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俺の騎士道!  作者: 多摩川
幼年期編
22/147

ラリーの駆け出し

―同日夕方王家のダレムの山荘



……冷静になると、やってしまったと言う思いが強くなる。

伯爵家の子供と喧嘩(けんか)をするという失態(しったい)を犯し、俺はあれからずっと青ざめた顔で王子様達と大人しく過ごしていた。

……ちなみにうちの猫は、罰ゲームとしてやかましい女の子たちに差し出した。

きっと俺の知らないところで、また表情だけは悟りを開いているだろう。


さてあれから時刻は流れ夕方ごろになる。

夕方が近づくにつれて、俺は徐々に頭が憂鬱(ゆううつ)で占められていた。

……まもなく王様と一緒に狩りを楽しんでいた、ウチのパパさんが帰ってきて、しかも家族全員で屋外のパーティに参加するからだ。

まぁ、当然俺のやったことは、おそらくパパさんの耳に入っている、と思われる訳で……


「大丈夫だよラリー、僕も言ってあげるから」


……おかげで、隣の王子がやんちゃな俺を素敵な笑顔で慰めてくれる様になった。

ありがとうございます、それでも処刑前の犯罪者みたいな気持ちは消えないんですがね。

俺が青ざめた顔で佇んでいると、心配した王子様が何事かを言って、再び俺を励ましてくれる。

イリアン・ホーマチェットが、心配したような、憂い交じりの笑顔で「ラリーのパパは怖いの?」と聞く。

俺はこれまで怒られたことがなかったので「分かんない……」と答えた。

イリアシド・ネリアースがそれを聞いて「ラリー、怒られたことがないのに怖いのは変だよ」と言う。

……まぁ、彼の言う事は正しい。

とはいえ、怖いものは怖いのだと伝える為にこう答える。


「うん、だけど逆に怒られたことがないから、どれだけ怒られるのか分からないんだよ」


そう言って俺は、彼らに正直に胸の内を打ち明けていた。

陰鬱な気持ちにくるまれ。後ろで騒ぐ“リア充きっズ”と、だいぶ温度感がある俺。

ただ王子はその中でも嬉しそうに俺に言った。


「ラリーは強いんだね!

だってあのラーシド達を一瞬で倒しちゃうんだっ」


空気を換えてくれようとして、あえて明るく言ってくれたのだろう。

俺もその声につられ、一旦(いったん)(うれ)う事を忘れて王子様に(たず)ねる。


「ラーシドって、あの伯爵家様?」

「うん、僕はアイツらが嫌いなんだ。

この前だって僕が気に入っている本を破いたし。

しかもシドだってイジメていたんだ!」


シドって誰やねん?そう思っていたらイリアシドが涙目になって、悲しげにうつむいて……お前がシド君か。

オッケーオッケー、俺はラリーで君はシドだな。王子様はニックネームをつけるのが好き、心にメモしておこう。

横でこの話を聞いていたイリアンが「あいつら伯爵家とか、公爵とか王家の子供じゃないと、イジメてくるんだ」と言った。

それを聞いてシドが「あいつらは卑怯なんだ……」と言って涙を流す。アイツ()に散々いたぶられたのだろう。


俺は伯爵家のラーシドは、自分よりも家格が低い人間を、イジメる子なのだと理解した。

シドはこの国の家臣の家ではない、詳しい事は分からないが疎開してきたと言う。

いくら聖地のネリアース王家出身とはいえ、そんな“王家”の肩書は故郷から遠い、この異国の地で通じないのだ。

特に子供の世界では。

それ故にあのラーシドとかいう伯爵家の子供にいじめられてしまったのだろう。

それを思うと確かにシドの言うように奴らは卑怯だ。

俺は我が事のように不愉快な気持ちになり、シドにこう言った。


「確かに嫌な奴だ……

シドはあれだろ。

家族から離れているから、自分を守ってくれる家族はいないんだよね?」


生前の経験からそう言う、守ってくれる者が周りに居ない子は、確かにいじめの標的になりやすい。

……人は押さえつけるべきものを抑えるのではなく、イジメ易い者をいびり倒す傾向にある。

それは悲しいかな、大人でも変わらないのだ。俗な言葉で舐められるともいう。

……とにかくシドの話だ。

彼はますます悲しげに「そう……」と言ってうつむいた。

王子様は「だから僕らと一緒に居ないと、すぐにシドは殴られちゃうんだ」と俺に何かを期待するような目で言った。


(なんて奴らなんだ!)


貴族の風上にも置けず、しかも年上だと言うのに、敬意を払いたくなる何物も感じない彼らの振舞いに、俺は怒りも(あらわ)にしてシドに言った。


「だったらシド、今度からアイツらが何かしたら俺に言って!

アイツらをもう一回叩きのめしてやる!」


もう一回喧嘩をしたら、二回も三回も変わるまい。

それに正直(あれっ?こんなに簡単に勝てちゃうんだフーン……)と、自分の強さに自信を持ててしまったと言うのもある。

アイツら程度だったら次も負ける気はしない。

そんな俺の強気な発言を聞き、王子様とイケて無い組の面々は、ぱぁぁっと顔を明るくして、俺に「頼むよ」とか「僕たちは友達になろう」など声をかけた。

こうして初めて同年代の友達ができた俺も、その事が嬉しくてこれからのパーティでも一緒に遊びまわる約束をした。


やがて時刻は運命の時を迎え、王様達が狩りから帰って来る頃を迎える。

狩りは大成功だったようで、王様たちが帰ってくる前に、すでに様々な狩りの獲物が中庭のパーティ会場に運ばれてきた。

この時侍従たちの案内で、(おれ)()貴族の子供達も会場に移動する


子供たちはわらわらと、運ばれてきた王様たちの狩りの成果に群がり、鹿や山鳥、ウサギなどの動物の死体をつついたり眺めたりしている。

この時俺は視界の片隅で、ルシナン伯爵家のラーシドが、誰かに腕を取られて静かにこの場を離れていくのを見た。

しかもどこか普通の雰囲気ではない、何かに追い立てられているようにみえる。

足早に連れていかれた彼の様子が気になる俺。ただ、だから何をするという訳でもなく、ただ黙ってその様子を見る。

……ラーシドが消えてしばらく経ち。

王様が今日一番の狩りの成果である、巨大な角が生えた立派な鹿みたいな獲物と共に、近臣たちを引き連れて会場に現れた。

ウチのパパさんはいつものように王様の傍で、ニコニコしながら控え、狩りの腕を自慢する王様に相槌を打ったりして過ごす。

それを遠くから見ている俺たち四人。


「おい、ゲリィ!」


ここで兄貴が俺の傍に現れた、最初は笑顔だった兄貴は、俺の顔を見るなり真顔になって「どうしたんだお前?」と聞いた。


「何がって、なんです?お兄様」

「お前顔が真っ赤に()れてるぞ。

喧嘩したのか?」


あ、そう言う所からバレるんだ……考えが足らんかったな。

自分では気が付かなかったが、2歳年上の子に2回も殴られ、しかも王子様の祖母(おばあ)様にビンタも食らった俺は、顔色が大きく変わってしまっていたらしい。

まぁ、そりゃぁ顔も腫れるよな。

俺は観念して「実は……」と正直に打ち明けた。


◇◇◇◇


「……と、言う事なんです」


兄貴はじっと聞くと何か複雑な表情を浮かべそして「気にすることは無い、うやむやになるさ……」と(つぶや)くように言った。


「どういう事でしょうか?」

「ああ……王都に帰ったら話す。

今はパーティを楽しむといい。

後、それと……隣の子たちは友達か?」

「ハイッ、同い年の初めての友達です。

フィラン殿下と、イリアン・ホーマチェット、そして聖地から来たイリアシド・ネリアースです」

『こんばん……ゴニョゴニョ』


お、おう。こいつらまた強者に戻りやがった。初対面の人が徹底的に苦手なんだな。

ちなみに兄貴はびっくりして4人の顔を見渡し次に「殿下、うちの弟をよろしくお願いいたします」と挨拶をしてくれた。

彼は俺に小声で「お前、やるじゃないか……」と、お褒めの言葉を耳元でささやいた。

そして「じゃぁゲリィ。俺は護衛の任務があるから」と言って立ち去る。

彼は忙しいのにわざわざ俺のこと見に来てくれたのだろう。

俺は兄貴の背中に感謝の気持ちを投げ、次に王太子たちと姉貴を探し始める。


「ラリー何を探しているの?」


その様子を見た王子様が俺にそう尋ねた。


「いや、実は僕の姉上が、王太子様のペイジのファレンと一緒に居るはずなんですけど……どこに居るかご存じありません」

「ファレン?知ってるよ」

「そうですかぁ、ファレ……知ってるの?」

「うん」

「ど、どこに居るんです?」

「兄様達なら……こんな堅苦しい所に居られるか!俺たちは町で演劇を見るっ。

とか言っていたからさっき抜け出して街に行ったんじゃない」

「町のどこに居るのかご存知ですか?」

「うん、実はさっき手紙で“お前も来るなら、町の公民館に来い”って……」


な、なんと!こんなところに優秀なスパイが居るじゃないかっ。

イリアンが「みんな(ずる)いよ、来れないのを分かっていてそう言うんだから……」と悲しげに呟いた。

頷く王子様にシド(なぜいけないんだ?)と、この話に疑問を感じた俺。

冗談じゃない、せっかく姉貴とチンピラとの恋物語の邪魔をする、目途(めど)が立ったんだ。

“できない”は、是が非でも“できる”に変えなければ。

俺はここで俄然(がぜん)やる気を出し、王子様達の説得に取り掛かる。

何としてでも公民館にたどり着かねば……


「だったら行こうよ皆」

「無理だよ、パーティが終わったら僕らは勉強しなくちゃいけないんだ」


悲しげにそうつぶやく王子様、だけど目的に迫りたい俺はこう言った。


「王子様は公民館がどこにあるのか知ってます?」


王子様はキョトンとした顔で「うん……」と頷く。

それを見た俺はもう迷うことなくこう言った。


「王子様、勉強はいつでもできます。

だけど、王太子様と一緒に公民館で演劇を見るのはこれが最初で最後かもしれません!」

「え?」

「いいですか王子様……

人生は一度です!そしてお誘いの声を無視してもいい事はありません。

勉強?普段やっているから別に一日位まったく問題ございません!

ソレよりも姉上の……いや、兄上と一緒の思い出を作る方が大事です!

少なくとも勉強よりも、ずっと大切な事なんです。

兄弟が仲良くなる……素晴らしい事だと思いませんか?

あ、今びっくりしたお顔されてますね。

ふぅ、じゃあ、こうしましょう。

僕にこう命じてください。

勉強を抜け出し、演劇を見るためにラリー何とかせよ!

もうこれだけでいいです。後は僕がなんとかして見せます!」


何故かこの時昨日の猫が言った言葉を思い出す。


《夜……いやらしい事をするつもりニャ。

その結果……あのチンピラを、お前は“義兄(にい)さん”と呼ぶことになるニャ》


俺はこの瞬間ワナワナと怒りに震え、そして力強い目で王子様を見て言った。


「行きましょうっ!自由はすぐそこですっ」


……我ながら、出まかせもココまで言えれば大したものである。

俺の言葉を聞いた王子様は、たじろぎながらも、前向きな声音でこう言った。


「よ、良く分からないけどそんなに、演劇が見たいんだね。

うん、でもどうやってここを抜け出すの?」


山荘を抜け出す方法を尋ねられた俺は、まず壁をよじ登ることを考えた。

しかしそれでは王子様がついて来れない、何か別の方法を考える必要があると思った。

一人で抜け出して公民館に行く事は、自分の中では無い選択肢である。

何せ俺はこの街の公民館がどこにあるのか知らないのだ。

そもそも王太子と面識がない、そんな奴が近付いて行ったらさすがに逮捕されるんじゃなかろうか?

……まぁそもそも、王太子が抜け出して演劇に見に行けるっていう時点で、この国の警察は頭がおかしいが。


うんっ?閃いたぞっ。

王太子が抜け出られたという事は、そのためのルートはもう存在するという事じゃないか。だとしたらそれをトレースすれば。


「殿下!王太子様はどうやって出て行ったのです?」

「えっ?たしか……」


◇◇◇◇


理由は簡単だった、お金で北口の門番と近衛を買収していたのである。

……なるほどね。

子供たちは買収資金がないので、そもそもそんな手法を取ることを考えても居なかったらしい。

イリアンが「ラリー、できる?」と聞くので、俺は「やってみる!」と答えて。歩き出す。


「ラリーどこ行くの?」


シドがそう尋ねたので「うちの猫を探し出す!アイツに仕事をさせないと……」と答えた。

ネコ(ごと)きに何ができるのかと言われても、正直分からない。

だがいつも自信ありげな奴の顔を思い浮かべると、こんな時アイツならいいアイデアを出してくれそうだと思った。

どちらにせよ、今俺と面識がある奴で相談役になれそうなのはコイツしかいない。

マウーレル伯爵はどこに居るのか知らないし、パパさんは王さまの傍。兄貴は姉貴を応援しそう……

そう思うとやっぱり、鳥と猫しか俺にはいなさそうである。

……なんか、人としておかしい事思ってる気がするけど、まぁいいや。


広いパーティ会場を4人でうろつき、必死になってネコを探す俺たち。

手掛かりはある、あのエロおやじが猫化したような奴の性格だ。あのクソ猫は絶対に女の子の(そば)に居る!

普段から“男は嫌いニャ”と公言してはばからない奴だ、絶対に間違いない!

とにかく魚群探知レーダーのように、女の子の集団を目と耳で必死に追いかける。

そして見つけた!なんかやけにレベルが高い女の子の集団の中に、嫌らしい顔で笑う、しゃべるクソ猫!

女の子たちをびっくりさせないように、さわやかな笑顔を振りまきながら近づき、俺は彼女達に声をかけた。


「こんに……」

「そうニャぁ、本当にうちの小僧は変な事ばかりをしているニャぁ」

「ええっ!」

「うふフフフ、毎日壁にへばりついてまぁ飽きもせず、上ったり下りたりしているニャ。

アイツは騎士とか魔導士ではなく、猿になるつもりニャ!」

「ええっ!本当なのぉ?」

「本当ニャッ、奴は猿の生まれ変わりニャ。

むしろこれから猿になるニャ!猿ニャッ、猿っ!」


聞いていて血の気が引いていく俺の顔、みんなが「ラリーしっかり」とか「お前はバルザックだから」とか、そしてシドが「大丈夫まだ猿に見えないから」と……


これからも猿にならねぇよっ!

お前、お前……本当に強者だな!


とにかく俺は猫の後頭部を見つめながら、ご機嫌なコイツの傍に近づく。


「……あ」


そう言って一人の女の子が俺からさっと目をそらした。

どこかで会っただろうか?

あっ、あの時うちの猫をファラオに変えた女の子だ!

彼女は何を思ったか、隣の女の子と顔を合わせるなり「あっはっはっはっ」と爆笑……

こ、こいつらぁぁぁぁぁぁっ!


いかんいかん、さっきの事もあって俺のイメージは、たぶん乱暴者だ。

とりあえずギンッと、力強い目で猫を(にら)むすると猫は「と、まぁそんなことでうちのお(ぼっ)ちゃんは、素晴らしい人柄にゃぁ……」と遅すぎるフォローを入れる。

……まぁ、後ろに目が付いているようで素晴らしい能力ですよ、ポンテス。

しかもコイツ、この期に及び。初めて俺を“お坊ちゃん”と言いやがった。


「ポンテス……」

「ニャッ、この声はお(ぼっ)ちゃまニャ。

あのぉ、何の用でしょう?」


とりあえずスッパーンと振り向きざまの、奴のおでこにデコピンを決めた。


「ぬぅぉぉぉぉぉぉ」


ネコはうめき声をあげて、額を近くのいる女の子の服にこすりつける。

反省しとけっ!まったく……。


「ネコちゃんをイジメちゃダメッ!」


女の子の中で特に身なりの良い女の子がそう言って、俺を睨んでたしなめる。

光り輝くようなオーラをまとったかわいい子だった。


「……うっ」


思わずたじろいで、黙る俺。

ふと友人達に目線を向けると、王子様がとにかく真っ赤な顔でじっとこの女の子の顔を見ていた。

そんな時だった。


「ラリーこんなところに居たのか」


その声に思わずビクッとなる。

聞き間違えるはずもない、パパさんの声だ。

恐る恐る振り返ると……ああ、怒っていらっしゃる。

殿下が早速「グラニール、ラリーは悪い事はしていないよ!」と言ってくれた。

しかしパパさんは静かにかぶりをふるって、こう言った。


「ラリー、お前は自分が何をしたのか分かっているか?」

「は、はい。すみませんお父様」


静かにその怒りを(あらわ)すうちのパパさん。

普段とは全く違うその様子に、俺の心は委縮(いしゅく)する。

うなだれる俺、そんな自分の頭頂部が、チリチリとした彼の目線で痛々しく(うず)いた。

パパさんはそんな俺を尻目に王子様に語り掛ける。


「殿下、ラリーをかばってくださるのはありがたいのですが、このまま何もせずに居る訳には参りません。

この子の将来の為にもです。

分かったな、ラリーっ」


俺はパパさん言葉にうなだれて「はい、分かりました」と答えるしかない。

パパさんは言った。


「ラリー、お前をパーティに参加させるわけにはいかない」

「えっ?」

「お前はパーティの間、別の部屋で大人しくしていなさい!

それがお前に与えられる(ばつ)だ」


それでは俺は姉貴の所に行けないじゃないか!しかし俺は(にら)み付けるパパに逆らうことができず「分かりました……」と答えた。


こうして俺は回収されたうちのネコと一緒にドナドナされる。

山荘の一室。使われてない、と言うか改装工事中の部屋の一つに放り込まれ、此処で大人しくするようにと言い渡される事になった。

一応この部屋には明かりが灯されており、火は点いていないがストーブもあった。

このストーブの中に散乱する木材の切れ端とかを放り込めば、寒さに凍える事もなさそうだ。

こうして俺は、俺を猿呼ばわりしたあのクソ猫と一緒に、閉じ込められる。

ネコは「しょうがないニャ、あのクソガキ(ルシナン伯爵家のラーシド)のせいニャ……」と言ってうなだれた。

俺も正直溜息しかでない。


……とにかく、ここにきてドッと疲れた。

行儀が悪いが、俺はごろりとカーペットに寝転がり、そしてまだ色のついてない線画の天井絵を見ながらポンテスに話しかけた。


「おいネコ、お姉様の居場所がわかったぞ」

「本当かニャ?」

「でもここから出られないといけないけどな。

場所は殿下がご存知なんだ、この部屋を出て殿下と合流しないと……」

「お前は知らニャいのか?」

「うん、全然分からない」

「で、どこまで知ってるニャ?」

「お姉様の居場所はこの山荘の外の街だ、どうやら公民館で演劇を見ているらしい。

公民館の場所は殿下が知っている」

「ここを脱出しないといけニャイな。

だったら丁度いいお知らせがあるニャ」

「なんかあるのかっ?」

「実はさっきペッカー先生に会ったニャ」

「へぇ、でも夜は働かないんだろ?」

「そう言っていたけど、どうやら働いてくれるみたいニャ。

なんかとんでもないこと考えているらしいニャ。

なんでも人を助けるためにここを大混乱に陥れるって言っていたニャ」

「へっ、なにするの?

大混乱?どういう事だよ……」

「良く分からニャイけど、夜になったらヤルみたいニャ。

なんか魔導士のおっさんが居て、そいつの友達が山荘に捕まっているからそれを助けるつもりって、言っていたニャ」

「へぇ……そんな知り合いが居たんだ、アイツ。」

「みたいニャ、詳しい事はニャーも知らニャイけど。

でもこれがちょっとひどいポンコツなのニャ。

なんかこれまで、魔導士の偉い人が色々と知恵を授けてくれて、それがいきなりなくなったので一体どうしたらいいのか分からないとか言ってるおっさんニャ」

「……自分でこれまで考えてこなかったんだ」

「そうニャ、これまでずっとそうしてきて、なのに知恵者みたいな評価をされていたらしいニャ」


それを聞きながら、俺も自分の事は自分で考え、打開しないとこんな感じで馬鹿にされるんだろうな……と考えていた。

そう思うと俺は胸の内に“やらねば”と言う思いがよぎり、そして思わず100円ショップの店長時代に、社長が今年のスローガンとして掲げた、偉い人の言葉を思い出した。


「為せば成る、為さねばならぬ何事も。成せぬは人の、成さぬなりけり……」

「なんニャ、その言葉?」

「やってやれないことは無いってことさ。

よーしポンテスっ、此処から抜け出してやるぞっ!

こんなことで閉じ込められると思ったら大間違いだっ!

姉貴に近づくチンピラごときにいいようにされてたまるかよ。

見てろよ、成し遂げると決めたことは必ず成し遂げてやる」

「おお、バルザックニャ!さっきの本の主人公に感化されたニャ……

お前はチャラいニャ……でも、そこが良いニャっ!」


チャラ……まぁいいや。

とにかく動け、走りだそう!


俺もまた、ラブ・イズ・オーバーとなる為にっ!

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