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俺の騎士道!  作者: 多摩川
幼年期編
17/147

小さなダークヒーロー登場

ダッダッダッダッ……

ハァハァハァハァハァ……


若い6人の男女は足音を(ひび)かせ、息を荒げながら誰もいない路地へと逃げ込む。


「た、大将……ハァハァ、もういいみたいです、ゼェハァ」


この中では体が一番小さな男がそう言って、走る彼らの足を止めた。

6人はハァハァと息を荒げると、やがて行儀悪く路地裏の見知らぬ家の(えん)(せき)に、その腰を下ろす。

彼らは先ほど絡んできた3人の男を袋叩(ふくろだた)きにした、傲慢(ごうまん)で凶暴なるファレンとその仲間たちである。

腰を下ろすなり、6人の中で一番体が大きな男が「お前ふざけんなよ!」と、顔を不機嫌そうにしかめながらファレンに言った。

ファレンも顔をしかめながら負けじと言い返す。


「しょうがねぇだろ!アイツは俺の義理の父親になる、ヴィープゲスケ男爵の悪口を言ったんだ!

身内の悪口を言われて俺が黙っているわけがねぇだろうが!」

「お前、まだエリィと結婚してないだろうがっ、このボケッ!」

「なんだと!

いいか俺は4年だ、4年以内に手柄を立てて、コイツ(エリアーナ・ヴィープゲスケ)を迎えに行くことになってる!

……大将、その機会は必ず来ますよね?」


大将と言われた男は機嫌(きげん)よく「あっはっはっはっ」と笑いながら答えた。


「当たり前だろ、必ず何かが起きるぞ!

実はな、()め事の種が最近できたんだ……

父が領地を増やしたがっている、どうやらそれに一枚かめば俺の評価も上がるぞ」

「そいつは良い話です」

「まだそれだけじゃない、親父は俺のために戦の種を残さないつもりみたいだけど、どうやら最近ダナバンドとの仲がうまくいかないみたいだ。

どうやらまだまだ俺に戦は残される。

見てろよ、俺はお前らを(ひき)いて親父以上の男になるからな!」


若者の大言壮語(たいげんそうご)と言えばそうであろう。

しかしそう勇ましく言い放ったこの若者の言葉を、みんなキラキラとした目で受け止め、そして心で反芻(はんすう)させる。


「ゼグシード、レグシドン、ファレン……

その時が来たら頼むぞっ!」


彼らの大将が自分の言葉に(たか)ぶる心をそのままに、顔を紅潮させ、そして力ある笑みでそう言った時。

それを聞く3人の男は、声をそろえて『ハイッ!』と受け止めた

6人はそのまま、先ほどの喧嘩に心を熱くしながらワイワイと会話を楽しんだ。いわく。


「見たか?俺の(こぶし)を!

一撃で相手がピューって飛んで行ったぜ!」

「何を言ってやがる俺だって足技が炸裂(さくれつ)したんだ、お前が倒し損ねた奴を仕留めたのは俺のこの、この蹴りよ!」

「ばーか、俺のボディ攻撃を見たか?

ぴんぴんの奴が一発でつぶれたぜ」

「大将さっすが!アッハッハッハッ……」


4人はそういって、誰が強いのか知らしめるように喧嘩の話に夢中になる。

そんな時である。


「おい、そこをどけ!」


縁石に座るだけでなく、立ち上がって全身で喧嘩の様子を再現していた彼らに、一人の身なりの良い貴族らしき男が、道の邪魔になった若者に退()くよう促した。


『アン?』


4人は瞬時に下から声がした相手をねめつけるように見上げる。


「なんだとコラ……」


ファレンの目線の先には、従者を連れた身なりの良い男が(さげす)むような目で彼らを見ている。

この様子を見たエリアーナは、先ほどの蛮行(ばんこう)の事もあり、また喧嘩(けんか)が起きると考えて「ねえ、やめようよ、やめよう、ね?」と言って、ファレンの肩を(つか)む。


「うるせぇ、お前は後ろに行ってろ……」


ファレンは不機嫌そうにそう言うと、攻撃的な笑みを浮かべてつかつかとそいつの元に4()(ある)く。


「おい、この道はてめぇの物なのか?」

「何を言っておる、貴様?」

「答えろよ、この道はてめぇの物なのか?

この道は俺達が居るんだ、お前が別の道を行けばいい話じゃねぇのか?」

「なんと、この私を誰だと思って……」

「知るかボケッ!

だったら俺たちが誰だか知ってるのか?

アァァンッ!」

「話にならん……」


身なりのいい男はそれだけを言うと、(きびす)を返して今来た道を戻っていく。


「おい、逃げ……」

「フィン!もうやめてっ」


エリアーナはもう耐えられないといった表情で、遂に叫んだ。

ファレンは開きかけた口を閉ざすと「チッ」と軽く舌打ちをしてみんなの元に帰っていく。

フィンは戻りながら声を発したエリアーナの顔を見た。

目には涙を浮かべている。

この様子を見て他の人間も(きょう)が冷めたらしく「女も連れてるし、今日はここでやめるか……」と誰かが言って、そのままみんなでどこかにおとなしく行くことになった。

ファレンはエリアーナの肩を抱くと「悪かったな、久しぶりだから浮かれたんだ。もうしねぇから……」と言って、泣いてる彼女にやさしく微笑んだ。

エリアーナは泣きながら声を発さず、コクリとうなずき、肩を抱かれるまま一緒にどこかへと歩いていくのだった。




そんな若者達の(おろ)かさを、近くの家の屋上で見つめていた一人の子供と一匹のケダモノがいる。


ぎちぎち、ぎちぎち……

ふごぉぉぉぉぉ。ふごぉぉぉぉぉ……


子供の方は六歳にしては大柄で、たくましい。この子はワナワナと震えながら、転落防止用の金網を握りしめていた。

その足元では、はち割れ模様の猫があんぐりと開けた口で、牙もあらわに金網にかぶりつけながら盛んにうなり声をあげる……

そう彼らこそ、僕達のストーカー小僧ゲラルドと、その屋敷に住むしゃべれるネコ、召喚獣のポンテスである。

彼らはその家の屋上に設けられた、転落防止用の金網越しに彼らを見、そして怒りに震えていた。


「あのカス野郎どもめぇ……」

「チンピラどもめニャァァァァ」


6歳とは思えないほど強い握力を持つゲラルドは、握りしめた金網を自分の手の形に変形させ。連れ歩く足元の猫もまた強靭なあごで金網を歪める。

一人と一匹の怒りは収まらず、金網を握りしめ、そして()み締めるあごや腕にさらに力を加えていく。

すっかり手とあごの形にグンニャリと曲がった金網。

やがて子供は大きな声で「クソがぁぁぁっ!」と叫ぶと金網を叩いて怒りを収めようと屋上を意味もなく歩き回る。


「叩くニャこのクソガキ!

顎がガックン、ガクンしたニャッ!」

「知るかボケッ!

金網を噛んでるほうが悪いんだよ!]

「ニャンだとっ!」

「それよりもお姉様だっ!」

「お前、後で覚えとけニャ……」


猫はそう言うと凄い形相(ぎょうそう)でゲラルドを(にら)むが、此処(ここ)我慢(がまん)をした。

……猫は我慢強いのだ。

ゲラルドはそんな猫を無視して、立ち去る6人の男女を見下ろしながら(つぶや)いた。


「あのチンピラども……ウチのお姉さまを安っぽい女と同列に扱いやがった」

「女を連れて喧嘩して、貴族の子に対してふさわしくない扱いニャ。

奴らはエリィニャンに敬意(リスペクト)を払うつもりもないニャ」

「そして明日の夜、お姉さまを連れだしてどこかに行く……」

「夜……いやらしい事をするつもりニャ。

その結果……あのチンピラを、お前は“義兄(にい)さん”と呼ぶことになるニャ」

「認めるかっ!クソがぁぁぁぁ!」


ゲラルドがあげた魂からの叫び。

それを聞いてうまく子供の思考を誘導できたと、邪にニヤリと笑う、はち割れの猫ポンテス。

猫はさらに続けて(ささや)くように言った。


「だから言ったニャ、これは由々しき事態ニャ」

「クッソー、どうしたらいいんだ……」

「そこでニャーに考えがあるニャ」

「どうするんだ?」

「これからミャーとお前ででパパニャンとママニャンにこの事を告げるニャ」

「まぁそうだな、それしかないな……」


この様子を見て(しめしめ、うまく行ったニャ……)と思った、ポンテス。

この猫は自分だけで告げ口をした際、エリアーナに怒られるのが嫌だったのだ。

これで小僧に全てを(なす)り付けられるので、ますます邪悪な笑みを浮かべて静かにうなずくずるい猫ポンテス。

そんなポンテスの様子に気づくことなくゲラルドは、ネコを連れて家に帰ることしか考えなかった。

とにかく(あやま)ちが起きる前に姉をアイツから引き離すのだ。


◇◇◇◇


猫と子供は、再び伯爵家の壁を乗り越えて帰宅するのはそれから間もなくである。

時刻は夕方、だいぶ西日が傾いたころである。

帰って来るなり、貴族の子供らしいお召し物に着替えたゲラルドと猫は、急いでパパさんを探し始める。

パパさんの居場所はすぐに見つかった。

召使さんに尋ねると、もう帰ってきているらしい、なんでも客間に伯爵と一緒にいるようだ。

居場所も聞き出せたので、すぐさま一人と一匹は父親がいるという客間に向かう。


客間はいつも閉まっている筈の扉が、もう(すで)に開いていた。

普段は貴族家の(しつけ)通り入室の許可を得てから部屋に入るゲラルドだが、今日は元々扉が開いているので不要だと思った。

ゲラルドは「失礼します、お父様……」と言って中に入る。


……中は暗かった。

そしてその暗がりの中に、マウーリア伯爵と、ヴィープゲスケ男爵がいる。

西日で赤黒い光が窓からこぼれている中、あの豪傑(ごうけつ)(ぜん)とした伯爵は無表情に深くソファに座り、低い卓を意味もなく見つめ。

その傍らではパパさんことグラニール・ヴィープゲスケ男爵が、ゲラルドに寂しそうな背中を見せては、組んだ腕に顔をうずめて、伯爵よりも小さなソファに腰かけている。


『…………』


明らかに普通ではない、沈黙が支配した重々しい空気。

一人と一匹は、一瞬声をかけることをためらい、やがておずおずとパパさんの元に近づいた。


「あの、お父様……こんな暗い部屋で何をしているのでしょうか?」

「えっ?ああ……ゲラルドか。

暗い部屋って……ああもうこんな時間か」


明らかに様子がおかしいパパと伯爵、ゲラルドはためらいがちに「お父様何がありました?」と尋ねた。

パパさんは答えた。


「もしかしたらだが……エリィが嫁に行くかもしれん」

「ええっ?」


驚くゲラルド、そして表情も変えず伯爵が声を上げた。


「私は認めんぞ、グラニール」

「私もです、お義父(とう)様」

「お前の時も不愉快だったが、今回の事はもっと不愉快だ!

お前たちの場合は、(シオン)の意にそわない人生を私も押し付けたと思っている。

それに反発もしたかったのだろう、私も分からないでもない。

しかしだ……今回はあんな今月従者に上がったばかりの、ちんぴらペイジにエリィをやるわけにはいかん」

 「その通りですお義父(とう)様……

ですが陛下は乗気……」

「陛下が乗気だったら何でもするのか貴様はっ!

考えを改めろ!」


……えっ?と、ネコと少年は思った。

まさかここまで話が回っているとは思わなかったからだ。


「お、お父様。ちんぴらペイジって、ファレンの事ですよね。

アイツとお姉さまが結婚するんですか?」


パパさんは「なんだ、ゲラルド奴を知ってるのか?」と言った。

うなずくゲラルド。パパさんは言った。


「先ほど陛下に拝謁をした際、陛下に言われたのだ。

ファレンとリファリアス殿下は、まるで昔のグラニールと自分のようだと……」


それを聞いたマウーレル伯爵は、怒りも(あら)わに叫んだ。


「グラニールっ、貴様のせいだ!」

「お義父(とう)様!関係ないでしょうっ」

「お前に義父(ちち)と呼ばれたくはないわっ!

何とかしろっ!グラニールっ」

「なにぃ?あんたは俺の主じゃないのに、俺に命令するのかっ!」

「なんだと貴様ぁ……

言うに事欠いて誰に向かって言っておる!

剣を持てっ!今ここで貴様を叩き斬ってやるっ。決闘だァッ決闘!」


ゲラルドはこの後ネコと一緒になって、懸命に醜い争いを始めた二人の間を取り持つ。

普段は紳士的なグラニールも怒ると躊躇なく、相手を叩きのめすのを知っているので必死だ。

そして伯爵はもともと気が短い……

とにかくネコと子供に(すが)りつかれ、二人は幾分か理性を取り戻してソファで再び話し始めた。

パパさんは言う。


「とにかく私は、あのチンピラが義理の息子になるなんて考えたくもありません。

確かにアレは勇敢な男ですが、

エリィを幸せにするとはとてもとても……」

「フンッ、エリィはどこの誰に似たんだか」

「悪かったですね……」

「とにかく、一度ああなってしまうと“()うな!”とエリィに言っても、勝手にこっそりと逢うようになるぞ。

お前とシオンのように……」

「……考えたくもありません」

「そのうちお前たちのように駆け落ちだ。

良かったなぁ、グラニール。

お前の娘もお前を見習ってるなッ」


昔の事を思い出し、とにかく怒りが止まらないと言った感じの伯爵は、口撃をファレンではなくパパさんに向けてしまう。

あの日の苦い思い出が、今回の事にシンクロして見えて仕方がないのだ。まったく無関係だというのに、志を同じくするはずのパパさんを口撃してしまうマウーレル伯爵。

伯爵の嫌味が止まらず、パパさんは怒りに震えながら、必死に黙って伯爵の口撃に耐える。


この明らかにまずい状況に慌てたのはゲラルドだ。

姉の事をどうすればいいのか相談する前に、まずはこの二人をどうにかしないといけないと焦る。

その時だった、しゃべれる猫ポンテスが大仰に溜息を吐きながらこう言った。


「ハァーやれやれ、だらしない連中だニャ。

ここはニャーが一肌脱いでやるニャよ」


みんなの目が一斉にゲラルドの足元に居るはち割れの猫に向けられる。

伯爵は「猫がしゃべった……」と言って目を丸くし。

パパさんは「ポンテス、何か名案があるのか?」と尋ね。

ゲラルドが「お前、ニャーニャーうるせえよ」と言った。

とりあえず洗練された挙動で、少年の太ももを爪でガリっとひっかくと、ネコは痛みに襲われて“ギャーギャー”うるさい子供から離れた。

そして伯爵の元へと向かい、そしてその足元で優美な礼を払いながら挨拶をしてこう言った。


「初めまして、伯爵様。

ニャーはヴィープゲスケ家でお世話になっている、ポンテスですニャ。

以後お見知りおきを、お願い致しますニャ」


伯爵は礼儀正しい猫の様子に、期待に満ちたまなざしを向けた。

後ろで少年が「ネコ、お前後で覚えておけ!」と言っているのは聞こえないようだ。

パパさんは、うるさい我が子を険しい視線で黙らせると、彼もまたポンテスのほうに目線を投げた。

視線を集める、しゃべる猫ポンテス。

彼は自信に満ちた声でみんなにこう告げた。


「ニャーは皆さまがお困りになるだろうと思って、実は王都に居る時から、仕事のできる男を助っ人に雇っておきましたニャ」


驚いたのは伯爵とパパさんである。

二人は顔を見合わせて心当たりがあるかどうか、互いに無言で確認を取る。

それを見ながらポンテスは「はっはっはっ」と軽く笑った。


「そんな男はいなかったとお思いですかニャ?

当然でしょう、皆様はおそらく心当たりがニャイはずですニャ。

ですが皆様はもう彼に会っているニャ……」

「ど、どういうことだ?ポンテス」


パパさんがいぶかしげにそう言うと猫は語る。


「パパさんの話を総合すると、あのチンピラとエリィニャンの仲を応援したいのが、パパニャンの上司である、あのおっかない陛下ニャ。

みんな彼に逆らえず、そして二人の邪魔もできず悩んでいる……

そうニャね?」

「そ、そうだ……」

「だとしたら、パパさんたちと全く無関係で、仕事ができ、繋がりが全く想像もできないやつが二人の邪魔をすればいいと思いませニャイかな?」

「だ、だがそんな奴を急に雇うだなんて……」


心当たりがない……そう言おうとしたパパさんの耳に誰かの悲鳴が届いた。


「くそぉぉぉぉっ!

この野郎バタバタしやがって!」

「やめてっ、フィンやめてよ!」


アノ問題の小僧、ファレンの声と、ゲラルドの姉貴の声だ。

どうやらこの部屋のすぐ傍、外の道から聞こえてくるらしい。

思わず顔を上げて辺りを見回す伯爵、パパさん、ゲラルド。

その中を得意げな顔の猫が二本足でスクッと立ち、胸を張りながら皆にこう言った。


「お静かに、皆様……英雄が帰ってきたようですニャ」

『ギャーッはっはっはっ!

フィン、お前マジうけるぅ!』


外からたちまち上がって来る、ガラの悪い若者たちのはしゃいだ声。

その中でポンテスはパパさんに行った。


「パパニャン、部屋の窓を開けてもらってもいいでしょうかニャ。

そろそろ一仕事終えた彼が帰って来る頃ニャので……」


パパさんは言われるがままに、窓を開けた。

するとそれを待っていたかのように、彼が飛び込む。

……そいつは、頭の羽毛がピンと立ち、まるで両耳のような形をしている珍しい鳥だった。

ゲラルドは「あッ!」と言って驚く。

そいつは先ほどファレンの後頭部にくちばしを突き立てた、あの変な鳥だったからである。

鳥はやってくるなり、窓際に置いてあったリンゴにかぶりつき。

どこか得意げな様子で目を半開きにしながら、くちゃくちゃと音を立てながらリンゴをついばむ。

そして後ろ振り返り「殺す!アイツは必ず殺す!」と息巻くおっかない少年を、さらに挑発するようにリンゴをペッと吐きだした。

直後上がる少女の悲鳴、少年の絶叫。

そしてとんでくる小石、急いで部屋の中に逃げる鳥。

ポンテスがこの鳥を指し示しながら皆に言った。


「ご紹介いたしますニャ、王都にも名前が知られたイタズラの聖人。

ダレムに住むすべての動物から警戒される大先生の“バックス・ペッカー”さんニャ!」


バックス・ペッカーは紹介されると「ゲェーッゲッゲッ」と不気味な鳴き声で答えた。

あっけにとられるパパさんと、伯爵、そしてゲラルド。

ネコは得意げに胸を張りながら言った。


「ニャーの伝手(つて)を使えばこんな大物だって仲間にできるニャ。

感謝してほしいニャよホント」


ゲラルドは茫然とし、次にネコに抗議する。


「何が仕事のできる男だ!鳥じゃないかっ」


次の瞬間、バックス・ペッカーとポンテスはギロリとゲラルドを睨みつける。

思わずたじろぐゲラルド。そんな少年にポンテスは叱りつける。


「貴様!ペッカー先生はイタズラ一筋140年のベテラン召喚獣ニャ!

お前ごときでおいそれと会えない大物なのニャッ!

頭を下げろ、小僧!」

「く、くぅぅぅぅ……」


よくわからないが、無駄に大物だという彼に思わず気後れしたゲラルド。

やがてバックス・ペッカーはポンテスに「げっげっ……」と何かを言い。それを聞いてポンテスがうなずき、次にこう言った。


「小僧!お前のせいニャッ。

先生はやる気がなくなった、あの二人の恋を邪魔しなくてもいいんじゃないかと仰せニャ!

今すぐ先生の機嫌を取らニャイか、馬鹿者めっ!」


ゲラルドは口を尖らし、表情を硬くした。

……鳥に頭を下げるのが嫌だったからだ。

だってしょせん鳥だよ……とのこと。

しかしその様子を見て、父親がゲラルドに言った。


「ゲラルド、今のはお前が悪い。

彼は私たちの苦境を何とかしてくれようとしているのだ、それなのにお前がそれを拒んでどうする!

お前が代わりにどうにかできるのか?

できないのにそんな態度を取るんじゃない!」


パパさんにそう言われるとゲラルドは内心いろんな葛藤を感じたが、しぶしぶ「分かりました……ペッカー先生すみません」と頭を下げた。

鳥に対して……

バックス・ペッカーは“ふぅ、やれやれだぜ”と言わんばかりのジェスチャーを示し、そしてゲラルドを許した。

その様子を見ながら、ブスッと不貞腐れたゲラルドだったが、それでもほかに良いアイデアがあるわけでもない。

なので静かにするしかないと思い沈黙した。

そんなゲラルドの様子に満足げな笑みを浮かべて、ポンテスは言った。


「先生は昼間は彼らの邪魔をしてくれるニャ。

だけども夜は辺りが見えニャイので、夜はお仕事できニャイそうニャ。

そこで明日の夜は、自分たちでニャンとかしないといけにゃいニャ」


なるほど、そこはさすがに鳥だからなんだなとゲラルドは感心した。




ネコによるペッカー先生の紹介はまだまだ続いた。

それによるとこのペッカー先生は、イタズラでカップルを今年だけで12組破局させた、名うての“別れさせ屋”で別名“ラブ・イズ・オーバー”とも言うらしい。

随分と頼もしい男が出現したが……それでもしょせん“鳥”である、とゲラルドは思った。

はたして彼がどれだけ出来る奴なのか分からないが、まぁ手伝いを一人増やすのは問題がなかろうと言うので、伯爵もパパさんもペッカー先生が加わることには同意をした。

それに何と言っても世にも珍しいしゃべる猫の存在は、そのイレギュラーな様子に興味津々と言った伯爵に明るい表情を授けた。

その結果として伯爵のパパさんへの攻撃も収まり、話はいがみ合いから建設的な方向へと和やかに進むことになる。


……目的は“ラブイズオーバー”だけど。

しかも娘の恋の邪魔だけど……


とにかく明日の夜の事を話し合うどうしようもない3人と、一匹と一羽。

その中でヴィープゲスケ男爵は、明日のスケジュールに詳しく、明日の夜何が行われているのかを知っていた。

明日の夜は、どうやら王様の別荘でパーティーが開かれるらしい。

おそらく今晩中にリファリアス王太子から、エリアーナとゲラルドあてにパーティへの招待状が届くことになっている。

何かが起きるとするなら、このパーティを利用するのだろうとパパさんは告げた。

この話を聞き、ペッカー先生を除き彼らはここで手分けして、二人の邪魔をすることに決める。


男たちは、悪い笑顔を浮かべていた。


ウサギじゃないのか?と思ったそこのあなた。アラサーですね!


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