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俺の騎士道!  作者: 多摩川
青年従士聖地修行編
146/147

もう一つの1216年12月 ―美貌の従士― 4/5

―翌日


朝レミがラリーよりも先に家を出て、孤児院のアイナの元に向かう。

それを見送ったラリーは怪訝(けげん)な表情を浮かべて、黙々とパンとスクランブルエッグを食べるアマーリオに尋ねた。


「なぁ、アマーリオ」

「何?」

「レミが孤児院に行ったんだけど、何かあったのかな?」

「……分かんない」


アマーリオは(つと)めて無表情にそう答える。

そしてスクランブルエッグをパンに乗せて、美味しそうに食べ始めた。


「いやぁ、美味いなラリーの料理は!」

「……そんなん(スクランブルエッグ)誰でも出来るじゃん」

「いや……この絶妙(ぜつみょう)な固さが良いんだよ、卵の固さが。

これはなかなかできる事じゃないよ」

「…………」

『…………』


アマーリオは(あれ?今俺なんかおかしい事言ったっけ……)と思いながら、努めて無表情にパンにスクランブルエッグを乗せる。

そんなアマーリオにラリーが尋ねる。


「そう言えば聞いてるか?

今日新しい従士が来るんだって」

「え?ああ、アシモス様から聞いた」

「どんな奴だか聞いてるか?」

「さぁ……俺は何も聞いて無いな」


そう言いながらアマーリオは、パンにスクランブルエッグを乗せようとする。


「おい、アマーリオ」

「なに?」

「その大きさのパンじゃ、もう卵は乗らないと思うぞ?」

「へ?」


そう思ってパンを見ると、もうたっぷりのスクランブルエッグが山盛りに盛られていた。

急いでソレを口に運んだアマーリオ。

そんな彼の元にラリーが近付く。

その様子に何故か(おそ)(おのの)くアマーリオ……

ラリーはアマーリオの肩に手を乗せながら「アッマァーリォー……」と言いその肩を揉み始めた。

この一撃で、まるで蛇に(にら)まれた蛙の様にアマーリオの動きが止まった。


……そんなアマーリオの耳元でラリーが(ささや)く。


「嘘がヘタなんじゃない?」

「な、何のこと?」

「知ってる事があるだろう?

全部話せよ、なぁ……」

「いや、それは……」

「俺とお前の仲じゃん。

それとも何か?話せない理由があるとか……」

「いやぁ……」

「俺さぁ……隠し事嫌いなんだよね。

分かるよねぇ、アッマァーリオ♥」


アマーリオは、優しい声音で口ずさんだ、狂犬ラリーの言葉に戦慄(せんりつ)する。

そして頭の中を真っ白に染めながら、引き吊った笑いを浮かべて言った。


「あ、ああ……実は今度の従士なんだけどな」

「うん」

「実はな……」

「うん……」


無駄に言葉を挟みながら(この間に言い訳を思い浮かべないか⁉)と思うアマーリオ。

しかし無情にも時間は過ぎ、この短い間に苦しみ抜いた彼は、遂に観念した様に言う。


「実は今回の従士は……」

「ああ……」

「すごいイケメンなんだ」

「……おい!」


この瞬間アマーリオの肩を揉むラリーの手が痛む程に強張(こわば)る。

そんなラリーの腕に浮かんでいく、太い青筋の形に恐怖(きょうふ)したアマーリオ。

そしてそんな彼の肩の筋肉が、ラリーに握りこまれてミシミシと(きし)み始める!

肩を破壊される……そう思ったアマーリオは、恐怖に駆られながら急ぎ叫ぶように言った。


「その従士はアシモス様の彼氏なんだ!」

『…………』


……ラリーの動きが止まった。

そしてまた優しくアマーリオの肩を揉みながら言った。


「マジ?」


アマーリオは口から吐いた出まかせを続けるために「だ、誰にも言わないで……」と(つぶや)いた。


「ま、まぁ……言わないけど」


ここまで来たら一つ嘘を吐くのも、二つ吐くのも違いは無いと腹を(くく)ったアマーリオ。

更にとんでもない嘘を吐き連ねる……


「実は二人の関係は……プラトニックなんだ」

「は?」

「ほ、本当の愛って奴で結ばれてる。

だから体の関係は無いんだ。

……良く分からないけど」

「へ、いや……そうなの?」

「うん、プラトニックなのは間違いない」


自分で言って、笑いそうになるアマーリオ。

この場でこんな事が言える自分を()めてやりたい……

アマーリオのそんな嘘を聞いたラリーは「そ、そう言うのもあるのか……」と呟く。

そして……何故かショックを受けた様にアマーリオの元を離れていった。


「ど、どこ行くの?」


思わずそう問いかけたアマーリオにラリーは「孤児院……」と(うめ)く様に答える。


「絶対誰にも言うなよ……

この事がバレたら俺は処刑されてしまうからなッ!」


その背中に向かって叫ぶアマーリオ。

……それは間違いが無いだろう。

聞いたラリーは「むしろ言えないだろ?」と答えて厩に向かった。


◇◇◇◇


こうしてこの日、ラリーは新しい従士の事で悶々としながら、孤児院へと向かった。

そしていつもの様に連れてきたダーブランを、馬丁修行をする子供達に世話を頼み、彼はヨルダンが居る執務室に向かう。


(ああ、新人に会いたくないなぁ……)


ジェンダーの問題にあまり理解が無いラリーは、そう思いながら執務室の前に辿り着き、そして扉を叩いた。


「失礼します、ラリーです」

「入れ」


主であるヨルダンが部屋の中からラリーに言葉を掛ける。

ラリーは「失礼します」と言いながら入室し、ヨルダンや、ヴィーゾン……そしてスラッと均整の取れた立ち姿の男の後姿を見た。


(ああ、コイツか……)


そう思い、新入りの後姿を見つめながらヨルダンの元に向かうラリー。

そんなラリーにヨルダンが言った。


「ラリー、話は聞いていると思うが、彼が新しい従士だ。

それじゃあゲディ、挨拶をしてくれ」


ヨルダンがそう促すと、新入りが顔をラリーに向けて、ニコッと微笑む。

男性としては少しだけ小柄で、ラリーの肩程の身長である。

そして噂には聞いていたが、非常に美しい顔立(かおだ)ちの男だ。

そしてその美しい顔立ちの中で、特に目を引くのが、美しいオリーブグリーンの(ひとみ)である……

レミにそっくりなその眼の形に、思わずラリーは驚く。

そんな彼に色っぽくも落ち着いた声音で、新入りの従士は言った。


「初めまして、レゲディ・ティグリスと言います。

魔導士としてずっと研鑽(けんさん)を重ねてきました、これからよろしくお願いします」

「……ああ、ラリー・チリだ。

俺は剣士として修業中だ、よろしく」


ラリーは握手しようかどうしようか、躊躇いながら、おずおずと手を出す。

……生理的に、ゲイに抵抗があるのだ。

そんなラリーの様子に、レゲディは(まゆ)一瞬潜(いっしゅんひそ)めた。

そして次に握手をする事も無くニッコリ笑いながら言った。


「ココで頑張って、故郷の許嫁(いいなずけ)に薬を贈ってやりたいのです。

仲良くしてください」

「へ、許嫁って女性ですか?」

「当たり前でしょう……」


そう答えた新入り従士レゲディの発言に、思わずラリーは目を見開く。


……本物の“ビースト”だと思って。


そんな感じで目を見開くラリーの様子に、相手は『?』と言いたげな表情を浮かべて首を傾げる。

その様子に(あわ)てた様にヨルダンが言った。


「給料も無しで働くのは、そう言う理由だ。

ゲディにはアシモスやアマーリオ達の事も言ってある。

何事も相談しやすい筈だから、相談する様に」

「あ、はい……」

「それから……

レゲディはお前よりも歳が上だ、だからお前が先輩だったとしても、彼の事を(うやま)え」

「え?」

「彼について行って、少しはお前のその気が短いところを直すんだ。

彼が()めろと言えば、むやみに喧嘩を始める事は俺が許さん。分かったな?」


ヨルダンのその言葉に思わずラリーは反発しようした。

そんなラリーにレゲディが言葉を掛ける。


「ラリー……」


呼びかけられ、思わずレゲディと目を合わせたラリー。

レミによく似たそのオリーブグリーンの目を見た瞬間、反抗心が思わず()える。

そんなラリーの気持ちを見透(みす)かしたように彼は微笑んで言った。


「これからよろしく」

「……ええ、まぁ」

「私の事はゲディと呼んでくれ」

「ああ、俺は……別に良いか」

「ラリーだろ?もう覚えたさ」


そう言って(さわ)やかに美しい顔を(ほころ)ばせるゲディ。

彼は魅力的な微笑みを浮かべると、言葉を続けた。


「力仕事は得意じゃないが、代わりに書類や数字を使った仕事は得意だ。

少しでも君の力になれたらと思うので、よろしく頼む」


そう言って改めて、握手の為に手を差し出すゲディ。

ラリーは「こちらこそ、よろしく」と言いながら手を握った。


……冷たくも、肌理(きめ)の細かい柔らかい手だった。

思わずドキリとするラリー。


『…………』


何故かしばらく握っていると、ヴィーゾンが「ラリー、何時まで握ってる?」と言った。

それを聞いて急いで手を放すラリー。

その後も、トクントクンと高鳴る自分の心臓が(俺はどうしたんだ?)と、異常を覚えて狼狽(うろた)えた。

そんなラリーにヨルダンが言う。


「ラリー判っているだろうが、彼はココで騎士を目指す修行仲間だ。

いわばお前の兄弟でもある。

振る舞いはきちんと分別を付けるように」


ラリーはこの言葉を掛けられた瞬間飛び上がる様に驚き、無言のうちに何度も頷いた。

動揺(どうよう)する自分の胸の内を(のぞ)かれたのか?と思ったからだ。

ゲディはそんなラリーの様子を、面白そうに笑って見た。

その様子を見たラリーは、努めて無表情を作り、ヨルダンやヴィーゾンの顔を見つめる。

新入りの顔を見たら自分の動揺が酷くなりそうだった。


その状態のラリーにヴィーゾンは「来週には、俺を除いて王都(フロデリベル)に向かう事になる」と言った。

その言葉である種の正気を取り戻すと、ラリーはヴィーゾンの顔を見る。

ヴィーゾンはそんなラリーの顔を鋭く見据えると、険しい声でこう告げた。


「あの町は聖騎士たちが主の町ではない、もっと世俗的(せぞくてき)な貴族たちが暮らす街だ。

ルクスディーヌだったらお前の振る舞いに目をつぶる者が居たが、あの町ではそのような事は無い。

お前のしたことはヨルダンのした事となり、そして我々聖騎士団に所属するすべての名誉を傷つける。

だからこれから自分のする事には責任を感じろ。

お前がした事で、ヨルダンの身を危うくするのだからな……

お前は戦いに関しては、俺はもう何も言う事は無い。

これまで通り修行に(はげ)めば、お前ならきっと何者かになると俺は確信している。

だけど、そのカッとなりやすい性格はどうにかしなければダメだ。

お前は納得し難いかもしれないが、ゲディの話をよく聞けというのは、お前の性格を直したいからだ。分かったか?」


ラリーはそう言われると「分かった……」と答えて(うつむ)いた。

そんな風に思われていると知ると、胸からせりあがる恐怖で、舌の根っこが(しび)れて干上(ひあ)がる様だ。

すると隣にいたゲディが「ラリー、私も君から教わらなければいけないことがたくさんある。お互いに助け合おう」と言ってフォローした。

ラリーは思わず彼の目を見返す。

次に「ああ、うん……」と生返事をして目を()らした。


別の意味でまた胸に恐怖が()ぎったからだ。

胸の内で(自分は男が嫌いだ)と、言い聞かせるラリー。


その後彼等は今後の事について話し合う。

今のところ分かっているのは、向こうにいつまでに赴任(ふにん)しなければいけないのかという事だけだそうだ。

ただ向こうで6人ほど兵士を雇わなければならないらしく、それを訓練しないといけない。

更に薬の製造(せいぞう)にふさわしい拠点(きょてん)も必要なので、早めの出立(しゅったつ)をするという事だった。


こうして新しい始まりにふさわしい話し合いを続ける4人。

聖地フォーザック王国の王都フロデリベルでの、新しい日々の始まりは間もなくだった。


いつも大変お世話になっております。


明日も10時から11時の間によろしくお願いいたします。

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