうしろと言うのか。
次の瞬間俺は殴られた、頭のネジが次の瞬間ブツンと切れる。
俺はすかさずそいつの胸ぐらをつかみ、引き寄せるとそいつの鼻頭に頭突きをかます!
「この野郎!」
そいつ愚にもつかない事をしゃべった瞬間、俺はそいつを殴り飛ばし、殴り返したそいつの拳を顔面に浴びながら足を掴んで持ち上げ、そのまま押し倒す。
「くたばれこの野郎!」
俺はもう怖いものも痛みも感じず、とにかく奴をぶちのめさんと寝転がる奴に掴みかかる。
次の瞬間、俺は他の奴にわき腹を蹴り飛ばされ、そしてほか何人もの上級生にフクロにされる。
痛みと苦しみ、憤怒と憎悪の中で俺は意識を失い、そして暗闇の中に落ちた。
◇◇◇◇
次に目を覚ましたのは夕方だった、心配した王子、イリアン、シド、イフリアネ、クラリアーナにルシェルに見守られ、俺は目覚める。
「よかった、本当に良かった」
王子がそう言って俺の腕を握った。
「あれ?俺はどうなったの?」
俺がそう尋ねるとイリアンが「執事の人が医務室に運んでくれたんだ」と言った。
「そうか、じゃあここは医務室なんだね」
「うん……目を覚まさないんじゃないかって心配したんだ」
「イリアン、ゴメン……」
俺がそう言うとイリアンが感極まって泣き始めた。
それを見てシドが、落ち着いた声音でこう言った。
「それよりもどうする?
俺たち上級生に目を付けられちゃった。
マスターもいないし、明日から俺達やられるよ……」
……ああ、ゴメン。短気な俺のせいで迷惑をかけてしまったらしい。
そう思って申し訳なく思った俺に、ルシェルが言った。
「ラリーは悪くないよ、悪いのはアイツらだよ!
アイツら、いつか目に物言わせてやる」
彼女がそう言うのは珍しいので俺は「その時は手伝うぜ」と言った。
彼女はあきれた顔で「なんか大丈夫そうじゃない……」と言った。
ごめんね、可愛げがなくて……
こうして俺はこのまま眠りにつき、目を閉じた。次に目が覚めたのは夜である。
夏の夜、盛大に泣く虫の声で目が覚めた。
目を開くとそこにはあの有名な“見知らぬ天井”が存在している。
上級生のリンチを食らって落ち込めば、きっと俺もシンジと呼ばれるかもしれない。
だが俺はシンジではない“生意気なラリー”である。
見知らぬ天井を見て思うのは憤怒のみである!ぶっ殺してやるあのカス野郎どもっ。
この俺を誰だと思ってやがる!
上等だ、明日俺をさらに絞り上げるってんなら明日を待つまでもねぇ。
ただ数年俺より早く生まれたからって偉そうにしやがって……
俺はむくりと起き上がると、憎悪に満ちた声で呟いた。
「今夜、トゥナイトだ!」