幕間2 王にしてアルバルヴェの変革者
―アルバルヴェ王国首都セルティナ
フィロリアの諸国において大国と呼べる国は全部で4っつある。
ヴァンツェル・オストフィリア国。
ダナバンド王国。
アルバルヴェ王国。
そしてマルティ―ル同盟である。
正確にはマルティ―ル同盟は各国の集まりである。
その盟主の国名はエルドマルク王国と言った。
このエルドマルク王国国王はハルアーナ、ナシュドミルと言った国々の王を兼務しており。これを同君連合と言う。
だからマルティ―ル同盟加盟国の内8割の領域は、エルドマルク王の治める国なのだ。
そんなエルドマルク王国の王の名をファルコ5世と言うが、彼が派遣した使者がアルバルヴェ王国首都セルティナにやってきた。
使者はさっそくホリアン2世の前に通される。
「偉大なる王ファルコ5世の命でこちらに赴き……」
「ああ、いらんいらん。
私は奴とは親友だ、使者殿はここを別荘のように思って寛ぐがいい」
驚く使者は、自身の王を称賛することもできず、面食らった顔でそこに立ちすくむ。
こうして最初にジャブ代わりに、横柄な対応を見せたホリアン2世。
彼は“してやったり!”と思い、イタズラ好きの子供のような笑顔で使者に言った。
「使者殿はファルコから、私とアイツとの間で何があったのかは聞いていないようだな」
「ああ、はい。まったく……」
その返事を聞き、ホリアン2世は得意げな笑みを浮かべると、使者に親しみのこもった声で語った。
「今から23年前、私はヴァンツェル・オストフィリア国に、外交のために赴いた。
するとそこにアイツが居たのだ、一緒に帝国のくだらない奴にケンカを売ったり、一緒に酔っぱらったりと楽しく過ごしたものだ。
そして彼も今や立派な国王か、昔アイツはヴァンツェル・オストフィリア国の覇権を覆して、マルティ―ル同盟を今よりも栄えさせてみせると言っていたが……」
まさか王個人がそれぞれ面識があり、仲が良かったとは聞いていなかった使者。
彼はこの和やかな空気に当てられついつい。
「いやそれはそれは……私にその経緯をおっしゃってくれれば良いのに。まったく私の主もお人が悪いっ」と苦笑いを浮かべながら言った。
ホリアン2世も「はっはっはっ!」と和やかに笑いながら。「家臣がその様な事を言うとはいかんな。ファルコに手紙でこの事は伝えてやろうかな……」とからかう。
使者は「いや、アルバルヴェ王。それはどうか……どうか」と言って、笑いめかして詫びる。
ホリアン2世はこのように笑いが分かる人間が好きなので、使者の名前を尋ねたりと、和やかに会談を進めた。
使者の名前はアームラングと言った。
初めて会ったとは思えないほど二人の雑談が進み、ホリアン2世は思い出したかのように改めて使者の用件を尋ねた。
「使者アームラング。そなたの話は面白くて大変良いのだが。
ところで使者殿……何しに来たのだ?」
そう言われて焦ったのは使者アームラングである。ついさっき子犬が3匹生まれた話をしたばかりだったからだ。
「あ、そうっ。そうなんです陛下。
実は我が国の国王は、香辛料独占を続け。
莫大な利益を独り占めする帝国の横暴から国を守らんと、日夜奮闘を続けているのですが、その為に陛下のお力をお借りしたくて伺い……」
「なんだ!早く言えっ!」
早速声をかぶせるホリアン2世。
和やかな雰囲気から一転、使者はせっかちなホリアン2世に面食らいながら、言葉を選ぶ。
使者は礼儀正しくあるよりも、端的に物事を伝えたほうがホリアン王の心証は良かろうと考えた。
「ではさっそくですが陛下、我が国と共に南の大陸、およびその島を開拓しませんか?」
「島?ヴァンツェル・オストフィリアと戦うのでもなくてか。
正直気が乗らんな……」
「帝国とはいずれ争う事になりましょう。
ですが今はその時ではないと我らの国王は考えております」
帝国と争う……その言葉に若き日の二人の思い出がホリアン2世の胸によみがえる。
そうか、アイツはまだあきらめてはいないのか……ならば話に乗ってやりたい。
「フーム、南の大陸には何があるのだ?」
「はい、帝国を脅かす素晴らしいものが眠っております。
きっと気に入っていただけるかと……」
「ほう、何か持ってきたのか?」
すると使者は「これです」と言って一つの根菜を差し出した。
不格好にゴツゴツとした、つるりとした見た目の野菜である。
ホリアン2世はそれを手の中で玩びながら、鼻の所に持って行き、興味深げに匂いを嗅いだ。
それを見た使者はニヤリと笑って「いかがでしょう?」と尋ねる。
「これは……ショウガに似ているが?」
「ハハッ、さすがに気付かれましたか。
そうですこれはショウガでございます」
ショウガは香辛料の一つであり、ヴァンツェル・オストフィリア国から運ばれる輸出品の一つである。
ただし乾燥したものが、だ。
ホリアン2世は驚き「だがこれは生だぞ?」と言った。
次の瞬間ホリアン2世は使者が言った南の大陸の素晴らしい物の正体に気付き、ニヤリと笑って。
「そういう事か、南の大陸でショウガが取れるのか!」
「さすがのご賢察でございます!」
「ショウガとは南の大陸にあったのか……」
「いえ、そうではございません。
ショウガははるか東の国が原産でございます、賢明なる我が国王はその国と同じ気候の南の大陸なら、ショウガを育てられるのではないか?
そうお考えになり、みどもにショウガの栽培をお命じになられたのです。
そしてついに、ショウガを取る事が出来ました」
「なんと……羨ましい事だ」
「ですのでアルバルヴェ王、ともに南の大陸の開拓をしませんでしょうか?
南の大陸は文明からは遠き場所なれど、様々な気候が点在する、多様な生態系が存在する場所でございます。
今回はショウガの栽培に成功しましたが、グローブ、ペッパー、チリ、ソマリ。まだまだ栽培を試みたい香辛料は数多くございます」
このフィロリアの常識では、作物と言うのは原産地でしか栽培できないと言うのがこれまでの通説だった。
マルティ―ル同盟では、そんな常識に挑戦し、遂にはそれを乗り越えたと言う事である。
ホリアン2世は純粋にソコに感心し、次に疑問を持った。
「ふーむ、なるほど。
しかし分からないな。何故そんなおいしい話を私にするのだ?
自分達で行えばよいではないか」
「はっ。ご懸念はごもっともかと思います。
しかしながら我が国から南の大陸に向かうならば、世界の西の果てである、貴国の領海を航海するしかありません。
また嵐に見舞われた際に波除けの港としても、アルバルヴェの港に寄港を願い出る事もきっとあると思われます。
そうなればいずれはわが国が香辛料を栽培していることは知られてしまいます。
それならば、いっそ我々とアルバルヴェで通商条約の締結をしてはどうかと、陛下はお考えでございます」
「なるほど、筋が通っておるな……」
「できれば閣議にお掛けになり、この事を前向きにご検討くだされば……」
「いや、その必要はない。やろう」
「はっ?……あ、いや。
あ、ありがとうございます」
まさかこんなに早く決断が下るとは思わなかった使者アームラングは、急転直下決まったことに驚く。
それと同時に、これを可能にしたホリアン2世の王権の強さにも驚いた。
しかし「ただし!」とホリアン2世が言った。思わず身をこわばらせるアームラング。
「ファルコに伝えてほしい、我が国は長く内陸国だったので、航海術や造船、船員の教育などの力量が不十分である。
そこでマルティ―ル同盟の技術を我が国に販売してもらいたい」
「技術の販売ですか?」
「そうだ、正確には教員を務める人材をマルティ―ル同盟から派遣してもらいたい。
船大工に、航海士、ベテラン船員などだ。
もちろん高額の給料は支払う」
「分かりました、この事は必ず我らの王にお伝え致します」
「うむ、良い返事を期待する」
彼はこうして使者の役目は終わり、帰国してこの事をファルコ5世と話し合う事が決まった。
ホリアン2世の要求は常識的な範疇に思えたので、おそらくファルコ5世も了承するだろう。アームラングはそう思った。
この後だがアームラングの事が気に入ったホリアン2世の勧めで、その日の夜にホリアン2世と王党派貴族との酒宴に招かれる。
王宮の一室、夜になって開かれた酒宴の顔ぶれは錚々(そうそう)たるもので。
アルバルヴェ王ホリアン2世。
アルバルヴェ王国宰相クラニオール卿。
アルバルヴェ王国元帥ホーク将軍。
アルバルヴェ王国ホーマチェット伯爵。
アルバルヴェ王国マウーリア伯爵。
アルバルヴェ王国王太子で、旧ルシナン伯領、現在の名前はラール・アルバルヴェ公爵のリファリアス。
そして……アルバルヴェ王国の魔導士のトップであるパパさんこと、ヴィープゲスケ男爵が出席した。
酒宴では話が止まったら、さっそくホリアン2世がパパさんをからかう事で、和やかに話は進む。
いつもの様にからかわれてばかりで……やがてパパさんの目からは、様式美のようにハイライトが消えた。
酔ったマウーリア伯が「だらしないぞ!貴様っ!陛下に言い返さぬかっ」と、決して出来ないことをパパさんに申し渡し。
ホリアン2世が「私のグラニールに指図するなっ!ほらグラニール、パンをくれてやろう」と言ってさらに煽る。
こうしたことの積み重ねで、気づけば微笑み人形のようになるパパさん。
この様子に出席者全員大笑いである。
……この出席者の中で明らかに、格が低いパパさんは良いオモチャなのだ。
豪快で乱雑さが色濃く残った、尚武の国アルバルヴェの酒宴。
ふと、ホーク将軍がこの勢いにゲストが付いてこれるのか心配になり、アームラングに尋ねた。
「使者殿、我が国はついこの前まで戦争が続いていたせいもあって洗練されているとは申せませぬ。
ご不快に感じられませぬか?」
「いやいや、むしろ君臣がこれほど近く、また楽しげであるのを見れてこれほど愉快に思える事はございません。
この国はますます発展するでしょうし、ぜひとも同盟できるほどに仲良くしたいものです」
「そうだ、そうだ!」
この言葉を聞いてホーマチェット伯爵が、べろべろに酔っぱらいながら言った。
「使者殿よく言ったっ。我が国の強さはこの光景にある。
王が力量に優れ、家臣がそれに及ばぬまでもだ……死力を尽くして奮闘するっ!
これで成功しないはずがぁ……ぬわぁーい!」
そのままホーマチェット伯爵は、席を立ってふらふらしながら酒杯を高々と掲げ、叫んだ。
「ホリアン王!愛しておりますっ」
ホリアン2世はげらげら笑いながら答えた。
「うむ、よく言った!献金を申し渡すっ」
「あ、陛下。あの献金はちょっと……」
宰相のクラニオールはそれを見て楽しそうに「ホーマチェット!歯切れが悪いぞっ」と茶々を入れた。
やがてホーマチェット伯爵はパパさんに水を差し出され、席で大人しくそれを飲んだ。
こうして和気あいあいと楽しく進む酒宴。
やがて空気が大人しくなったところでホリアン2世は使者のアームラングに、昨今のエルワンダルでの戦争について尋ねた。
「使者殿、あなた個人はエルワンダルでの戦争はどう思われますかな?」
「どうとは?」
「ヴァーヌマとかいう若造が無謀な戦を挑んでおる。
ヴァンツェル・オストフィリア国の動員兵力は10万を超える。
ダナバンドはその4分の1だ。
到底勝ち目のない戦になると思うのだが」
「それでしたら陛下、それほどダナバンドにとっては分の悪い戦ではございませぬ」
「どうしてだ?」
「皇帝は大変欲深いお方。
自由都市を取り締まる気はなく、際限なく皇家に財産をため込んでおります。
その為諸侯と皇帝との間にギスギスした空気が漂っております。
それに3000名の兵士を持つと言う諸侯も、財政難のため実際には1000名ほどしか兵士を手元に置いていないとか……
帝国軍10万と呼ばれていますが、皇帝直属の20000の兵士を除けば、エルワンダル地方を失陥した後ですと。
おそらく20000ほどしかいないのが現状ではございませんか?」
「フム、併せて40000か」
「しかも皇帝はエルワンダルを攻め取ったヴァーヌマを懲罰すると言いながら、自分の兵士は5000ほどしか出さないとか。
他の諸侯もこれを見てどれだけ兵士を差し出すのか……」
「なるほど、ならば帝国の軍勢は10000ほどだな。
ヴァーヌマの方は15000ほどを動員するのか?」
「おそらくは……諸侯も最初はヴァーヌマを見限っておりましたが、今は奴の力量を信じ始めているとか」
「……もしヴァーヌマがエルワンダル地方を完全に掌握すればダナバンドは、最大40000人以上の兵士を動員できる。
帝国との国力の差も逆転しかねないな」
「ダナバンドの諸侯もこれだけの力を持ったあの若造を恐れるでしょう。
ヴァーヌマが望めば……でございますが。
おそらく女王はヴァーヌマをエルワンダル公に任命の運びと、私は睨んでます。
こうすれば王の直属軍とヴァーヌマの兵士を合わせて25000動員できますし、これだけの軍勢に誰も逆らえますまい。
一度はあの若造に逆らったダナバンド人……
ダナバンド諸侯の独立と自治は、もう終わったも同然じゃないでしょうか?」
その話を聞きながらホリアン2世は思った(本当に危険なのはダナバンド諸侯ではない、国境を接する我々なのだ)と。
何せ我らは、ダナバンド人ではないのだから……
使者はその翌々日に帰国の途に就いた。
ホリアン2世はその日、執務室に宰相のクラニオール、そして元帥のホーク、さらにパパさんを呼び寄せた。
4人は椅子に座り、王に対し、3人が並んでソファーに腰かけながら、真剣な話を始める。
「よく来てくれた。
毎度国事の事については通常グラニールは臨席しないが、今回はお前にも関係があるので来てもらった」
「はっ!何なりとお申し付けください」
ホリアン2世は「うむ」と頷くと、宰相の方を見て尋ねた。
「宰相はダナバンドと帝国の戦争はどう見る?」
「はい、色々調べたところ。
どうやら優秀な指揮官をヴァーヌマは雇ったらしく、各地で勢いがあるのはダナバンドの方であるとか……」
「そうか……ホーク将軍。今の我々でダナバンドに勝てそうか?」
「難しいです。純粋に動員力がございません」
ホリアン2世はふぅと物憂げな溜息を吐くと、パパさんの顔を見て言った。
「グラニール、ダナバンドと我々との間にある国力の差。お前ならどう埋める?
と言うよりも、まず埋めるためにはどうすればよいと思うのかを述べよ」
パパさんは自分が呼ばれた意味を思いながら、ホリアン2世に答えた。
「人材を求める必要があります。
国内、国外を問わず……」
ホリアン2世はその言葉を聞くと「分かっているじゃないか」と言って、機嫌よく次の言葉を紡いだ。
「グラニール、そなたは今我が国初の魔導大学を作ろうとしておる。
その進捗も気になるが、何よりも私が気になるのは、魔導だけの大学を作るのはどうなのか?と言う事だ」
「は、それはどういう事で……」
パパさんがそう言って目を丸くしていると、王は自分の構想をつまびらかにした。
「魔導・魔法を使えば野戦陣地の建設も今よりも高速でできる可能性もあるだろう。
それに3人一組で一人が盾持ち、一人が剣を構えて、もう一人を魔導士にすれば、これまでとは違った軍の運用もできるかもしれぬ。
さらに言うと土木工事にだって活用すれば、今よりも広い耕地を開墾できるかもしれぬ。
そうは思わぬか?」
パパさんは王のその言葉を聞いて、頭が開く思いがした。
たしかにその運用は理にかなっている。
……ただ、土木工事はもう既にやってはいたが、別にそれを指摘して王の不興を買う事は無いので黙っていた。
王は言う「魔導だけではなく、この国の魔導の在り方を勉強する大学を作ってくれグラニール」と。
この言葉を聞いたとき、パパさんの胸に熱い思いが込み上げた。
これまで王家の家宰の手伝いみたいな仕事か、近衛の仕事ばかりだったパパさん。
その運命が変わろうとしている。
この国のためになる大きな仕事を、やっと自分に任せてくれた、と思った。
(彼(王)が自分の国をこんなにも愛していたなんて、こんなにも大事な仕事を自分にまかせてくれるなんて。
……そしてこんなにも、魔導に対して理解を示してくれただなんて)
「う、うう。ぐすっぐすっ……」
「何故泣く?グラニール」
「嬉しいです陛下、こんなにも私を評価して頂けるなんて……」
パパさんがそう言うとホリアン2世は手を伸ばし、励ますようにポンポンとパパさんの手を叩き、微笑んだ。
嬉しそうに泣きながら微笑み返すパパさん。
「グラニール、そこでお前に新しい仕事をしてもらう」
「……なんなりと」
「これから私は新しい役所を作ろうと思う。
名前は“学芸院”だ。
この役所は我が国の学校の内、我々が必要と考える学問を教える学校には、補助金を支給する役所であり。
学芸院はそれらを管理し、適切に補助金が使われているかを調べるのが仕事である。
つまり補助金を授ける代わりに教育の内容を、学芸院である程度制御するのだ。
専門学校から大学に至るまでの学内において捜査権と、拘束権も保有し、中で何が行われているか分からなくなりがちな、学校を統制する。
さしあたっては初等教育と、剣や魔導などを教える学校。何よりも海軍の学校や航海士などを教える大学を作らねばならないし。
これらを国の機関として、この国のためになるものにしたいのだ。
それに必要な学校用地の取得や教師の確保なども、もちろんこの学芸院の重要な仕事である。
大学を作る仕事と並行しての作業で大変だが、やってくれ」
「かしこまりました!
……ですが、まことに心苦しいのですが。
二つお願いがあるまして……」
「なんだ?」
「近衛の仕事は、これらの仕事をしながらだと不可能に近いのです。
そこでこの仕事と男爵の位を、息子のシリウスに継がせたいのですがよろしいでしょうか?」
「うむ……まぁ良い。で、他には?」
「実は、妻の実家からお願いされたのですが……
以前陛下に罪深い事をした者が居まして、まぁさして悪い事をした者ではないのですが……
その者はいま騎士爵をはく奪され、自宅に謹慎状態になっております。
ですが彼は在野に居る人間の中で唯一、ドイド・バルザック殿より聖騎士流剣術の全てを授けられた者です。
彼は大いに自分の行いを悔いており、反省もしております。
それでもし、お許しがいただけるならば、今度作る大学の剣術の教師として招き入れたいと思うのですがいかがでしょうか?」
「何をしたんだそいつは?」
「はい、ルシナン伯爵に仕えていた騎士でしたが、連座して捕まっていたものです。
それで脱走して自宅に逃げ帰り、その後バルザック家を通じて私に連絡が着た次第です」
「警察ではなくてか?」
「はい、警察では話を聞いてくれないかもしれず。私に自首をしてきました」
ホリアン2世の中で、ルシナン伯爵について、特にどうこうと言う思いはない。
お金を盗み、牛に吹き飛ばされた連中と、脱税に励んだ連中と言う認識だった。
と、言うのも。
警備の兵は不祥事続きで明らかに自分の首が危うくなるので、皆で揉み消しをしたからである。
なのでホリアン2世は、山荘の地下牢に騎士ボグマスが捕らえられて居た事は知らない。
警備兵の失態の揉み消しには、マウーリア伯と、パパさんも参加した。
……キツツキが居たからである。
奴のせいであると知られたら、相当めんどくさい事になる。
彼ら二人は、こうして墓場に持って行く秘密を一つ増やしたのだ。
なのでホリアン2世は、この騎士ボグマスの事をルシナン伯の所にいた。不運な者だろうと思い「好きにせよ」と言った。
……たぶんダレム山荘からの脱獄犯だと知られたら、ただでは済まないだろう。
余計な事は言わず、パパさんは「ありがとうございます!」と言って頭を下げ。この結果、騎士ボグマスの罪はなかったことになった。
「グラニール、そいつは強そうだが名前を知らないぞ。
大丈夫なのか?」
ホリアン2世がそう言うと、ホーク将軍が代わりに答えた。
「ボグマスは知る人ぞ知る剣士です。
ルシナンにはもったいないくらいの勇士で、18歳でガルベルの高名な騎士、ジャンドルを一騎打ちで仕留めました」
「何故そんな男が無名なのだ?」
「それは……ルシナンの家だからです」
「ああ、そう言えばそうだな」
旧ルシナン伯爵軍は弱いことで有名だった、一人の騎士が手柄を立てても、伯爵軍としては戦場で目立つ働きは無かったのだ。目に留まるはずはない。
「まぁ良い、それほどの男ならよい教師になろう。
そいつはもう一度騎士に返り咲きたいとは思わないのか?」
「では、その件は私から……
彼にその希望はあるようです、なのでまずは私の息子に剣を教えてもらい。
その成果を見届けて私の年金から、彼を雇い入れようかと思っております」
「ほう、そういえばお前の所に騎士はいなかったな」
「私には所領もありませんし、騎士を率いるのも身の程に合わないと思っていたのです。
ですがソードマスターの資格を持つ男を、配下に持てるのであるなら、そのこだわりを捨ててもよいかと思いまして……」
ソードマスター……そういう者を教師に持つと言う事に、王は強い関心を抱いた。
しばらく考えた末に王はボソボソと呟いた。
「前回、コイツの息子にフィランを引き合わせた後、何か積極性を持った気がするな……」
パパさんは王の言葉に思わず目をぱちくりして、不思議なほほえみを浮かべた。
……悪い予感がする。
「グラニール、後で私の部屋に来てくれ。
息子の教育について相談したい」
「あ、はい……」
誰の息子の話なのかと……パパさんは思った。
この後、王は新しくできる学芸院を国家の為の学校を作る機関と位置づけ、補助金と引き換えに教えるカリキュラムを、軍部と行政部の二つの要望に沿うものであると定めた。
……まず決まったのは。
海に関する学校は早急に、そして大学に関しても教師の招致を急ぐこと。
そして今度出来る魔導大学の研究棟の建設。
さらに大学は、最初に剣を教える学部の創設と始動を一カ月後とすることが決まった。
このための資材が王宮から運び出されて、寄付される。
やがてゲラルド・ヴィープゲスケはこの、大学に付属する剣術学校に入学する。
そしてその学友は、信じられない人選になったのである。
登場人物に女の子を出すために、どうしようかと思案中です。