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俺の騎士道!  作者: 多摩川
青年従士聖地修行編
104/147

古(いにしえ)のプレティウム 1/4

―聖地、ベニート川上流



雨季の聖地は空に雲が流れる、時折ザッと雨が降ったりそして()んだり……

雨季(うき)と言う名前に反して、あまり雨ばかりと言う事はない。

そう考えるのは昔、日本に居た時の記憶がまだ濃いからなのだろう。

あそこでは雨の季節ともなれば、常に雨が()えない日々が幾日も続く。

コッチの雨季はそんなものではないのだ。


聖地ルクスディーヌの東岸。

……と言うか家の前を流れる川を北へ(さかのぼ)る旅を、俺こと“皆のラリー”は続けている。

さてそんな旅の様子なのだが……

ブフゥ……と、頻繁(ひんぱん)に鳴きながら、心底嫌そうな顔で我が愛馬、ダーブランがダラダラと歩き、俺はその(くつわ)を取って道を行く。

その(くら)の上では、すぐに休憩したがる美人の姉さんが、女王様の様に俺達を見下ろしている。

一番楽な筈なのに、そんなに休みたいんか?お前……

そんな彼女の様子にアシモスは「私は何も言いません……」と言って、大人しく歩く。


すんません、アシモスさん……


こうして気分屋のダーブランを(なだ)めたり。

はてまた「ラリー、つまらないから何か面白い事を言って!」と、無茶ぶりを唐突に言い出すレミ(ねえ)さんを宥めたりしながら、俺達の旅は続く。

特に愚図(ぐず)りがちなのがダーブランだ。

奴はここ最近、ファボーナに会って無い。

加えてあの俺がヴィーゾンに(おく)った馬が、ファボーナについて行ったことで、機嫌が凄まじく悪い。

あの2頭は俺の馬ではないので、孤児院にそのまま引き取られたのだが、その際のダーブランがまぁ(ひど)い事ヒドイ事。

ヴィーゾンの馬は、普通の馬なのでダーブランより小柄なのだが、ダーブランは嫉妬(しっと)に狂って散々(さんざん)に(おど)しまくる。

あまりにもひどいので、先にこの馬だけ孤児院に送った程だ。

その背中めがけてダーブランは叫んだ。


ブヒッ、ブヒヒヒヒヒィーン


直訳すると。


(ワレェ、ワシの女に手を出したら分かってるンやろな?

タダじゃ済まんから覚悟せぇよっ。

分かったかゴルゥウァアッ‼)


……多分これだ。馬語(うまご)(わか)んないから、間違ってるかもしれないけど。

ファボーナが居るところでは、訓練にしても何にしても“ヤル気あります!”みたいな顔をするが、居ないとなったらすぐこれである。

……さらに言うとコイツの場合脱走する時も、ヤル気を見せるからタチが悪い。

夕飯前には帰って来るからいいけどさ。

知れば知るほど、本当にコイツはずる賢いと(あき)れる日々である。


「ラリー、疲れたから休憩しようぜ……」


……そしてこいつだ、アホのアマーリオだ。

やる気がダーブラン同様無いらしく、すぐさま疲れただのなんだの言いだす。


「さっき休んだばかりだろう、まだまだ歩くぞ」


俺がそう言うとアシモスも「そうですアマーリオ、まだ予定のレプレンツ山まで距離がありますよ」と言って(たしな)めた。

俺の言う事は聞かないが、アシモスの言う事は聞くアマーリオ。

こいつはダーブランそっくりな顔で道を歩く。

そのダーブランの背中の上でレミ様が言う。


「アマーリオ、男なんだからシャキッとして」


流石(さすが)レミ姉さま、威厳のあるお姿です。

自分の事は(たな)()がっては、いらっしゃいますがね……

でも……馬上の姿が凛々(りり)しくて良い。

足もきれいに見えてとっても可愛い。

俺がそう思って見上げると、彼女は俺ににっこり微笑んで「ね?」と言った。


「うん、レミちゃんの言う通りだよ……」


彼女の意見に100%賛同の俺に(いな)は無い。

そんな俺に対してアマーリオはぼやく。


「けッ!グッピーのウンコめ……」


グ、ぐっぴぃ……おのれアホのアマーリオめ!


「アマーリオ、お前自分の荷物は自分で持ちたいか!」

「ウルセェ、魚のフンみたいに女のケツにずっと敷かれてろ。

何が騎士見習いだ、今のお前は男の中の男から遠いわ!」


女のケツに……女のケツに……

生まれてこのかた、ココまで真正面から侮辱(ぶじょく)を受けたことはない。《注・嘘、何回かある》

思わず我を忘れて怒り狂いそうになった時、アマーリオは涙を(ひと)(しずく)(ほほ)から流しながら「俺はこれまで、彼女なんか居なかった」と……


……ふ、ふーん。そうなんだ。


「……あ、ああ?」


怒ろうかな?怒らない方がいいのかな……

うーん、妙に悩む。

まぁそう思った時点で怒れない訳で、俺は「俺は最初の彼女は10歳の時に……」と。


ハッ!なんか頭のところがチリチリする。

恐怖を覚えて恐る恐る見上げると、レミ姉さまが、白目をギラギラさせながら……


ヒィッ、見下ろしてらっしゃる!


「え、なになに?そんな頃から彼女が居たの?」


そんなお姉さまの視線に気が付かず、アホのアマーリオがのんきな声でそう尋ねた。


「え?ああ、まぁ別にいいじゃん」


この話は終わりね、終わり……


「いや、話してよ、ラリー」


アマーリオとは違う声が、別の場所から冷たく響く。

恐る恐る声のした方角を仰ぎ見ると、馬上から帝王の様な貫録でレミ様が……

あかん、これ、目が笑ってないやん。

何とか言い逃れをしようとしたとき、ちょうど坂を上り切ったみたいで、視界が開けた。


「あれ?ラリーこの地図が間違っていたみたいです。

多分あの山の形はレプレンツ山ですよ!」


開けた視界を見た瞬間、アシモスが嬉しそうな声を上げた。


「え、本当ですか?

地図を見るともっと遠くって描いてあったのに」

「ええ、でもあの山頂の嘴の様に右に曲がった形は、たぶん間違いないでしょう」


アシモスのところに行って、改めて手書きの地図を見た俺。

この世界の地図と言うのはいい加減なものが多く、大体合っていれば良い的物が殆どである。

当然、こういう事もよくある。


俺達がレプレンツ山の話を始めたからなのか、ペッカーが俺のポケットから首を出して外を見た。

すると彼も「げぇげぇ、ぐわぁーぐわ(間違いない、あれがレプレンツ山だ)」と言う。

俺は思いのほか早く辿り着けたことにホッとした。

そしてこの特徴的(とくちょうてき)山頂(さんちょう)の形をした山を見る。


レプレンツ山……

ペッカーによると、ここは聖地ともいえる場所なのだそうだ。

聖剣士や王剣士と言った、神剣を扱う剣士達は必ずここで修業をした。

それ以外の修行者達も、ここで大いなる知恵を授かるのだという。

そんな所で俺も修行するとは……

俺は感動してこの山を坂の上から(なが)めた。

そんな俺に、レミちゃんが嬉しそうな声で語り掛けてくる。


「ラリー良かったね、ここでもっと強くなれるよ。

もしかし手をかざしたら、凄い衝撃波(しょうげきは)を出せるかもね」

「え、そう言う修行なの?

剣とかじゃなくて?」

「剣もやるけど王剣士の修業は、人を超えた存在との戦いを想定したものだから、もっと魔法と剣の融合(ゆうごう)を考えるんだ」

「へぇ?」


俺はこの瞬間、この前騎士ヨルダンがバルドレと交戦した際、魔法を身にまとって飛び上がる様に戦った事を思い出した。


「そうか、ああなる事を目指(めざ)す修行なのか。

いったいどんな修行が待っているんだろ……」


そろそろカメハメ……


「修行?儀式だよ……」


亀に乗った爺から教わった技で、手からビーム……

儀式なの?あ、そう……ふーん。

まぁ、強くなれればいいよ。

こうして俺は、言い逃れる事無く、初恋の話から逃れレプレンツ山に辿り着いた。

実際に山に辿り着いたのは、それからもう少し歩いた頃になる。


◇◇◇◇


さてレプレンツ山だが、山裾(やますそ)はベニート川のおかげで緑が多く、山腹(さんぷく)(のぼ)るにつれて岩肌(いわはだ)目立(めだ)つ。

なので飲み水を確保する関係で、川からほど近い場所でキャンプを張ろうと話し合った。

ただしこの時期は一瞬で増水する事があるので、川の(そば)から少し上った場所を、キャンプ地として予定する。


「おい、ちょっと待ってくれ」


良い場所を求めて川沿いの道を歩いていると、アマーリオが何かを感じ、俺達の足を止めさせた。


「どうしたんだよ……」

「いや、何か感じるんだよ。

何かこう……良い物がある」


オカルト?

俺は(くちびる)(とが)らせてコイツの奇行(きこう)を思わず見守る。

やがてアマーリオは「こっちだ!」と言って歩き始めた。


こうして疲れているけど、ベニート川沿いから離れてしばらく歩く。

やがて俺達は川の北側の斜面(しゃめん)に辿り着いた。


「あ、あそこ見ろ!」


アマーリオが指示(さししめ)した先には、少し大きめの小屋が……

おっ、野宿しなくて済みそう!


「でかしたアマーリオ!」


思わずそう言った俺、家を見ると小振りながらも(うまや)らしき建物もある。

俺達は喜び勇んで、この家に辿り着く。

家はくたびれており、修繕(しゅうぜん)が必要な状態だった。

ともかく扉を叩く。


「すみません、一晩(ひとばん)の宿をお願いできませんで……」


ドンドンと叩いた瞬間、扉が開いた。

……家の中には物が無く、誰もいる気配がない。


あれ?と思った俺達は、厩等周りを調べ始めた。

厩は物があるけど、現在使っている気配がない。


どういう事だ?

そう思っていると家の裏から『ギャーッ!』と言う悲鳴が響いた。


(なんだっ⁉)


聞いた事が無い叫び声、思わず仲間を見回す。

すると、レミちゃんが居ない……

嘘だろぉ!


「おい、アマーリオ!」

「ああ、行こう!」


俺達は荷物をそこらに放り投げて、全速力で家の裏に向かった。


『あ、ああ……嫌、イヤだぁ』


誰の声かも分からないが、続けざまに家の裏から聞こえてくる。

急ぎ裏庭に辿り着いた俺達。

そこには一人の女が立っていた。

嬉しそうにニンマリと笑い、どこか狂気じみた声でこう言う。


「見て、マンドラコラだよ……」


手には、泣いている人面大根が……

女は言う。


「言ったよね、ラリー……これは美味しいって」


レミちゃぁぁぁぁぁぁぁん!

無理ぃー、俺はこれを食うのは無理ぃィィィッ!


おぞけを震わせる俺の前で、彼女は地面に生えている草をもう一つ引っこ抜いた……


『ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』


さっきよりも甲高(かんだか)い声で、(また)絶叫(ぜっきょう)が響き渡る。


『嫌だ、イヤだぁ……』


新しいマンドラコラも、涙を流しながらこちらに言葉を……

これを食えというのかッ?

思わず腰が引ける。

追い打ちを掛ける様に、レミちゃんは言った。


「アマーリオ、手筈(てはず)(どお)り……」

「ハッ!」


次の瞬間。アマーリオが俺を羽交(はが)()めに……

ど、どうして!


「アマーリオ、何をするッ」

「許せラリー、俺はレミ様から女の子を紹介してもらう事になった!」

「なんだとっ!」

市場(いちば)に居る香辛料屋(こうしんりょうや)のおやじの妹の娘だ。

レミちゃんと仲が良いんだっ!」

「それで俺を売るのか?お前の男はそんなモノなのかよ!」

「……えへへへへへ」

「アマーリオ、いつかお前を殺す!」


予期せぬアマーリオの裏切り、そして二株(ふたかぶ)の人面大根を両手にぶら下げ、こちらに向かう狂気じみた女。


「は、放してくれ……俺はあの大根を食べない!」

「おいしぃんだよ……らりぃ」


(ゆが)んだ笑みで俺に近寄るレミちゃん、俺の背後ではアマーリオが「あ、レミ様、こいつ暴れるんでチャチャッと頼みます」と……


アホのアマーリオめ、いつか必ずぶっ殺す!

レミは人面大根の足をポキンと折ると、ついている土を手で払って、俺に言った。


「はい、あーん」


口なんか開きたくない、一生懸命抵抗するが、ここぞとばかりに踏ん張るアマーリオのせいでどうにもならない。

アマーリオのくせに生意気な!

足がなくなった人面大根は『痛い、痛いよぉ』と……


ヴォエェェェェェェェ……


理屈ではなく、精神的な所からくる吐き気に襲われて俺は首を振る。


「無理、無理だから、うぐっ、うぇぇぇ」


とにかく吐き気が収まらない俺に向かって、レミが(あや)しげな教祖(きょうそ)の様に、温かい微笑みを絶やさずこう語りかける


「無理じゃない、無理だと言ったお前が無理だから無理なんだ。

出来ると言えば必ずできる」


……どこの居酒屋の社員研修?


次に彼女は俺の鼻をつまんで、鼻の穴を(つぶ)す。

思わず口で呼吸をしようと口を開けた俺。

そこに人面大根が丸ごと放り込まれた。

え、折り取った足じゃなくてむしろコッチ?

次の瞬間、レミちゃんが俺の顎を下から上に突き上げる。


ぐしゃりと潰れる生の人面大根。

シャリっという()(ざわ)りの良い触感(しょっかん)、そして広がるみずみずしい甘み。

そして口の中から脳天を突き抜けるような……人面大根の断末魔の悲鳴。


―イヤァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!


「…………」


この瞬間、俺は何も覚えていない。

唯々(ただただ)(ひろ)がる(なし)の実にも似た、みずみずしい甘み。

それが口の中を埋め尽くし、そして同時に泥の匂いがすると思ったのが最後である。


ご覧いただきありがとうございます。

次回の更新は、28日12時から1時の間となります。

よろしくお願いいたします。

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