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俺の騎士道!  作者: 多摩川
青年従士聖地修行編
143/147

もう一つの1216年12月 ―美貌の従士― 1/5

―ラリーがイペイシェンスと名乗る、バルミー(ラドバルムス信者)に会う二日前。


『はぁ……』


騎士ヨルダンとヴィーゾンは、疲れ果てたかのような溜息を吐いた。

……長い戦役(せんえき)から帰ったその日の夕刻(ゆうこく)、日差しが(かたむ)き室内に長い影を作る。

その中でヨルダンとヴィーゾンは食堂の椅子に座り、テーブルを挟んで神官服に身を包んだ、アイナ・ベルヴィーンと話していた。


アイナ・ベルヴィーンは、騎士ヨルダンにとっては義姉(ぎし)に当たる。

彼女は非常に穏やかで、常に慈愛に満ちた笑みを浮かべる心の優しい女性だった。

その彼女が、戦場から帰ったばかりのヨルダンに、困った顔で相談をしている。

相談内容を聞いたヨルダンは、アイナ以上に困り果てた。

……何故なら先程彼女が、とある女性を従士に出来ないのか?とヨルダン達に尋ねたからだ。


「……従士に女性をお願いしたいというのは、正直なところ受け入れ難いです」


アイナは、悲しげな顔でこう返す。


「……そうおっしゃりたい気持ちもわかります。

ですので聞きたいのですが、従士はどう決めるのですか?

大事なのは信用ですか?

それとも実力ですか?」

「……どちらもです」

「だとしたら彼女は私たちに実力を示してくれました。

あなた達3人(ラリーも含まれている)が居ない間、心配を掛けさせてはいけないと思って言わなかったのですが、怪しげな者が孤児院の周りを()ぎ回って居ました。

中にはココに入ろうとした者も居たのです。

ですがそうした恐ろしげな者を、彼女が魔法や剣で全て倒してくれたのです」


アイナがそう話すと、ヨルダンとヴィーゾンは(そろ)って彼女の顔を見た。

アイナはそれを見ると「ごめんなさい、すぐに解決したので……御心配はかけたくなくて」と小声で語る。

この事実は、これまでヨルダン達に知らされていなかった。

だから初めて知った彼らは、心臓を鷲掴(わしづか)みされたかの様な衝撃を受ける。

……それを表情に出さない、ヨルダンとヴィーゾン。

そんな中ヨルダンは、普段と表情を全く変えずに「それで?」と続きをアイナに(うなが)す。

……ヨルダンの視線が、(とが)って(ひか)った。

アイナは、そんな二人の男の視線を見返すと、(ひる)む事無く堂々と話を続ける。


「その賊が入って来た時、レミが魔法で3人の魔物を倒し、そして残り一人を細剣(エストック)で刺し殺しました」

「賊は4人?」

「そうです、4人……

リザードマンが2匹と、オークとコボルドです」


魔物の数え方を“人”と数えたり“匹”と数えたりと安定はしないが、そう言って当時の状況を説明するアイナ。

4匹の魔物を討ち取ったとなると、これは中々の腕である。


「是非一度会って話してみて下さい。

(二フラム)館長も彼女の実力を認めて下さってます」


アイナのその言葉を聞いて、ヴィーゾンが疲れ果てたように言った。


「館長がレミの事をご存じなのは今の話で分かりました。

ですが、だからと言って彼女を従士に……と言うのは無理です。

ヨルダンは聖騎士、とってもじゃないが騎士館に女性を連れて行く事は出来ません」

「ですがヴィーゾン、女性が入ってはいけない訳ではありませんよね?

私も一人の神官として、何度も足を運び、孤児院のご支援(しえん)(いただ)いてきました」

「神官として入るのと、従士として入るのでは……」

「訳が違うと言いたいのですか?

宿坊内(しゅくぼうない)に入らなければ(よろ)しいのでしょう?」

『…………』


このアイナの言葉に、ヨルダンとヴィーゾンは黙って顔を見合(みあ)わせる。

確かに宿坊以外で女性の入室を断る(おきて)が、聖騎士団には無い。

それを指摘されて黙る男二人。

やがてヴィーゾンがアイナに言った。


「アイナ様、どうしてあそこまであの子を従士にしたいのですか?」


するとアイナは、まっすぐ射貫(いぬ)く様な目をヴィーゾンに向ける。


「あの子は、ずっとラリーの庇護下(ひごか)にあります。

そしてヨルダン、それはラリーの“主”である、あなたがあの子を庇護しているという事です。

ずっと良くしてもらっている事に、あの子は耐えられないのです。

実際に戦えもしますし、そして才能だってある。

それなのにただ(やしな)われている事が(つら)いのですよ。

あの子もヨルダン、あなたに貢献(こうけん)がしたいのです」

「ですが……」

「騎士館長の二フラム様にはご相談済みです」


ヨルダンの言葉を(さえぎ)るように言ったアイナの言葉に、ヴィーゾンとヨルダンの眼が見開かれる。

こうして驚くヨルダンが、アイナに「館長は何とおっしゃいました?」と尋ねると、アイナが胸を張って答えた。


「あなたが良いと言えば、構わない、と」

「……信じられない」

「ただこうもおっしゃってました。

ただし自分の正体や性別を明かさない事が出来るならば……と」

「でしょうね」

「彼女は“それは問題が無い”と言ってます。

お願いします、レミと一度面接してもらえませんか?

あの子が先程泣きながら私に懇願(こんがん)したのです、もう見て()られなくて……」


そう言うとアイナは、眼に涙を浮かべた。

それを見たヴィーゾンとヨルダンは(それが本音(ほんね)だろう?)と心で(つぶや)く。

次にヨルダンはその顔を見るといたたまれなくなり「分かった、お願いだから泣かないで……」と思わず口走った。


「ヨルダン!」


それを聞いて思わず(しか)りつける様な、声を上げたヴィーゾン。

そして次に溜息を吐いて、顔を床に向けた。

ヨルダンはアイナに甘い……

この状況に納得ができず、この姿勢のまま首を振り続けるヴィーゾンは、やがて顔を上げてアイナに尋ねた。


「二フラム館長に、何時頃ご相談されたのですか?」

「館長には……先々月ごろだと思います。

アシモス達の事を嗅ぎ回る賊が居て、その者がラリーの家(正確には彼が管理している館)に忍び込んだのです」

「ああ、先程の話ですね」

「ええ、そうです」

「それ以外にも、あの子は活躍しました?」

「後日別の賊を捕らえてます。

その時捕まえたのはサリワールでした……」

「それも館長はご存じでしょうね?」

「勿論です」


アイナが迷いも無くそう言うと、ヨルダンとヴィーゾンは顔を見合わせて相談を始めた。


「魔導に心得がある従士は確かに欲しい。

だが、女性は……」

「確かにあの子なら我々を裏切るとも、マスカーニに対して良からぬ事もするまい。

……だがヨルダン、あの子の実力は分からないぞ。

第一どうやって女である事を隠すと言うのだ?」


ヴィーゾンのその言葉に反応して、アイナが答えた。


「その点はご安心ください。

あの子は魔法で自分の見た目から声音(こわね)まで、あらゆるモノを完全に変えてしまえます」

『…………』


思わず黙って、ハトが豆鉄砲(まめでっぽう)でも食らったかのような表情を見せた、男二人。

アイナはにっこりと微笑むと、彼等に言った。


「あの子はあの若さですでに立派な魔導士です。

明日あなた方の目でそれを確かめて貰えませんか?

今やあの子はマスカーニに言葉も学んで、(なま)りはありますが、フィロリア語も話せます。

私が知る限りあの子は努力家ですし、それに腕も立ちます。

正体を知られたら従士を辞めなくてはならない事も、私からきちんと言い含めておきます。

お願い、ヨルダン……」


ヨルダンはそれを聞くと溜息を吐き、無言で(うなず)いた。

ヴィーゾンはその様子を見ると、ソレを断れないと悟る。


この後、ルッカがアイナから頼まれ、ラリーの家に走り、レミにこの話の内容を告げた。

ルッカがレミにこれを伝えた時は夜になっていて、それを聞いたレミはペッカーにこれを嬉しそうに話して、ラリーの元に向かった。

だからレミがこの日ラリーに会ったのは、川沿いだったのである。


◇◇◇◇


―翌日


アイナに連れられて執務室の、ヨルダンやヴィーゾンの前にレミことスマラグダがやって来たのは、朝も早い内だった。


「……朝から時間を取っていただき、ありがとうございます」


早速面接の機会を得たレミが、フィロリア語でヨルダンに感謝の言葉を()べる。

アイナが言っていた通り、すでに言葉の問題はない様子だった。

ヨルダンはそれを確認すると、威厳(いげん)を持って彼女に問い始める。


義姉上(あねうえ)から話は聞いているが……

なぜ今従士になろうと思ったのだ?」

「はい、自分の実力を試したくて……」

「嘘は辞めろ」


ヨルダンはレミの言葉を遮り、静かだが有無(うむ)を言わさない迫力(はくりょく)で言う。

思わず黙るレミ。

それを見据(みす)えながらヨルダンは口を開いた。


「なんでも昨日、ラリーと喧嘩したそうではないか。

ハッキリ言うが、男が理由なのでは?」


この言葉にレミよりも、彼女の保護者のごとく(そば)にいたアイナの方が顔色を変えた。

しかしレミはにっこりと微笑んで答える。


「彼と仲違(なかたが)いしたのは確かです。

ですがそれは今回の事とは関係がありません。

正直に言いましょう。私はお金が欲しいのです」


このレミの(おく)せず堂々とした俗な単語を使っての言い(ぐさ)は、思わずヨルダンとヴィーゾンの姿勢を前のめりにさせた。


……真相(しんそう)は何であれ、この場でこの度胸。

思わず((きも)()わった中々の“(タマ)”だ)と二人は面白がる。

言葉が嘘であっても、本当であってももう少し付き合ってみよう……


不定期更新、申し訳ございません。間隔が相当空きましたよね。

色々とあったのです、詳しくは活動報告にて報告させていただきます。

そして、ポイント、ブックマーク、ご感想、いつも本当にありがとうございます。


今日から五回にわたっての更新は毎日10時から11時の間にやらせていただきます。

少しPVの増え方のテストもかねてです、すみませんがよろしくお願いいたします

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