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俺の騎士道!  作者: 多摩川
青年従士聖地修行編
134/147

1216年 12月   2/10

さて……鎧の部材が積まれたあのテントを出た俺は、言われた通りヨルダンのテントを目指した。

補修が終わった鎧と一緒に、主であるヨルダンのテントに辿り着いた俺は、テントの外から「戻りました」と声をかけて中に入る。

すると中には、ヨルダン、ヴィーゾン、アマーリオが居て、何やら深刻そうな顔で話し合っていた。


「ああ、やっと来たか」

「ええ、何か問題でも?」


ヨルダンの言葉にそう返すと、ヨルダンが言った。


「ああ、配置換えだ……」

「配置換えですか……次はどこの前線に行くんですか?」

「それがな……前線ではなく、後方だ」


聞いた瞬間(えっ?)と思った俺。

そして次にヨルダンに思わず強めな言葉で言ってしまった。


「待ってください!俺ら手柄も立てました。それなのにどうして後方に下がらないといけないんですかッ?」


後方では手柄は立てずらい、それも不満なのだが。

それよりも安全な後方に急に“行け”と言われると、俺達がこの現場で役に立ってないみたいで気分が悪い。

俺の言い草にボスはイラっとしたようで「俺に言うなっ!」と、俺を叱りつけた。


まぁ確かにそうだ……

俺は悲しみを表情に浮かべながら「納得されたのですか?」と尋ねる。

それを聞いて溜息を吐くヨルダン。

その隣でヴィーゾンが俺に言った。


「逆だよラリー。

俺達は目立ちすぎたのさ……」

「どういう事ですか?」

「聖地フォーザック王国がな、使えない騎士では無く、強い武闘派の騎士を寄騎(よりき)として参陣させろって(わめ)いたんだ。

そうじゃないと荘園を減らすってさ。

それで、だ。向こうが直々にヨルダンを指名したんだ」

「そんな……」

「今入った知らせだと、戦闘の直前、ヴァンツェルの聖騎士の馬のケツに、味方の槍が刺さってしまってな。

そして悪い事に、驚いた馬が敵のいない方角に、主を乗せて走った。

皆が整列して向き合っている状況だぞ?

戦う前に逃亡を始めたと言われてもおかしくはない。

バルミー共から散々に笑われるわ、味方からは(ののし)られるわで散々だ。

これに激怒した聖地フォーザック王が『強い騎士に代えないと、荘園を任せる事は出来ない‼』と言い始めたんだ」


なんだよそれ……聞いた事も無い失態じゃないか。

思わず愕然として、ヴィーゾンの話を聞いていると、ヨルダンが重々しげに口を開いた。


「そこで一度我等はルクスディーヌに戻り、フォーザック王と連絡を取りながら、折を見て王都のフロデリベルに赴任(ふにん)する」

「そうか、じゃあ引っ越しですね」

「いや、ルクスディーヌと行ったり来たりを繰り返す」

「どうしてですか?」

「フロデリベルに、孤児たちを預ける訳に行かないからだ。

アソコの王族はダナバンド出身、そして我々は……エルワンダル人だ」

ああ、そうかマスカーニの身の安全を考えての事か……

「……なら仕方がないですね」

「所属も騎士団本館に短期間だが移る。

後任が来ればまた同盟騎士館に戻るが、今はそんな計画を組んでいる」

「分かりました……」

「これまでルクスディーヌの俺の財産は、アシモスが残って管理してくれたけど、今回はヴィーゾンに残って管理してもらう」


ええっ!

思わずびっくりして、眼を見開くと、しかめっ面をしたヴィーゾンが俺見て言った。


「俺も不安だが仕方がない。

俺の事を知っているダナバンド人は多い、何せ俺は奴等と戦っていたからな……

連中がいつ本国と連絡を取って、俺の居場所を知らせるか分からん。

俺の居場所がバレれば“あの子”が大変だ」

「なるほど……」

「ラリー、向こうに行ったら、お前は分別を付けろよ。

お前のその気の短さは、良い戦士の証でもあるが、それが悪いモノをいろいろ招く。

そしてヨルダンやアシモス、そしてアマーリオを守れ。

……最近、騎士団と関係がある薬剤師を調べるために、胡散臭(うさんくさ)い奴が色々()(まわ)ってる。

その為にアシモスも一旦はこの機会に、ルクスディーヌから遠ざける。

向こうで治療薬作りはやる事になるから、それの手配もしないとな。

まぁ、俺はこの機会だ、のんびりやるさ。

……孤児院を守れる奴も必要だし、俺はこの機会に体を(いたわ)るよ」


そう言ってヴィーゾンは寂しそうに笑った。

本当はフロデリベルには行きたいのだろう、俺に任せるのは心配だとその顔には書いてある。

ヴィーゾンはその後、溜息を吐きながら、物憂(ものう)げに呟いた。


「もう一人従士が欲しいな、そして出来れば小姓も……」


するとヨルダンが「駄目だ」と言った後、言葉を続けた。


「信頼のできる奴じゃないと孤児院の中に入れさせたくない。

ここ最近面接した従士は、金の話ばかりだ。

金を稼ぐなら他の騎士の方が良かろう。

修行に来たというならまだわかるが、俺の所で金を稼ぐのは無理だ」


そして何故かチラリと俺を見ながら言った。


「俺についてこれるような奴なら“狂犬”でも何でもいいがな」

「え、マスターそれは……」


思わず声を上げた俺に彼は言う。


「いや、褒めているんだぞ。

首を取ってこいと言えば首を取って来るし、それに剣術の修業にも余念がない。

馬術だってなんだって熱心だ。

お前は欠点まみれだが、そう言う所はお前の美徳だと、俺は思っている」

「あの、()めているのか、けなしているのか……その」

「褒めているんだ」


ら、らじゃぁー、嬉しいな。

苦み走った味がアクセントだけどな。

あ、睨んでる……ボス、俺の心が分かるのかしら?

この様に思わずたじろいだ俺の様子を、苦笑(にがわら)いしながら見つめるヴィーゾン。

そんな彼が俺に言った


「そうだな、まぁ鎧の補修でもなんで一通りできるし、料理も出来るし、これでトラブルが無ければ言う事は無いな」


ヨルダンはその言葉に頷きながら言った。


「俺達は別に大きな所領を欲している訳じゃない。

ただ為すべき事を、成し遂げる事が目的だ。

多くの人員を雇うよりも、確実に信用の出来る人を雇いたい。

だから兵士は増やしても構わんが、孤児院の中には入れたくない。

ラリーが管理している屋敷に、必要な兵士は入れてもいいとは思う。

だが従士となるとそうもいかん、孤児院に入る必要があるから、おいそれと増やす訳にはいかないのだ」


そう言って両手で顔を覆うヨルダン。

ヴィーゾンはそれを見ながら言った。


「ラリーに俺の代わりをさせるには、少し仕事量が大きいぞ。

出来ないとは言わないが、ラリーの仕事を誰かがやらないと逆にコイツが潰れてしまう。

そもそもやけに器用だったコイツに、鎧の修復やら、ホバークの修繕、最近では物資の受け取りや管理もやらせてる。

加えてコイツは盾持ちだ、ヨルダンが行く戦場には常に帯同(たいどう)する。

そろそろラリーにも、同僚が必要な時期が来たと思う」


ヨルダンは「それは分かっている」と呟いて、そして言った。


「とにかくルクスディーヌについてからだ。

今従士の面接をする訳でもないのだから……

それにずっと戦争続きだ。休みがそろそろ欲しい。体は問題ないが心がな……

それに正直俺も……会いたい」


誰に?と言うような野暮は言わない。

アイナさんですね。

そして俺も、レミに会いたい。

もう一年も会ってない……


心配なあまり、毎月手紙を書いて送ったり、留守番のアシモスに《悪い虫が近寄ってきたら、必ず俺がお礼参(れいまい)りにやって来る事を伝えて欲しい!》とお願いしたり、大変だった。

狂犬ラリーの名前で、どこまで男達を黙らせられるのか分からないが、とにかく俺は必死なのだ。

……ちなみにアシモスからは《悪い虫は居ないから大丈夫、彼女を信じてあげて下さい》との手紙が毎月届く。

それが精神安定剤だ……

俺はそんな日々を思い出しながら「そうですね、モリソやルッカも元気ですかね」と言った。


実は皆で話し合い、出来るだけマスカーニの名前は口にしない様にしようと、決めていた。

なのでマスカーニの代わりに、彼と一番仲が良い二人の名前を出したのだ。

ヨルダン達は黙って頷き、そして心をアノ平和だったルクスディーヌの町や、孤児院の方へと飛ばすのだった。


ご覧いただきありがとうございます

次回の更新は 5/25 8:00~9:00の間です

よろしくお願いいたします。

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