幕間 ―欠け始めた月 1/4
レビュー頂きました、本当にありがとうございます!
この作品ジャンル分けがしずらい作品です、それはあくまでも”彼の物語”つまりヒストリーを描いているからです。泣き笑いあり、戦いに過ち、正解不正解をちりばめるウチのアホの子を評して本当に感謝です。
実は自分、この作品のあらすじ書こうとしてどう書いていいのか分からないのです。
なのでレビューを書くのは大変だったかと思います、この場を借りて厚く御礼申します。
―ルバデザルト襲撃事件より2週間後、ポイタシュト。
テュルアク帝国の第二皇子フォイダーンの宮殿の庭は、緑が多く立派だ。
その中を穏やかな性格の子馬が草を食み、その傍を身なりの良い、子供達が遊びまわる。
時折そこらの草を掴んで、馬にあげるのもご愛敬。
皇族はもう遊牧用のテントには住んでいないが、彼等はこうして幼いころから馬に親しみ、そして一緒に大きくなる。
そんな子供達の元に、まだ20代前半の若い、立派な身なりの男が近寄った。
「ああっ!お父さん」
子供の内の一人が、そう言ってこの若い男の元へ駆け寄る。
男は満面の笑みで、やってきた子供を抱き上げると、嬉しそうに頬ずりした。
「ボウスターシ、会いたかった!」
「きゃぁー」
そして父と呼ばれたこの男は、幾度もこの子供にキスをする。
「もう体は無事か?
どこも悪くないか?」
子供はそれを聞くと、ケラケラと笑いながら「もう治ったよ!」と答えた。
「また辛くなったら言いなさい、無理はしちゃいけない」
「大丈夫だよ、僕はもう強い子なんだよ!」
そう言って服の袖をまくり、上腕二頭筋を目立たせる、ボウスターシと呼ばれる子供。
それを見て男は、幸せそうに言った。
「アハハ、どこでお前はソレを覚えたんだ?」
そう言うと、彼は抱え上げていた息子を下ろし「私は仕事がある、お前もあまり無理はせずにな」と言った。
子供は「はーい」と元気よく答え、そしてまた子供たちの輪の中に戻り、そして走り回る。
それを確認しながら今来た道を戻る彼。
戻ると彼の短い寄り道を待っていた、テュルアクの戦士達が彼に頭を下げる。
このテュルアクの戦士達は彼の護衛だ。
護衛は彼を挟むように歩き、そして歩調を合わせて共に行動を共にする。
……父である彼はその道中何度も、子供の姿を見る為に振り返った。
そして、その度に元気な我が子を見て、嬉しそうに微笑む。
このボウスターシと呼ばれた子供の父親の名前は、フォイダーンと言う。
彼こそこの宮殿の主であり、テュルアク帝国の第2王子である。
黒い髪と知的で整った顔。そして温和な雰囲気を持った男だ。
彼は道行く使用人や奴隷に礼儀を払われながら、宮殿の渡り廊下を歩いた。
晴れ晴れとした表情の貴公子……
彼は宮殿内を悠然と歩くと、一つの部屋に辿り着いた。
此処には青地にジャスミンの花が目にも鮮やかな、カーペットが敷き込まれている。
……部屋にはもう先客が居た。
男女の二人組が彼の来るのを静かに待っている。
彼等はクッションに座り、彼が来ると、振り返りもせず、頭を下げて迎え入れた。
「早いな、二人とも……」
そう言って、二人を軽く労ったフォイダーンは彼等の前に在る、床机に腰掛ける。
これもまたクッションが敷かれた、実に座り心地のよさそうなものだ。
そして護衛はその両脇に立った。
「面を上げよ」
その中で、フォイダーンは威厳を持って、頭を下げた彼等に声をかける。
「シャイアーレ、そしてアレチピレオン。
よくぞ来てくれた」
するとアレチピレオンと呼ばれた男は、輝くような優しい目で微笑み、そして「殿下に拝謁できて、喜びの極みです」と答える。
フォイダーンはそれを聞くと“カッカッカッ”と笑って言った。
「何を言う、他ならぬあなたが来たとなれば、何を差し置いても私は会います。
あなたは私や息子を救ってくれた、幾ら礼を言っても足りないくらいだ……」
「とんでもない、これはラドバルムス神がお決めになられた事です。
私のせいではございません。
しいて言うなら、殿下の信仰心の篤さがこの奇跡をもたらしたのです」
「アハハは、なんとまぁ相も変わらず謙虚な御仁だ。
望めば褒美だって幾らでもやるというのに」
「ありがとうございます、お気遣い感謝いたします。
ただ、朝夕ラドバルムスの勝利をお祈りください。
それ以上の望みはございません……」
「ああ、もちろんだ。
欲望にまみれ、侵略を繰り返す強欲なるフィーリアから、真に正しい教えを守るのは私の願いだ。
心から祈りを神に捧げさせて頂く」
「ありがとうございます……」
次にフォイダーンは、シャイアーレに目を向けると言った。
「シャイアーレも今回はご苦労だった。
被害は出たが軽微なものだ……
聖フォーザック王国の伯爵を討ち取ったのは大きい。
なんといっても、あのルクスディーヌの目と鼻の先でやったのだ。
聖騎士団の権威は大きく傷ついた……
テュルアクは、65年昔の仕返しが出来た。
以前の戦争では、卑怯にも奴等が先制攻撃をしてきた。
だが今回はコチラからだ、実に痛快じゃないか!
わーッはッはッ!」
「はい、これも殿下と陛下の徳が為せる事です」
「ふふ、まぁおだてなくて良い。
この戦争に反対だった、クッチオダーンは私を苦々(にがにが)しい思いで見ていたぞ。
あの目をお前にも、見せてやりたかった」
シャイアーレは黙ってその言葉を受け止めた。
此処で下手な事を言って、後の禍根に残すことはしたくない。
フォイダーンもそれは分かっているので、それには何も言う事も無く、改めて尋ねた。
「だが、それ以外に何も得るものが無かったのも事実。
略奪も上手くいかなかった……
シャイアーレの言う通り、バキエフに任せたら伯爵は討ち取れたが、得るものは無かった。
さすがシャイアーレの慧眼だな。
だが、今回の手柄で陛下から、財貨や家畜を下賜された。
これで我が戦士達に十分な褒美を出せよう。
……だが次は何か得るモノが欲しい。
土地でも、財貨でも、何でもだ……」
そう言うとフォイダーンは先程の、貴公子然とした顔から表情を一変させ、欲の深い顔でシャイアーレの目を覗き込む。
シャイアーレは、その眼を見つめ返し、そして静かに答えた。
「かしこまりました、サリワルディーヌのご神託を伺ってみましょう。
所で殿下、私が推挙しましたあの怪物はどうでしたか?」
「ああ、バルドレとか言う奴だな。
人間に化けた怪物と聞いて、懸念していたのだが、すっかり皆に溶け込んだ様だ。
『客人、客人』と呼ばれて慕われている。
アイツ等はフィロリアに帰る為に、お前に協力していると言うのは本当か?」
「ええ、彼等はこの地に居る貴公子を探しているのです。
もし見つかったら彼を伴って、主の元に変えるのだとか……」
「主と言うのは人間か?」
「勿論です」
「ふー、フィロリア人の考える事は分からぬな。
怪物を家臣として、宮廷に仕えさせるとはな……」
「ええ、ですから私もそんなフィロリアの国を是非とも死ぬ前に一度見てみたいのです。
殿下はその為に特別な許可を私に下されるというので、今からもう、待ち遠しくて仕方がありません!」
「アハハは、私が陛下の跡を継いだら、褒美に“旅行”許可が欲しいと言うので驚いだぞ。
あなたはきっと皇子を生んで、私と争うのだと思っていたので」
「私は皇帝の母になりたいとは思いません。
もし幸運にも皇子の母となっても、フォイダーン様の忠実な家臣にしたいと思います」
「うむ、うむ。
あなたの忠誠には感謝している。
アナタの子を、私もおろそかに扱わないと約束しよう」
「ご厚情、感謝いたします」
「それはそうとして、あの怪物の客人、仲間が死んだようで悲嘆に暮れているそうだ。
なんでも仲間を救うために伯爵を使って身代金にしたかったとか。
魔物にも友愛の思いがあったとはな……」
「ええ、しかしそれは叶いませんでした。
……もっとも、いかなる神託でも、その可能性は無いとありましたので、騙した様で私も心苦しいのです」
「……知らぬは当人、と言う訳か」
「……はい。
ですが復讐の思いに燃えるバルドレは、殿下のお力にきっとなる筈。
聖騎士との戦いは始まったばかり、ああいう理の外に居る戦士が、これから必要かと思います」
「そうか、分かった。引き続きあなたの所で彼を預かってくれ」
「かしこまりました……」
「では、神託が出たら改めて私に連絡せよ」
「はい」
フォイダーンは次にアレチピレオンの方に顔を向けた。
フォイダーンはシャイアーレに向けたような欲深い顔ではなく、彼には実に清々(すがすが)しい表情を見せた。
「アレチピレオン、いよいよあなたに恩を返す時が来た」
「…………」
「息子が死病にかかった時、もはやこれまでか……そう思っていた私や息子を、あなたは救った。
噂だけかと思っていた霊薬、エリクサーを惜しげもなく授けてくれたことを、私がどんなに感謝しているか……
ラドバルムス神には感謝してもしきれない」
「そう言っていただけて、ありがとうございます」
「ラドバルムスの恩寵は、素晴らしいモノだ。
これまでクッチオダーンの後塵を拝むだけだったが、ラドバルムスを信仰してからと言うもの、全てが上手くいく。
……これが本当の神だ。
助け合い、慈しみあう事で、家の中も明るく、息子も良く笑うようになった」
「全てはラドバルムス神のおかげです」
「ああ、我が神のおかげで、バルミーやサリワールも私に好意的だ。
今の私なら、祖先の悲願も叶える事が出来よう。
クッチオダーンに対抗する力も手に入れられたしな」
「喜んで頂けて何よりです」
フォイダーンは軽く顎先を傾けるように、アレチピレオンに謝意を示すと、次に二人を見回しながら語った。
「今日は用事がもう一つある。
今回伯爵を討ち取った事で、聖フォーザック王国と、聖騎士団との間に、どうやら亀裂が入ったようなのだ」
それを聞いたシャイアーレは当然という顔で頷き。
アレチピレオンは目を開いて驚いた。
二人を見回しながらフォイダーンは面白そうに言う。
「ルクスディーヌの近郊と言う、豊かで重要な場所に在ったあの町は、王妃の弟であるブコヴィレス伯爵が支配していた。
前線からも遠く、王妃の弟という事もあり、さして警戒もしていなかった事が、仇となった訳だ。
今回ブコヴィレス程の重要人物が死んだ事で、連中も知っただろう“もうどこにも安全な場所は無い”とな。
そして、当然だがこの事は聖騎士団の失態として、喧伝されている。
加えて、ルクスディーヌのサリワルディーヌ大神殿も、つい先月自分の聖域を焼かれたばかりだ。
彼等も王妃に取り入って、敵討ちに必死だ。
それに、今私の方でも聖騎士団は頼りにならないと、噂を振りまいている。
……聖騎士団よりも、聖フォーザック王国の騎士の方が頼りになる、とな。
これまで聖騎士共に任せ、まともに戦ってこなかった王国騎士団は、失敗も無い。
だから民衆は“王国騎士団の方が優れているのでは?”と思い始めている。
……実戦経験が不足しているとは考えないのだ、愚かなフィロリアンは。
だから連中は荘園の幾つかは、聖騎士団に管理させず、再び王国に取り戻すらしい。
まぁそうだろう、今現在聖フォーザック王国の荘園の7分の1が、聖騎士団に任されている。
……それが連中の軍事予算という訳だ。
それが財政を圧迫し、王国貴族の所領が増えない理由になっているのだから、これを機会に取り上げたいと願う。
だから要塞の一部が聖フォーザック王国に引き渡されるそうだ。
……荘園の減少に腹を立てた聖騎士団が、予算減少を理由に要塞を放棄すると言ってる。
この戦争の最中に、重要な砦を捨てるとは、実にフィロリアンは愚かだ……
そこで私は、わざと王国の騎士達が来たら逃げてやることにした。
聖騎士よりも頼りになると分かれば、連中ますます荘園を取り戻すだろう。
そうすれば聖騎士共は騎士を減らさざるを得ない。
代わりに増えるのは未熟な王国騎士だ……
来年、再来年と時が進むにつれてますますこちらが有利となるだろう」
ご覧いただきありがとうございます。コロナで時間が取れるので、せっせと書かせていただいてます。
後、皆様どんなシーンが良かったか、以前の話でもいいのでよかったら教えてください。
最近悩んでいまして……よろしくお願いいたします。
次回の更新は 5/14 7:00~8:00の間です
いつもありがとうございます。




