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俺の騎士道!  作者: 多摩川
青年従士聖地修行編
138/147

1216年 12月   6/10

―現在。


「あの紐は……どうして俺の手の中に来たんだろう?」


俺はその事を思い出しながら、星空に自分の手をかざした。

掌を握ったり、開いたりしながらその事を思い出してみる。


(確かこう……

頭の中で、物を掴むと言うか、手が伸びるイメージが一瞬(いっしゅん)(かす)かにして、それから……)


そんな俺の目の前を緑色に光る鳥が横切った。


ペッカーだ。


彼は光輝きながら「ゲーゲー(こっちにいたぞ!)」と誰かに告げる。

誰か俺を探していたらしいと見当を付けた俺は、体を起こした。

すると、遠くからレミがこちらにやってくるのが見えた。

こうしてやってきたレミは、あの時の不機嫌が嘘の様に俺を見てにっこり微笑む。


「…………」


自分でも良く分からないが、驚いたのか、なんなのか……

とにかく黙って彼女を迎える俺。

「おお……」ぐらいは言ったかもしれない。

彼女は「なかなか帰ってこないから」と言った。


「ああ、うん、まぁ……」


俺からは謝る気になれず、かといって無視もおかしいし、でも話すきっかけも無い。

自分の事ながら、えらく良く分からないリアクションをして見せる俺。

彼女は「ねぇ、星がきれいだ」と言って、俺のそばに腰を下ろす。


「…………」


何だろ、動揺するなぁ……

この様にどうしたら良いのか分からない、おバカな俺の傍に、ペッカーが光りながら舞い降りて言った。


「げーぐわ、ぐわーわ(仲直りしろ、話し合わないとダメじゃねぇか)」


……そうっすね。

俺は彼女に言った。


「ねぇ、どうして怒っているのか聞いてもいい?」


すると彼女は無言で返す。

ああ……これはいかんですわ。


「気が利いて無くてゴメンね」


俺がそう謝ると、彼女は黙って立ち上がり、不機嫌そうになって、またこの場を後にした。


「…………」


女心(おんなごころ)は分からない、だがもうこちらから話しかける事はもうしないだろう。

俺の誇りを、たやすく踏みにじった、あの女……

ペッカーも今の様子に溜息を吐く。


「今のは俺が悪いのか?」


俺がペッカーに聞くと彼は「ぐわーげぇ、げげぇーぐわっ(女の考える事は分からん、男同士なら今ので問題はない)」と答える。


「だよなぁ、腹立つわ、あの女……」


ペッカーは俺の暴言を聞いて、特に何も言う事は無かった。

俺はすぐ傍のペッカーに、違う話を尋ねた。


「聞いても良いか?ペッカー」

「ぐわ?(何?)」

「女神フィーリアが授けてくれる力って言うのが、有るらしいんだ。

プレティウムに会った時、ヴェリモシーで知ったんだけどさ。

……でも、生まれる前からもしかしたら知っていたかもしれない。

だけど、それが何なのか分からない。

何を授かったのか知ってるか?」


知る訳ないよなぁ……と思いながらそう尋ねた俺。

するとペッカーは呆れた様に「ぐわぁげぇーぐわっ(今その話をするべきかよ……)」と呟いた。

そしておもむろに溜息を吐くと「ぐわぁぐわ……(俺がお膳立てをしたのに……)」と言う。

次に再び溜息を吐くと、彼は俺の質問内容を頭で整理して答えてくれた。


「ぐわぁーぐわ、げぇーげげげぐわぅ(あの女が授ける恩寵(おんちょう)は知っている、才能を授かる事に関して、必ず望みを叶える力の事だ)」

「!」


思わず体を起こしてペッカーを見る俺。

ペッカーは言った。


「げーげげぐぅーわ、ぐわぁぐわっぐわぁー(その恩寵は女神フィーリアが、同時に3人までしか授けられない力だ)

ぐーがーげぇーぐわぐわぁぁぎゅ、ぐわぐわわぁーわ(すなわち奴の切り札だ、これを持てば努力次第で思い描いた事が出来る様になる)」


俺は目を見張った、そしてペッカーに聞いた。


「女神の切り札という事は……

凄い力なのか?」

「ぐわ、ぎゅーぎゅーぐわぁぐわーぐぇーげぇぐぁぐわぁ(そうだ、人間には素質があり、それを超える力は通常身につかない)

ぎゅーぐわぁ、がーげーぎゅうげぁ、ぐわぐわぐわっぐわぁー(これが天分(てんぶん)と言うヤツだ、同じ教室で学んでも同じ結果に人は育たない様に、やはり個人個人得意とする事は違う)

ぎゅーぐわぁ、ぐわーぐわぁぐわ?(お前が何を望んだか知らないが、欲したモノを覚えているならそれに手を伸ばしてみたらどうだ?)」


そう言うとペッカーは「ぐうぁぐうぁ、ぐえぐせーぎゅ(俺はもう寝る、明日こそ仲直りしろよ)」と言って家に向かって飛び立った。


……仲直りせにゃならんか。

ああ、明日又あの女、()ねたらどうしよう?

俺はそう考えて「謝りたくねぇな……」と(うめ)いた。

レミの事だから、俺が謝らないと気が済まない気がする。


(ああ、めんどくせぇ……)


一言言おう、イライラする。

こんな気持ちの俺は、動きたくなくて、そのまま星空を意味も無く見上げ続けた。

……何故か不意に石を投げたくなる。

そこで、周りを見渡すと手を伸ばせばと届きそうなところに、石があった。

石を見た俺は、夢ので見たことを思い出して(出来ないよな……)と思いながら石に手をかざして念じた。


“石よ、俺の所に来い“と。


ヒュン!

次の瞬間石が、俺の手の中に飛び込んできた。

パシッと、思わず石を掴む俺。


「え?ええっ!」


俺の手の中に確かに石があった。

驚き、手の中の石を見つめる俺。


「これは?魔導……かな」


でも実家で見た魔導は、もっと魔導特有の気配がした筈である。

魔導は自分の“内なる力”を触媒(しょくばい)にして、周囲の魔力を集約したり変換しながら使う技である。

その総称が魔導だというのは、パパの教え。

そしてこれもまた魔法と、言う人も居る。


そう言えばこの前貰ったパパからの手紙では、シドがその力に適性があったと書いてあったな。

……まぁその話はいいや。


この様に体外にある、見えない力に作用をさせる関係上、どうしても魔導ないし魔法には、独特の気配がある。

しかし今俺が使った、物を引き寄せるという力には、そう言うモノは一切なかった。

これは何だ?

だけど……これは何か凄い物だ!

これだけはわかる、俺は何か凄い力を持っているに違いないぞ‼


「は、ハハハ……家族で俺だけ魔導が使えなかったけど(嘘・ママもその素質は無い)。

なんだ、それに代わるモノが有るじゃん。

俺もパパの息子じゃんか……」


俺は今出来た事が現実なのか確かめたくて、近くに在る木の枝にも同じように、手の中に飛び込んでくるように念じた。

見えない俺の力が、木の枝に届き、そして俺の元に持ってくる感覚が手から伝わる。


パシッ!

次の瞬間枝が飛んできて、俺の手の中に収まった。


「あは、あはははは……そうか、約束で貰ったはずの力って、この事か!

そうか、そう言う事か!」


手の中に残る、確かな手応えと、その手応えが指し示した明るい未来への予感。

ソレは俺の心を明るくする。

この力を使えこなせるようになれば、俺はマスターヨルダンの様に、化け物相手でも臆せず戦える様になるかもしれない!

ああはなれないと、諦めそうだった俺の心に希望が宿る。


魔法に寄らない魔法に似た力……

これを使いこなせるようになれば、俺だって怪物剣士達に引けは取らない。

こうして感じる、探し求めていたものが見つかったとの、確かな手応え……

そして心に沸き立つ静かな歓喜。

その中で、俺は修行に取り組もうと決意した。

この新しい力を、使いこなせるようになりたい……


◇◇◇◇


―翌日……朝。


「ぐわーぐわ(そこに座れ)」


朝、ペッカーが俺を見るなりテーブルに座れと命じてきた。


「ええ?なんでよ……」


昨日の今日なのでレミちゃんの事かなぁ?と思いながらテーブルに並ぶ椅子に腰掛ける。

するとペッカーはテーブルの上に舞い降り、胸を張りながら俺にこう言った。


「ぐわーぐわっげぇ、ぎゅわぁーぎゅわぁーぎゅわわーげ(あの子は良い子じゃないか、それなのにお前はそれに感謝もしない)

ぐわぁぐえわぁーぎゅぎゅわわー、ぐえぎゅーげーげっ!(一年ぶりに会って嬉しい気持ちで再会すれば、また待っててねと人も気持ちも考えずに言う奴があるか!)」

「それならそうだとあの時言えばよかったじゃないか……」

「ぐわぐわぁーッ‼(だからお前はダメなんだッ!)」


叫ぶペッカー、たじろぐ俺。

そんな俺にペッカーは、瞳を閉じて言った。


「ぎゅわぁぎゅ?ぎゅわわぁ(あの子がどんな思いで待っていたか分かるか?一途(いちず)な良い子じゃないか)

ぎゅわぁー……(それなのにお前は……)

ぐわぁーぐわっぐわ、ぎゅうわー、げぇげーぐわっ!(会ったら今度はお前の方から謝れ、その時余計な弁解なんかするな、男なんだから!)」

「え?なんで俺がそんな……」


俺が()()の言おうとしたら、ペッカーが“ギンッ”と目を見開き俺を睨む。


「……わかったよ」


流石に俺の兄弟であるコイツの言葉は重い。

……いや、当たり前だけど血は繋がって無いよ?

6歳の頃から常に一緒だったからさぁ、ガチでコイツは家族なのだ。

しかしレミめ……

クッソぉ、ペッカーを抱き込みやがったな……しょうがない、降参するしかないか。


俺は「分かった、今日会ったら俺から謝るよ……仲直りするから」とペッカーに告げる。

するとペッカーは満足げにうなずき、そしてあの子がどんな気持ちで一年いたのかを教えてくれた。


皆が居ない中、一人でこの家にいる事が多かったんだぞ、とか。

手伝いの婆さんに励まされ、お前が帰って来るのを待っていたんだ。

そして、他の男にもなびかず、お前が嫉妬深いから我慢していた。

それなのに再会したら早速お前って奴はっ!と言う具合。

そしてペッカーは言った。


「ぐわぁーぎゅうわんわぁー、ぐわっぐわっぎゅわぁわ、ぎゅわぁーげぇーげーぎゅわ?(お前の気持ちが荒れるのは分かる、だけど今回は退け、一生後悔するんだぞ?)」


その話を聞いて(そうかぁ……)と思った俺。

そう言う事があって、一年ぶりに会って俺が“あんな感じ”だからキレたのか。

事情と言うか、感情と言うか、そう言う事があったと分かれば俺も納得は出来る。


「……確かに俺も、相手の事を考えていなかったよ。

また会ったら、今度は俺から謝る」


そう言って彼の言葉に従う姿勢を見せた俺。

それを聞いたペッカーは“ウム、ウム”とばかりに頷き、俺の言葉に納得した様子を見せたのだった。


ご覧いただきありがとうございます

次回の更新は 5/27 20:00~21:00の間です

よろしくお願いいたします。

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