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俺の騎士道!  作者: 多摩川
青年従士聖地修行編
120/147

フォー・ゲット・ミー・ノット(私を忘れないで) 4/9

軍の編成やその後の指示が発表され、そして解散になった。

直後から、ダナバンドやヴァンツェルの連中が、荷物を積んだ馬車に取りつき、意気揚々(いきようよう)と出発を始めるのを見送る。

そんな俺の肩を抱いてヴィーゾンが言った。


「ラリー、お前有名人だな」


(いや)ぁーな、予感がする……


「……誰も俺の事は知らないですよ」

「従士の“狂犬ラリー”は有名人だ。

総長もお前の事を見てたじゃないか」

「あれ、本当に見ていたんですか?」

「さぁ、俺だったら“コイツどんな反応するかな?”って見るけどな」

「まさかね……」

「まぁ、俺だったらね……

まぁ面白かったよ、つまらない話の中で、あれは十分に“(いや)し”だった」


そう言うとヴィーゾンはポンと俺の肩を叩いて、要塞の中を見渡した。

従士や小姓が駆け回り、荷物を次々と馬車に乗せ、そして軍馬に積んで行く。

その忙しく、勇ましい風景が(うらや)ましかった。

取り残され、指を加えて見ている俺達は、一体何をやっているのだろう……

するとこの前俺と()めた、あのダナバンド人の従者が、俺をニヤニヤと笑いながら目の前を通り過ぎて行った。

得意げなその顔、留守番の俺を(わら)いに来たのがすぐに分かる。


「クソ……」


唇を噛み締めて、この屈辱(くつじょく)()えるしかなかった。

復讐(ふくしゅう)のつもりかよ、あの野郎……

奴の仲間も又、俺を見て笑い、俺はそれを(うら)みがましく見るしかない。

本当に屈辱的なこの一日よ……

やがて要塞には、我々だけが残された。


◇◇◇◇


「クッソ!見たかあの連中の顔っ。

この前の敵討(かたきう)ちのつもりだぞ、弱いくせに随分(ずいぶん)(えら)そうだ!」


俺は同じ居残り組のアルバルヴェ騎士館の仲間従士とつるんで、要塞の片隅(かたすみ)でそう怒りを爆発させていた。


「まぁまぁ、しょうがないよ。

アルバルヴェだけじゃ騎士の数が8名しかいなかったんだもん。

これで同盟騎士館まで抜けられたら、騎士の数が30人も居ない……

それに1000人ぐらいの兵士はどうしても、守備の為に残さないとさぁ」


ビトが大変頭のよさそうな事を言うのが気に入らない。


「ビト!どうしてお前はそんなに(もの)()かりが良いんだよ。

腹が立ったりしないのかッ?」

「ラリー、そんなに戦場に行きたいの?」

「行きたいよ!

総長の話を聞いて盛り上がった俺の気持ちを返して欲しいわっ!

なんで俺が留守番なんだよ!面白くないッ」


俺がそうぼやいていると、後で「はぁ……」と、聞えよがしな溜息(ためいき)が……

恐る恐る振り返ると、鬼より怖い俺の叔父貴(おじき)のドイド・バルザックが……


オーマイガッ!


「ラリー、ちょっと来い……」

「はい……叔父さん」


項垂(うなだ)れて、トボトボと叔父貴について行く俺を、仲間が「ラリー、またね」と言って見送る。

……どうせ他人事(たにんごと)ですよ、アイツ等にはね。

今日はどんな説教だろう?そう思って彼について行くと、人気のない所で早速始まった。


「お前、副総長を睨んだんだって?」

「あ、イヤ……」


次の瞬間俺はビンタを食らう。


「何をやっているんだ、お前は?」

「だって、アイツは騎士ラグルドを侮辱(ぶじょく)した……」

「アレを侮辱に含める奴があるか!

あんなのしょっちゅうだぞ!

副総長に知られてみろ、さらに厄介(やっかい)な事になる。

お前はいま多くの騎士に目を付けられているんだ、振る舞いに気を付けろ!」

「すみません……」


俺がそう謝ると、彼は「はぁ」と溜息を吐き、そして俺に言った。


「同盟騎士館はアルバルヴェ騎士館と仲が良好だからいい。

だがこれが他の騎士館に見つかると、またお前の悪い(くせ)が出て、揉める羽目(はめ)になる。

総長も実はお前の事を知っておいでだ」

「え?なんで……」

「お前があの貧民窟を焼いたからだ!

総長はお前が若く、問題ばかりを起こすが戦える男ではないかと期待している。

だがそれにも限度ってモンがある!

総長はあの後私に『彼を良く(きた)えてくれ』と言ったのだぞ!

お前には、心底(しんそこ)(あき)れたわ!」


ああ、俺は終わったわ……そう思ってクラクラしていると、叔父貴は「おい、ふらつくな」と言って俺の肩を(つか)む。


「総長だったら大丈夫だ。

……いや、大丈夫ではないが、副総長よりも物分かりが良い。

別に今回の件も、他の者には話すまい」

「そうですか……」

「はぁ……お前には手を焼かされてばかりだ。

とにかくあんな事はもうするな!」


そう言われて俺は解放された。

誰も居なくなった場所で俺は石段(いしだん)の一つに座る。

そして空を見上げた。


「俺に、宮仕(みやづか)えは向いてないかもな……」


戦えていれば何も問題が無いと思っていた。

だけど実際には戦いよりも色々な問題が、(やま)()みになって俺の前に現れる。

(つい)には敵と戦う機会までも失った。

こんな俺に何の価値があるのか分からない。

これまで学んだ戦いの(すべ)は、一体どんな意味があるのだろう?

俺より弱くても、良い子ちゃんの方が戦場に辿り着けるというなら、強くなる事にどれだけの価値があるというのだ。

俺は戦えるんだ、ただ戦場の方が、俺を遠ざけたがっている。

俺はいつでもそこに行けるように、いつも準備していると言うのに……


(恋しいあの子は、何時(いつ)だって俺に振り向かない、かぁ)


ルーシーもレミも戦場も、全部ひっくるめて俺を遠ざける。

そんな思いが胸をささくれさせる。

空に浮かんだ月を見ると(なお)の事だ、ルーシーの顔を思い出す。

……まだ未練(みれん)があるんだろうか、俺は。


◇◇◇◇


―5日後


戦況(せんきょう)を知らせる知らせが次々と舞い込む。

テュルアク帝国の軍が各地の要塞を攻撃している。

それに対してこちら側は、緊急(きんきゅう)()げた要塞の攻囲(こうい)(ほど)くために出撃し、いくつかの部隊を撤退(てったい)へと追い込んだ。

帝国軍はどうやら略奪(りゃくだつ)を目的としていたようで、あまり糧秣(りょうまつ)は持っていないらしい。

こう言う状況だと、敵軍は略奪が出来なければ食糧不足に(おちい)る。

だから頑強(がんきょう)な要塞の防衛線に(はば)まれて侵入ができていない帝国軍は、間もなく撤退をするのでは?と言う憶測(おくそく)()()った。


この様な流れもあってどうやら防衛は成功しそうだ、と気の早い楽観主義者が前向きな気持ちを持ち始めた頃、事件が起きる。


この日聖フォーザック王国の行政官である、ルクスディーヌの知事が、聖騎士団の要塞に、急いだ様子でやってきた。

彼はでっぷりと太った体を揺らし、(あわ)てた様子で、要塞の守備を任された二フラム館長に面会を申し込む。

彼はすぐに館長が居る執務室に通された。

その後でウチの叔父貴こと、アルバルヴェ騎士館館長ドイド・バルザックも、二フラム館長の執務室へ入る。


これを鍛錬場(たんれんじょう)で、訓練に参加しながら見ていた俺は、近くの同僚(どうりょう)と話し込んだ。


「なんかあったみたいだな?」

「ああ……ラリーそれよりもなんであんなに軽い音なのにお前の一撃は重いんだ?」

「うん?ああ……まっすぐ切るからだよ。

そうすると音も軽いし剣も速い」

「俺もまっすぐ切っているんだけど?」

「少しぶれてるんだよ、そうすると“ブン!”って言う音がする。

綺麗(きれい)に(剣が)振れると“ヒュッ”と言う音になる」

「簡単に言うなぁ……」


こんな事を話していると、しばらくして執務室から出てきた叔父貴が、鍛錬場にやってきて叫んだ。


「従士以上は集合せよ!」


驚く俺達は、次に自分の主の姿を探しに三々五々(さんさんごごち)らばっていく。

ヨルダンもヴィーゾンも、同じ場所で訓練に(はげ)んでいたのですぐに見つかり、俺は彼等と共に列に並ぶ。

やがて綺麗な列が出来上がると、俺達を前に二フラム館長が声をかけた。


「諸君、先程ルクスディーヌから東に一日の距離にある、ブコヴィレス伯爵の町であるルバデザルトの町が賊徒(ぞくと)によって攻撃された。

しかも伯爵様は現在安否不明である。

(正しくは聖地が頭に付く)フォーザック王は手勢(てぜい)を引き連れて急行するだろう。

だが王都フロデリベルの町から、ここまではどんなに急いでも3日かかる。

敵はわずか300程。

我々が急行して、この賊徒を捕捉(ほそく)し、状況によっては伯爵の救出をしなければならない」


この言葉を聞いてヨルダンが声を上げた。


「敵はテュルアクですか?」


二フラム館長はその声に「不明だ」と、簡潔(かんけつ)に答えた。


「とにかく急ぎ敵に接近し、状況(じょうきょう)把握(はあく)に努める。

同盟騎士館の者は全軍出撃せよ!

今回はアルバルヴェ騎士館が残る事とする」


……待ち望んで言葉だった。

同盟騎士館の連中は急ぎこの場を離れ、閣員厩に行き、そして武装を整えだす。


(いよいよだ!)


こんな事を言うのは不謹慎(ふきんしん)だが、ようやく戦える!

俺は厩に走ると、いの一番で中に入り、驚く(きゅう)務員(むいん)を急かして、俺が管理している3頭の馬に手綱を付ける。

こうして時間と共にどんどん人が入って、混雑(こんざつ)してきた厩の中を抜けた俺。

そのままヨルダン達の元に馬を連れて行った。


「仕事が早いな、ラリー」


ヨルダンがファボーナの鼻を()でながら、俺に声をかける。


「今度は馬具を取ってきます」


俺は(くら)(あぶみ)を取りに厩に戻り、混み合う状況を尻目に、片手で一つずつ、重たい鞍を持ってヨルダン達の元へと戻る。

こうして何回か往復した後、各自自分の馬に自分の馬具を装着させる。

次に武器庫へと向かった俺達は、手分けして武器や替えの鎧、そして食料などを受け取り、準備を整える。


こうして同盟騎士館の総勢600名が準備を完了させたのは、1時間ほど経った頃である。

列を作り要塞より出撃する我々。

従士達は黒く輝く鉄の兜や胸甲を纏い。

その横では日差しの様に白く輝く、騎士達の聖甲銀(せいこうぎん)の鎧兜が煌めいていた。

目線を上げれば、空高く(かか)げる月と剣の同盟騎士館旗が風ではためき。

鎖帷子を日射しから守る鎧覆(ホバーク)いは色味も鮮やかに、参戦する騎士が誰なのかをその個性的な姿で現す。

……威厳のある姿も(あらわ)に、道を進む聖騎士団。

列の先頭を行く歩兵の速さに合わせて、俺達は緑が点在する聖地の野原を行く。


「…………」


俺達は何時敵が来るか分からず緊張していた。

何せ敵はわずか一日の距離にまで来たのだ。

手勢を分ければ、行軍する我々を襲う事も十分に可能だろう。

(わず)かな異変でも見逃すまいと目を配る。

この時、ふと隣のヨルダンの様子が気になったので見ると、彼は堂々と胸を張って馬の背に揺られていた。

実に強そうな彼の様子を見て、俺は首を動かすのではなく、彼に倣って堂々と胸を張る。


「ラリー、目だけで左を見ろ。

右はヴィーゾンが見る……」


俺のその様子にヨルダンが気付き、声を掛けた。

……なんだろう、ウチのボスが今日は凄くカッコいい。

気遣いが出来る男だ……


「分かりました、マスター」


俺はそう言うと彼の姿勢を真似、そして左の様子を目で追った。

少しの異変でもあればすぐに動けるように、気を張りながらの行軍が続く。

問題の町ルバデザルトに到着するのは、夕方頃になるはずだった。


ご覧いただき誠にありがとうございます。


次回の更新は 5/10 12:00~1:00の間です

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