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俺の騎士道!  作者: 多摩川
青年従士聖地修行編
109/147

尊き灰が、見せる夢……2/5

やがてニールは、驚いた様な顔を浮かべ、眉一つ動かさない能面(のうめん)の様なテンプスを見て(しゃべ)り始めた。


「ママしゃん、パパしゃん……アイツの話をもっと聞きたいの?

どうしても?

……わかった、ニール良い子。話を聞いて来るね」


そう言うとニールは、俺に顔を向けて尋ねた。


「ママしゃん、パパしゃんがお前に興味(きょうみ)を持ったにゃ。

どうしてお前は時計の針を戻したいにゃ?」


私は彼に振り回され、何時(いつ)本題(ほんだい)に入るのか分からず困惑(こんわく)していた事に(いま)()が付いた。

そこで私は急ぎこう言った。


「私はかつて王剣グイジャールの使(つか)い手だったアキュラ・リンドス。

フォーザック王国に(つか)えた騎士でもある。

……だが今となっては、ただの老人に過ぎない。

今から25年前、私は愛していた姫の死を見送ってしまった。

神の血をお引きだったあの方は、陰謀(いんぼう)(たくら)んだあのフィーリアとかいう女神に(そそのか)された、実の祖父大神官アルバル・ペタルマに殺されたのだ。

王剣グイジャールは神の血で(けが)神剣(しんけん)ではなくなった。

あの勇敢(ゆうかん)思慮(しりょ)(ぶか)く、情にも(あつ)い王剣7臣はその瞬間消失し、私はただのアキュラになった!

神剣も、召喚獣も失った王剣士である私は……

私は、何の価値も無くなった。


悲嘆(ひたん)にくれる私にバッカスが言った“時計の針を戻すしかない”と。

私は必死になって探した。

騎士爵(きししゃく)を返上し、身軽になって手掛(てが)かりがあると聞けばどんなところにでも行った。

そして知ったのだ!

今我々が“フィロリア”と呼んでいる、女神フィーリアの治める世界は、かつて時空神テンプスが治めるテルピュリア、またはタンプランと呼ばれた世界だったと。

そして時空神テンプスだけは、時計の針を戻せるのだと。

テンプスは自分の国を、サリワルディーヌやフィーリアに()られた神の王の名前なのだ。

……間違いないか?」


私がそうニールに尋ねるとニールは憎悪で目を輝かせながら「そうにゃ、フィーリアは許せにゃい」と返した。

私は自分が知った事が正しい情報だという事に安堵(あんど)しながら言葉をつづけた。


「そんなある日の事だ、運命の出会いがあった。

私は聖地の港で、占い師をしていた“現のカレット”に出会ったのだ。

彼女の事を特段探していた訳ではない、たまたまと言う奴だ……

彼女はラドバルムスの襲撃を恐れ、これから西の(はず)れのマウリア半島に向かう、船に乗る為のお金を必要としていた。

事実その直後に、フォーザック王国はやってきたフィーリアの軍勢と、ラドバルムスの軍勢とが衝突し、聖地は灰となった。

彼女は正しかったのだ。まるで全てを知っていたかのようだった。

……聖戦、あの戦争は悲惨(ひさん)だ。


勝ったフィーリアの栄光は長くは続かなかった。

今度はフィロリア本土で起きた、シルト戦争と同盟戦争によって、聖戦の主力であるダナバンドとヴァンツェルがアルバルヴェやマルティール同盟に敗れたことで弱体化したからだ。

そして……テュルアク帝国の侵攻が起きて、ついに聖地の全てが灰燼(かいじん)()した。


一体何の為、誰の為にあの戦争は起きた?

町も人も、全部死んだ、無に帰した!

……姫様はこんな未来の為に死んだのか?

私自身……一人の騎士として、多くの戦いに参加し、そして敗北者となった。

学び(おさ)めた剣の奥義(おうぎ)も無駄となった。

仕える王を失った戦士は、荘園の農夫にも劣る。

……自分で自分を食わせていくことも出来ぬからだ。

私が知っている技とは……傷つけ、壊す事しかない。

私には狩りの腕も無いし、麦の育て方も分からない。

だから、誇りを捨てて、暗殺や、用心棒……金が得られるなら何でもやった。

何の為に生きているのかと、自問自答しながらこうしてただ生きさらばえる日々を過ごした。


……こうして気が付くと25年が経過した。

もう肝臓はボロボロだ。

長く生きる事は出来ない。

これが酒に逃げた剣士の末路だ……


やがてマルティール同盟とヴァンツェル・オストフィリアとの間に行われた、同盟戦争が終わったと聞いた。

海が再び商船に旅行者を詰めて世界を行き来する事が出来る様になった時、私は昔カレットに聞いた時を戻せるという、テンプスに会いたいと思った。

テンプスは“虚無のニール”と呼ばれる貴方の(そば)に居ると聞いた。

そしてニールはエルワンダルにある、この大神殿の祭壇で会えるとカレットは言った。

だから私は、人生の最後。

かつて教わったカレットの言葉を信じて、テンプスに会ってみよう、それから死ぬべきだと思ったのだ。

こうして私は今、あなたの前に立っているのです……」


私が長い話を語り終えると、ニールは黙ってテンプスの顔を見た。

テンプスは動かない、変わらぬ表情で虚空を見、(まばた)きもしない。

ただ石の寝台の上で横になる。

そしてしばらくの沈黙が流れた後、突如ニールの顔が悲しげに(ゆが)み始めた。


「ママしゃん、パパしゃん、どうしてそんな事を言うの!

ニールが嫌いなの?

ここから出て行くの?

こいつを使ってママしゃん、パパしゃんはにゃにするの?

……ああ、ママしゃん悲しまないで。

ママしゃんが泣くとニールは悲しい。

分かったにゃ、剣が欲しいんだ?」


ニールはそう言って表情豊かに、テンプスに語り掛けた。

……私の目には、無表情に横たわる人形のような美貌の何かが横たわる様にしか見えない。

もちろん声を上げるべく、口を動かした形跡も無い。

まるで蝋人形の様なテンプスを恐れ、愛し続けるニール。

彼は泣き()らした顔を私に向けながら、こちらにやってきた。


「“あくら”お前はママしゃんを泣かせた悪い奴。

だけどパパしゃんがお前を必要だと言った。

お前の腰に下げている剣、それが時を戻すのに必要にゃ。

それをこっちに寄越(よこ)せ。

かつて王剣だった剣がそれにゃ……

お前を40年前に戻してやる。

……ママしゃんが優しいから、お前に知恵を授けてくれるそうにゃ。

お前の御姫(おひめ)(さま)は、運命が弱い。

どんな事をしても、どんな場所に隠しても大神官か、フィーリアに殺されてしまうにゃ。

そこでお前の御姫様を、絶対に安全な場所に隠してしまうしかにゃい。

何処だと思う?」

「わ、分からない。

それより本当なのか?

本当に私を40年前に戻してくれるのか?」

「ああ、そうにゃ。

ママしゃん、パパしゃんがそう言った。

……だから剣を寄越(よこ)せ。

そうしたら姫様を守る方法を教えてやるにゃ。

ニールは嘘をつかない、ママしゃんもパパしゃんも信用を大事にしてるにゃ。

……大丈夫、王剣はもう汚れ、それはタダの(てつ)(かい)だ。

7臣は消え失せ、剣から神性は()がれ落ちた。

ママしゃん、パパしゃんにあげても何の問題も無いにゃ。

寄越(よこ)せ、寄越(よこ)せよ“あくら”よ……」


据わった眼で私を見るニールの目に、邪悪な光が灯る。

本能が剣をコイツに渡してはならないと告げる。


……だが渡さなかったらどうなる?

答えは出てる。

時は戻らず、私は奪われ、無くしたモノが多かった、この呪われた人生を終えるしかないのだ……


私はかつて私の誇りでもあり、そして腰に下げ続けてしまった、王剣の成れの果てを手にしながらニールに尋ねた。


「本当に知恵を授け、時を戻してくれるんだな?」


ニールは(いびつ)に笑うと、私を(にら)みながら「そうだ……だから寄越せよ」と呟く。

私はそれを聞くと自分に言い聞かせるように思った。


(剣を与えよう。与えるしかないんだアキュラ。

何の為に聖地からはるばるエルワンダルに来たんだ!

こいつらがこの剣をどう使おうと、そんなのどうだっていい……

人生をやり直そう。

どうせサリワルディーヌは、私を見捨(みす)て、祖国を見捨てた神だ。

アイツなんかに義理立(ぎりだ)てをする必要があるものか!)


私は心を決めると「どうすれば良い?」とニールに尋ねた。

ニールは答えた。


「剣を(さや)(おさ)めたまま、ニールに向かって投げろ。

そうしたら……」


言葉の続きは聞く気が無かった。

私は剣を黒曜石に映るニールの顔に投げつける。

剣は石を通過し、ニールに抱きかかえられる。

ニールは剣を手にしながらあの個性的な笑い方で笑い出し。

そして俺に言った。


「王剣士“アキュラ”は見どころがあるにゃ。

気に入った、もう“あくら”って呼ばにゃい。

ふぇっへっへっ……」


そう言うとニールは剣を持ってテンプスの元へと行き、そしてそのお腹の上に剣を乗せた。

そしてしばらくニールはテンプスの、髪の無い頭を撫で回す。

やがて彼は剣をテンプスのお腹からどかすと、それを持ってこちらに戻る。

そしてそのまま剣をこちらに投げて寄越した。

黒曜石から飛び出るようにして剣が、私の元へと舞い戻る。


「用が()んだにゃ。

後はこの剣を40年前に戻すだけ……

お前は10歳の少年になり、人生をもう一度歩む事になるにゃ。

そしてそのまま15年生きるにゃ。

聖竜暦とかいう、サリワルディーヌが決めた年でいう所の1115年。

ルクスディーヌの街の郊外に、月の神殿とかいう、役立たずのジスパニオの育ての母親を(まつ)った、どうでもいい昔の神殿があるにゃ。

そこにその年の新年2度目の満月の夜、エリクシールを誕生させる為の“忘却(ぼうきゃく)の洞窟”が現れる。

忘却の洞窟は20年に1度、世界のどこかに現れる。

そして、そこに霊薬(れいやく)で人を眠らせる石棺(せきかん)がある。

……洞窟に入ってすぐの場所にゃ。

石棺の蓋を閉じ、魔力を込めればお前の姫様はたちまちの内に眠りにつくにゃ。

眠りから目覚めさせるにはエリクサーが必要だから、エリクシールの候補を連れて行った方がいいにゃ。

そこに隠せば20年間この世から消える、もう誰にも後を追う事は不可能。

サリワルディーヌでも、手が届かない。

少なくとも次の20年までは……

その間に聖戦は起きる、サリワルディーヌの危機を、フィーリアが助けない訳には行かにゃいから必ずにゃ。

ママしゃん……そうだよね?」


ニールは後ろを振り返り、動かぬテンプスに確認を取る。


びちゃ、びちゃ、ぐちゃ……


私もニールの目線に釣られてテンプスの様子を見た。

するとその傍らに、巨大で醜悪な生き物が、煙を吐きながら大口を開けて、テンプスではない、別の逞しい人間を頭から(むさぼ)り食っているのが見えた。


ご覧いただきありがとうございます。

次回の更新は 4/24 12:00~1:00の間です

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― 新着の感想 ―
[良い点] おお、何と無く理解できますが難しい事は脳内スルーですフフフ つぎの更新も楽しみです
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