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俺の騎士道!  作者: 多摩川
青年従士聖地修行編
122/147

フォー・ゲット・ミー・ノット(私を忘れないで) 6/9

これを横暴と感じたバルドレが老戦士のバキエフに言葉を掛けた。


「なら爺さん、一つ聞きてぇが……」

「サリワール風情が私に口を開くな!

黙って我々の言う事を聞けばいいのだ!」


彼はそう言って、バルドレの口を黙らせる。

だがバルドレは黙らなかった!


「俺達は伯爵を捕らえたッ!」

「口を開くなと言っただろうが!」

「こいつは俺が捕まえたんだ、俺がコイツの身代金(みのしろきん)を受け取っても良いよな?」

「聞こえなかったのか?

後で皆で公平に分ける、伯爵の身代金はお前のモノではない!

それに口を開くな!」


彼の物言いに、バルドレの怒りはますます燃え上がる。

そんなバルドレにバキエフは言った。


「今回の襲撃隊は、私が部族長から兵を預かって行っている事だ。

他所者(よそもの)が……しかもテュルアクでも無い者が差し出がましくすることは断じて許さん!

分かったか、貴様っ!」


こうも激しく罵倒(ばとう)されて我慢がならない。

バルドレは怒りでワナワナと震え始めた。


「旦那、お願いします、ロウサウスの為にここは何とか!」


バルドレの様子に気が付いたトラシーナが、捕らえられている仲間の為にそう言ってバルドレに(すが)りつく。

此処で暴れて、テュルアク人の助けが借りられなくなれば、ロウサウスを救う事は出来なくなる。

このトラシーナの必死の懇願(こんがん)に、少し冷静さを取り戻したバルドレ。

彼はなけなしの理性をかき集めると「わぁってるょっ(分かっているよ)!」と、叫んでバキエフに言った。


「だとしたら使い方について俺の意見を言わせてもらう」

「あん?」

「こいつは、ルクスディーヌの牢獄に摑まっている、テュルアク人や魔物の身柄と引き換えに引き渡して欲しい。

そうしたら……」


するとバキエフは“フン”と鼻を鳴らし、バルドレを見下して言った。


「断る、そもそもルクスディーヌで捕まっているのは誇り高きテュルアクではない。

我々の国に住むバルミーどもだ。

そんな奴等よりも、身代金は大量の金塊か、聖甲銀で頂く」

「…………」


この無慈悲な言葉に、思わずバルドレは黙った。

そんなバルドレにバキエフは言う。


「そもそもなぜ魔物を解放させるのだ?

サリワールの考える事は理解し難い……

どちらにせよ、その伯爵の身柄はこちらで引き取る、こちらに渡せ」

「断る!これは俺のモノだッ。

どうしてお前に与えなくちゃならねぇんだ!」


バルドレはそう言って、伯爵とバキエフの間に立ちふさがった。

遂にキレたバルドレ、その不遜(ふそん)な様子を睨みつける老戦士バキエフ。

次の瞬間バキエフは腰の弓に矢をつがえ、バルドレめがけて弓を引き絞った。


「客人、身の程を知れ!

お前はテュルアクに楯突(たてつ)くつもりか!」


売り言葉に買い言葉、バキエフの言葉にバルドレも激高して叫ぶ。


「撃てるモノなら撃ってみろ!

その代わりタダではすまねぇからな!」


次の瞬間バキエフは矢を放った。

アッと驚く人々の視線……

その矢はバルドレの脇をすり抜け、伯爵の(がく)を打ち抜く!


『え?』


トラシーナ、そしてヴィックは呆気に取られて、バキエフの顔を見た。

額を打ち抜かれた伯爵は、目を白黒させ、次に痙攣(けいれん)を始める。

その様子をさも面白そうに見つめるバキエフは、呆然としたバルドレにこう言った。


「だとしたらそんな人質はいらぬ、価値がない。

身代金は死体を使ってやると良い、それなら伯爵はお前にくれてやる」


鼻を明かしてやったとばかりに、高笑いをしてこの場を去っていくバキエフ。

その背中に向かってバルドレが叫ぶ。


「殺すぞ貴様、殺してやるぞ!」


そんな彼に取りついて、トラシーナが言った。


「旦那、抑えてください!

これでロウサウスを解放させましょう、それを試さないと、俺達の一か月が無駄になります。

お願いします、短気を沈めてください。

アイツは俺の幼馴染(おさななじみ)兄弟分(きょうだいぶん)なんです。

お願いします旦那、お願いします……」


そう言って縋り付くトラシーナ。

ソレを無碍(むげ)に出来ず、バルドレは拳を握り締めて耐えるしかなかった。


「クソがぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」


◇◇◇◇


―同日、後の時間、同盟騎士館の軍。


行軍を始めてから2時間程経った。

……焼ける様な日差しで鎧兜は熱を持ち、肌に汗と苦労が(にじ)む。

隣のヨルダンとヴィーゾンはその中を涼しい顔で、行軍していた。

俺もそれに倣って(つと)めて表情には出さない。


この様にルバデザルトの町に向かう我々だが、太陽の位置が少し正午を過ぎた頃、休憩でもないのにその動きを止めた。

実はこの時ルバデザルトから逃げてきたという、若いフィロリアンの夫婦に遭遇(そうぐう)したからだ。

館長は早速彼等を自分の元に呼んできて、彼らから詳しい話を聞いている……


「何?夜明けと共に町が一瞬で陥落しただと?」


話を聞いた同盟騎士館の二フラム・ローン館長はそう言って、(ひざまず)庇護(ひご)を求める若い夫婦の言葉に驚く。

この感情は館長のみならず、騎士館の騎士達も同様だった。

ルバデザルトは堅固(けんご)とは言えないまでも、馬では超える事出来ない高さの、外壁に守られた都市である。

攻城兵器も無しにそんな街を、遊牧民が落とすとは考えられない。


「……町の中に裏切り者でも居たというのか?」


騎士がそう尋ねると、この夫婦は首を振って答えた。


「岩が空から降ってきて……

そうしたら門が吹き飛んだんです!

門がなくなったら一斉にアイツ等が街の中に入ってきて……

……他の事は分かりません」


この話を聞いて首を傾げる騎士達。

騎士の傍らで()(つた)わる、俺達盾持ちの従士達も何が起きたのか分からなかった。




……ここで少し説明する

俺は魔導士の家庭に育った事もあって、魔導で出来る事には少し詳しい。

なのでこの時、この事を自分なりに想像していた。


(魔法で岩が持ち上がったのか?

でも門には護符付(アミュレットつ)きの聖甲銀の筋金(すじがね)が入っていなかったのだろうか?

もし入っていれば、魔法はその結界内で無効化(レジスト)されてしまうはずだ……)


通常町や城の門には魔法に対して防衛力を持たせるために、護符付きの聖甲銀で筋金を入れる。

こうする事で(もん)(まわ)りの魔法は無効化され、使えなくなるのだ。

これは魔法による被害を無くすための仕組みであり、ガルアミアでもフィロリアでも大規模建築物なら常識として(ほどこ)される。




「アソコは(門に聖甲銀の)筋金が入って無いのか?」

「いや入っているはずだけど……

あの辺りで遊牧民から街を守るために、入れていない都市は無かったと記憶している」


この事をひそひそと話し合う騎士達。

彼等もこの事を知っていた。

その様子を黙って見守る従士達。

とにかくこのままでは(らち)が明かないと考える主だった騎士達の一部が、この夫婦に更に質問を重ねる。


「それはいったいどこの遊牧民だかわかるか?」

「はい、もちろんです!

あれは間違いなくテュルアクの連中です。

馬も巧みだし、それに着ている鎧がテュルアクのモノなんです」

「それに、とんでもない()(もの)が居ます。

そいつは魔法も効かない筈の、聖甲銀の筋が入った扉を、両手で押し破ったんです!

それに噂だと伯爵様はもう死んだって……」


それを聞いた騎士達は『なんてことだ……』と悔しげに(うめ)く。

二フラム館長は、重い溜息を吐くと悲しげに言った。


「なんという事だ、野蛮なテュルアクは身代金も取らず、伯爵様を手にかけるとは……

むごい、あまりにもむごい……」


そんな彼にヨルダンが進言する。


「館長急ぎましょう、夜になれば闇に(まぎ)れて、奴等逃げるかもしれません」


それを聞いた館長はコクリと頷く。

そして、夫婦に幾ばくかの路銀を与えると、軍を進める事にした。

流石(さすが)に彼等を保護する余裕が、我々にも無かったからだ。

止まった軍を再度動かす直前、館長は我々に命じた。


「急行軍で進める……奴等を逃がすな!」


こうして我々は可能な限り全力で、ルバデザルトの町を目指した。


……その甲斐もあってか、夕方前にはルバデザルトの街を見る場所に辿り着く。


館長は此処で軍を町から隠すように停止させると、軍議を開くために再び騎士達を自分元へと招集した。

こうして呼び出しに従い、館長の元へと向かう我が主……

今回従士達は、このまま待機とのことだったので、俺とヴィーゾンは列に留まった。

そして首を動かし、馬の上から見える“あの町”を見る。

外壁に囲まれたルバデザルトは、もうもうと白い煙を空に上げ、そしてここからでも聞こえる悲嘆(ひたん)の声に包まれている。

俺は思わず呟いた。


「話には聞いていたけどこれはひどい……」


するとそれを隣のヴィーゾンが言った。


「だがこれでは成功が大きすぎる。

アイツ等欲をかいて略奪品持ちきれないほど持って行こうとしやがるだろう。

今なら連中を捕捉(ほそく)できる」

「え、そうなの?」


その言葉に反応しながらヴィーゾンの顔を見ると、彼は“ふん”と鼻で、街を占拠する遊牧民をせせら笑いながら言った。


「ラリーちゃんも覚えておくといい。

人は賢くも無く、そして欲望に強くも無い。

手に入れたばかりであっても、自分のモノはすっぱり手放せないのさ

ましてや、蛮族(ばんぞく)なら尚の事……ね」

「皆が皆そうではないのでは?」

「甘いなラリー。

どんな場所にも賢人(けんじん)は居る、だけど少数だ。

そして軍と言うのは数が物を言う。

だから結局大多数の人間の言う事に皆流れていくものさ。

もっとも、皆から尊敬されるような親分が居れば別だがね……」


成る程、そう言うモノか……

俺の知らないことをたくさん知っている、思慮(しりょ)(ぶか)いヴィーゾンの言葉は、ストンと俺の胸に落ちて行った。

そしてガーブウルズに居る連中が、見事にそんな感じだったと、思い出す……

アレは世界共通なのだ。

つまりあれは……蛮族だったんだ。

……(わか)りやすいぜ、ヴィーゾンの言葉は。


「騎兵は集まれ!」


そう思っていると、二フラム館長が声を上げた。

すると伝言ゲームの様に『騎兵前へ!』と言う声が列の後方に届けられる。

俺達騎乗の人間は急ぎ館長の元に集まる。

こうして集まったのは全体の5分の1だ。


……余談だが。

元来騎兵と言うのは、軍全体の6分の1から10分の1位を占める編成が普通である。

ところが今回は遊牧民相手だという事で普段よりも騎兵の割合が多い。

普段の聖騎士の編成でも、これぐらい騎兵の割合が多いという事は無かった。


……さて話を戻す。

館長はこうして集まった騎兵に言った。


「お前達は此処(ここ)から街から見えない様に、東に向かい、連中の逃げ道を塞げ。

此処は北へ逃げようにも、東の橋を渡らないと川は渡れない地形だ。

連中は略奪品でブクブクに(ふく)れているし、荷物も増えて荷車(ワゴン)()しで動くつもりはあるまい。

つまり必ず橋は通る。

だから橋を何としても死守せよ!

奴等を捕捉し殲滅(せんめつ)するのだ!

本隊は西から街を攻撃し、東の橋へとこれからアイツ等を追い込んでいく」

『了解しました!』

「騎兵の指揮は騎士ラグルドに任せる。

総長にお前の力量を見せつけてやれ!」


館長がそう言うと、騎士ラグルドはこれ以上ないほど幸せな顔で言った。


「任せて下さい、アイツ等は皆殺しにしてやります!」


すると二フラム館長は、しかめっ面に笑みを浮かべて言った。


「お前は本当に良い顔で笑うなぁ」


その様子にどっと盛り上がる俺達。

皆でひとしきり笑った後、館長が命じた。


「では、健闘(けんとう)を祈る」


ご覧いただき誠にありがとうございます。


次回の更新は 5/11 12:00~1:00の間です。

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