秘匿された過去への旅行計画 6/6
俺がへこまされているのを見た、アシモスは「まぁまぁ」とレミちゃんを宥めてさらに口を開いた。
「それならマンドラコラの採取もすればいいじゃないですか」
お前馬鹿じゃないのッ!
愕然とした俺を前に、レミちゃんは嬉しそうな笑みを浮かべて「早速その機会が訪れたなラリー!」と俺に言う。
「それなら私もその素材集めに協力してやろう」
彼女はそう言って協力を申し出た。
俺達男3人は思わず顔を見合わせる。
やがて二人は、示し合わせてチロリと俺の顔を見た。
……え、俺が決めろってか?
もちろん留守番を任せたいのが本心だが、たぶん先程サリワルディーヌが言ったシチュエーションはこの事だと思った。
そこでサリワルディーヌの言葉に従って、レミちゃんにこう言う。
「それじゃあ、魔導に詳しいみたいだからお願いできますか?」
俺がそう言った瞬間、目の前の二人が顔を青ざめさせ、俺の顔を一斉に見た。
……彼等の希望は違っていたらしい。
「いや、旅だし汚い場所も多いし、それに危険が一杯だし……」
アマーリオがそう言って俺に(断れよ!)と目で合図を送る。
アシモスも目で必死に断る様、合図を送る。
そんな二人の様子を見たレミちゃんは、俺の顔を睨むように見て言った。
「私は一人でルクスディーヌの様な、良くない噂がある町にいる方が危ないと思う」
「うん、サリワール(サリワルディーヌ信者)が俺の事嫌いみたいだし……ね」
そう言ってチロッと、アマーリオの顔を見ると、奴は明らかにふてくされ、次に大げさなそぶりで顔を外に向けた。
……欧米人か!
「そしたらお前があの子の分の、宿泊費も持てよ」
やがてアマーリオが、そう俺に冷たく告げる。
さらにアイツはまだ言い足りないのか「金が無ぇのになんて事を……」と言って、机に突っ伏した。
俺は黙って皆の顔を見回すと、アマーリオ以外の全員が俺の顔を見ている。
……ああ、嫌な雰囲気ですなぁ。
「あ、うん。じゃあレミちゃんの分は俺が出す」
ああ、女ってお金がかかる……
そう思いながらその視線に応えてそう言うと、アシモスも「まぁそれなら……」と渋々同意した。
因みに原因であるレミちゃん……
彼女はニッコリとあからかさまに笑うと「お前は優しいな!」と言って、遠くから俺の頭を撫でるそぶりを見せた。
……実際に撫でても良いのよ?
ああ、やっぱりこのお姉さま好きだぁ。
めちゃくちゃ可愛いよぉ。
そう思って“へらぁっ”とレミちゃんに笑いかけると、俺の隣でアマーリオが囁くような小さな声で「新婚旅行か……」と。
……ほっとけ。
俺の事が嫌いなのか?コイツ……
バサバサバサ
この時羽音をはばたかせながら、ペッカーがテーブルの上に舞い降りてきて「ぐわぁぐわぁー、ぎゅ?(なんだなんだ、何を話しているんだ?)」と俺達に尋ねてきた。
「ああ、ペッカーか、俺達明日から薬の素材採取の旅に出るんだけど、お前も行く?」
俺がそう言うとアホのアマーリオが「家族旅行かよ……」と。
……そろそろ食費を払わせるぞ、この野郎。
そう思ってジロリと見た、俺の視線に動揺すら見せないアマーリオ。
……町で恐れられている俺を相手にこの素振り、奴は大物だ。
そんな俺達をよそに、ペッカーが広がった地図を見てレミちゃんに尋ねた。
「ぐわぁーぎゅげぇぐわっ?(目的はどこになる?)」
それを聞いて思わず通訳をしようとしたら、レミちゃんは「表の川の上流だ、水源の湿地に向かうみたいだな」と……
え、言葉分かるようになったの?
俺が思わぬ変化に驚いていると、ペッカーが何故か不敵な笑みを浮かべ、地図にある一つの山に嘴をコンコーンと突き立てた。
「ぐあ、ぎゅー(ラリーは此処、此処に連れて行こう)」
ペッカーがそんなことを言うと、レミちゃんは一瞬目を見開き、次に嫌ァな笑みを浮かべた……
やがて俺を見て……え、何?
「ラリー、良い所がある、ココに行こう」
ニマニマと気味の悪い笑みを浮かべながら、俺にそんなことを言うレミちゃん。
「どこ?」
主語が無いよ、お姉さん……
「いいから行こう!」
「うん、別に良いけど……」
サリワルディーヌの言葉を思い出しながら、良く分からない話に同意する俺。
レミちゃんはそんな俺を無視して、アシモスに言った。
「目的地だが少しだけ変更してもらえないか?」
「どこに行きたいのですか?」
「この目的地から少し西に言ったところに、本当のベニート川の源流である、小さな泉が湧いているレプレンツ山と言う山がある。
ここには直に飲める水も湧いているし、危険な動物や魔物も居ない。
薬の素材については分からないが、マンドラコラも自生している。
ここを拠点にして素材を探すのが良いと思う……」
アシモスはその提案を聞き、アマーリオに尋ねた。
「どう思います、アマーリオ?」
机に突っ伏して面白くなさそうにしていたアマーリオは、その言葉で地図に顔を向けると言った。
「水が手に入るのは良いですね。
素材は此処から1時間ほど行ったところにもあるので、安全を考えると此処は良いと思います」
「え、アマーリオは此処がどんな所か分かるのか?」
驚いた俺がそう言うと、アマーリオは鼻を得意げに膨らませて「おう、俺は大いなる知識を得たのだ!」と、自慢げに……
……アマーリオのくせして偉そうに。
何故かその様子が面白くない。
そんな俺にレミちゃんが、何か企んだ笑みを浮かべ、次に甘えたような可愛い声で俺にこう言った。
「ラリー、私は歩きたくないからダーブランに乗せて欲しい」
「へ?」
「私、歩けない」
「あ、ああ……うん、荷物も積むけどそれでいいなら」
俺のこの返事を聞いたアマーリオは「またこいつの悪い癖が出たよ!」と言って俺を睨みつけ……
なんだよっ!
「なんだよ、さっきから俺に突っかかってきてよっ!」
「旅に来たいと言ったのはコイツ(レミ)だぞ!
なんでそれなのに、コイツばかり優遇されんだよっ!」
「何言ってんだ、ダーブランは俺の馬だぞ。
それに旅の荷物だってあいつに積むんだ!
文句があるならダーブランを連れて行かないぞ!」
「だからって平等じゃ……」
バチッ!ドサッ……
次の瞬間青白い光を伴って電撃がレミちゃんの指先から放たれ、アマーリオを襲う。
一瞬で気絶したアマーリオ。
その様子に驚く俺とアシモス。
そんな俺たち二人にレミちゃんは言った。
「ごめん、間違えて電撃を撃った」
間違えてないでしょ?
「そ、そうなんだ、じゃぁしょうがないよね」
思わず俺がそう言うとアシモスが、引きつった顔で俺を見る。
「…………」
沈黙が重いっす、アシモスさん……
「ラリーは私に優しい、そんなラリーが私も良いと思う」
「……うん」
「ラリー。ダーブランに乗っても良い?」
「……うん、もちろんです」
ああ、ダメな男だと、自分でも判るわぁ。
隣でアシモスが盛大に溜息吐いているし。
でもダメって言えない……
だって、テーブルの下から綺麗な脚が見えてるんだもん……
俺はその後、レミちゃんから「こいつ(アマーリオ)と違ってラリーは優しい」とか「ラリーは私が好きだよな」等とありがたい言葉を賜る。
その隣ではアシモスが、溜息を吐いて俺に対し、首を横に振って見せた。
次いでみせる険しい視線に、目を合わせられない俺。
思わず顔を下に向けた。
……その様子を見て彼の中で、俺の評価が下がった事を悟る。
辛いなぁ……
こうして俺達は此処にいる全員で、素材探しの旅に出る事が決まった。
この後、男に厳しいが女に甘い俺は、アホのアマーリオから散々に叩かれ、正直気が滅入りそうになる。
それでもチロチロとテーブルの下から見えるふくらはぎ。
あれがある限り、俺は……
あの子に優しいぞ❥
ここまで見てくれた皆様、ありがとうございました。
亀更新で申し訳ございません、さすがに次はもっと早く更新したいと思います。
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これが描く上でのモチベーションになっております。
それでは次回もよろしくお願いいたします。




