その剣に理を込めよ!
「ようし、走れっ!」
今日も今日とて、俺達の修業が始まる。
掛け声の主はソードマスターのボグマス、そして行うカリキュラムはマラソンである。
ハッハッハッ……
息を荒げ、走りこむ7人の子供達。
この広大な建設中の大学の敷地の外を3周もするのである。
俺はとにかく先頭を切って走る、そして苦しい息の中で振り返ると、それほど離れていないところにルシェルとお嬢のイフリアネが付いてきている。
(クッソ、引き離せねぇぇぇ。
あの女どもサッサと諦めて落ちてしまえ)
剣術ではこの二人に全く勝てる気配がないので、それ以外で何としてでもこいつらに勝ちたい俺は、盛んに胸の内で女どもを呪いながら全力で駆ける。
やがて願い叶って、俺はギリギリでこの女どもとの死闘に打ち勝ち、トップでゴールした。
「はぁ、ぁハァー。っぐ、はぁっ……」
おれはそのままゴール地点でへたり込み、やってきた女どもに「見たかっ!」と言ってやった。
「ハァ、はぁっ……フンッ、死にそうじゃない!」
イフリアネがそんな俺に、鼻で笑って答える。
ゴールでこの様子を見ていたボグマスが「ラリー、負けん気が強いのは良いが、偉そうにするな、お前の方が剣術は下手なんだぞ」と俺に声を掛けた。
それを聞いたルシェルがほれ見た事かと言わんばかりに「そうよ、そうよ!下手のクセにっ」とボグマスの尻馬に乗る。
「なんだと!来年の今頃はそんなことも言わせないからなっ!」
「そんな日は来ないわよ、絶対!」
絶対と言いやがった、ルシェルめいつか目にもの見せてやる!
こうして顔は良いが、男みたいな女どもに全部で負けるのが嫌いな俺は、事あるごとに張り合う。
それが今の俺の日々なのである。
初めての練習から一週間が過ぎた。
相変わらずボグマスから目を付けられるかわいそうな俺は、面白くないので俺より褒められることが多い、同じ学校の女共と張り合って生きていた。
こうして知り合って7日位で女どもから『あんたなんか嫌い』と言われる事すでに30回以上。
俺はこうして女の敵に生まれ変わったのだ。
……なんか、むなしいけどな。
この後ゴール付近で全員が来るのを待つ俺達、次にゴールしたのは王子様で、そのはるか後ろを団子になってクラリアーナとイリアンとシドがやってきた。
マラソンを終え、皆ゼェゼェと息を荒げてゴール付近で固まる。
それを見て、俺達のカリキュラムを考えるボグマスはこう言った。
「よし、それでは今日は教室で座学をやる。
たぶん夕方は雨になるからちょうどいい」
雨?外はところどころ雲がちらつくが、いいお天気である。
ただまぁ、楽ができるのは良い事である、俺たちは『分かりました!』と元気よく返事をし、満足そうなボグマスを先頭に教室に向かった。
実は座学をやるのは今日が初めてである、だから何を言われるのか興味があった。
こうして俺たち男子一同は、初めて教室の中へと足を踏み入れる。
剣術で使う教室と言うのは少し変わった形をしていた。
椅子があり机があり、全身の関節が人間のように稼働する等身大の木人形が二つあり、そして広く取られた舞台が。教室前方の中央に置かれている。
それを囲むように男子女子、それぞれ分かれて固まって座ることになった俺達。
ボグマスはそんな俺達に、インクと羽ペン、そして羊皮紙を渡してこう言った。
「それでは諸君、座学を始める。
各自好きにメモを取るように……
その前に諸君に聞く、なぜ我々は最初に戦う術として剣を学ぶのか……考えた者はいるか?」
『…………』
俺を含め、此処に居る子供たちはそんなことを、誰も考えたこともなかったので、顔を見合わせて戸惑う。
それを見てボグマスは言った。
「では質問を変えよう、なぜお前たちは剣を学ぼうと思った?
正直に言え、決して怒ったりはしない。
じゃあイフリアネから」
「私は……剣士になりたかったからです」
「それは素晴らしい、では次ルシェル」
「お嬢様をお守りし、自分の家を守るために無駄にならないからと、お父様に言われました。
いつか結婚した時、強い子を産むのだそうです」
「そうか、お父様の希望か。次はクラリアーナ」
「お嬢様と一緒に居たいからです」
「なるほど、ハッハッハッ。
たしかに忠実な部下はそう考えるな、では次はフィラン」
「分かりません、ラリーが学ぶから一緒に来ました」
「そうか……ではそのラリーに聞こう。
ゲラルド、お前はなぜ剣を学ぶ?」
「自分は騎士になりたいのです、騎士になってフィランを守る強い男に成りたいのです」
「……お前なら、そうだな成れるかもしれんな。道は遠いが不可能ではあるまい。
しかし、そうか……騎士になりたいか……
他の子で騎士になりたい子はいるか?」
『…………』
「誰も手を上げないな、分かった。
ラリー、本気で騎士を目指すなら朝に私の家に来い、特別に訓練をつけてやろう」
それを聞いたイフリアネが「先生、それは狡いです!」と声を上げた。
するとボグマスは慌てて「ラリーには限らない、望めば私の家に来い!」と叫んだ。
「私は毎朝、日の出と共に起きて、ランニングに出る。
その時間に間に合えばだれでも参加を認める、別にラリー・ヴィープゲスケにだけ認めたわけではない」
ボグマスのその説明に納得したのか、イフリアネは大人しく引き下がる。
そしてボグマスに向ける敵意を下げた彼女だが、少しうつむいた後、俺を好戦的に見返した。
“お前には負けないよ”とその視線は俺に物語る
俺だってお前に後れを取る物か!そう思った俺は返礼がてらに睨み付けてやった。
ボグマスはその様子を見て「はぁ」とくたびれたように溜息を吐くと、イリアンに発言を求めた。
イリアンは答える。
「僕はいつか海の向こうに行きたいです。その時戦える術を身に着けたいと思います」
え、イリアンってそんな夢があったの?
初めて知ったんだけど……ていうかあいつホーマチェット伯爵領の跡継ぎだけど大丈夫か?
「海の向こうについてはすまんがよく知らない。
ただ海の向こうに行っても剣の技は必ず役に立つだろう。精進をせよ……次にイリアシド」
「はい、僕は自分が何になれるのかを知るために剣を学びたいと思います」
「どういうことだ?」
「僕は聖地のネリアース家出身です、でも聖地に帰れるかどうかもわからなくて……
最悪この地で暮らしていくかもしれません、その時自分の手に、何かの技術をつけたいのです」
シドの言葉は時折6歳とは思えない、大人びた苦渋の色が見え隠れする時がある。
今回もそれを感じて、俺はシドの顔を見た。
いつも俺らと一緒に笑い転げる、6歳とは思えないイリアシドがそこに居る。
ボグマスは子供達から一通り話を聞き終えるとこう言った。
「皆、分かったと思うが習う物は一緒でも、その動機は一人として同じものは無かった。
そういう物だ、だが総じて剣を学ぶという物はその動機がもたらした、目標全てを叶えてくれるモノである。精進せよ諸君。
では最初の質問に戻ろう。
皆の事を知れて非常に有意義ではあったが、話が全く関係ないものになりそうだからな。
なぜ剣を学ぶのか?答えを言おう……
それは、剣は哲学と暴力の芸術であり、剣を学ぶことで棒術も槍も杖も、その基礎を学ぶ事が出来るからだ。
そしてその中には“哲理”が存在する。
私が剣を通じて最も教えたいのはこの“哲理”に他ならないのだ。
では“哲理”とは何か?
それは物事の道理である、例えば諸君!
馬にはたくさんの種類があり、そして人のもたくさんの種類がある。
農耕馬もいれば軍馬もいるし、南の大陸には縞模様の馬だっている。
人間だって奴隷もいれば自由市民もいて、戦士もいれば貴族もいる。
そのすべてが馬と呼ばれるもの、または人間と呼ばれるもので間違いはない。
なのにその同じ馬、人間の間に区別が存在するのはなぜだと思う?」
そんなことを考えたことがなかった俺達は顔を見合わせて、互いに困惑した表情を確認し合う。
そんな俺達の様子は見ているソードマスターを楽しませたらしく、彼はニコッと微笑むとこう言った。
「それはそれぞれに存在する理由があるからだ」
『…………』
そんなのは分かっている!そう思った俺達は沈黙で答える。
そんな剣呑な俺たち小さな子供の視線に、ボグマスは動じることなくこう言った。
「まぁ、そんな目をするな。
これから大事な事を言う……
もしも諸君らが道理をわきまえたら、その理由や答えを見つけられたはずである。
例えば軍馬になれるのは強くたくましい、鎧を着た戦士を乗せても走り回れる馬だけだ。
また、そんな馬でも戦士に出会わなければ軍馬として、戦士たちと共に栄光を分かち合う事は無かったはずである。
人もそうだ、もし手先が器用でなければ職人にもならなかったはずだし、その中で自分の財産で勝負すると決めなかったものは店主にもならなかったはずである。
恐れ多い事だが王と呼ばれるものも、王となることを決意し、その為に困難な道に対し一歩も踏み出さなければ、その者は王にならなかっただろう。
こうした結末に至った理由に関しては。体の外に要因があったり、自分の胸の内側に要因があったりと……その理由の居場所はそれぞれだと思う。
だが道理に基づき、存在する理由があってそうなったというのは共通のはずなのだ。
我が聖騎士流の剣は、足さばき一つ、剣の構え一つ、斬りかかる時の軌道にしても、鍔迫り合いにしても、全て理由が存在すると考え、理解することに特徴がある。
だからこの流派では。頭と体、心と感覚が全て一体となり、それを剣で表現できた時、マスターと呼ばれるのだ。
諸君!今日学んだこと、今日の友の剣筋、全てに理由があって教わり、そして味わったものだ。
これからは、常にその理由を考えよ……
道理を学ぶとは、考える事を学ぶことであり、考えた結果、答えの引き出し方を学ぶことである。
そしてそれこそが哲理・哲学と呼ばれる学問の目指している事なのである。
剣で諸君らはこれから哲理を学ぶ、それは将来を担う名門貴族の諸君らの力に、きっとなってくれるだろう。
だから剣を学びなさい、強くなるにつれ、諸君らは哲理をその身に修めていくことになる。
そしてその過程で得た考える力で、将来大きな困難に立ち向かってほしい。
分かったな?」
『…………』
子供たちは再び沈黙した、難しすぎたのだ。
しかし俺は中身がおっさんである、その深みのある言葉にいたく感動し、食い入るようにボグマスの顔を見た。
なので手を挙げて聞いた。
「先生、どうしたら哲理を学べますか?
自宅でも自習できますか?」
俺がそう尋ねるとボグマスは「いい質問だ……」と答えて、自習の仕方をいろいろ教えてくれた。
彼が教えてくれたのは哲理と言うよりも、剣の自習方法だった。
身体の形を絵にかいたり、文章に書いたり、鏡を見ながら構えたりすると良いらしい。
それをすることで、この動きだと無理があるとか、この手筋は減らせるとかを思いつく事が出来るのだそうだ。
おれはその言葉を聞き漏らすまいと思って聞き入る。
家に帰ったら早速試してみるつもりである。
さて、俺のせいで中断させてしまったが、ボグマスの講義はまだまだ続いた。
「聖騎士流では相手との勝負で優位に立つために、以上の事を考える。
それは“判断”と“距離”そして“時間”最後に“位置”だ。
その他の原則を多く知る必要があるが、聖騎士流では特にこれら4原則を重んじる。
ただ漫然と本能に従って剣をふるう事は推奨されず、常に理に身を置いて戦う事を求められる。
故に我々は座学を重んじるのだ、そうすることによって頭でも、体でも相手を凌駕し、勝つ事が出来る。
剣は学び終えるという事は無い、マスターと名乗った私でも日々発見の連続だ。
皆も剣に対して真剣に励んでほしい」
俺たちはマスターボグマスの熱意に打たれ、静かに食い入るように彼の言葉を聞いた。
その日俺たちはもう一つの構えを教えてもらう。
それは“犂の構え”と言われるもので、屋根の構えから振り下ろされた剣が、そのまま腰の位置で構え直される構えである。
両手で構えた剣が、腰にぴったりと張り付くこの構えは、振り下ろした剣が、再び頭上に掲げられるのは時間の無駄だと考える、この流派の思想でできている。
聖騎士流の思想とは何か?
剣道と比較するとだいぶ異なる。
剣の構えは、剣道のようにずっと中段、すなわち正眼の構えに戻る訳ではないのが特徴だ。
考えてみると上から振り下ろした剣はそのまま下の方に剣先が落ちているのだし、それを再び上段ないし中段にするよりも、そのまま下段の構えにしてすかさず次の一撃を繰り出した方が時間の節約になる。
一事が万事こんな考え方の連続で、まさに哲学と理の塊なのである。
とにかく最短、最小の動きで次々と一撃を繰り出す哲理の剣、聖騎士流。
俺は取り始めたメモが膨大なものになる。
(すごいや、これはすごい思想だ……)
これまで嫌と言う程やらされた歩法が、攻撃線より、体を逃がし、逆に相手を追い詰めるものであると、教わる。
改めて学んだすべてに意味があると分かると、俺は妙な感動を胸に抱く事が出来た。
ああ、あの練習はあの為か、この練習はこの後こういう事を学ぶための下地なのか……
そういう事が座学を通じて俺の耳に届く。
その日の練習は、この座学で終わりになった。
……結局、雨は降らなかった。だけども随分と実りの多い一日だと思う。
練習が終わった帰り道、馬車乗り場に向かう道すがらで、俺は叫んだ。
「凄いよ、これは凄いよ!フィランッ」
凄い事を学んだ!その実感に俺は嬉しくなる。
ところが彼はびっくりした表情で俺を見つめ「そ、そうなの?」と尋ね返した。
分かってないなぁ、これは新しい剣だよ。
そう確信した俺は凄い勢いで言った。
「凄いよ、これはよく考えられているし、それになにより合理的だよ!」
「ふ、フーン……」
イリアンと王子はそう言って俺の勢いに圧倒された様子を示した。
しかしどういうわけだか反応が薄い。
その様子に(あれ、俺がおかしいのかな?)と思った。
俺は皆がこれに興味を持つと、思っていたのだ。
◇◇◇◇
「……とまぁ、こんな感じで皆の同意を得られなかったんだけどどう思う?」
俺は家に帰ると、さっそく部屋に猫とキツツキを集め相談をした。
「げぇーげぇーげ(テメェが良いと思ったんだったら、貫けばいいじゃねぇか)」
「王子様とイリアンやシドニャンは、お前とは違う人間ニャ。
お前はあの三人と比べて野蛮な所があるニャ、違って当然ニャ」
野蛮……って。
まぁいい、たぶん俺はバルザック家の血が入っているから、剣が好きなのかもしれないしな。
「うん、わかった。
まぁ、俺は剣を頑張るよ。
みんな同じ考え、同じ人ではないもんな」
「げぇっ、げぇーげ、ぐぅぅわぁ(それよりも朝の練習に参加するのか?
参加するなら早速明日から始めたほうが良いぞ、教える側が気持ちを切らすと教えてくれなくなるし、教えて下さいと言い難くなる)」
「それもそうニャ。さっそく寝たほうが良いニャ。明日も早いニャ」
「お、おう……」
何故か俺よりもこいつらの方が剣術修行にノリノリだ。
俺は目を真ん丸に見開きながら、何故か俺よりも楽しげなこいつらに頼もしさを覚えていた。
そこで気が付いたのだが、俺はきっと王子様達に、こんな感じで剣を一緒に励みたかったのかもしれない。
それが叶わないから釈然としなくて、こいつらに話を持ち掛けたのだ。
(俺も独りぼっちは嫌だったってことかな?)
そう思うと俺は一人ニヤけてしまった、こいつらが一緒に居てよかった。
「ニャンか、気持ち悪いニャお前……」
「…………」
とりあえず猫の首の後ろ掴んで持ち上げてやった
「離せ!離さないかっ馬鹿モンニャ!」
「うるさい!お前は口を気につけろ!」
こうして俺はネコとじゃれあって夜を過ごした。
◇◇◇◇
翌日、俺は猫そしてペッカーとを連れ立ってランニングをしながら貴族街の中を、マスターボグマスの家を目指した。
まだ太陽が出切らない、朝も暗い内である。
そして目的のボグマスの家にたどり着くと、もうそこに先客が居た。
「あれイフリアネ……」
「ああ、おはよう。あんたも来たんだ」
「ああ、そうか。朝も来るみたいな話だったな」
俺と同じく家人もつれずにやってきた伯爵令嬢。
ますますこいつに負けたくないと思い始めていた。
この後俺たちは特に何も話すことなく、太陽が昇るのを待つ。
やがて、太陽が地平線から登り始め、黄金色の輝きが大地を、家々を黄色に照らし出す。
鶏が鳴き出し、朝の訪れを告げた。
「ゲラルド……」
お嬢がこの時俺の名前を呼んだ。
俺は「ラリーでいいよ」と言って、お嬢様の横顔を見た。
彼女も「だったら私もリアでいい」と言った。
俺は少し嬉しくなり「分かったよ兄弟!」と言った。
女に対してこれは無いと思ったが、お嬢様は一瞬あっけにとられた顔をした後「あッはッはッ!」と笑い出した。
彼女はその後俺の名を呼んだにもかかわらず、何もしゃべらなくなり、俺も笑ったんだから問題は無かろうと思って、語り掛ける事はしなかった。
二人静かに、別に居心地の悪さを感じる事もなくボグマスの家の前で待つ。
やがてドタドタとした足音を立てながら、彼の家の扉がわずかに開き始めた。
いよいよ、訓練の開始だ……そう思って身をこわばらせた俺とリア。
そして扉から現れたボグマス、彼は家の中を振り返りながら大きな声で言った。
「それじゃぁハニー、今日もお仕事頑張って来るからねぇー」
『!』
俺とリアは戦慄した!そして顔を見合わせる。
あの大男の口から“ハニー”破壊力のある衝撃の、いや笑撃の一言っ!
「あなたぁ、行ってらっしゃいのチューは?」
“行ってらっしゃいのチュー”俺とリアは脳死寸前、何も考えられない!
……嫁、いたんだあのおっさん。
そして再び閉まったボグマス家の扉、静かな朝焼けの空に響いた“ちゅぱっ!”と言う恥ずかしい音。
チューした、今間違いなくチューしたっ!
「…………」
俺はなぜか、この時黙って俺の肩に止まっていたペッカーの顔を見た。
奴は言った。
「げぇ……(セーフ)」
基準は分からないが、ペッカー的にはラブイズオーバーの対象者ではないらしい。
次にポンテスの顔を見た。
「この国特有の……ポンコツニャ」
ああ、うん。なんかわかる気がする……
やがてつやつやとした表情で、満面の笑みを浮かべた、聖騎士流の全てを修めたソードマスター、ボグマスが現れた。
「…………」
『…………』
お互いに黙って見合う俺ら、やがて彼は俺らが何を見たのかを察したようで、次の瞬間真っ赤な顔で絶叫した。
「なぜお前らがここに居るんだぁっ!」
なんとまぁ、ひどい言われようである。
やがてボグマスは家の中に入り、そして今日の朝練はそのまま無い事になった。
代わりに妊娠中の美人の奥さんが出てきて「ごめんなさいね、明日はちゃんと練習するから……」と俺達に告げる。
『…………』
とりあえず剣術学校の前をランニングした俺とリアは、あんな大人にはならないようにしようと互いに誓い合って別れた。
数時間後、早速王子様達にこの事をばらしたのは言うまでもない。
僕らの中でしばらく“ハニー”は流行語になる事だろう。
ざまぁみろ、ボグマス……
 




