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俺の騎士道!  作者: 多摩川
青年従士聖地修行編
139/147

1216年 12月   7/10

この後、さっそく俺は彼女を捕まえて謝ろうと思った。

だがその日、日が暮れるまで俺はレミちゃんに会う事は出来なかった。


実はこの日、俺も大変忙しく。

見つからないなら探すか?と言うとそれも出来ない。

馬具の手入れや、埃や泥にまみれた鎧の清掃。

溜まっていた衣類の洗濯に、3頭の馬の世話……

そして未払いの支払いや、俺宛の為替(かわせ)の引き取り準備と、早期に片付けたい仕事が山の様にあったからだ。

何時新しいヨルダンの赴任先に同行するのかもわからなかった。

……ひょっとしたら明日赴任する可能性だってある。

それまでにこれらは終わらせたい。

その為、今日は孤児院の方でもアイナさんやヴィーゾンがそれぞれ忙しく働いている筈だった。


戦場とはまた違った意味でクタクタになった俺は、夕方にやっと一段落つく。

こうしてソファーで夕陽を見ながらぐったりしていると、玄関からレミが家の中に入って来るのが見えた。


「あ……」


その姿を見て、声を掛けようとした俺。

彼女はなんか昨日の事を忘れたかのように、いつものようにコッチに来た。

謝ろうと思って口を開くが、なんか心臓がバクバク言って上手く喋れない。

どうしたの?どうしちゃったのよ俺!

中々謝るというのは勇気がいるのだと、この時思った。

レミは特に何か言う訳でもなく、俺の傍を通り過ぎようとするので、俺は意を決して話しかけた。


「あの……」

「なに?」

「昨日はごめん……俺が悪かった」


そう言うと彼女は「ああ……」と言って笑うとこう言った。


「別に良い、気にしてない」


で、それだけ言うと普段通りの感じで二階の自分の部屋へと向かう。

俺はそんなあっさりとした彼女の後姿を、やや呆然気味に見ていた。

そのうち彼女の姿が完全に見えなくなると俺は「なんだよ……それだけかよ」と呟く。


許されてホッとしたり、その淡泊な様子にこれまでモヤモヤしていた自分が、とても馬鹿らしく思えたり。

いや、そっけなく逆に冷たくされてない?と勘繰(かんぐ)ったりとにかく内心が忙しい。

まぁ色々と考えたが、ひとまず大きな荷物を、肩から降ろした気持ちにはなれた。

正直考えすぎて損した気持ちにもなる。


◇◇◇◇


―翌日。


何時もの様に孤児院の中に入ると、そこには掌を、岩に向けて「炎よ、我が(かいな)より出でよ!」と、カッコイイ中二病発言のマスカーニが……


何してるの?


呆気に取られて、いつもの様にルッカやモリソを連れて変な事をしているマスカーニを見つめる俺。

すると俺の視線に気が付いたマスカーニが、嬉しそうな顔で終えの元に走ってきた。


「ラリー!」

「おおマスカーニ、何やってるの?」

「ラリー、僕魔導士になる!」

「はっ?」

「ラリーどうして昨日居なかったの?

昨日すっごい魔導士が来たんだよ!」

「すごい魔導士って?」

「従士になりたいって言う人。

そいつね、今の岩をね、炎の魔法で粉々(こなごな)にしたんだ!

そのあと元に戻したんだよッ」

「粉々の岩を?」


なんだ?そんな魔法があるなんて聞いた事が無いぞ……

壊れたものが元に戻るのか?

そんな魔導士が居たんだ、へぇ……


「すっごいでしょう!

ねぇラリー、魔法って剣より強いの?」

「聖甲銀とか護符(アミュレット)で効果を抑えられるから何ともなぁ……

相手の装備次第かな。

何の装備も持ってないなら魔法の方が有益な場合はある。

そもそも相手が魔法を使ってくると分かった時点で、持って行く装備品に、重くてかさばる聖甲銀などの持ち物が必要だ。

それでその分食料やら、水やらの荷物が減る。

だから魔法があると思わせただけで、相手の動きに制限を加えられるんだよ……

そんな訳で、純粋に戦うなら、やっぱり安定して相手を切り伏せられる剣の方が、勝利は確実かな」


俺は剣士の俺にそれを聞くのが間違ってる。

と思いながら、魔導士のパパやお兄様の名誉を傷つけない程度に、剣を持ちあげて説明した。


マスカーニは昨日見た魔法の衝撃が忘れられないのか「なーんだ、万能じゃないのか……」とつまらなさそうに言った。

俺はそれを見ながらルッカやモリソにも目を向けてこう尋ねた。


「俺が居ない間、剣の修業はしていたか?」


すると予想外の答えを、3人は返した。


『うん、レミちゃんに教えて貰ってた!』


……レミちゃん?


「レミちゃんって、ウチのレミちゃん?」

「うん!」

「あのツンとしたお姉様?」

「レミちゃん優しいよ?」

「あ、そうなんだ。

レミちゃん剣が使えたんだ、へぇ」

「知らなかったの?」


ルッカがそう尋ねたので「初めて知った」と答える俺。

するとモリソが「レミちゃんすっごい上手いんだよ!」と力説する。

意外な事実を知って、驚いていると、騒ぎを聞きつけたヴィーゾンがこちらにやってきた。


「ラリーちゃんおはよう」

「おはようございます!」

「いいねぇ、最初の頃より言葉遣(ことばづか)いが良くなったよ」


そう言って、ニヒルに笑うヴィーゾン。

思わず俺も苦笑いを浮かべる。

次にヴィーゾンは俺にこう言った・


「ラリー、もしかしたらお前の同僚になる従士が決まるかもしれないぞ」


この言葉に大きく驚く俺。


「ええっ!昨日の今日で面接に受かった奴が居たんですか?

これって、昨日来たって評判の魔導士ですよね?

安心できる経歴なんですか!」


そう食いつき気味に尋ねると、ヴィーゾンがニンマリと笑った。


「ああ、マスカーニ達から聞いたのか。

実は今度の従士は……フォーザックの原住民なんだ」

「へ、現地のフィロリアンですか?」

「ああ、あまり宗教熱心ではないが、子供達にも親切で、そして絶対にダナバンド人と縁が無い奴だ。

余り鍛えてはいないが、魔法に()けていてな、地元の名族の出身で教養がある。

体が細すぎて力仕事は、まぁ無理だが……馬術の方は十分な力量だ。

で、体の問題があって、働く時間がお前より少し短い。」

「体の問題って、病弱なんですか?

仕える時間が短い、それって良いんですか?」

「良くはないが、これ以上従士の面接に時間を費やしたくない。

実はフロデリベルの出発する日が決まった。

来週にはここを立たなければならない」

「そんなに急なんですね……」

「ああ、だが次にルクスディーヌに戻るのは来月になる。

細かく戻る予定だから、レミって子にはそう言っておけ。

ああ、そうだ今度の新人な……給料が無いのも了承済みだ」


……ああ、ウチのボスは合い変わらずだなぁ。


「そいつはラリーが嫌うような金にうるさいタイプじゃなくて、立派な魔導士になるのが希望のようだ(つまり騎士爵を持った魔導士になる予定、グラニールが代表例)」

「へぇ、じゃあ読み書きも出来るんですか?」

「ああ、帳簿の管理もできるみたいだな」


なら……助かるな。


「裏方を主に見る従士として雇おうと思う。

ラリーは盾持ちとして、引き続き現場でヨルダンの補助だな」

「分かりました、何時からその人は来るんですか?」

「明日には来るぞ、今日は従士になる為の装備を整えると聞いた」

「え?鎧ならウチに在りますよ……」

「重すぎて、()けると動けないそうだ」

「成る程……確かにうちのパパも、鎧は家に置いてませんでした。

するとそいつは、ウチの騎士団に居る魔導士みたいに、鎧を着なかったり、軽い皮鎧(かわよろい)なんですかね?」


魔導士で騎士爵を持っている聖騎士は、聖騎士団にも居る。

彼等は鎧を付けずに後方で支援に徹したり、皮鎧と盾を装備して、仲間の為に戦っていた。

腕っぷしに優れた者が多い聖騎士団では、主に相手の魔法のレジストが主な仕事だ。


「そいつ……皮の手入れ(つまり自分の皮鎧の手入れ)出来ます?」

「……無理じゃない?」


おうふ、修行をちゃんとしてきたボンボンが来るってところかしら……


「まぁ気長に教えてやれよ。

初めての後輩だからどうしたら良いか分からないだろうが。

……ああ、そうそう。

今度の新入りな、年上だぞ」

「え?」

「先輩風吹かすなよ、嫌われちゃうぞ」


そう言うともったいぶった様子で、ヴィーゾンはココから立ち去った。


「……後輩に嫌われるなって、どう言う事だよ?

普通逆だろうに……」


何処で小姓の教育を受けたんだよ……

そう思っているとマスカーニが「ラリーちゃん、心が小さい」と、余計な事を……


なんだと!


「マスカーニ!お前は俺の剣の弟子なんだぞ!」

「でも俺は叔父(ヨルダン)さんの甥だよ?」


クッ!此処で要らぬ上下関係を持ち出しやがって、このガキ……

これだからなんかやけに(さと)い子は苦手なんだよ、まったく。


こうして俺は会っても居ないのに、今度来る新入りにぶつぶつ文句を言い、心の狭さを見せつける。

そしてそれをちゃかして得意げなマスカーニ……

オロオロするルッカとモリソ。

むぅ、このガキ、いつか大物になりそうだ……


「分かった、お前は偉大なソードマスターの甥だ」

「降参?」

「降参は……しない」

「ええ?」

「……それよりもだ、俺はそのマスターに会いたいんだけど、今どこにいる?」

「執務室だよ」


マスカーニは俺の言葉を聞いて“勝った!”と思ったらしく、得意げな様子でヨルダンの居る場所を教える。

クッ、子供だと思って侮ったぞ。



ご覧いただきありがとうございます

次回の更新は5/28 7:00~8:00の間です

よろしくお願いいたします。

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