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俺の騎士道!  作者: 多摩川
青年従士聖地修行編
118/147

フォー・ゲット・ミー・ノット(私を忘れないで) 2/9

シャイアーレはそんなバルドレに説明した。


「よいかバルドレ。

人は嫉妬(しっと)(ぶか)い、こうしてお前をここに導いた事で、皇帝が嫉妬するかもしれない。

感情的になった権力者が、私を拘禁(こうきん)してもおかしくはないのだぞ?

お前も知っている通り私には、特段(とくだん)の力なぞ無い。

魔導の力もテンプスから多くは受け継がなかった、あるのは予知能力だけだ……

だからあえて言うが、流れがほんの(わず)かに変わったのなら、それだけで未来は大きく変わる。

手元ではわずか数ミリの傾斜(けいしゃ)(かく)が、廊下(ろうか)の先では数メートルもの違いになるのと同じだ」


バルドレは“フン”と鼻でそんな言葉を吹き飛ばす。


「いったい何を恐れているのやら……」

「分からぬか?バルドレ!

ようやく200年ぶりにビブリオと夫婦(めおと)になるのだ!

それをお前が恐れぬ“ちょっとした事”で(おびや)かされるのが私は恐ろしい。

色々な男を見てきたがあれ程、素晴らしかった夫は居ない……

退屈で、刺激も無いか……はてまたは下品で見栄っ張りなのか。

そんな男ばかりだ……そして今の私の体は他の男で(けが)れてしまった。

そんな私をビブリオは嫁にするというのだ、こんなに嬉しい事はない。

私はソレを失うのが怖いのだ……」


「でも子供は出来ぬのだろう?」

「子供は可愛いが、別に養子でも良い。

子供は未来そのもの故、私は望むが諦めても良い。

ビブリオと居れるならな……」


バルドレはそう言われると言葉も無くなり、代わりに奥にある婚礼用(こんれいよう)のドレスに目を留めた。


「気が、早いな……」

「うむ、待ちきれない……

実は今世の妹の為と称して2着買った。

もちろん形は違うが、1つは妹に使ってもらう。

これで皇帝の目をごまかせた……

彼は私が出て行くと言えば、怒り狂うのでな」

「フーン……そんなので本当に、この国を出て行けるのか?」

「ああ、セクレタリスも(かん)()い。

婚礼の使者の到着(とうちゃく)を遅らせてくれた。

その間に皇帝は死ぬだろう」

「寿命か?」


バルドレがそう尋ねると、シャイアーレは」冷たい美貌(びぼう)に邪な笑みを浮かべて言った。


「王は(よわい)50、運命がそのままなら長く生きる」

「……(たくら)んだか?」

「まぁ……な。

王には王子が9人いるが、その内有力で才能の有るのは2人。

長男で庶子(しょし)のクッチオダーン様と、次男で嫡子(ちゃくし)のフォイダーン様だ。

フィロリアンの習慣では、庶子は相続権が無いそうだが、テュルアクではそうでは無い。

王のご意向次第で、庶子でも王位を継ぐことは珍しく無いのだ。


クッチオダーン様は明晰(めいせき)で、容姿(ようし)にも(ひい)で、テュルアク人の人気も高い。

馬術も(たく)みで戦争での功績も大きい。

母親の身分が低い事を除けば、何も()けたるところが無いな。

……フォイダーン様はそれよりも若干(じゃっかん)(おと)る。

だがクッチオダーンはテュルアクの昔からの信仰である、自然や精霊を尊び、我々7神の手下を嫌っている。

だからバルミーからの人気は薄い。

それに引き換え、フォイダーン様の方は、ラドバルムスの教えにいたく傾倒(けいとう)している。

……サリワルディーヌとかいう、得体(えたい)のしれない神は好まない様子だがな。

まぁ、気に入らぬのも無理はない……

何せ“ココ”で(まつ)られているのは“別の何か”であるからな……

……勘の良い皇子(おうじ)だ、あははははッ」


こうして自分が大神官として君臨している、大神殿をこけおろすシャイアーレの姿を、バルドレは首を振るって見ていた。

……上手く説明できないが、ついて行けない。

そんなバルドレの様子を、面白そうに見ていたシャイアーレは言葉を続ける。


「そんなフォイダーン様が皇帝になれば、私は晴れて自由の身だ。

そこで私はバルミー共と手を組んで、彼に手を貸す事にした。

彼の母方の祖父であるボーリ部族長は、私に対し感謝した。

これで孫を皇帝の位に着けられる……とな。

それに今回は久しぶりの聖騎士のとの戦いだ、皆も多くの略奪品(りゃくだつひん)を期待している。

お前も略奪品を多く(かつ)いで帰還(きかん)すると良い。

きっと皆に尊敬(そんけい)される事だろう。


話は変わるが今回の出撃では。正面の本隊とは別に、騎士団本拠地であるルクスディーヌを襲撃する部隊も用意した。

……お前の希望通りに、な。

ルクスディーヌは陥落(かんらく)させなくとも良い、フォイダーン様としては、聖騎士団の面子(メンツ)(よご)すことが望みだ。

……そして重要な事をもう一つ言っておく。

この襲撃部隊の目標が、魔物の救出が目標だと知られると、厄介(やっかい)だ。

人質交換で救出させるしかないと思うが、出来るだけ多くのテュルアク人の囚人も開放しながら、それに(まぎ)れて解放させてくれ。

さもないと未来が変わる事になる……」


バルドレはそれを聞くと「ここまで御膳立(おぜんだ)てを(ととの)えてくれて感謝の言葉も無い」と言った。

シャイアーレは普段(ふだん)の冷たい美貌からは想像もできない程、少女のような笑みを浮かべて言った。


「夫の友人に良くするのは、妻の役目だ。

そんなに(かしこ)まらないでくれ。

ビブリオに、私の事をよく言ってくれればそれでよい!」


バルドレは「ああ、そいつは任せてくれ」と言った。

そんな彼にシャイアーレは、思い出したかの様に、(あわ)てて言葉を付け足した。


「ただ、手柄を立てて、フォイダーン様の手柄になる様に動いてくれ。

それが、フォイダーン様が皇帝を引き継ぐ条件になる。

彼が皇帝になった時、私は晴れてこの国を去ってビブリオの元に行ける。

別に言う話ではないと思うが頼む、私も今世(こんぜ)の体を今回(こんかい)()けているのだ。

また転生なんて御免だ……」


バルドレはそれを聞くと、大きく頷いた。

それを見てシャイアーレは、またいつものような冷たい微笑(ほほえ)みを浮かべた。


「ではバルドレ、今晩部族長が訪ねてくるので作戦の打ち合わせをすると良い。

軍の集結(しゅうけつ)は始まっているから、一両日(いっりょうじつ)には出撃だろう」


シャイアーレがそう言うと、バルドレは「(まか)せてくれ」と言ってこの部屋を出て行った。


◇◇◇◇


(もう女房(にょうぼう)気取(きど)りかよ……)


そう思いながらバルドレは、ヴィックやトラシーナのいる自室へと戻った。

二人はバルドレの顔を見るなり「どうでした?」と尋ねる。


「ああ、一両日中には出発だ。

街道を駆け抜けて、一気にどこかの有力者のいる街を略奪する事になるだろう」


バルドレがそう言うとトラシーナは絶望した顔で「ルクスディーヌはやらないんですか?」と尋ねた。


「あの町は高い壁に囲まれている、本隊が囲まないと無理だ。

攻城兵器無しであの町は落ちん。

そこでどこぞの有力者を拉致(らち)して、身代金代わりに人質交換を申し込む。

奇襲戦ではこれが精一杯だ、分かってくれ」

「はい……」

「今貧民窟が焼けた事でスパイも一掃(いっそう)された、テュルアク人も追放されている。

疑われただけでバルミーも消えたという話がある、心配だろうがこれしかないんだ……」

「分かりました旦那……

でも襲撃隊はルクスディーヌに近づくんですよね?」


今は人間の姿に化けている、リザードマンのトラシーナは、そう言って不安も(あらわ)にバルドレに縋りついた。

バルドレは(すが)り付くトラシーナに、ニヤリと笑って見せると、胸を張って答えた。


「ああん、俺を誰だと思っていやがる。

敵なんざ朝飯前よ、俺が必ず先陣(せんじん)に加わって、奴らを蹴散(けち)らし、道を開いてやるよッ!」


バルドレの力強い言葉に、彼等はパァッっと顔色を明るくした。


「さっすが旦那だ!男の中の男だっ」

(しび)れるぜ、マジでかっけぇ!」


こうして二人の尊敬を集めるバルドレは、二人の肩をガッシと抱いて言った。


「当たり前だ、俺を誰だと思ってる。

仲間を見捨てる様な冷たい奴に見えるか?

この野郎メッ!」


バルドレのこの言葉に二人は感極(かんきわ)まって、バルドレを抱きしめ、泣きながら絶叫した。


『旦那ぁ!ついて行きますっ!!』

「そうかぁ、ついて来いよ、オラァ……」

『マジでかっけぇ、マジで旦那はカッケェよッ!』


彼等はそう言って仲間内で絆を確かめ合い、そして涙を流した。


見てくださって本当にありがとうございます。


次回の更新は 5/9 12:00~1:00の間です。

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