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俺の騎士道!  作者: 多摩川
青年従士聖地修行編
103/147

幕間 破滅の担い手たち 2/2

「スーロニューム来たか」


その声を耳にし、一人の白髪のこれまた威厳(いげん)に満ちた男が、語り掛ける。


「セクレタリスか、こんなところに……と思ったが、見るだけの価値はある」

「ああ何故呼ばれたかと思ったか?」

「そうだ」

「ここは前々からビブリオにやらせていた現場だ、我々が摂政様に協力している原因でもあるしな。

リヴァイアサンだ……

こいつは港湾都市を4つも破滅させたそうだ。

これならどんな海軍でも太刀打ちは出来ない。

(おか)の上では無敵の我等も、海の上ではそうはならないからな。

こいつを蘇らせて、あのうるさいマルティ―ル同盟を屈服させる……」

「言う事を聞くのか?この怪物は……」

「その術式はビブリオにやらせる。

あ奴の話では造作も無いらしい」

「それは良いな」

「だが2つ問題がある」

「うん?」


「一つはこのリヴァイアサンを(よみがえ)らせるには、僅かに残った生きた細胞を元に体を作り返すしかない。

つまりエリクサー以外では無理だという事だ。

その為にバルドレに聖地でエリクシール誕生(たんじょう)の為の、儀式に介入(かいにゅう)するように伝えたが、あ奴はどうやら失敗(しくじ)ったようだ」

「……情けない、戦うしか能がない男だ」

「ああ、だが今更聖地に誰か向かわせる余裕も無い。

あそこは此処から地の果てにある。

召喚の義で呼び寄せるのは簡単だが、派遣するのは難しい……

バルドレにやらせるしかない。

逆に言えばリヴァイアサンさえ蘇らせれば、他の神獣たちの復活も容易だという事だ。

恐らく全てエリクサーで蘇らせる事が出来る。

少なくともリヴァイアサンはこれで蘇る事が確実だ」

「なるほど……」

「それにどうやら無事エリクシールは誕生したらしい。

バルドレからパネムに報告は上がっているようだ。

だがパネムから私に何の報告も上がって無い」

「……(かば)っているのだろう」

「だろうな、パネムは慈愛(じあい)(つかさど)る優しい男だ。

つまりバルドレは失敗したのだ。

そうでなければ(バルドレ)の事、自分の手柄(てがら)吹聴(ふいちょう)する……

そこでビブリオに相談したら、彼は早速誰かを派遣する手筈(てはず)を整えていたよ。

相変わらずアイツは仕事が早い。

そこで今度派遣する連中は私の直轄(ちょっかつ)にして、聖地の動向を探らせることにした。

バルドレに預けるのも不安なんでな」

「ああ、それが良い」

「これで情報も分かってくるようになるだろう。

……そしてもう一つだが、王剣の行方だ」


「ほう、旧エルワンダル大公家の話かと思ったが……」

「大公家の生き残りは見つからん、どこに居るのか皆目見当もつかん。

(まれ)に偽物が出るが、真実を暴けばどうってことない。

それよりも我等が聖地から離れた目的の方が今は大事だ。

今見つかった(いにしえ)の大神殿の内、我らが手に入れた大神殿は此処(ここ)だけだからな。

二つはマルティ―ル同盟の中にある、3つはヴァンツェル・オストフィリア、そしてもう一つがダナバンド……」

「こんなものまで7つ分かれさせるとは、サリワルディーヌはなんと臆病なのか……」

「剣に変える訳にはいかなかったのだろう。

グイジャールや、ルシーラの様に……

だがサリワルディーヌ大神殿は、中身から汚染(おせん)するようにゆっくりと乗っ取った。

あれだけ強大な力を誇ったサリワルディーヌも、今や消えたかのような存在でしかない。

大神殿がああなっては、力も出ないからな……

後は復讐(ふくしゅう)と復活の為に、テンプスの力を借りるだけ。

その為にもフィロリア世界を征服する必要がある。

その為にも、フィーリアを殺せるグイジャールが必要だ」

「それはそうだが、グイジャールの行方は?」

「分からん……だが、ニールの話によれば彼の元に“辿り着いてない”から、この世のどこかにあるそうだ」

「ほう」

「カレットが見つかれば、あの女から全てを聞く事が出来る」

「カレットはどこに?」

「さぁ、ただテュルアク帝国のサリワルディーヌ大神殿に、フトゥーレが居る。

今はシャイヤーレと名乗っているから、あの女に聞けばわかると思う。

ただし言えばビブリオを夫に迎えると言い出すに決まってる。

……ビブリオが良い顔をしないな」

「ふぅ、ビブリオ一人差し出せばいいと言うと思ったが」

「ビブリオが面倒だと思うと、気が引ける……」

「どうかな……」

「それを証拠に今回お前を呼んだ、これからテュルアク帝国の、フトゥーレに会って欲しい」

「半年は掛かるぞ?」

「だが、それしかない。

フトゥーレに会ってこう言うのだ。

“ビブリオをそちらの国に送る事は出来ないが、あなたを迎える用意はある”

そう言ってくれれば良い」

「ビブリオは了承したのか?」

「ああ、来るならば良いとな。

『子供が出来ない我を伴侶(はんりょ)にしたいのか?』

と言っていたがな」

「そうか、それなら婚礼(こんれい)の使者に(おもむ)こう」

「失敗も織り込み済みだ、気軽に頼む。

あの女は此処に来る事はたぶんできまい……

それよりもひとつ頼みがあって、北の草原地帯を抜けてテュルアクに向かって欲しいのだ」


「なぜ?海を越えて聖地より向かった方が近いぞ」

「ああ、実はエルワンダルの財政が危険だ。

ヴァンツェルの交易制限が厳しく、いよいよ楽観視(らっかんし)できなくなった。

そこで北と東のタンプラン地方の蛮族(ばんぞく)と、直接毛皮の交易(こうえき)をしようと思う。

……伯爵になぞ成るモノではないな、こんな事にも手を(わずら)う。

だが摂政殿のお力なくして、望みが叶う事はない、我慢(がまん)するしかない」

「なるほど、だから寄り道をして欲しいという事か」

「すまないが商人共のお守りも頼む。

兵士も300人は連れて行ってくれ。

何かあったら現地の部族を討伐(とうばつ)しても構わん」

「分かった“伯爵殿”行ってくる」


スーロニュームはそう言って、少し(たくら)んだかのように笑って見せた。

彼がこの日見せた、渾身(こんしん)冗談(じょうだん)である。

それを知るセクレタリスはニヤッと笑うと「お前は伯爵と呼ばなくていい」と言い、あの階段を上ってこの場を立ち去った。

こうして一人光虫が(あざ)やかに飛び交うこの場に残った、スーロニューム。

彼は目の前で恐ろしげな顔で横たわる、リヴァイアサンの骨を前に呟いた。


「死ねないとは厄介だな。

……だが、お前も我々と同じで記憶があるのか?

昔一柱だった神の頃の記憶を……」


骨は何も答えない、ただそこに(たたず)む。

やがてスーロニュームは此処から離れ、あの階段をまた登って行った。




過去がまた一つ、厄災(やくさい)となるべく姿を現す。

混乱は常にエルワンダルを揺るがし、そこに住む人々は、自分達が危険な場所に住んでいる事を知らない。

絡み合う様々な思惑(おもわく)と意思が、この土地を汚染する。

坂道を転がる様に、ダメになるエルワンダル。

盗賊は跋扈(ばっこ)し、そして誰も知らない場所では怪物の復活が画策される。

この土地の者が、かつてそんなことに(わずら)わされたりしなかった、エルワンダル大公が居た時代を懐かしむのは、当然の事なのかもしれない……


ご覧いただきありがとうございます。


次のアップロードは27日7時から8時の間です。

よろしくお願いします。

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