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俺の騎士道!  作者: 多摩川
青年従士聖地修行編
105/147

古(いにしえ)のプレティウム 2/4

目覚めたとき、俺はベッドの上だった。

ベッドの上から周りを見回すと、心配そうな顔で俺を見るレミちゃんの顔があった。


「あれ……俺どうしてこんな所に居る?」


思わずそう尋ねた俺に、レミちゃんがホッとした顔で言った


「気が付いたか?

全く、アレごときで気を失って」

「アレ……って?」


おぼろげにしか何も覚えていない俺。

そんな俺にレミちゃんは、ここから少しだけ離れた場所で煮込まれている、人面大根の山と鍋を……


ぶフォッ!


思わず気が遠くなりかけると、今度はレミ様が俺の頬を叩く。


「寝るな!アレは昔、王侯貴族だけが食べられるサラダの材料だったのだぞ!」


目を閉じる事も許されず、そう聞かされて起きる俺。

そして思い出される、人面大根の断末魔の悲鳴……

俺はついに泣きながら「お願い……無理だから、あの大根は無理だから」と彼女に懇願(こんがん)した。


「あれでサラダは作れない、本当に無理だからぁ」


レミちゃんは「はぁ……」とため息を吐くと、「分かった」と言って俺から離れた。

やがて俺が意識を取り戻したこと聞いたのだろう、アマーリオとアシモスが幸せそうな顔でこちらに来た。


「ラリー、あの大根すっごいうまいぞ。

お前が食わないんだったら俺らで(もら)ってもいいか?」


……信じられない、こいつら。


「ああ、好きにして……」


こうして俺は「狩りの獲物(えもの)は食えるのに、どうして大根はダメなんだ?」と(いぶか)しがるアマーリオ達を尻目(しりめ)に、ふて寝をする。


俺がおかしいのだろうか?

叫ぶ人面大根をあんなに美味しそうにパクつくこいつ等が、おかしいと思うんだが。

……本当に俺だけなんだろうか?


自分の常識が世間とずれている事に不安を感じ、俺は背中を丸めて寝る事しか出来ない。

こうして嫌がらせの様に人面大根を食べまくるこいつ等から背を向け、俺は再び眠りにつこうとした。

……空腹で眠れそうもない。

やけに美味しそうな匂いがするんだ、あの大根……


◇◇◇◇


翌日、俺は朝早く起きて、例の人面大根が植えられている裏庭の方に向かった。

相当引っこ抜かれた人面大根。

……何故かシクシクと涙声が聞こえてきそうだ。


なんか嫌だなぁ……


裏庭は広く、そして畑となっている。

ただし手入れはされてないらしく、(くさ)った作物(さくもつ)や、雑草が()(しげ)る。

そしてその中に一つの墓があった。

埋葬(まいそう)された日にちは3か月前らしい。

恐らくそこから今日まで、この家には誰も足を踏み入れる事は無かったのだろう。

そう考えるとあの家の中や厩の状態が説明できる。

俺は静かに両手の親指を絡め、騎士団風の祈りの手の形を作ると、この墓に手を合わせた。


この後は日課のランニングと、剣の型振(かたふ)り、そしていくつかのトレーニングを終えた。

そして、寝起きのダーブランを連れて川で彼の体を洗う。


「悪いな、昨日倒れちまってさ。

体綺麗にしたかっただろ?」


そう謝りながら洗うと、ダーブランも分かったようで“気にするな”と言わんばかりに小さく鳴いた。

洗いながら川を見るときれいな川に、たくさんの魚が泳いでいるのが見える。

(これは良い!)と思った俺。

早速川の石を集めて、小さな即席の堤防を作ると、そこに魚を追い込み、次に川面から顔を出ている石めがけて、大きな石を投げつけた。


ガーン!どぼーん


乾いた激しい音を立てて、石が飛び跳ねる。

そして川に落ちたと同時に、次々と魚が気絶して浮かび上がってきた。

これはガーブ地方に居る俺の友人、ジリが昔教えてくれた魚獲りのやり方だ。

確か日本だと禁止している川が(ほとん)どだと記憶している。


とにかくこうして手際よく大量に魚を捕獲した俺は、これを陸に()げた。

次に厩の中から使われてないバケツを見つけると、これを洗って魚を詰めて持ち帰る。

俺は魚の入ったバケツを運びながら(この魚は朝食用にしよう)と心に決めた。


◇◇◇◇


「はぁ美味かった……」


昨日もしっかり食ったアマーリオが、俺が獲ってきた魚を食べ、幸せそうに腹をさする。

味付けは塩だけの焼き魚だったが、新鮮だったこともあり、非常に美味しい。

俺も満足だ。

こうして腹ごなしも終わった後、アシモスが口を開いた。


「さて今日の予定を立てましょうか」

「ええ、そうですね」


俺がそう言うと、アシモスは真面目な面持(おもも)ちで語り始めた。


「さて旅を続けてこんな良い場所を見つけました。

廃屋(はいおく)とはいえ、まだ空き家になってから間もないようですし、このままここを拠点に活動しようかと思うのですが……」

「それもいいが、家主(やぬし)の許可は得なくてもいいのか?」


レミちゃんがそう言うと、アシモスはさっぱりとした顔でこう言った。


「家主がどこに居るのか全く分からないので、仕方がありません。

今日(薬の)素材を探す(かたわ)ら、付近の家で話を聞きましょう。

所でレミ嬢、ここら辺に家はあるのですか?」

「……知る筈が無かろう?」


……そりゃそうだ。

彼女は100年の間寝ていたし、そもそもずっとウチに居候(いそうろう)していた。

当たり前だがこんな山奥の住宅事情に詳しい筈も無い。

尋ねたアシモスもそれは分かっていたようで「それはそうですよね」と言ってから、言葉を続ける。


「そうなるとレミ嬢。

まず我々は自分達の存在を誰かに発見してもらうか、逆に発見するしかないのでは?

でないと私達も滞在の許しを得ようにもどうにもできません。

……この家を使いましょう」

「うん。ああ……」


レミちゃんはそう言われると(言いたい事は分かるけど……)と言いたげだった。

釈然(しゃくぜん)としないのだろう。

そこでアシモスは(たた)みかけるように言う。


「それが今の現状では一番良いと思います。

改めて野宿(のじゅく)の準備をするのは、レミ嬢もお嫌でしょう?

まぁ、風に吹かれながら、夜空を見上げるのがお好きなら構いませんがねっ」


アシモスが愛嬌(あいきょう)たっぷりにそう言うと、レミちゃんは苦笑いを浮かべて「野宿はやめよう!」と言って、カラカラと笑った。

アシモスはそれを聞き「ならそうしましょう」と言って皆の顔を見渡した。

そして「誰かが見つかったら、改めて願い出る事で良いですね?」と言う。


この様にアシモスが力強い言葉で滞在拠点をしばらくココにすると言うと、俺も含めて皆《これで良いよな》との思いが胸に満ちた。

明朗(めいろう)な言葉と表情でそう言われると、これで問題が無いように感じるから不思議だ。

そしてアシモスは俺達の様子を見渡して、さらに言葉を続ける。


「さてアマーリオ、話しは変わりますがどうですか……

ここらへんに危険な動物は居ますか?」


そんなアシモスの質問にアマーリオが答える。


「蛇とか狼とかは居るかもしれませんが、それ以外は特に何も無いですね。

魔物の気配も無いです」


(よど)みなく、そして迷いも無くそう言ったアマーリオ。

その様子に俺は驚いて「なんでお前、それを知ってるの?」と尋ねた。

すると奴は得意げな笑みをわざとらしく浮かべ、俺に自慢げに言う。


「ふっふっふっ……

俺はジスパニオにその才能を見込まれた男。

よって、あらゆる素材の在処(ありか)が“大体テキトー”に分かるようになったのだ!」


おお……本当なら確かに凄い!

大体テキトー、と言う言葉が若干(じゃっかん)()っかかるが、それでも使える才能じゃないか!


「それによると、ここら辺にあるのは……

狼の野グソ、兎の糞、脱皮した毒蛇の抜け殻!そして昨日食ったマンドラコラに、数か月前に死んだ人間の白骨死体だ!

そして大量の雑草!それから……」

「あ、もういいや。

つまり魔物関係の物はどこにもないんだな?」

「ラリー、俺が話している途中だろ!」


話を(さえぎ)る俺に抗議したアマーリオ。

(ちな)みにそれを聞いたウチのお姉さまも「アマーリオ、話が長い!」と言ってそっけなく、奴を黙らせる。

女友達を紹介してもらう予定のアホのアマーリオは、レミちゃんの言葉に、何か言いたげではあったが口を尖らせて黙った。

その様子を見ながらアシモスは言う。


「まぁまぁ、なんか変な連中も、魔物も居ないという事ですから護衛は不要でしょう。

そこでラリー。

私とアマーリオで素材を集めるので、その間にレミ嬢と一緒に修行でしたか、儀式でしたかに行って来たらどうですか?

ねぇ、私達は何をするのかさっぱりですし、レミ嬢と一緒に、行動を共にした方が良いと思いますよ」


そう言いながら微笑むアシモス。

ところが目はちっとも笑ってなかった。

つまり、アレだ……この女を連れてお前は別行動をしろ!と言いたいのだ。


確かにレミちゃんを連れて行くと、ものすごくワガママだから苦労させられるだろう。

素材集めに()きた彼女は、(ひま)(つぶ)す為に何をやらかすのか、正直分からない所がある。

少なくとも話し相手欲しさに、散々俺やアマーリオに声をかけてくる未来は、容易に想像できた。

実は基本地味で興味がない仕事を、他人に合わせて長時間するのが、このお姉さんは嫌いなのだ。

そこで、アシモスは俺に“お前が何とかしろ!”と言外(げんがい)()げているのである。


「分かりました、じゃあレミちゃん。

儀式の事とか、現地で俺に知っている範囲(はんい)で教えてくれないかな?」


俺がそう言ってレミちゃんを見ると、彼女はそのオリーブグリーンの瞳でアシモスの目を伺うように見。

次に俺の目を(のぞ)き込むと「ラリーは優しい」と言って俺の頭を()でた。


……あ、良い匂いがする。


こうして俺達は二手に分かれて、それぞれの使命を果たす事になった。


ご覧いただきありがとうございます。

次のアップロードは、28日7時から8時の間です。

よろしくお願いいたします。

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