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俺の騎士道!  作者: 多摩川
青年従士聖地修行編
142/147

1216年 12月   10/10

「……ああ、魔導士は羨ましい」


その様子を見て、思わず漏れる悲しい本音……

さて、俺は子供の頃の様に(かべ)(づた)いに逃げますか。

連中は何か重い物を持ってきたらしく、鍵のかかった扉をすごい勢いで叩き始めた。


(こりゃブチ破られるのは時間の問題だな……)


ガンッ、ドガンッ、ドガッ!


木製の扉が激しく揺れ、()()く木材の繊維(せんい)が白い跡になって扉を変形させ始める。

俺はそれを確認すると、窓から下を見た。

よく見ると、うまい具合に屋根から延びる排水用の鉛管(えんかん)が窓のすぐ脇にある。

俺は速やかに鉛管を掴むとこれに手を掛けて、下に向かって下りた。


(これ、警察呼んだら……

俺達がバルミーと交流があるのがバレるよなぁ)


途中そんな事に気が付いた俺。

そこで、下に降りた後、このまま大通りに向かわない道を探すと決めた。

地面に降りた後、急いで宿屋の裏手に回る。

幸い裏手は、背丈の低い垣根で隣と敷地を(へだ)てている状態で、見える風景に人は殆ど居ない。

そこで、この低い垣根を飛び越え、静かに外に出た。


こうして宿屋を抜け出した俺。

この後、人気が絶えた場所を見つけてやっと一息を付けた。


(途中寄り道して、帰るか……

付けられたら嫌だしな)


ふとそんな事を思った俺は、次に道を変えようと帰路とは違う方角に足を向けた。

その時である……目の前を二人の男が道を遮るようにして立ち、そして俺に向かって敵意ある笑みを見せる。

その内の一人は鳥みたいな顔をしており、そいつが俺を見てこう呟いた。


「えへへへ、コイツは良いや……」


……俺は良くないよ。


俺は引き返せるかどうか後ろを振り返った。

しかしそこにもこいつらの仲間と思われる奴が、俺を睨みながら近づいてくる。

ああチクショウ、追い込まれちまっていたか……

俺は腰の剣に手を添えながら、鳥野郎に尋ねた。


「アンタら、俺に用があるのか?」


すると鳥によく似た奴が言う。


「狂犬ラリー……あんたアシモスとかいう奴と仲が良いよな?」

「それが?」

「アイツ……霊薬を作れるって噂があるんだけど、本当か?」


なるほど……こいつらの目的はアシモスか。


「アシモスは霊薬を作れない」

「本当か?」

「嘘じゃない……」

「ならば、体に聞いてみるまでよ!」


次の瞬間、奴等は抜剣し俺も剣を抜き払う。

俺の背後でも奴の仲間が剣を抜く音が響いた。


「だったら質問すんなよ、クソが……」


そう呻いた直後、俺は躊躇いも無く前に出た!


……一瞬で距離を詰める。


そして腰だめに剣を構え“(すき)の構え”で相手に突きを放った!

避けた鳥野郎はそのまま剣を俺に向かって降り下ろす。

切り下がっていく相手の剣、俺は自分の剣の切っ先を俺の背後に倒すように、柄を相手の眼前で横薙ぎに回転させた。

相手の剣はトリッキーに動く俺の刃に流されるように俺の脇深くに落ちて行く。

次の瞬間俺は左手を柄から手放し、左腕の脇で、懐深くに落ちる鳥野郎の両腕を抱え込む。

驚愕(きょうがく)する奴の顔、逃げられなくなり、腕を取られてガラ空きの奴の胸元に、俺は剣を突き入れた。


聖騎士流……腕取(うでと)り。


深く貫かれる、鳥に似た男の胸。

そのまま、もう一人の奴に向けて鳥野郎ごと、押出し、ソイツめがけて鳥野郎の腹を蹴り飛ばす。

その力も借りて俺は剣を鳥野郎から引き抜いた。


「ぐ、ぐわぁあ!」


呻く鳥野郎、それをぶつけられて返り血で真っ赤な奴の仲間。

バランスを崩して、鳥野郎の背中でもう一人の敵は、(わず)かにたたらを踏んだ

俺はその隙に剣を真っ直ぐ空に向け、次にそいつの頭めがけて横薙ぎに剣を振り抜く。


屋根の構えより……はたき斬り!


敵はバランスを崩し、鳥野郎の下敷きになった。

そしてソイツは、不幸にも頭のこめかみに剣の一撃を食らう!


()った!)


俺は手応えを覚え、次に後ろの奴に剣を向けた。

……今の間に、もうだいぶ近づいていた背後の連中。

連中は、向けられた俺の剣の切っ先にたじろぎ、剣を構えたまま動きを止める。

それを確かめた後、俺は残る敵にいよいよ体の向きを変えた。

そして剣を空に向ける。

再び取った“屋根の構え”……


「テメェ……()()れてるな?」


迫る二人のチンピラがそう言って、ギラギラとした目を俺に向ける。

俺はそれに答えず、じりじりと奴等に近寄った……

次の瞬間、道の向こうから聖騎士団の旗を掲げて、数人の武装した男達がこちらに向かってきた。


「町中で斬り合いを辞めろ!」


その声を聴いたチンピラ二人は、俺を睨むと一目散に逃げだす。

俺は思わず安堵の溜息を吐き、次に剣を振って血を跳ね飛ばし、剣を鞘に収めた。

そして、今しがた切り倒した二人の男を見る。

……一人はオークに、そしてもう一人は見たことも無い鳥の魔物に変わり果てていた。


「おい貴様!コッチ向け」


コチラに来た聖騎士団の一団が俺に声をかける。

俺はそいつらに顔を向けた。


「お前、ラリーじゃないか……何やってるんだ、こんな所で?」

「ああ、道を歩いていたらいきなり人間に化けた魔物に襲われた。ほらアレだ」


俺は、そう言って今しがた倒したばかりの血溜まりの中の魔物を指示(さししめ)す。

皆はそれを見ると早速魔物の体を調べ始めた。


「全部一撃でやったのか?」

「ああ、確かそうだ……」

「じゃあ、4人(逃げた奴も居たから)を同時に相手したのか?」

「いや、二人ずつだ……」


俺がそう言うと彼等は「やっぱ“狂犬”はダテじゃねぇな……」と呟く。

俺はその声を聞きながら(その二つ名は辞めて欲しいな)と思う。


「なぁラリー、事情聴取がしたいんだが協力してくれないか?」


彼等はそう言って、俺に協力を要請する。

もちろん答えたいのだが、ポケットの中にバルミーから預かった手紙がある俺は、少し考えて彼等の言った。


「実は今、主の騎士ヨルダンの使いをしているんだ。

一度主の元に戻ってから出頭したいんだけど良いかな?」


ダメだと言われるかな?と思っていると、彼等は「ああ良いぜ」と意外な寛容を示した。


「なら終わったら、ヴァンツェル騎士館に来てくれ。

俺は従士のゾルヴィーク、主は聖騎士のベルレオだ。

俺の名前を出してくれればいい」

「分かった従士ゾルヴィーク、感謝する。

俺は従士の……知ってるか」


思わず自己紹介しようとして、いらん事したと苦笑いを浮かべる俺。

彼は「アハハハ」と笑ってこう言った。


「俺の主の騎士ベルレオは、昔王宮に勤めて、今アルバルヴェ王太子妃のユーシラフトリア様の護衛もしていた。

だから俺がアルバルヴェ人のアンタと縁が持てて嬉しい。

それに、ダナバンド従士と派手にやり合っているのを見ていたんだ。

是非とも仲良くしたいと思っていた」


おおっ、なんとまた!

俺はそう言われると嬉しくなってこう言った。


「それは是非とも!

俺もあなたと親しくなれて嬉しい」


聞いた彼等は、俺に親しみの籠った笑みを見せた。

こうして俺は彼等にこの場を任せて、家路についた。




その後ヨルダンの元に帰り着いた俺は、この顛末(てんまつ)を詳細に彼に報告し、そしてヴァンツェル騎士館に出頭した。

そこで事情徴収を受けて、解放されたのは夜になってからである。





裏で様々な勢力が暗躍し始めるルクスディーヌの町。

その力関係と思惑が、複雑に絡み合っていくのをラリーは知らない。

こうして乾季の12月は終わり。

……1217年が始まる。


ご覧いただきありがとうございます。

亀更新、不定期更新ではございますが、今後ともお願いいたします。


……ポイントいただけないでしょうか?

ブックマーク、評価、感想がモチベーションで頑張ってます。

増えると嬉しい、だけど減ると叫びたくなるほど悲しい今日この頃です。


よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 投稿お疲れ様です。最近ペース早くて嬉しいです。 ラリーが剣技を磨き妙な力も手にいれバルドレとの因縁も産まれどんどん舞台が整ってきましたね楽しみ。 レミちゃん関係は下手打ってペッカーにドン引き…
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