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俺の騎士道!  作者: 多摩川
青年従士聖地修行編
110/147

尊き灰が、見せる夢……3/5

「…………」


何が起きているのか分からず、唖然(あぜん)として黒曜石に映った映像を見る私。

その目の前でニールが、醜悪な生き物に向かって叫ぶ。


「やめて、やめてよ“ですぺらんづーむ”それはニールのモノ!

銀色で金色の珍しい宝物!

お前の(えさ)じゃない!食べないでよッ」


そう言ってニールは“ですぺらんづーむ”に掴みかかる。

それを見た“ですぺらんづーむ”は、にべも無くニールを殴りつけ、床に投げ出されたニールをゲラゲラと笑って見た。

次に執拗(しつよう)にニールをその足で()みつけ、ニールの抵抗を文字通り()(つぶ)す。


「ぎゅわぁーぎゅわぁーおん」


そして歓喜の叫びを上げた、醜悪な生き物。

私はこの血も涙も無く、意思のやり取りも出来無さそうな狂暴な怪物を見つめた。

これが“恐怖のデスペランドゥーム”なのか……

デスペランドゥームは、ゆっくり私の方を見ると、嬉しそうに笑い、そして先程ニールが床に投げつけた何かを拾い上げた。

 そしてくぐもった声で私に言った。


「……お前の御姫様はニールの元に流れ着いている」


デスペランドゥーム“はそう言うと、先程ニールが床に投げつけた何かを私に見せた。

……それはあらぬ方向に首や足が曲がった、小さなスマラグダ姫だった。


「あ、あああ、あああああああああっ!」


うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!


◇◇◇◇


ガシッ!


俺は無意識のうちに誰かの腕を掴み、そして洞窟の天井(てんじょう)見上(みあ)げていた。


「離してっ!痛い、痛いッ」


俺は(え?)と思って、声のした方を見つめた。

すると目線の先では、俺は右手で力いっぱい、レミちゃんの手首を掴んでいた。


「うわっ!」


思わず手を放す俺。

そんな俺に、彼女は「痛いんだよ、この馬鹿ッ!」と叫ぶ。


「ごめん……」


見回した周囲の風景は、あの岩場の集落だった。

飛び交う光虫も、黒曜石の祭壇も無い。

今しがた見た物を思い返す。

涙が(こぼ)れた……

そんな俺にレミちゃんは散々に呪いの言葉を浴びせ続け、それでも俺は“アレ”よりマシだと思って目を閉じる。

そんな俺にプレティウムが尋ねた。


「何が見えました?ラリー……」

「レミが死んだ……こんなに辛い事はない」


するとレミちゃんは「何を言っているんだお前?」と俺に言った。


「ああ、本当に痛い……」


彼女は俺の言葉を無視して。手首の痛みを訴える。

俺は再び「ゴメン、(つぐな)いはするから許して……」と許しを()うた。

……すると二の腕を叩かれた。

何故かそれが嬉しかった……


「何笑ってるんだ、貴様っ!」


叫ぶレミちゃん、それを見ているとますます嬉しく、そして涙が(あふ)れた。

そんな俺の様子を、戸惑(とまど)った様子でレミちゃんは見る。

……やがて俺にプレティウムが言葉を掛けた。


「ラリー、間に合わなかったようですね」

「…………」


間に合わなかったという言葉に恐怖を感じ、目を見開いてプレティウムの顔を見る。

そんな俺に彼は外を見ながら言った。


「雨が、()ってます。

帰りの道はぬかるむようですよ……」

「…………」


洞窟の入り口は、滝の様な雨だれ絶え間なく(したた)()ちていた。

そのうちの幾つかが、細い柱の様な姿で、段々(だんだん)(ばたけ)の土にまで伸びている。

外は灰色の空が広がり、大粒の雨が雷と共に降り注いでいた。


ザーザーザー……ジョロジョロ……


今まで気が付かなかったのが不思議なほど、騒音に満たされた洞窟の中。


(ああ、疲れた……眠いや)


ざわめく何もかもの中で、そう思った俺は再び目を閉じる。

(まぶた)を閉じると、先ほど見た光景が脳裏(のうり)()ぎった。

……思い出したくなかった映像。

それを見ると再び涙が溢れ出し、そして何より(つら)い。

逃げ出したい……と思った。


「コレ(ヴェリモシー)は何度もやるのですか?」


思わずそう尋ねた俺。

聞いたプレティウムは、落ち着く声音(こわね)で言った。


「ええ、明日もやりましょう。

ですが今日はココまでです、辛かったでしょうラリー。

今日はゆっくりと休みなさい」


思わず長い溜息(ためいき)を吐いた。

苦行(くぎょう)はまだまだ終わらない……

目を閉じ続けた。頭も体も動かない。

瞼が重い、もう少し目を閉じていたい。

……もう少しだけ、少しだけ。

そう思ってその日の儀式は終了した。


◇◇◇◇


こうして俺は幾日も霊薬を飲みに、洞窟の町を訪ねる。

だがこの地に滞在できる日は限られていた。

旅行日程の関係で、3泊しか出来ないからだ。

……そして初めてヴェリモシーをしてから二日後。

この日が、俺がヴェリモシーを受ける最後の日となる。

俺はこの日、ペッカーと二人だけでレプレンツ山の、窪みにある廃墟の町を再訪した。

ペッカーに運ばれて街に降り立つ俺、それを待ちわびていたように、出迎えてくれたプレティウム。


「ああ、いらっしゃいラリー。

今日が最終日ですね」

「ええ、明日には帰らないといけないので」

「残念です、中々ここに来る人は居ないのでね。

しばらく誰とも話さない日々に戻るのかと思うと(さみ)しい」


そう言うとプレティウムは、言葉とは裏腹に明るい表情で笑った。

彼は俺の肩に居るペッカーの方に顔を向けると「今日、姫様は?」と尋ねる。

ペッカーは「ぐわぁーぐわ、ぎゅわぁーぎゅわぁーぎゅ(ここに居ても意味がないからって言って、他の同行者の所を手伝うってさ)」と答えた。


……どういう事かと言うと。

寝ている俺が目覚めるのを、ただ待つのが、お姉さまは嫌になったのだ。

今朝彼女は『私、居る必要ある?』と言って、薬の素材集めに行ってしまった。

それを聞いたアシモスが、目を細めて意味ありげに俺を見つめる。

……彼は同行を断りはしなかったが、責める様な視線を俺に投げる。


(仕方がないやん。

あの人が行く言うたら、俺ダメって言えんもん!

何かって言ったら、必ずブチブチと文句を一日中言うに決まってるんだからさぁ!)


そう口パクで答えた俺。

それを見たアシモスは、より大きな面倒を嫌って「ええ、分かりました」と(あきら)め声で了承した。

こうして俺はペッカーを連れ、レミと別れてココに来たのである。


「あなたがアキュラだと、姫様に伝えたんですよね?

彼女は何と言ってました?」


ヴェリモシーの内容の多くは、二人に告げている。

映像は彼等にとっても興味深い様で、熱心に俺に詳細(しょうさい)を尋ねた。

隠す必要も無いと思った俺は、正直に彼らに打ち明ける。


……まぁその結果なんだけど。

返って来たレミちゃんの言葉は、多分にからかいの念が籠ったモノばかりだった……


「ひどいですよレミちゃんは……

“あり得ない、アイツはお前みたいに適当ではない!何かの間違いだっ”

と、言ってました。もちろん笑いながら……」


憤慨(ふんがい)してそう告げ口をこの男にぶちまけると、目の前の年齢不詳のおっさんは楽しげに笑って答えた。


「ああ、あははは。

まぁ笑いながら言っていたのなら、()いではないですか。

転生後の性格と転生前の性格が大きく違うのは良くある事です。

何せそれぞれ異なった父母両親から生まれ、そして育ったのですから、同じ性格に育つというのが無理と言うものですよ」

「そうなんですかね……そう考えると転生とか言うモノに、あまり大きな意味はない気もしますがね」

「まぁまぁ、姫様も今はあなた以外に頼れる人がいない。

親も兄弟も皆死んでしまった。

……本来なら生きる時代が異なる方ですからね。

まだ17歳の彼女は、まだまだワガママを聞いて欲しい年頃なのです。

……おっと、あなたは15歳でしたね。

失礼しました」

「大丈夫です……」

「すまない、体も大きく、落ち着いて見えたのでつい……ね」

「落ち着いては居ないですよ、ただこの二日見た物が衝撃的なモノばかりだったので、疲れてしまったんです……」


俺がそう言うと、プレティウムは(なぐさ)めるように「だけどあなたは強い、発狂する人も珍しくないのですよ“コレ”は」と言って、近くに置かれた霊薬を見る。

俺もその目線に釣られて、霊薬の入った(さかずき)を見た。


「ヴェリモシーは、どうしたら成功なんですか?」


杯と、中に入った液体を見ながらそう尋ねる俺。

するとプレティウムは、杯と中の霊薬を凝視(ぎょうし)しながら答えた。


「どうしたら成功なんでしょうね……

ある者は力を得て、またある者は心が壊れた。

実はですね、この霊薬は魂を別の世界に飛ばす薬なのです。

……昨日あなたが私に話してくれた話では。

アナタがこの世界に来る前、別の世界に居て、そしてその前にはこの世界に居た。

そうでしたね?

ですからラリーは……

別の世界が並んで存在しているのは“体感”として判っていると思います。


実は世界は私たちが居る場所以外にも存在しているのです。

だから並んで存在している別の世界と、この世界は“何か”で分けられ、そして“何か”を介して(つな)がっているという事になります。

それは“有の世界”でもなく、そして“虚無の世界”ですらない、空間と壁と例えると語弊(ごへい)があるのではございますが……

それに似た“何か”のよってこの世界と、あの世界は(へだ)たれ、そして繋がっているのです。

……霊薬を飲んだあなたが、夢のような世界の中で見ているのは、そんな“時空”までも内包(ないほう)した“何か”の姿なのです。

そこは私の兄弟が治める、世界でもあります……」

「だれです?」

「広大なるスパチウム」

「名前だけは、この前聞きました……」

「アキュラの記憶に、その名前があったんですね?」

「ええ」

「テンプスは矛盾(むじゅん)した神です。

ある時は優しく慈悲(じひ)に溢れ、ある時は無慈悲に残酷(ざんこく)(しいた)げるのを好みました。

あらゆる性格を極度に持っていたと言うべきでしょうか?

だから私たち兄弟は、全く性格が異なるのです。

テンプスは時空の神です、過去未来を操り、別の世界を繋ぎます。

ですが、それを嫌ったサリワルディーヌにより、虚無へと落とされた。

……そして世界を繋ぐ“何か”は、テンプスから分かれた兄弟が、引き続き管理するようになったのです。

……それがスパチウムです」


「なるほど、因みに今回彼の事と、俺の目標には何か因果があるのですか?」

「……無いかもしれませんね、今の話は雑談だと思って忘れて下さい。

それよりもラリー、あなたは前の人生でテンプスに会った。

そうおっしゃいましたね?」

「ええ……」

「だとしたらテンプスは、何かを企んでいるのです。

恐らく虚無から自分が抜け出せた世界を作り、その世界に誕生した自分を援軍として、あらゆる世界の自分の元に派遣したいのでしょう。

意味が解りますか?」


うん?今このおっさん、なんか難しい事を言ったぞ……


「……いや正直に言うと、何を言っているのか分からないです」


俺は面食らいながらそう答えた。

するとプレティウムは、俺の回答を予想していたようで首を一つ降ると言葉を続けた。


「かつて、世界を行き来できるテンプスは、自由になれた自分が未来において存在するなら、その時間と同じ時刻に自分を送り込むことが出来ました。

でも未来に自由になれた自分が存在しないと、どの世界の未来に行っても、自由になれた自分は居ないのです。

つまり、今テンプスは、どんな未来に行っても、自分は虚無の中に常にいる。

……ああ、ラリー。分からない様子だ」

「すみません、あなたが言っている事が全く分からないです。

お兄様と違って自分、勉強はさっぱりで……」


ああ、俺は本当に兄貴とパパの血縁者なのだろうか?

……二人ともインテリなのに。

プレティウムは“むむっ”と考えると、そんな俺の顔を見て、言葉を選びながら言った。


「とにかく、テンプスは虚無から出たがっているという事です。

それは今の秩序を壊すという事です。

その為に王剣を使ったのでしょう。

どう使ったのかは分かりませんが。

それに対処する方法を探すために、引き続きヴェリモシーをしましょうという事です」

「ああすみません、わかりやすい言葉でご説明ありがとうございます」


そう朗らかな声で答えた俺だが、別の頭では。


(……ごめんなさい、やっぱり何を言っているのか分からないです)


……と思っていた。

こうして俺は分かったような、分からないような気持のまま、この話を置いておく事にした。

とにかく目の前のおっさんは、引き続き怪しげな薬を飲んで、俺に過去と向き合えと言いたいのだ。

……うん、要はそれを言いたいだけだよな、このおっさん?

だったらそれだけを言えばいいのに、小難しい話をしおって、まったく……


ご覧いただきありがとうございます。

次回の更新は 4/24 7:00~8:00 の間です

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